第一章25 『新しい仲間は可愛いモンスター!?』
鈴ちゃんの《氷晶の鎌》の水晶に魔法陣を描いてもらった俺たちは、店を出た。
「じゃあ仲間にするモンスターを探しに行こうぜ」
凪の言葉に俺たちは賛成して、街の外へと出た。
《ドレスフィア》前の草原。
さっきはティラコとクルックモがいた。
他のモンスターはいないかもしれないけど、仲間モンスターはいつでも交換できるし、まずはゲットだ。
「なんでもいいからゲットしたいね」
「そうねぇ。さっきの二匹だと、クルックモちゃんのほうが伝書鳩とかになって便利なのかしら~?」
「どうだろうね」
あはは、と俺は笑った。
草原と森の間まで来たとき。
ここまでずっとその二匹ばかりが少し離れた場所に見えるばかりだったけど、初めて別のモンスターを発見した。
現れたのは、ネコのモンスターだった。
名前はハネコ。
ハネコは、ちっちゃい羽のついたネコのモンスターだ。普通の一般的なネコと比べて、明らかに丸い。体長は二十センチくらい。体毛は黄色でふんわりとした感じ。
「新しいモンスターよ。ネコちゃんだわ」
と、逸美ちゃん。
このハネコは、めずらしいモンスターだろうか。
しかし。
俺と鈴ちゃんは、驚く前に、ハネコの目つきが気になった。
「なんだかあのネコ、先輩みたいな顔してますね」
鈴ちゃんがやや呆れ気味につぶやいた。
「だね。やる気のない表情だよ」
「ほんとそっくりだわ~」
凪はまじまじとハネコを見て、
「なんてラブリーで引き締まった顔だろうか。あいつをぼくのペットにしてやろう」
「あれのどこが引き締まった顔なんだよ。完全に眠たそうに目をつぶっちゃってるじゃないか」
横で俺がつっこみで入れてやっても、凪は真剣な顔のまま、顎をさすって興味津々にハネコを見ている。
「まったくです」
と、鈴ちゃんが声が漏れる。
あのハネコはどう見たって日向ぼっこをしている。
鈴ちゃんも呆れてるんだろうなと思って見てみたら、頬を赤らめていた。
「ま、まあ? べ、別に、いいんじゃないですかね? ああいう可愛いモンスターを肩に乗せたりするのも、悪い気しませんしね。どうせ先輩はお世話できないでしょうし、その、あたしが可愛がってあげましゅよ」
最後、ちょっと噛んじゃってる。
いくらやる気ない顔でも、凪によく似たモンスターだったら、鈴ちゃん的には大歓迎だったようである。鈴ちゃんのやつ、凪によく似たハネコを猫可愛がりしたいんだろうな。
しかし。
凪は頭の後ろで手を組んだ。
「でも、ぼくはさっきのニャクゥがいいんだよな~」
これには鈴ちゃんが抗議する。
「どっ、どのモンスターでもいいんじゃないですか! ものは試しです! それに、どうせニャクゥは反対側のルートにしか出て来ないですよ」
「え~」
「え~じゃないです。せっかく見つけたんですし、運命だと思って、さっそく捕まえてみましょうか。ええ、それがいいかもしれませんね、はい」
興味ない素振りを演出したいのかもしれないが、バレバレだ。勇み足になっている。
「鈴ちゃん、張り切ってるわね」
「だね」
逸美ちゃんの言葉に俺はうなずく。
「ところで鈴ちゃん」
「なんですか? 先輩」
凪のほうを見もせず、ハネコに集中している鈴ちゃん。
「捕まえ方、知ってるの?」
ズコ。
キレよく鈴ちゃんがこけた。
鈴ちゃんは凪を振り返って、照れたように頭をかく。
「あ、あはは……。知りませんでした」
鈴ちゃんは、凪に捕まえ方を教わっていた。
「倒さずに、モンスターに魔法陣を触れさせると、仲間にできるんだ。ちゃんと弱らせないと捕獲率が下がって魔法陣から抜け出してしまうから、頑張っておくれ」
「わかりました!」
力強くうなずき、鈴ちゃんがそろそろとハネコに近づく。
と。
ハネコが鈴ちゃんに気づいた。
おそらく、ハネコのパーソナルエリアに入ったのだろう。ハネコはパチッと目を開けて、鈴ちゃんを見つめる。
「か、かわいい……!」
鈴ちゃんは頬を染めて口を押さえたあと、我に返り、
「えいっ」
手を伸ばして、ハネコにデコピンした。
もしクルックモくらいの強さしかなかった場合、普通に攻撃したらダメージが大きいから、倒してしまうしな。デコピンくらいでちょうどいいのかもしれない。
「痛くはない?」
心配そうに猫撫で声でハネコを見る鈴ちゃん。
肝心のHPゲージはというと、それでもみるみる減って、半分を切った程度になった。
「よろしくね」
そう言って、鈴ちゃんは、ちょんと魔法陣をハネコに当てた。
ハネコはたちまち魔法陣に吸い込まれるように消えて、鈴ちゃんの《氷晶の鎌》の魔法陣が光り輝いた。
「…………」
みんなが見守る中、やがて――
パッと。
魔法陣が再度、まばゆい輝きをみせた。
「こ、これは、ゲットできたんですか?」
鈴ちゃんが凪を見る。
凪は親指を立てた。
「ゲットだ」
「やりましたー!」
嬉しさのあまり飛び跳ねる鈴ちゃんに、凪は言った。
「モンスターを召喚するときは、サモンって言うんだぜ」
さっそく鈴ちゃんは唱える。
「はい、わかりました。サモン、ハネコちゃん」
ポン!
ハネコが出現した。モンスターが仲間にいるって、ファンタジー世界にいる気分に浸れていいな。なんだかんだ、実は俺もモンスターとか好きだし。俺たち四人はモンスターを育てたりモンスターと冒険するゲームが好きでいっしょに遊ぶこともあるのだ。
「これならいつでも呼べて便利ね」
「うん。まあ、戦闘の役には立たないだろうけどね」
うちのパーティーの場合、普通とは逆に、戦闘のときには魔法陣の中に戻して待機してもらうことになるだろうな。
逸美ちゃんと俺の言葉も聞こえないほど、鈴ちゃんは喜んでハネコを撫でている。
「うふふ~、よろしくね~ハネコちゃん」
そして、凪はみんなに呼びかけた。
「さあ。仲間も加わったし、《ドレスフィア》に戻って情報収集だ」
すると。
突然。
ピッと、頭上に窓が出てきた。
俺は足を止めて窓にいる潮戸さんを見上げる。
「潮戸さん。どうしたんですか?」
「みなさん、めずらしいモンスターを仲間にしましたね」
「そうだったんですか?」
鈴ちゃんが嬉々と尋ねた。
「ええ。あの草原と森の間で、ごく稀にしか出現しないモンスターなんですよ。一時間探し歩いて一匹見つかるかどうか」
凪は頭の後ろで手を組んで、
「ほうほう。あの顔ならレア度が高いのも納得ですな」
いや、むしろあの顔でいいのかよ、レアモンスターが。
潮戸さんは言った。
「それから、みなさん。ゲームに入ってもうすぐ一時間半になります。まだ休憩は取らなくても問題ないんですが、ちょうどお昼時ですし、現実に戻ってお昼ご飯でも食べたらどうですか?」
「そうだね。そうしよう。ちなみに、オートセーブって言ってたけど、ぼくらがいまいる場所から再開できるんですか?」
凪の質問にも、潮戸さんは明瞭に答えてくれた。
「そうですよ。もし死んでしまったら教会からやり直しだけど、それ以外ではセーブポイントからのやり直しなどはありません。ログアウトした場所から再開です。イベント後は、場合によって場所が多少ズレることもありますけど」
「そうですか。では、いまからログアウトします」
「はい。お待ちしております」
俺たち四人はメニューを広げ、ログアウトボタンを押した。
本当にこれだけでログアウトできるんだろうか。
現実世界にいるのとまったく身体の感覚が変わらない分、少し不安だったけど、目の前が真っ暗になると――
数秒で、ベッドの上に横になっている感覚が身体に訪れた。
目を開けると、《T3》の黒いモニター画面が見えるのみである。
俺はVRマシンを外して、身体を起き上がらせた。
やっぱりあれは、ゲームの中だったんだ。あんなに感覚がリアルなのに、仮想のデータとしての肉体だったなんてすごい。
潮戸さんは手をグーパーする俺に微笑みかけて、
「楽しかったですか?」
「はい。まるでホントに異世界に行った気分でした」
俺の答えに笑顔を返す潮戸さん。
「それはよかったです。さあ、まずはお昼にしましょう。ランチは食堂をご利用ください」




