第四章60 『大地の剣』
さっきのバトルでダメージを受けたのは、作哉くんのみだった。
「《祝福の聖明》」
俺は魔法を唱えた。
作哉くんの体力が全快する。《ボルテージ》を発動させるために、何度も攻撃をかすめてきたが、紙一重で避けていたから、ダメージは小さかった。
「サンキュー」
作哉くんからお礼を言われ、俺は首を横に振る。
「いや。むしろ、《クラック》を阻止した作哉くんの一打の大きさと、危機を回避してくれた勝負勘には助けられたよ」
「ンなことねェぜ。虎に翼だとか言ってるのが聞こえたが、オレには探偵サンが情報屋っつー金棒を振り回す鬼に見えたぜ」
くすっと俺は笑った。
「どっちもどっちってこと?」
「かもしれねェし、それ以上かもしれねェな」
クッと作哉くんがおかしそうに笑ったとき。
俺たちの目の前に、
『クエスト 大地の剣 CLEAR』
の文字が浮かんだ。
「これで、正式に《大地の剣》が手に入ったね」
凪が微笑む。
俺はうなずいた。
「うん。たったいまより、俺はこの《大地の剣》と冒険するんだ」
改めて、腰から《大地の剣》を引き抜いて、刀身を見る。
「きれいな剣です。ぴかぴかしてます」
ノノちゃんが嬉しそうに《大地の剣》を眺める。
「ガウ!」
ティラコも嬉しそうだ。
今回は後ろで補助をするくらいだったティラコも、いまの戦いで大きな経験値が入ったらしい。
新たな技を覚えたようだった。
「ティラコが、《火の玉》を覚えたよ!」
花音が報告するように俺と凪に言った。
「やったね、ティラコ」
俺がティラコの頭を撫でると、ティラコは元気に吠える。
「ガウ!」
「よしよし~。えらいですね~」
と、ノノちゃんもティラコを可愛がる。
さて。
俺は《大地の剣》を元あった地面に突き立てた。
「作哉くん、ちょっと引き抜いてみてくれる?」
「なんでオレがンなことすんだ? まあ、いいけどよ」
作哉くんが軽く引き抜こうとするが、びくともしない。
「アンだよ、こりゃあ。ちくしょう! どりゃああ!」
ムキになって思いっきり柄を引っ張った。
すると、《大地の剣》を突き立てた地面ごと、えぐられるように持ち上がった。バラバラと土が落ち、見れば、《大地の剣》は巨大な岩石に突き立っているではないか。この岩石、2トントラック二台分くらいの大きさがある。
「ぎょえー。すごい!」
「なんですか? これ」
花音とノノちゃんが岩を見上げて驚いた。
作哉くんの馬鹿力は、いつ見ても本当にすごいな。
ぽかんと口が開いた二人をしり目に、俺は作哉くんに言った。
「もういいよ、下ろして」
「お、おう」
どういうことかわかっておらず、岩を地面と戻すように下ろした作哉くん。
俺はつぶやく。
「やっぱり、血筋か……」
この言葉でピンときたのか、凪が俺に聞いた。
「開、これって……?」
うなずく。
「ああ。場所の名前とか聞き覚えのある語感だった。似ている名前だなって。あと、アーサー王に、《マビノギオン》。あれらはきっと、この《大地の剣》に関連してたんだ」
「どういうことだ?」
作哉くんからの質問に、俺は答える。
「この剣は、《エクスカリバー》だったのさ」
「《エクスカリバー》だ!?」
「ノノ、《エクスカリバー》って聞いたことあります!」
と、作哉くんとノノちゃんが驚く。
「え、なにそれ?」
花音だけ《エクスカリバー》を知らなかったようだけど、凪が一言だけ挟む。
「《キャリバーン》や《カレトヴルッフ》などの別名を持つ聖剣だ」
そう、と言って俺は説明する。
「《大地の剣》と呼ばれているけど、それは大地に突き立っていたからに他ならない。何百年もの間、この剣を引き抜く者はいなかった。岩石に突き立ったこの剣を。だから、岩石が地面に埋まってしまって、その姿ではわからなかったんだ」
「岩石に突き立っていると、どうだったいうの?」
目を丸くして尋ねる花音に、俺は言った。
「聖剣《エクスカリバー》は、伝説では石に刺さっているものなんだ。そして、俺がアーサー王の血統を持つ王子様と間違えられた。あれは、凪が買った《マビノギオン》を持っていたから。その書物は、アーサー王の直系の子孫が残したと言われている」
「だと、どうなるの?」と花音。
「俺がアーサー王の子孫だと認識される。つまりそれが、アーサー王の血統を持つ王子様と間違えられた理由になる。また、《エクスカリバー》は、アーサー王の血筋を持つ者にしか引き抜けない。で、俺は、血筋を証明する、《王家の紋章》をもらった。したがって、王子になった俺は《エクスカリバー》を引き抜けるってわけさ」
そう言って、俺は石に突き立った聖剣《エクスカリバー》を片手で軽々と引き抜いた。
凪が口の端に笑みをしたためて、
「開、よく知ってたね」
「逸美ちゃんから聞いたことがあったんだ。もし逸美ちゃんが同行していたら、もっと早く気づけたんだけどさ。アーサー王の物語がイギリスの物だったから、ロンドンをもじった《ロンドの山》や《ストーンヘンジ》をもじった《ストーンゲイジ》だったってところだろうな。凪こそ、いつ気づいた? お城を出るとき、すでになにかに気づいたような気配があったよな」
「たったいまさ。情報屋はサポート役なんだ。考えるのはキミの役割だろ?」
と、凪は肩をすくめた。
本当にこいつがいま気づいたのかは知らないが、問い詰めるのは野暮だろう。
俺はフッと小さく微笑み、うなずいた。
「ああ」
「ただね、あの城の名前が《テインタニア城》だった。アーサー王にゆかりのあるブリタニアとテインタジェル城の名前が合わさっているから、聖剣《エクスカリバー》の関連がある気はしてたのさ。また、王様の盟友である魔術師、マーリン。彼はアーサー王物語においても、アーサー王の助言者であり導き手だった。そして、アーサー王の父であるユーサー・ペンドラゴンを導き、ストーンヘンジを建築した人物として描かれている」
なんだよ、やっぱりそこまでは気づいてたのか。マーリンは俺の知識にその名前があったが、ユーサー・ペンドラゴンの件は知らなかった。どうりでアーサー王よりずっと年上だと思った。俺はひとり納得してしまった。
ノノちゃんは興奮したように両手の拳を胸の前で握った。
「すごいです! いろんな謎がかくされていて、この冒険、とっても楽しいです!」
「凪ちゃんの《マビノビノン》も役に立ったね!」
そんなことを言う花音に、俺は短くつっこむ。
「《マビノギオン》だよ」
「どっちでもいいよ。凪ちゃんはゲーム系ほんと強いからなー」
作哉くんはヘッと笑った。
「これで、探偵サンも武器を手に入れたワケだ。さっそく連携もできてたし、魔法も使いこなせそうだな」
「だといいな」
と、俺は微笑む。
凪が片目をつむって俺を見やる。
「聖なる剣にぴったりの魔法だったじゃないか。『光』の属性もあるようだしさ。またぼくを飛ばせてくれよ」
「ああ。何度でも飛ばせてやる」
俺が凪を見返すと、凪は空を見上げた。
「なかなかいい景色だったからね」
逸美ちゃんと合流したら、この聖剣《エクスカリバー》に加えて魔剣《グラム》がそろう。
《天空の剣》と《大地の剣》。
おそらく二本共、ゲーム中随一の名剣。
扱える魔法も増えたし、《天空の剣》を手に入れたら敵ナシだ。
早くみんなと合流しないと。
待ってて、逸美ちゃん。