第一章6 『703』
部屋に入ると、一人の白衣姿の男性が迎えてくれた。
ただ、この男性は白衣姿ではあったけど、なぜか他の社員さんと違って、アイマスクをしていない。特別な役職なのか? 年は四十歳くらいだろうか。黒縁メガネを掛け、常に微笑みを浮かべたような細い目をした、優しそうな顔をした人だ。
彼は軽く手をあげた。
「こんにちは。ボクは潮戸といいます。ゲームを作ったクリエイターの一人です」
「こんにちは。明智開です」
俺に続けて、凪と逸美ちゃんと鈴ちゃんも自己紹介を済ませる。
この部屋には、ソファーなど腰を落ち着けてしゃべれる場所もない。
あるのはただ、作業用の机とその上にパソコンが一台、あとは、ベッドが四つ並んでいるのみだ。
潮戸さんは微笑みを携えたまま言った。
「座る場所がなくてすみません。そちらのベッドが、みなさんがゲームをするときに横になっていただくベッドになります。ですから、ベッドに座ってくださって結構ですよ」
「はい」
代表して俺が返事をするけど、立って説明してくれる潮戸さんに悪いので、俺たちは座らず立ったまま話を聞く。
逸美ちゃんが尋ねる。
「あの、潮戸さんが、わたしたちの担当をしてくださるということですか?」
「ええ。そうです。さっそく実際にプレイしてもらいたいところではありますが、まずはゲームについて。ここでのことは、口外しないでください。完成し、世に出るまでは、くれぐれもご内密にお願いします」
「承知しました」
と、逸美ちゃんが答える。
「このゲームは幻のゲームと呼ばれ、世間で名前が一人歩きした、特殊なゲームなんです。そんなこのゲームを作ったメンバーは何人かいますが、実質的にこのゲームを作ったと言えるのが、史木入。史木はまだ三十代で、クリエイターのメンバーとしては若いですが、彼がいなければ、このテストプレイ版も完成しなかった」
「すごい人なんですね」
「明智さんも優秀な探偵だと、鳴沢様から話を聞いています」
「いえ、そんなことは」
「謙遜しなくてもいいですよ。明智さんはあの《探偵王子》なんですってね。ボクは《名探偵》と会うことはできなかったけど、《探偵王子》に参加してもらえて嬉しく思います。ただ、《名探偵》にもぜひ参加してもらいたかった。残念です」
「事件ばかりで忙しい人ですから」
「すみません。八月から参加する予定だったみたいなんですが、急遽わたしたちだけでの参加になってしまって」
そんな俺と逸美ちゃんにも、潮戸さんは笑って言ってくれた。
「いえいえ。ボクが《名探偵》と実際に会ってみたかっただけですから、気にしないでください。別の者に話を聞いただけでしたが、あの方は、一度ゲームに入っただけで、もうクリアしたようなものだった。背景や条件付けなどのルールも、チュートリアルを聞いただけで暴かれてしまったそうです。確かに八月一日からテストプレイ最終日の十三日までの約二週間も、あの方には必要ないかもしれません」
一応俺は、所長が一週間もあれば余裕だとか言ってたことは伏せておいた。
潮戸さんは、今度は凪と鈴ちゃんに顔を向けた。
「お二人も、あの《名探偵》の元で働いていらっしゃるんですか?」
鈴ちゃんが頭を左右に振った。長いツインテールが上品に揺れる。
「いいえ。ただ、たまにこちらの二人といっしょに、《少年探偵団》として活動することがある程度です」
「あ、聞いたことがあります。あなた方がそうでしたか」
感嘆した様子の潮戸さんに、凪は胸を張ってみせた。
「えっへん。開が探偵で、逸美さんが助手兼探偵事務所の管理人、ぼくが情報処理担当で、鈴ちゃんがリアクション担当なんだ」
「あはは。そんな担当もあるんですね」
おかしそうに笑う潮戸さん。
鈴ちゃんは頬を染めて凪に抗議する。
「先輩、変なこと言わないでください。あの、そんな担当ありませんからね」
「はい。わかってますよ」
潮戸さんは優しい笑顔で答えた。
すると。
この和やかな空気の中。
一人の男性が部屋に入ってきた。




