第五章4 『火影山と敵襲』
森を進み、ウィーシーを追いかける。ウィーシーのすぐに近くまで迫ると、ホールさんは歩調をややゆるめた。
「ウィーシーは、進化のヒミツを握っているかもしれない。さっき、ボクがそう言ったことを覚えていますか?」
「はい。おぼえてます」
と、ノノちゃんが相槌を打つ。
「進化のヒミツ。それはきっと、ティラコの最終進化にも関わるヒミツにもつながっていると、ボクはみています!」
ティラコの最終進化?
以前、ティラコは二回進化すると聞いたが……。
これはどうやら、思った以上に興味深い話を展開してくれるかもしれない。
俺はティラコを見つめた。
ティラコが俺を振り返り、視線が合うと、うれしそうに鳴いた。
「ガウ!」
連れ歩いていっしょに戦闘経験を積んだら、この子はいつ進化するのだろう。ちょっと楽しみになってきた。
ウィーシーを追って歩くことしばし。
俺たち一行は、とある山の前に辿り着いた。
ホールさんが前方の山を指差す。
「あれが《火影山》です」
特別大きくはない鉱山。
周りと比較しても普通の山だ。この辺りは高い山が連なっているのである。《ファーブニル連山》のような名称は持っていないみたいだが、ぱっと見では連山のひとつでしかない。
花音が誰にともなく尋ねる。
「なんで《火影山》っていう名前なのかな?」
むろん俺が知っているはずがなく閉口してしまうが、これについてはホールさんが教えてくれた。
「周辺を囲う山々は大きいものが多いんですよ、この辺りは。中でも、一番大きな山である《オリンピア山》の影に入ることが多いから、この山はそう名付けられたそうです」
「《オリンピア山》ですかぁ」
ノノちゃんが期待に胸を膨らませるように反応する。
ホールさんは微笑んで、
「はい。この星で最大級の山です。頂上には《幻の雪原》があると噂される火山で、数百年前に噴火したとされています」
俺は顎に手をやって、考えつつ言葉にする。
「つまり、その火山という性質が《オリンピア山》を火と結びつけ、《オリンピア山》の影に入ることから、火の影、すなわち火影。ゆえに《火影山》となったんだ」
はい、とホールさんはうなずいた。
「由来はおっしゃる通りです。神様の山と呼ばれる《オリンピア山》の庇護下にあるとも言えますね」
凪が腰に手を当てて、
「《オリンピア山》は神聖視されるほど特別な山なんだ。おそらく、冒険を進めればぼくらもいつか行くことになるだろうね」
「楽しみです! 《オリンピア山》に行けるように、ノノ、がんばります!」
張り切るノノちゃんを見て、俺は心を和ませた。
と。
そのとき、花音が俺の後ろから言った。
「この感じ……あっ、来た!」
驚いたような花音の声に、凪があっけらかんと手振りをつけて返す。
「むしろウィーシーは先に行っちゃったぜ。ぼくらも行こう」
「違う! 敵だッ!」
作哉くんが鋭く叫ぶ。花音も即座に答える。
「そうなの! 気配がしたんだよ! 後ろ見て!」
二人に言われて、俺たちは振り返った。
ちょうど森の茂みから、モンスターが現れたところだった。
モンスターたちとの距離は約二十メートル。この距離で花音が真っ先に気づけたのも、索敵スキルでもある《月読》が働いたからだろう。この精度なら充分だが、あとで《月読》について正確に検証し把握しておきたいところだ。
ノノちゃんが身体を縮める。
「モ、モンスターです!」
「魔王軍だ」
「魔王軍?」
俺の言葉に、花音が小首をかしげた。
凪が飄々と解説を加える。
「魔王の手下の魔物だよ。《ルミナリー》の七つのアイテムのうち、どれかひとつでも手に入れると、やつらに狙われるようになるのさ」
「《ルミナリー》を集めてるギルドは魔王の敵だと判定されるんだ。俺たちはすでに、三つの《ルミナリー》を持ってるからね」
現在、俺たちが持っているのは《ソロモンの宝玉》と《暗黒点の矢》と《ドラゴンの涙》。おかげで前にもキヘイアリに襲撃されたことがあった。
「そうでしたか」
「ひえぇ」
と、ノノちゃんとホールさんがリアクションした。ノノちゃんが冷静さを欠いてないのはさすが少年探偵団メンバーだと感心するが、ホールさんは自分の興味のある事以外は知識が薄いのか魔王軍を知らなかったらしい。ホールさんの足はすくんでいた。
作哉くんが短く言った。
「来るぞッ!」




