文学的価値って……
ココは雲の上をてくてく歩いていた。
すると、ふと足に何かが引っかかり
ビタん!
ココは派手に頭からこけてしまった。そもそもの雲の上なのでさほど痛くはないのだけれども、少しイラついてココはほっぺを膨らませる。
「いったい何がこんなとこまで。」
足元を見てみると、雲の一部がもごもごと動いている。
「まさか……。やつらかも。」
そっと雲の中に手を入れると、指先が小さな何かに触れる。
ここはそれを掴んで引っ張りだしてみた。
手の中には元気な雲雀が握られていた。
_,,,
_/::o・ァ
∈ミ;;;ノ,ノ
""""~"""~
「春はこれだから……。まあ、まだ生きているのは珍しいんだけど」
ココが手を離すと雲雀は飛んで行った。
そして雲の中にある多くの雲雀たちを思いながら、ココのこけた音に気づいて近づいてきたイマに話しかけた。
「姉さん。文学的価値ってなんだと思う?」
「さあ。でも答えれないってことは意外と漠然とした概念かもね。」
「だからさ。ちょっと定義してみたんだ。聞いてみてよ。」
イマは笑みを浮かべた。
☆☆☆☆
「まず、これまで文学的価値があると言われている作品の傾向を考えてみたんだ。でも、全然つかめなかったんだよ。
だから考えてみたんだ。文学的価値はいろいろな要素から成り立っているって。
それで見つかったのは、3つの価値。
①歴史的価値
②同時代の作家と比べた相対的価値
③絶対的価値
夏目漱石先生の「吾輩は猫である」を例に取ってみるね。
歴史的価値っていう観点からみると、元祖日常系小説ってこと。
同時代の作家と比べた相対的価値って観点からみると、江戸時代の古典の文章から現代文の文章に変えたっていう意味で今まで誰もできないことを当たり前に変えたってこと。
絶対的価値はそのままかな。難しい知識とかではなくて、内容が面白いってこと。まあ変わることのない人間の『真理』を上手く表現できているかどうか。反対に、絶対的価値がない作品は、物語の設定がブームに乗っているだけで主人公も小学生のようなことしか考えなくて、なのに問題は解決できるみたいなやつかな。
それで、この3つの評価観点があるから、文学的価値って一言には言い表しにくいって言われるのだと思う。
まあそんなの人によって違うって言われたらおしまいなんだけど。
でも、読みもしてないのに『そんなのみんなが価値があるって偉い人が言うから、君たちがそれに流されているだけだよ。』なんていう人は嫌いだな。」
「なるほど……。まあ賛成しきれるところではないけど、評価はしてあげるよ。」
「姉さん読書が大好きだから、やっぱりその分野は厳しいね。」
「ふふ。」
「でた、小悪魔的で大人っぽい笑顔!pixivのキーワード狙って最近連発しているやつだ。」
イマはニコニコしながらココの近くから離れていった。本を探しに行ったのである。
自分の趣味に興味を示してくれた妹がまた一層、イマは好きになった。
☆☆☆☆
「ココ。ちょっとだけメタいこと言っていい?」
「少しだけね。」
「最初の方の文章の説明忘れているよ。」
「ああ、あれは夏目漱石先生の『草枕』を参考にしたんだよね。ちょっと引用するよ。
ーーーーーー
忽ち足の下で雲雀の聲がしだした。どこで鳴いているか陰も形も見えぬ。
只聲だけが明らかに聞える。せつせと忙しく、絶え間なく鳴いている。
方幾里の空気が一面に蚤に刺されて居たたまれない様な気がする。
あの鳥の鳴く音には瞬時の余裕もない。
長閑な春の日を鳴く盡くし、鳴きあかし、又鳴き暮らさなくては気が済まんとみえる。
その上どこ迄も登っていく、いつまでも登っていく。
雲雀は屹度雲の中で死ぬに相違ない。
登り詰めた挙句は、流れて雲に入って、漂ふているうちに形は消えてなくなって、只聲丈が空の裡に残るのかも知れない。
ーーーーーー
そこから発想してみたよ。でもやっぱり姉さんは気づいていたんだ。」
「一応ね。ちょっとだけ思うんだけど、いろいろな文章の解釈を考える時に、他の作品から類推される作者の思想を考慮に入れるのどう思う?」
「えっ?!考えたらダメ?」
「そうしたら解決することはいっぱいあるんだけどさ、その考え方ってちょっと危ないんだよ。
作者が誰かによって文章の内容が変わるから。作者が誰かによって同じ文章でも価値が変わるってことなんだよ。」
「あっ……。あれでも作者の意向を完全に汲み取ったほうがいい気もするし……。できるかな……。」
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答は募集中です。作者も悩み中です。
個人的には夏目漱石が結構好きです。
性格はともかく、内容はとても好きです。
ついでにアニメのニャンコ先生もチラ見したことあります。