コント脚本『萌えキュン刑事(でか)』
A:アイドルしながら刑事もやっている敏腕女刑事。
B:容疑者。ブサイクな若い男性。
C:若手のイケメン新人刑事。
○取調室(昼)
机をバン! と叩くC。
C「お前、いいかげんに吐いたらどうなんだ!」
B「知らねーって言ってるだろ!」
C「いい年して……何回、下着ドロボーで捕まれば気がすむんだ? あ?」
B「まだ犯人じゃねえ、容疑者だぞ! いいのか? そんな事言って!」
Cをあざ笑うB。
C「そうだった……しかも、コイツをここに引きとめておけるのは十二時までだ」
C「だけど、もう時間がない! ああ、もうこうなったら、アイドルの時は、釣り師とよばれ、握手会に長蛇の列をつくらせ、刑事の時は、その釣り力で容疑者を何人も落としてきた、あの伝説のお方を呼ぶしかない!」
Cが扉をあけて叫ぶ。
C「A刑事、お願いしま~す!」
A「はあ~い!」
ブリッコアイドルのようなコスプレで入ってくるA。
カメラ目線で、アイドルスマイルで敬礼ポーズ。
A「ハイ! 推し変と犯罪が大嫌い、アンチにはちょっぴり職権乱用!」
C「職権乱用~!」
Aは銃をかまえるポーズをする。
A「あなたのハートを逮捕しちゃうぞ! 四十八曲がり署、所属、アイドル刑事、Aで~す!」
Aはバキュ~ンと口パクをしながら、銃をうつポーズをしてみせる。
B「結構なの、来たな、おい……」
やっかいだなあという表情でAから顔をそらすB。Bを向くA。
A「あ~!」
手をふりながら、Bに近づいていくA。なにごと?という表情のB。
A「いつも来てくれてありがとう~!」
B「やかましいわ!」
A「今日はなに? また、のぞき? 盗撮? 待って、A、当ててみせるからね~……わかった、また下着ドロでしょ! また女子寮の廊下で、二時間も土下座させられる気?~」
C「さすが釣り師、常連ファンの情報は一度きいたら忘れない!」
B「常連ファンってなんだよ!」
AはBの手をとり、自分の胸に引き寄せ、その手をナデナデする。
C「出た~! 毎回、握手会を完売させてきた、お手々ナデナデ~!」
Bは少しデレッとする。
A「B君、また……女性の下着、盗んだんだよね?」
B「だから、やってないって……」
A「いいんだよ。B君は、自分の好きな事に正直なだけだよ。ただ今は、まわりに理解されないだけ……」
A「あたしだって、アイドルになりたいって言った時、みんなに笑われた。でも夢は叶った……」
Aは宙を見つめて、遠い目をする。
Bは「なに言ってんだコイツ?」って表情になる。
A「だから、あきらめちゃだめ! B君が頑張っていれば、きっと誰かが、どこかで見ていてくれる!」
B「それはきっと警察だな……」
A「いままでだって、たくさん下着盗んできたじゃない! B君なら必ずできるよ!」
B「前向きに、頭、狂ってやがるな!」
A「だから、今回もB君がやったんでしょ? ね?」
B「やってない!」
A「本当に?」
B「知らん!」
Aは黙り込むと、一歩引いて、急にマイクを持って叫ぶ。
A「みんな~! 今日はあたしのライブに来てくれて、ありがとう~!」
C「イエ~イ、Aちゃ~ん!」
B「これ、ライブって呼んでるんだ……」
A「いきなりだけど、いまから撮影会やりま~す。ツーショットでチェキとるよ~!」
B「本当にいきなりだな……俺はいいよ、いらないよ……」
嫌がるBを、Aは無理に引っぱっていき、AはBに寄りそう。Cはカメラをかまえる。
Aはカメラに向かって明るくチェキをする。
A「ん~、なんかしっくりこないな~」
B「そもそも、取り調べ中におかしいだろ……」
A「あ、そうだ! B君、あたしのグッズをかぶって!」
Aは、Bにグッズをかぶせる。
A「で、ポーズは、こう……」
Aは両手を前に出して、うらがえし、手首をくっつけてみせる。Bはマネしてやる。Cはカメラをかまえる。
C「はい、チーズ!」
Bは自分のポーズ(手錠を受ける時のポーズ)を見て、ハッとする。
B「『わたしがやりました……』って、おい!」
Bは頭のグッズをとる。
B「しかもこれ、パンティじゃねーか!」
ずるがしこそうな表情で、首をかしげながら元の位置にもどっていくAとC。
A「おしいな~……」
C「もうちょっとで自白写真、とれる所でしたのにね、おしいな~……」
B「一回、証言ひきだすのに失敗しただけで、もう証拠ねつぞうかよ! コイツら、結構くさってるな!」
Aは元の位置に戻る。表情がアイドルスマイルに戻る。
A「そうだ、B君、カツ丼たべよ!」
C「そうですよね、取り調べといったら、やっぱりカツ丼ですよね~」
B「お前ら、刑事ドラマの見過ぎだろ……」
Aはいったん消えて、カツ丼を持って、戻ってくる。
A「ハイ! B君のために、Aが頑張って作ったんだよ!」
B「そ、そうなんだ……」
ちょっとうれしそうな表情をするB。
B「なんか悪いな、えへへ……」
Bは割り箸を割って、カツ丼を食べようとする。
A「あっ、待って! 今からAが、おいしくなる魔法をかけてあげる~!」
Aがカツ丼に、ケチャップで大量に字を書きはじめる。
A「L・O・V・E~、L・O・V・E~、Bく~ん……」
B「おいおいおい! それメイド喫茶で、メイドがオムライスにするやつ! これカツ丼! ケチャップNO!」
カツ丼がケチャップだらけに。
A「愛タップリ。さあ、召し上がれ!」
B「ケチャップがタップリだよ! こんなスッパイのくえるか!」
C「刑務所の飯はマズイっていいますものね」
Cは、うまい事を言ったって顔をする。
B「うまくねえよ! いろんな意味で!」
A「一万三百円です」
B「金とるのか! しかもたけえな!」
A「カツ丼は三百円だけど、Aの萌えサービスが一万円だよ」
C「現金払いのみでお願いします」
B「警察署内で、軽い詐欺にひっかかるとは思わなかったよ!」
B「俺の心の闇が、今、もう一つふえたわ!」
B「しかも、カツ丼の値段だけは、みょうに良心的なのも、なんかモヤッとするし…… 」
Bはしぶしぶお金を払う。
A「まいどありがとうございま~す!」
アイドルスマイルのA。
B「お前の笑顔の、意味が怖くなってきたよ……」
C「カツ丼でカツアゲされましたな」
ニヤリとするC。
B「だから、うまくねえって!」
A「あ!」
Aは手をポンとたたく。
A「みんな、よろこんで~! 突然だけど、新曲を発表しま~す!」
C「やったあ~!」
B「なんでコイツが一番、楽しんでるんだ?……」
Aは真剣な表情になる。
A「ファンのみんなに向けたメッセージソングだよ。それでは聞いてください……『勇気を出して』」
取り調べ室の灯りが消え、Aにスポットライトがあたる。
POPな伴奏がなる。
Aは踊りながら歌いはじめる。
A「♪朝のベランダですれちがうあなた、あたしはいつも遠くから見つめるだけ~」
A「♪あなたは洗濯物つかんで走り出す。WOWWOW、恋の予感~」
A「♪あなたから言ってほしいの。秘密の告白、勇気を出して~」
A「さあ、ファンのみんな! コールお願いね~!」
C「イエ~~イ!」
B「い、いえーい……」
A「♪わたしは~ ハイ!」
Aは、マイクをBに差し出す。
B「わ、わたしは~……」
A「♪二十代OLの~ ハイ!」
Aは、マイクをBに差し出す。
B「二十代OLの~……」
A「♪下着をとりました~、生まれてきてスミマセン!」
Aは(歌の振り付けで)土下座をする。
A「♪ハイ!」
Aは、マイクをBに差し出す。
B「下着をとりました~……生まれてきてスミ……」
Bも土下座をしようとする。
B「……って、洗脳だな! 俺がライブ会場を出るころには、五人ぐらい殺した事になってるよ!」
C「下着をとりました~!」
喜んで土下座をするC。
B「お前は楽しみすぎだろ!」
A「聞いてくれてありがと~! ショー料金は二万円になります」
B「もう、うったえるからな! そもそも刑事がドロボウからドロボウするって、設定がもう、わ~っ、ってなっちゃってるから! いや、俺はドロボウじゃないけれども!」
Bはやや投げつけるように金をはらうと、Aにそっぽをそむける。
そんなBをじっと見つめるA。
A「わかったよ、B君。今回はやってないんだね。あたし、信じるよ……」
B「A……」
Bの表情がやわらぐ。
A「いままでのだって、B君はただ、女の子が大好きなだけだったんだよね」
B「そう言われると、なんだか恥ずかしいな……」
A「でもさ、キモくてモテないから、下着ドロとかするしかないんだよね」
B「ま、まあね……」
A「でも、下着ドロなんてしないで、バカみたいに真面目に生きていかなきゃダメだよ。だってB君は、何のとりえもないんだから!」
B「そ、そうなのかな……」
A「そうだよ! そもそも彼女ほしいとか思うからツライんだよ。最初から、俺は孤独死だ! って覚悟しとけばいいんだよ。そんな顔で彼女なんてできるわけないんだから!」
B「う、うん……」
A「で、いままで……なぜ、犯罪なんかおかしてきたの?」
B「お前みたいな、やつらのせいだよ!」
B「自分が可愛いからって、人をゴミみたいに思ってる、お前みたいなやつらのせいだよ!」
Aは「Bがなにを言ってるのかわからない」という表情をしている。
B「ちくしょう! お前ら、さんざんふざけやがって! 俺は無罪だ! そろそろ十二時だし、もう帰るぞ!」
C「おい! まだ、あと一分あるぞ!」
Bが行こうとすると、ころんでジャンパーがはだけて、中のシャツが見える。
C「あ、あれは限定版のシャツ! Aの直筆サイン入りだ!」
Aはおどろく。Bはあわてて隠す。
AはゆっくりBに近づいていく。
A「B君……本当はそうだったんだね……」
B「は、はずかしいな……」
Bは顔をあげて、Aを見つめる。
B「そうだよ、俺は……本当は……」
A「やっぱりドロボウだったんだね! それ、あたしの! だって、あたしの名前かいてあるもん!」
C「十一時、五十九分、犯人確保!」
B「えんざいだあ~!」