第一章17 『凪の返答』
俺は凪たち三人を見る。互いに目を合わせてどうしようかとなっている俺と逸美ちゃんと鈴ちゃんだったが、凪はこちらを見もせずに言った。
「お断りするよ。ぼくたちはぼくたちでクリアを目指すんだもんね」
「そうか。それは残念だ」
と、グッチさんは眉を下げて差し出した手を引っ込める。
それから、凪は俺たちを見て、
「行こう」
さっさと歩いて行ってしまった。残った俺たち三人がごめんなさいと言って離れ、凪の元へと駆けて行く。
俺は凪の横に並んで言った。
「おまえならそうすると思ったよ」
「せっかく情報をもらえる機会だったのに、先輩は愚直ですね」
鈴ちゃんの言葉に俺も同意する。
「確かにね。参加する、とだけ言って、自分たちは自分たちでクエストやってればいいのにって話だもんね」
しかし凪はそんな会話をする俺と鈴ちゃんには目もくれず、目の前に広がる世界を見渡して言った。
「冒険は自分たちでやるから楽しいんだ! ぼくはこのメンバーとゲームを楽しみたい」
逸美ちゃんは大きくうなずいた。
「そうね。千秋さん言ってたよね。開くんに凪くん、わたしで、クリアに半月はかかるだろうって。そこに鈴ちゃんもいるんだもん、期間内にクリアできるわよ」
鈴ちゃんもグッチさん登場から一歩引いていたけど、逸美ちゃんの言葉に表情を明るくさせて、
「そうですね! 凪先輩のステータスが極端に低過ぎたのは誤算でしたけど」
と、凪を横目に見てにやりとする。
「うん、あのバグは誤算だったね。でも、それはほら。ぼくの知恵と勇気と攻略力でなんとかなる範囲さ。頑張ろう」
こいつの場合、圧倒的な情報力もあるけどな。知恵と勇気はわからないけど。
ここで俺は話を戻す。
「さて。これからどこに行く? ゴールドの稼ぎ方を調べるか、服を調達するか」
「ふむ。ぼくとしては、ゴールドの稼ぎ方を調べてから服屋に行き、必要なゴールドを見積もった上で稼ぎに出るのがベターだと思うね。ヘルプにはアイテムを売るって書いてあったけど、その具合を知りたい」
「あたしも賛成です」
「そうと決まれば、情報収集も兼ねて酒場に行くのが冒険物の定番だ」
「しかし凪はよく知ってるな」
でも酒場って、まだ昼間だぞ。そう思っていると、逸美ちゃんが俺の心とシンクロしたみたいに同じことを口にした。
「まだ昼間なのに酒場ってやってるの?」
「酒場はいつでも関係なくやってるものなんだ。酒を飲みに来るというより、ゲーム的には仲間集めやクエストの依頼、情報交換の場だからね」
「そういうものなのね~」
街は広いが、酒場は街の中でも重要な役割を持っているためか、発見しやすい場所にあり、すぐに見つけることができた。
《イーリスの酒場》
店の看板にはそうあった。
おそらく、イーリスという人がやっている酒場なのだろう。
店内に入ってみると、人がたくさんいて賑わっていた。
確かに、お酒を飲んで食事しているというより、いろんな人がしゃべっていたり、掲示板のようなものを見ていたり、まるでホテルのカウンターのようなものまである。
「あそこのカウンターで仲間を募集したりするんだろうね」
「どうやって?」
と、俺は凪に尋ねる。
「条件を言えばいいのさ。あの綺麗なお姉さんがイーリスちゃんだね。NPCの中でもかなりたくさんの質問に答えられるはずだよ」
「そっか。ならその人に聞くのが早いね。ていうか、ちゃん付けかよ」
「彼女は開好みのお姉さんだし、ぼくは後ろで控えてようか?」
う。逸美ちゃんの視線が痛い。
でもまあ、確かに綺麗なお姉さんだけど、彼女はNPCじゃないか。
「え~? 開くんああいう人が好みなの? どうしよう~」
「ぼくというものがありながら開ったら~」
「別にそんなんじゃねーよ」
ったく。凪のやつ、余計なこと言いやがって。しかももっとタチが悪いのが、あのお姉さんの見た目の雰囲気が逸美ちゃんにちょっと似ているのに、逸美ちゃん本人が気づいてないことである。
「もういいよ。凪が聞いて」
「はいはい。普段は人とのコミュニケーションは苦手なぼくだけど、NPCとは苦も無くしゃべれるんだ」
「先輩、それってどうなんですか。どうせいつも開さんに人との会話とか任せて自分はふらふらしてるんだから、たまには役に立ってくださいね」
さすが鈴ちゃん、よく凪のことを理解してる。凪相手に俺と同じ苦労をしてきてる子なだけある。
「やだなあ。人から話を聞くのは開の役割。ぼくはぼくで得意なことをやるよ」
「そういうセリフは得意なことが一つでもある人が言うんです」
「わかった?」
と、凪がお説教する母親みたいな調子で俺に言う。
「はい。わかりま――って、おまえに言ってんだよ!」
「おお、ノリツッコミ。ふむ。てことで、イーリスちゃんに話を聞いてこよう」
カウンターへ行くと、お姉さんが微笑んで言った。
「わたしはイーリス。この酒場の店主です。どうかなさいましたか?」




