第一章8 『いざ、ゲームの世界へ』
ゲームクリエイター史木入。
理知的で自信に満ちた人だった。
しかし顔見せだけで出て行ってしまったし、史木さんは忙しいんだろうか。でもまあ、あの人のことはどうでもいい。さっそく潮戸さんに説明を求める。
「VRマシンってどうやって使用するんですか?」
潮戸さんは教師然とした微笑みで、
「そうですね。まずはそこから説明しましょう」
と言った。
潮戸さんの説明によれば。
《T3》は、ベッドで仰向けになりながら使用する。仰向けの状態で頭にセットし、ボタンを押して起動する。すると、コンピュータが脳を支配し、ゲームが始まるというのだ。
「使い方は至って簡単だから、大丈夫かな? それから、これが注意書きなので始める前に読んでおいてくださいね」
「わかりました」
俺は、注意書きが記された紙を手渡された。俺たち用に作ってくれたもののようで、丁寧に色々と書いてある。俺の両脇では逸美ちゃんと鈴ちゃんが目を走らせているが、凪は自分で読む様子もなかったので俺は音読してやる。
「プレイする前に。このゲームは世界で初めて完全な仮想現実を可能にしたゲームであり、そのためプレイヤーは強い影響を受けることになるでしょう。テストプレイなので、一定時間以上の継続プレイはできません。適度な休憩時間を取るため、こちらでログアウトのコンタクトを取ります。ゲーム内にいるプレイヤーとのコンタクトは、ゲーム外から取ることができます。逆に、ゲーム内からでも、呼びかければコンタクトを取ることは可能です」
「へえ。ということは、ぼくがゲーム内で話しかければ、潮戸さんが答えてくれるってことですね」
と、凪が潮戸さんに顔を向けた。
「ええ。監修としてボクはこの部屋にいるので、必要ならいつでもお声かけください」
「ありがとうございます」
逸美ちゃんがお礼を言って、俺はまた注意書きの続きを読み上げる。
「また、痛みなどの神経もあるため、安全には十分注意してください。もしゲーム内で死んでしまったら、同時に、ログアウトとリプレイの選択画面が出るので、どちらかを選択してください。リプレイを選んだら、最後に立ち寄った教会へと送られます。データはオートセーブされるので、セーブするための動作は一切必要ありません。七月三十一日終了時点で、テストプレイヤーの数は1000人を超えています。しかしまだ、誰もこのゲームをクリアした者はおらず――」
俺が読み上げている途中で、凪は言った。
「クリア第一号はぼく。その攻略法を考えるのがキミ。もう大事な説明は終わったね。じゃあプレイしようぜ」
「おい凪。まだ注意書きは残ってるぞ」
「だいたいわかった。大丈夫。あとは、注意書きを読むのはキミに任せる!」
「開くん、もう始めましょう」
「逸美ちゃんまで……」
二人はもうベッドで横になり、潮戸さんがセッティングを手伝っている。
「ゲームはやりながら覚えるものだ。さあ、始めよう!」
凪は説明書とか読まないタイプだからな。ちなみに、俺はちゃんと読むタイプだ。
あれよあれよという間に、凪はゲームの中に入ったようだった。
「ったく、凪のやつ。人任せにして。あとで困っても知らないからな」
「ほんとにしょうがない人ですよね。開さん、あたしたちもゲーム内に入りましょう」
「そうだね」
「お先に~」
と、逸美ちゃんもゲーム内に入り、残った鈴ちゃんも遅れて《T3》をセットしてゲーム世界に入る。
さて。
俺は、《T3》をセットする前に、時計を見た。
現在、十時ジャスト。
《T3》セット完了。
ボタンを押して起動する。
目を瞑ると、音が消えていった。
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