第一章22 『衣装チェンジⅡ』
俺と逸美ちゃんは着替えが終わり、凪と鈴ちゃんの元へと行った。
凪は、試着室の前で、ひとりで服を見ていた。
「あれ? 鈴ちゃんはどこ行ったの?」
「やあ、開。もう鈴ちゃんも着替え終わるだろうさ。鈴ちゃん、出られる?」
「はい」
と、試着室から声が聞こえた。
カーテンが開くと、魔女姿の鈴ちゃんがいた。
ジャンパースカートみたいに全身つながっていて、色は水色。スカート丈は膝より上。水色の帽子には黄色いリボンがあしらわれている。魔女らしいとんがり帽子の先にはふわふわの毛玉もある。手には箒も持っていた。なるほど、これを凪は一生懸命に選んでいたのか。
「ど、どうですか?」
もじもじしながら鈴ちゃんが凪に聞くと、凪は親指と人差し指でオッケーサインを作る。
「よしっ」
鈴ちゃんは小さくガッツポーズをしている。嬉しそうな笑顔だ。褒められてよかったな、鈴ちゃん。しかし凪が素直に褒めるとはめずらしい。
だが、凪はそのオッケーサインを俺に向けて、小声で聞いた。
「これ、いくらだろうね?」
その手、オッケーサインじゃなくてゴールド的な意味合いのジェスチャーだったのかよ。
俺はジト目になって答えた。
「さあね」
このお店の価格設定なら大丈夫だろ。
凪の本当の意図を知らずに気をよくした鈴ちゃんは、なんだか張り切っている。
「さあ! あたしはこれにしますから。今度は先輩の選びましょう?」
「いや、いいよ。ぼくはすでに決めてある」
「え? どんなのですか?」
「待ってておくれ。その間、先に鈴ちゃんはその服を買ってきたまえ」
言われた通り服を購入して鈴ちゃんが着替えると、凪も準備ができたらしかった。
俺たち三人が見守る中、凪はカーテンを開けた。
「ジャジャーン! どうだい?」
そこに現れたのは、魔法使い姿の凪だった。
センスのよくわからない金色の翼がついた、編み上げサンダル。全身は、白いローブの上に黒いローブを重ねている。黒いローブには前面を黄色のラインが縦に走り、裾にも黄色のラインがある。白い襟はフードと一体になっている。青い魔法使い帽子にも左右に金色の翼があり、なんだか特殊ないでたちになっている。
「なんでおまえが魔法使いなんだよ」
「似合わないかい?」
「似合わなくはないけど、凪は黒魔法のステータスが0なんだから、魔法使いだけは無理だろ」
正論を言う俺に、凪は飄々と言い返す。
「つまんないこと気にするなよ。ねえ鈴ちゃん?」
「いえ。あたしもそう思いますけど」
真顔でそう言ったあと、鈴ちゃんはなにかに気づいたように赤面して、
「だっ、だいたい、なんであたしと先輩が魔法使い同士おそろいなんですかね? 恥ずかしいじゃないですか。ペ、ペアルックだと思われたらどうするんですかっ」
腕を組んでふいっと顔をそむける鈴ちゃんに、凪はぼけっとした無表情で返す。
「どうもしないよ」
俺は凪に聞く。
「で、魔法使えないのにそれにするの?」
「おう。買ってくるよ。あとは魔法使いらしく、本とか持つとそれっぽいな」
見た目だけそれっぽくしても、肝心の魔法が使えない魔法使いはどうかと思う。けれども、凪はちょっと特殊な魔法使いの衣装を購入し(足りない分は俺が出してあげた)、俺たちは店の外に出た。
色々あったけど、これで――
ドレスアップの完了だ。




