第四章26 『共通認識』
再びゲーム内のお店の中。
「へえ。こんなところにいたのか」
さっそく凪は地図を取り出してひとりで状況を確認している。
そんな凪をよそに、俺はみんなに聞いた。
「さあ。現在の状況で、どこかわからない人いる?」
「あたしは平気だよ!」
「オレもだ」
さっきの話を聞いて、素早く状況を飲み込んだ花音と作哉くんが答えた。この二人は頭の回転が速い。特に花音は勉強こそできないけど、頭はよく回るのだ。作哉くんは考えてる最中に身体が動き出すタイプではあるが。
ノノちゃんはおずおずと挙手した。
「あの」
俺はかがんでノノちゃんに目線を合わせる。
「なに? なんでも聞いて」
「つまり、ノノたちは、開さんがさっき食堂で言っていたように、この世界に閉じ込められていて、このゲームをクリアしないと外には出られないってことですよね? そして、そこに凪さんが仲間にくわわったということで、いいんですか?」
「うん。そうだよ」
ノノちゃんはもうひとつ質問した。
「あと確認ですが、マイルズさんというのは、開さんがノノたちとゲームをはじめる前に出会ったお仲間だから、ノノたちのお仲間でもあるんですよね?」
うなずき、俺は説明する。
「そう。マイルズくんはこのゲーム世界で出会って、仲間になった人だよ。で、いまは逸美ちゃんと鈴ちゃんがマイルズくんといっしょにいる。凪は伝令役として、逸美ちゃんたち三人の元へ行ったり来たりしながら合流を目指す」
「はい。わかりました! 早くおふたりとマイルズさんという方にも会いたいですね!」
ノノちゃんは快哉を叫ぶ。パッと笑顔を咲かせて納得を示した。
俺はかがんでいた体勢から姿勢を直した。
「うん、そうだね。それだけわかってれば大丈夫」
地図での確認が済み途中から話を聞いていた凪が、頭の後ろで手を組んで、
「ふーん。なるほどね。要は、開はもう一度この仲間と始めたばかりだったというわけか。把握したよ。で、ぼくはこの現状を三人に伝えて、また戻ってくればいいのかい?」
えらく理解が早いな。さすがは凪、俺の相棒を自称するだけある。
「ああ、頼む」
「はいよ。その前にひとつ、共通認識を作っておこう」
凪が人差し指を立てて、俺たちにそう言った。
「共通認識?」
と、花音が単語を繰り返す。
ノノちゃんも言葉の意味がよくわからない、という顔をしているので、俺は二人のために説明する。
「俺たち五人とか、特定のメンバー内だけでの共通の認識――つまり、同じ言葉や同じ物事を、同じように理解するってこと」
花音はまだピンときてないようで、腕組みする。中学一年生には聞き慣れない単語ではあるだろう。無理もない。
「まだよくわかんない。開ちゃん、横文字使うんだもん」
「メンバーって単語以外に横文字は使ってねーよ」
とつっこむ。
どう説明していいものかと思う俺だったが、凪は淡々と進める。
「ぼくが提案する共通認識はこうだ。開が、ファフニール討伐後、風穴に吸い込まれたあとのことを《二周目》と呼ぶこと。それ以前を《一周目》と呼ぶこと」
「要は、探偵サンが幻として見せられた、二度目の八月一日からが《二周目》だな」
と、作哉くんが整理する。
花音は笑った。少し肩が下がる。
「なーんだ。そういうことか。最初からそう言ってよー」
「はい、ノノもわかりました。では、ノノたちは《二周目》からしかプレイしていない。そして、《一周目》はこの《二周目》よりも以前のことを言うんですね?」
ノノちゃんに聞かれ、凪がビッと親指を立てる。
「その通り。そう言ったほうがわかりやすい。ぼくらはこの共通認識を便宜的につけたけど、他のプレイヤーには通じないし、言う必要もない。また、逸美さんと鈴ちゃんとマイルズくん、その三人にはぼくからそう呼ぶことにしたって伝えておく」
「よろしくね! 伝令の神様」
花音に笑顔で言われ、凪は片目を閉じてウインクした。
「任せてくれ。じゃあそういうことで。ワープ――鈴ちゃん」
凪が左手に持った《ケリュケイオン》を天にかざすと、《ケリュケイオン》の青い水晶が光り輝き、一瞬で姿が消えた。
《ケリュケイオン》によって凪がワープし、この場から消えた。
作哉くんが驚いた。
「おお! アイツ、マジで消えるのか」
「凪さんはすごいです」
「やっぱり凪ちゃんは特殊な感じだよ。凪ちゃんはこうでなくちゃ」
ノノちゃんと花音はどこか嬉しそうだ。
俺はふっと小さく笑う。
「ま、凪は神出鬼没だからな。ヘルメスはそれっぽいと思うよ」
「さっきはそんなことないって言ってたくせに」
と、花音がおかしそうに俺を見るので、俺は訂正してやる。
「違うよ。俺は別に――」
すると。
突然。
凪が俺の目の前に現れて、すっとぼけた顔で聞いた。
「で、なんて伝えればいいんだっけ?」
ズコッと、俺たち四人はずっこけた。