第四章27 『神出鬼没』
無計画に飛び出したはいいが即刻ワープで舞い戻ってきた凪を見やり、俺はため息をついた。
「おまえ、ちゃんと把握してなかったのかよ。まったく」
「さすが凪ちゃん、神出鬼没」
と、花音が苦笑いを浮かべた。
凪は飄々と俺に聞く。
「それで、ぼくがどうとか言ってたけど、なんの話だい?」
「なんでもねーよ」
俺がそう言って話を流そうとしても、花音が説明してしまう。
「凪ちゃんが神出鬼没だって話だよ」
「なるほど。確かにぼくは伝令の神ヘルメスのようだしね」
と、勝手に納得している。
はぁ、と再度俺は息をついた。
しょうがないから凪に一から説明してやろう。
「凪。一度しか言わないからちゃんと聞くんだぞ」
「おう」
返事だけはいい凪だ。
「まだ凪にはちゃんと聞かせてなかった推理だけど、この世界の時間の流れは、現実世界と360倍の違いがある。360倍、こちらが速い。ゆえに、俺と凪がゲームを開始した八月一日の午前十時から五日間で、実は現実じゃあまだ約二十分しか経過していない」
「仮にゲームクリアして現実に戻るまでに一年かかったとしても、現実ではほぼ一日しか経ってないってことか」
そう、と答える。
「一応、島出流くんがそのことを話していたからなんとなくわかったけど、開はよくそんなことに気づくよ。しかし、そんな非現実的で超常的な推理すらやってのけてこその明智開だと、ぼくは思うぜ」
凪が無責任なことを言うので、俺は言い返す。
「こんな荒唐無稽な推理を証明するための証拠を拾ってくるのが、神出鬼没の情報屋、柳屋凪だもんな」
「違いない」
と、凪はおかしそうに笑った。
さて。
「それを踏まえて、逸美ちゃんたちに説明する内容はこうだ」
まず、俺は風穴に吸い込まれたあと、作哉くんとノノちゃんの二人と《二周目》をプレイすることになった。
そこへ花音も合流し、これから逸美ちゃんたちに会いに行く。
場所は《モスクリフト》のリフト乗り場。
そこで待っているように逸美ちゃんたちには言っておいてほしい。
凪はみんなを連れてワープできなくなったし、《モスクリフト》に戻るのにも時間はかかるだろうからね。
とはいえ、俺たちと逸美ちゃんたち、双方の進捗状況によって集合場所は変わるが、そのときに凪が伝令すればいい。
「できるだけ早く合流するって伝えてくれ」
そう言うと、凪は片目を閉じて微笑んだ。
「あいよ。それから、開の《天空の剣》や衣装などの装備一式は逸美さんが所持してる。それもぼくのアイテム覧に移して持ってくるよ。じゃ」
「よろしく」
凪は軽い調子でうなずくと、
「ワープ――鈴ちゃん」
と唱えて消えた。
今度こそ、ちゃんと伝えてきてくれるだろう。
花音は、凪を見送ったあと、笑顔で俺に言った。
「でも、凪ちゃんが来てくれてよかったね」
「まあな」とうなずく。
「凪ちゃんがいなかったら、あの推理は完成しなかったもん」
「ああ、さっきの偽物の現実世界を見せられてるってやつか。まだゲームの中にいるって証拠がなかったけど、凪の存在が証拠になり仮説を証明してくれた。あと、時間トリックについても、凪がファフニールの話をしたから確信できたもんな」
何気なくそう返すと、なぜか花音は嬉しそうに言った。
「凪ちゃんは、開ちゃんのピンチのときに必ず来てくれるよね」
ピンチ、か。
言われてみれば、確かにいつも俺のピンチのときに現れる気がする。
今回もそうだ。
凪がいなかったら、俺の推理は宙ぶらりんで、なにも信じるものがないまま、ゲーム外から事件の解決をしなければならなかったろう。
本当に、神出鬼没な凪は、まるでヘルメスそのものだ。
そう思っても、照れくさいし、口が裂けても言えないけどな。
おまけマンガ
日常の一コマ。凪は神出鬼没。




