第一章12 『お役立ち掲示板』
俺たちは空に身を投げ出されて、現在ものすごい勢いで落下している――。
「パパ~! いや~!」
鈴ちゃんの絶叫はなおも続く。ちなみにパパって言っちゃってるのもパパが大好きなファザコンだからである。
「叫んでもパパは助けに来ないぜ?」
凪がのんきにそんなことを言うが、鈴ちゃんには当然聞こえていない。叫び声が「キャー」から「ギャー」に変わっているくらいだ。
鈴ちゃんが凪の言葉を聞いていないのを見て、
「やれやれ。ひとりで楽しんじゃって」
と、凪は呆れたように肩をすくめた。
「凪、そういうおまえは高所恐怖症だろ? 大丈夫なのか?」
俺に聞かれて、凪は手をひらひらさせて言う。
「大丈夫さ。ここはゲームの中なんだ。それにこんだけ空高いと、逆に実感が湧かないってもんさ」
「あっそ」
一方の逸美ちゃんはというと。
「開く~ん!」
と、両手を大きく広げて俺に向かって飛んでくる。
「逸美ちゃん!?」
「怖くないように、お姉ちゃんがくっついててあげるわ~」
いや、これはそのままじゃ衝突事故に……!
どうしよう、逃げるか? と下を見る。
川だ。
幸い、落下地点は水の中になるから、致命傷は避けられる――。
さっさと下りよう。
が。
次の瞬間。
逸美ちゃんが俺に向かって飛来し、石頭のお姉さんの頭突きをくらった。
「いてっ!」
と、同時に。
ザバーン
盛大に水しぶきを上げて、俺たちは川の中に落っこちた。
まったく、最初にこんなところに飛ばすなんて、やっぱりこのゲームを作った史木入は性格が悪いと思う。
痛い頭を押さえ、水中で目を開ける。
水面には太陽の光が差し込んでいて明るいので、あっちが上か、と確認して水面から顔を出した。
「ふぁっ」
顔を出したけど凪たちの姿が見えない。
どうやら俺が一番に水面から出たらしい。
川を確認して、沖に上がる。
服を絞って水を切っていると、逸美ちゃん、鈴ちゃん、凪と川から顔を出し、俺のいる川岸まで来て沖に上がった。
「いやあ。驚いたね。さすがはバーチャルリアリティーだ。臨場感がハンパじゃない」
凪は疲れた顔でそう言った。
「そうだね。こんな臨場感はいらないよ。異世界への入場は普通でいいんだよ。もしくは、着地だけはふわりと地面に、とかさ」
「そうですよ。おかげでびしょびしょ」
鈴ちゃんはがっくりしていた。
逸美ちゃんは心配そうにタタタっと俺の横に来て、
「開くん、大丈夫だった? ケガしてない? ごめんね、痛いの痛いの飛んでいけ~」
「平気だって。全然大丈夫だよ」
子供扱いされちゃかなわないよ。凪たちの前で恥ずかしいな。
そう思いながらも、俺は聞き返す。
「逸美ちゃんこそ大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ。それより、開くんが無事でよかった。髪が濡れてる開くんもお風呂あがりとかプールから出たときみたいで可愛いし、お姉ちゃんすぐに元気出ちゃった」
「その元気の出方は違うでしょ」
俺はぐるりと周囲を見回して、
「しかし、ここはどこだと思う?」
この問いには、もういつもの顔色に戻った凪が答える。
「さあね。でも、まずは情報収集が大事だ。プレイヤーは最初、みんなここに飛ばされるんだろうさ。だから、ここからそう遠くないところに街や村なんかがあると思うんだ」
「そうだな」
「コルナちゃんは消えちゃったし、いざとなったら潮戸さんに話を聞くとして……」
と、凪が言っている横で、鈴ちゃんが指差した。
「あっち見てください。看板がありますよ」
ちょっと先に看板らしきものがある。
「行ってみよう」
俺たちは看板目指して走って行った。
《お役立ち掲示板》
看板にはそんな題目があり、その下には紙が貼られている。
「《お役立ち掲示板》ですって。ええと、『フィールドを移動する速度は街の中の3倍になっているぞ』」
と、鈴ちゃんが読み上げた。
「へえ。そうなんだ~」
「街と街のあいだを何日もかけて歩くのも大変だしね」
逸美ちゃんと俺が看板を見ながら話しているとき、凪は共有状態にしたメニューを操作していた。
「なにしてるの?」
俺が問いかけると、凪は言った。
「ああ。いろいろ確認することと試しておくべきことがあってさ。さっそくだけど、みんなメニューを開いて『共有ボタン』を押してくれ」




