第一章16 『冒険者が集うドレスフィア』
とにかく、地図という心強いアイテムが手に入ったのは大きい。これを冒険のお供として片手に持ち、俺たちは顔を上げた。
「さて。情報も集まってきてるし、この街を出ようか」
「ぼくは洞窟でも北の街でも構わないぜ」
と凪が言うので、俺は逸美ちゃんと鈴ちゃんに水を向けた。
「逸美ちゃんと鈴ちゃんはどっちがいい?」
「あたしもどっちでもいいですよ。逸美さんは?」
「うーん。そうねぇ。わたしは、まず北の街で情報を集めたほうがいいと思う」
鈴ちゃんと凪はどっちでもよくて、逸美ちゃんは北の街か。
「オッケー。じゃあまずは北に進もう」
街の人の話では、少し離れたところに次の街があるとのことである。
フィールドを歩く上で、現実以上に肉体の疲労はない。筋力も増強されているし、体力もアップしている感覚だ。
すぐに街は見えてきた。
《ドレスフィア》
そう書かれた看板があった。
今度の街はさっきとはケタ違いに大きい。古き良きヨーロッパの街をばっさりと切り取ったような街並み。
石畳の地面、綺麗な色使いの家々、これぞファンタジーって世界観だ。
「ここにお城なんかがあって城下町になってたら最高だったね!」
「うふふ。開くんったら興奮しちゃって。でも気持ちわかるわ。いいよね、こういう雰囲気」
「だよね!」
逸美ちゃんは読書家でたくさん本を読むから、聞いたらどこがこういう街並みなのかがわかるかも。
でも、この街には実際の街にはない特徴がひとつある。
それが、街の中心に位置する、地球儀のような大きな球体だ。
街へ入ってすぐにも、遠くあるそれが見える。
支えもなく球体が浮いており、球体に映っている物が普通の世界地図とは異なる。
この《ルミナリーファンタジー》の世界の地図だ。俺たちが《アルフベル》で買ったものと同じで、初心者向けに地図を配置したのだろう。
俺は遠くにある球体を見て、
「この地球儀が、街の名前の『スフィア』を表しているんだね」
「そうね。『スフィア』は英語で球体だから。でも、そうしたら『ドレ』はなにかしら?」
「それはほら、さっきの街で言ってたドレスアップだよ。ドレスアップの『ドレス』と『スフィア』を合わせたんだ。プレイヤーが最初に着替える街。《アルフベル》には服屋さんはなかったもん」
「そっか」
と、逸美ちゃんが納得する。
横では、凪に鈴ちゃんが質問していた。
「先輩。街を歩いてる人もなんか衣装が綺麗ですよね。あたしたちもちょっとこの世界観に合う服に着替えませんか?」
「それもいい。ぼくらはゲームを始めるときに現実世界で着ていた服のままだからね」
「この世界のお金って持ってます?」
「それがないんだな~。どうやったら手っ取り早く稼げるか聞いて回ろう」
俺は街にいる人の動きを観察しながら、
「動きがNPCっぽくない人もいるし、情報を得るにはいい街だよね、きっと」
「だいたい、駆け出し冒険者が集うこのレベルの街は、居心地がよくなんでもそろうものだ。人も多いだろうね」
凪がこれまでにどれほどゲームをやってきたか知らないが、本人曰くそんなに多くはないらしい。でも、それなりにはやってそうだし、よくお約束を知っているものだと感心する。
街を歩いて話を聞いて回っていると、NPCらしきおじさんが言った。
「《ドレスフィア》はでかいだろう。この街に初めてきた人は迷子になっちまうんだ」
逸美ちゃんはうんうんとうなずいて、
「確かにこれだけ大きな街だもんね~」
「街の中でさえ、冒険してる気分になるもんね」
と、俺は言った。
「一日中街を探索していても飽きなそうですよね」
鈴ちゃんがふふっと笑うと、凪が呼びかける。
「さあ。今度はあっちの通りに行こう」
通りを歩いて、情報収集のために他プレイヤーっぽい人を探していると、後ろから声をかけられた。
「こんにちは。ちょっといいかい?」
「?」
振り返る。
そこにいたのは、三十歳くらいのスキンヘッドの男性だった。がっちりした体格だが背は一七三、四センチ。服は武闘家風の軽装。道着の上がピンク、下が黒。帯は白。なんか色味が嫌だな。金色のイヤリングもイカリングみたいで趣味が悪い。まあ、青ひげが目立つけど気さくそうな人ではある。
「キミたちはまだ始めたばかりのプレイヤーかい?」
「オカマ?」
凪がためらいなく率直に聞くと、青年は凪の言葉は聞こえなかったようだが、代わりに自己紹介をしてくれた。
「ん? おれはグッチってもんだ。よろしく。て、おいおい、そんなに警戒しなくていいぜ。別に怪しい者ではないさ」
「で、なんか用?」
相変わらず、凪はフランクに質問するやつだ。
「一言で言うと、相談だ。仲間になろうぜって話よ」
「仲間?」
と、逸美ちゃん。
グッチさんはうむとうなずいて、俺たちを見回す。
「おれたちはテストプレイヤーとしてこのゲームに参加してるわけだが、今日までこのゲームをクリアした人はいないのよ。それだけ簡単ではないってことさ。せっかくゲームに参加してるんだから、クリアはしたいだろう? だから、協力してクリアを目指さないかと思ったわけ」
「協力ってなんですか?」
今度は俺が聞いた。
「別に難しいことじゃない。キミたちが来た今日で、残りは約二週間ぽっち。隊を組んでドラゴンの討伐をしてくれとか、そういうことはお願いしない。ただ、みんなで情報を集め、みんなでクリアする。クエストに挑むチームと情報収集のチームがあって、キミたちには情報収集をしてもらいたいんだ」
「そういうことですか」
「期間が期間だ。悪質なプレイヤーもほとんどいないし、手に負えない強さのモンスターなんてドラゴンしかいない。他にかなり手強い相手としては、闘技場のチャンピオンくらいか」
闘技場なんてものもあるのか。
「情報収集は安全な仕事だよ。もし仲間になってくれたら、おれたちの持つ情報はすべて教える。情報の共有が一番大事だからな」
グッチさんは俺たちに手を差し出した。
「どうだい? おれたちのギルドへ入らないかい?」




