第四章16 『衣装チェンジⅥ』
ノノちゃんは新しい衣装を買うためにレジへ向かった。
さあ。
今度は作哉くんが着替える番だ。
「もう決まってるんでしょ?」
花音に聞かれて、作哉くんは答える。
「おう。ちっと着替えてくらァ」
威勢良く作哉くんが試着室に入る。
ノノちゃんが会計を済ませて戻ってきた。
「おまたせしました」
「ちゃんと買えたね」
振り返ってノノちゃんを見やる。
花音はノノちゃんの服の肩のあたりをぴっと直してあげて、
「うん、ノノちゃんは可愛いなぁ!」
「いいえ。花音さんも、おとなっぽくてかっこいいです」
褒められて照れながら、ノノちゃんも褒め返す。
「へへん。そう?」
得意顔の花音である。
俺から見たらどこも大人っぽくないけど、ノノちゃんには大人に見えるのかな。
中学一年生の花音は、『大人っぽい』に憧れている。かと言って大人のお姉さんな雰囲気の逸美ちゃんに憧れているわけでもなく、漠然としている。むしろ、逸美ちゃんに憧れているのはノノちゃんだ。目標ということらしい。
「逸美さんのようなかっこいいお姉さんに、ノノはなりたいです。目標です」
と、本人のいないときにしばしば口にする。
「そんなにかっこいいかい?」
探偵事務所の和室でごろごろしながら凪がゲーム機から顔を上げると、ノノちゃんはきっぱりと答える。
「はい。ノノのあこがれです。やさしくておちゃめなんですが、ものしりでみんなをささえてたよられています」
俺はノノちゃんに微笑みかけてうなずく。
「うん。ノノちゃんも、逸美ちゃんみたいになれるといいね」
「はい。目標にはちかづかなければなりません」
ノノちゃんは純真な目で俺を見上げて、そう言った。
このとき、よく見ているものだと感心した記憶がある。
対して花音は、
「早く大人になりたーい」
である。
なんとなく、花音よりノノちゃんのほうが精神的に早く大人になりそうな気がする。でも、意外と花音みたいなやつが、ふとしたときに急に大人になるんだよな。まあ、それはまだ先の話だ。
ノノちゃんは花音に質問している。
「へえ。花音さんは、もう武器まで決めてますか。さすがです」
花音とノノちゃんは少年探偵団のメンバーたちの中でも年少組だから、話も合う。二人はいまも楽しそうに互いに服についておしゃべりしていた。
するとまもなく。
シャーっと。
カーテンが開いた。
衣装チェンジした作哉くんが、試着室から出てくる。
作哉くんの衣装は、ブラックのノースリーブのシャツとグレーの長ズボンだった。イエローのベルトが差し色として入り、頭にはブラックのヘッドバンドがある。全身ブラックとグレーを基調とした色使いで、細い体躯も相まってオオカミのような鋭さを感じさせた。
八草作哉 設定(2018/11/30追加)
「作哉くんも強そう!」
「だね。接近戦に強い仲間がいると安心できる」
花音と俺がそう言って、ノノちゃんも手を組んで作哉くんを見上げる。
「作哉くん、決まってます!」
三人に褒められ、作哉くんはニヤリと口の端を歪ませてた。
「このオレがいるからには、どんなヤツも薙ぎ払ってやるぜ! へっ!」
頼もしい。
俺たち少年探偵団の仲間の中でも、作哉くんはダントツに強い。パワーが違う。その強さで、これまで多くの人たちに恐れられ怖がられてきた。そもそも顔が怖いっていうのもあるけど。しかし、本当にどんな敵でも薙ぎ払って道を作ってくれそうだ。
と。
そのとき。
作哉くんの後ろを、平凡な少年が通りかかった。少年はNPCではないようで、年は花音よりちょっと上の中学二、三年生ってところか。鼻歌まじりで足取りも軽快だ。
が。
運悪く、作哉くんの腕に少年のひじがぶつかってしまった。
「あ、すみません」
謝罪だけしてそのまま少年は通り過ぎようとしたが、作哉くんはおおげさに倒れ込んで、右手で左腕を押さえた。
「うおぉぉぉぉぉぉ!」
作哉くんが大声で叫んでいる。まだ痛覚が遮断されてないから、ちょっとした痛みが作哉くんには大きな刺激なのだ。
「は? え? なにこの人、こわ」
急に叫び出す作哉くんを見て、少年は恐れをなして逃げてしまった。作哉くんって、別に強くなくても、どっちみち周りに怖がられるんだな……。
俺は小さくため息を漏らす。
やれやれ。先が思いやられる。




