第一章26 『AIの製作者』
食堂へは、潮戸さんを含めた俺たち五人で行った。その間もさっきのゲームの話をしていたけど、みんなの感想は同じだった。
――現実とゲームの区別がつかない。
それは五感などの肉体だけでなく、いっしょにプレイしてその世界と時間を共有したメンバーや、ゲーム内に作り出された本物以上に緻密な世界そのものによるのだと思う。
「四人でこうして顔を合わせていると、ここが現実とゲーム、どっちかわからないね」
と、凪は評した。
「そういえば、潮戸さんはこのゲームの製作では、どんな部分を担当したんですか?」
逸美ちゃんが雑談を振ると、潮戸さんは箸を置いて、
「ボクが担当したのはほんのちょっとだけですよ」
「じゃあ、史木さんが担当した部分が多いんですか?」
「まあ、そうですね。しかし、このゲームを完成させるためには、必要不可欠な存在だった人がいました。島出流。プログラムに関しては大部分が彼の功績です」
鈴ちゃんが感心したように、
「だとしたら、島出流さんも史木さんと並んで、代表的な製作者になるんですね。すごいプログラマーなんですね」
潮戸さんはわずかに目を伏せ、しかし口元には柔らかい微笑を浮かべ、
「彼は、プログラマーじゃないんですよ」
「どういうことですか?」
「五年前――島出流くんは、当時まだ小学生でしたから」
「小学生!?」
と、俺たち四人はそろって驚いた。
「ええ。あの子が独自に作ったAI――つまり人工知能が、この開発においては最も大きな成果でした。そのおかげでゲームが作れたといっても過言ではありません。小学生ながら天才的な頭脳を持っていて、プログラマーとして将来を有望視されていました」
「有望視されていた?」
凪は聞いているのかいないのか、むしゃむしゃとごはんを食べてながら、その言い方のポイントに引っかかったようだった。意外と鋭いやつだ。
俺は言った。
「言い方が、過去形でしたよね。『必要不可欠な存在だった人がいました』。また、『期待していた』。つまり、島出流くんは、亡くなられたということですか?」
虚を突かれた顔をする潮戸さんだったが、すぐにうなずいた。
「ええ。その通りです。さすがはかの《名探偵》のお弟子さんですね。いえ、さすがは《探偵王子》ですね、と言うべきでしょうか」
潮戸さんは視線を落としたまま、説明してくれた。
「彼は、評価されることなく、生を閉じた。あの若さだったのだから、仲間としても、友人としても悔しいです。生きていたら、ちょうど明智さんと柳屋さんと同じ年だった……」
生きていたら、いまは高校二年生――俺や凪と同い年。
眉を下げて顔を曇らせていた潮戸さんだったが、ハッと気づいて顔を上げた。
「ああ、失礼しました。お食事の最中だというのに、申し訳ないです」
逸美ちゃんは首を横に振った。
「いえ。でも、どうしてそんな若いのに亡くなられたんですか?」
「病気だったんですか?」
鈴ちゃんも神妙な面持ちで聞いた。
これには、潮戸さんが力なくうなずいた。
「ええ。彼は生まれつき、それほど身体が丈夫なほうではなかったようでしたが、亡くなる一年ほど前に病気が見つかって、処方も間に合わなかったのです」
俺たちが暗い顔をしていたのか、潮戸さんは笑顔を作って言った。
「さあ。いまは彼のことも忘れ、ゲームを楽しんでください。もう五年も前のことです。彼について心の整理をつけるべきはボクなんですから、みなさんは気にしないで」
「そうそう。ぼくたちが気にしちゃ、島出流くんが悲しむよ。楽しもうよ。彼は暗い気持ちでゲームをプレイしてほしくなんてないはずさ」
なぜか凪が潮戸さんといっしょになって俺たち三人に呼びかける。
「それは凪のセリフじゃないだろ? 島出流くんのことなにも知らないのに。でも、実際そうだよな。俺たちは、いろんな人たちが携わってできたこのゲームを、楽しまなきゃ」
「そうよね。楽しんじゃおう!」
「はい」
俺と逸美ちゃんと鈴ちゃんがそう言って、凪は満足そうに腕組する。
「うん。その意気だ。やってやれ」
「おまえもやるんだよ」
と、俺がつっこみを入れてやる。
すると、潮戸さんはあははと笑った。
「少年探偵団のみなさんの前向きな明るさには、心強さを感じます。ええ、ぜひ、楽しんでください」
「はい!」
俺たちは声をそろえて、しかとうなずいた。




