第一章18 『イーリスの酒場』
「ゴールドの貯め方は?」
挨拶もなしに、唐突に質問を繰り出す凪。
俺は小声で、
「おい凪。聞き方が雑じゃないか? しかもいきなり質問かよ」
しかし凪はあっけらかんとしたものだ。
「NPCに気を遣ってどうするんだい」
「それはそうかもしれないけど」
どうも顔の造りだけじゃ普通の人と区別がつかなくて、雑に会話するには躊躇してしまう。
凪がくるりと顔をイーリスさんに向けると、イーリスさんはニコリと微笑む。
「わたしはNPCなので気を遣わなくても結構ですよ」
「そらみろ。ぼくの言った通りだろう?」
「いや。いままでのNPCはこんな受け答えできなかったよ」
かなり高度なAIだ。
「そりゃいいや。聞けることが増えるってことさ」
この前向き人間め。
俺と凪の会話を聞いているように見ていたイーリスさんは、説明を始める。
「ゴールドの貯め方ですが、ゴールドはアイテムを売ることで貯めることができます。アイテムはフィールドに落ちていることもありますし、モンスターを倒すことでもドロップします。ドロップしたアイテムを売る方法が一般的です。強いモンスターを倒すほど、レア度の高いアイテムをドロップするケースが多いですね。アイテムもレア度の高い物ほど高く売ることができます」
凪は納得するように腕を組んだ。
「アイテムのドロップ方法か。ふむ、ぼくはもっと詳しく知りたい。この辺のモンスターを一体倒すと、どれくらいの値段で売れるアイテムをドロップするんだい?」
「50ゴールドから100ゴールドです」
「微妙だな。でもそんなものか。ちなみに、武器なしでどのくらい戦える?」
「ビギナーの冒険者や小学生でも、この辺りのモンスターであれば簡単に倒せます」
凪が次々と質問を続けても、イーリスさんはすらすらと答えてくれる。優秀なNPCだ。彼女の説明で、凪はある程度把握したようだった。
「なるほど。思った通り武器はまだ必要ないな」
「他に、なにか聞きたいことはありますか?」
できれば俺からもいろいろと聞いて情報収集したいけど、ここは情報屋でもある凪に任せるのがいいだろう。俺たち三人は口をつぐむ。
凪は酒場をチラリと見て聞いた。
「仲間が欲しい。募集ってある?」
「はい。条件はありますか?」
「おすすめを教えて」
「はい。おすすめですと、斧使いのバルドさん、回復技が得意なホリーさん、探索に長けるゼータさん、ステータスはこのようになっています」
ステータスの書かれた紙に目を落とすと、全部バランスよく綺麗な数字が並んでいる。高過ぎず低過ぎずって感じだ。
「じゃあホリーちゃんを呼んで」
「はい。ホリーさーん」
と、イーリスさんは店の奥に向かってホリーさんを呼んだ。
俺はまた凪に耳打ちする。
「別に俺たち仲間なんて募集してないだろ。さっきだって自分たちでクリアするのが楽しいんだって言ってたじゃん」
「仲間にする気はないさ。どんなもんか試しておかないと。情報収集だよ」
……な、なるほど。
すると、店の奥からこってこての僧侶服を着たいかにもNPCっぽい人が出てきた。凪は一見すると、
「ふむ。やっぱりいいや」
「そうですか」
凪があっさりと断ると、ホリーさんは残念そうな表情は一切見せず店の奥に下がって行った。どうやらこうやってNPCは店の奥で待機しているらしい。
続けて、凪はイーリスさんに注文を出す。
「条件、NPCじゃない人」
「はい。NPCではなく募集登録されている方は、コーキさんとmaruさんです。ステータスはこのようになっています」
この二人のステータスはお世辞にもいいとは言えない。だからこそ、募集をかけて仲間を募っているのだろう。
「仲間はいらないや。あと、最後に。クエストの依頼とかはある?」
「あちらの掲示板にあります。他にも、街の中の掲示板で募集していることもありますよ」
「ありがとう。わかったよ」
「さようなら」
「ありがとうございました。さようなら」
俺も最後はお礼と別れの挨拶をした。
凪は店内をスタスタと歩いていった。どこに向かうのかと俺たち三人がくっついてると、掲示板の前で立ち止まった。
「これがイーリスちゃんの言ってた掲示板だね」
クエストを依頼する木製の掲示板。
学校の黒板の半分くらいのサイズはあるだろうか。
「いろんなクエストの依頼があるね」
逸美ちゃんが俺の肩をぽんぽんと叩いて、掲示板の張り紙を指差す。
「ねえねえ、開くん。こっちにはネコ探しとかもあるよ。見つけたら、『身代わりの指輪』を差し上げます、だって」
「そんなのもあるんだ」
今度は鈴ちゃんがかがむようにして別の張り紙を見つめて、
「ゴールドがもらえるものもありますよ。水差しに精霊の湖の水を汲んできたら、1000ゴールドって書いてます」
凪も鈴ちゃんと並んでかがみ、張り紙のイラストを楽しそうに眺める。
「精霊の湖か。精霊ってのも見てみたいね」
「精霊ってきっと綺麗なんでしょうね。精霊がいるのなら、チュートリアルのときのコルナさんみたいな妖精も他にいるかもしれませんね」
「そうだね。まあ、空から平気で人を落っことす妖精は勘弁だけどね」
「ですねっ」
凪と鈴ちゃんはあははと笑った。ふたりとも空から落ちるときあんなに怖がってたのに、のんきなもんだな。
「でも先輩、いまからどうします? 服を替えるとなるとこのクエストかモンスター討伐でゴールドを稼ぐのが妥当だと思いますけど」
「ぼくとしても、服は替えたい。せっかくこんな世界にいるのに私服のままじゃ冒険感が出ないからね。さくっとモンスターを倒して、装備を一式そろえるだけのゴールドを稼いでしまおうよ」
「はい」
と、うなずく鈴ちゃん。
「ゴールドはあるに越したことはない。簡単な魔法スキルもゴールドで買える設定みたいだし、魔法を発動できる武器だってあるしさ」
凪のやつ、いつのまにそこまで調べたのやら。
だが、これには俺も賛成だ。
「うん。まずはゴールドを稼ぎに行こう」
「そうね。服と装備はちゃんとしておきたいものね。開くんがカッコイイ服着るのも見たいなあ。うふふ」
「俺は別にカッコイイ服じゃなくていいよ。ま、まあ、そこまで言われたら着替えるけどさ」
照れるようなことを平気で言う逸美ちゃんだ。
俺たちは服屋をチラと見て値段を確認してから、いったん街の外に出ることにした。
目標は、ひとり500ゴールドってところかな。




