第一章7 『ゲームクリエイター、史木入』
誰だ?
部屋に入ってきたのは、理知的で面長、銀フレームのメガネを掛けている。メガネの下には鋭い切れ長の目が覗く。
つまり、この人もアイマスクはしていなかった。背は一七五センチ程度、彼も潮戸さんやその他の社員同様白衣をまとっている。彼は軽く手をあげて言った。
「やあ」
「やあ」
と凪も同じように手をあげて応じる。
小声で「オイ」と凪につっこむが、その男性は気にした様子もなく言葉を続ける。
「いらっしゃい。ようこそマスターズ・カンパニーへ。ワタシは史木入。このゲームを作った者だ」
史木さんはポケットに手を入れたまま、自信に満ちた表情でそう言った。ポケットに手を入れたまま挨拶するなんて、礼儀のなってない人だ。まあ、凪のほうが失礼なんだけど。でも、天才というのは半分非常識なものだから、俺は気にしない(所長を知ってる俺には慣れっ子だ)。
「明智開です。今回は参加させていただけるということで、ありがとうございます」
「ああ。こちらこそ、来てくれてありがとう。楽しんでいってくれ」
「密逸美です。この子と同じく、鳴沢探偵事務所の者です。今回はありがとうございました」
「そうか。つまりキミたちが探偵と助手か。お姉さんの邪魔はしないようにな。むしろしっかりサポートしてるかい? ボク」
この人、逸美ちゃんが探偵で俺のほうが助手だって勘違いしてるみたいだ。しかも俺を「ボク」呼ばわりとは。子ども扱いして、失礼な人だな。第一印象は最悪だ。
「大丈夫です。わたしがしっかり支えてあげているので」
逸美ちゃんが俺の両肩に手をやりながら、俺の代わりに答えてくれた。
「そうか。で、キミたちはお友達かな?」
目を向けられて、鈴ちゃんが折り目正しくお辞儀した。
「初めまして。御涼鈴です。よろしくお願いします」
「よろしく。それで、そっちの彼は?」
言われるが、そっちの彼はこっちを見ない。彼――凪は、この部屋にあるVRマシンが気になって端から史木さんの話は聞いていないようである。史木さんも変わった人だと思うけど、やっぱり凪のほうが変人だ。
「先輩、挨拶してください」
鈴ちゃんに小突かれると、凪は「挨拶ならさっきしたよ」と言う始末だ。
史木さんは凪に再度聞いた。
「キミはお友達かな?」
「ぼくは柳屋凪。おじさんだれ? ぼく、おじさんとは友達じゃないよ?」
史木さんは凪の非礼も気にせず答えた。
「ワタシはおじさんではない。史木入だ。キミは変わった子だね。よくそう言われるだろ?」
「ぼくはよく、おまえは変わらないなって言われます」
「そうかい。そっちか。いやしかし、さっそくこのVRマシンが気になってるようだね」
と、史木さんはテーブルに置かれたVRマシンに視線を移した。
「なに? おじさんも気になるの? なら、いっしょに潮戸さんの話を聞こうよ」
「いや、設計やアイデアなど、ワタシも尽力して作ったものだ。むしろワタシが作った張本人なのだ。一番詳しいのもこのワタシだ」
史木さんはVRマシンを片手で持った。
「これはテスト機の3号機だから、《T3》と我々は呼んでいる」
《T3》は、ヘッドホンと目を覆うようなモニターが一体になった、顔の目から上を包む形状をしていた。後頭部がなく前面だけを覆うヘルメットとでも言ったらよいだろうか。
「大きな装置だと思ってましたけど、だいぶ小さいんですね」
逸美ちゃんの言葉を受けて、史木さんは説明する。
「VRマシンは、人間の五感を現実世界と切り離し、ゲームで再生するものだ。すなわち、人間の五感を奪い、支配する。簡単にどこででも使用するのは危険で、ゲームセンターなんかに置いたら、使用中の現実での自分の身体は無防備だろう? だから、家庭用としてしか普及は難しいんだ。したがって、最低でもこれくらいのサイズでゲームをプレイできるようにしなければならなかった」
なるほど。
俺は質問した。
「これからやるゲームは、どんなものなんですか?」
「そうだね。ゲームの概要を説明しよう。ゲーム名は《ルミナリーファンタジー》。中世ヨーロッパ風の世界観を持ち、プレイヤーは魔王を封印するため、七つのアイテムを集めることになる。七つのアイテムを集めると、魔王を封印できるというものだ」
七つのアイテム……。
「このゲームは、我々が目指す到達点となるべきゲームだ。キミたちはクリアできるかな?」
ニヤリ、と理知的な顔を歪めて、史木さんは最後にもう一言。
「それでは、キミたちの活躍を楽しみにしている。では潮戸、あとは任せた」
「はい」
潮戸さんの返事も待たずに歩き出し、史木入はこの部屋を出て行った。




