竜の彼とのこの状況(1)
あの日から二週間近く経った。
私は利香の仏壇に線香をあげにきた。
明日、四十九日だから。
利香の両親と親戚達が集まるだろう日なので私は遠慮した。
「どうもありがとう……紫姫ちゃん」
利香のお母さんが私に、深々と頭を下げてくる。
(利香のお母さん、痩せた……)
「あの時はごめんなさい……。紫姫ちゃんは悪くないのに、責めてしまって……」
「私は大丈夫です」
私は少し口角を上げ笑みを作りながら、そう首を横に振る。
でも気持ちが大分落ち着いてきたのか、以前の利香のお母さんに戻りつつあるみたいだ。
明るくて活発な、お母さん――利香もそうだった。
「今日は利香の四十九日の焼香の他に、引っ越しのご連絡にあがったんです」
「……引っ越すの、紫姫ちゃん? 遠くに行っちゃうの?」
「横浜の叔母の近くに住むことになりまして……」
「学校は?」
「横浜の学校に転校が決まってます」
利香のお母さんは、ちょっと黙って思い切ったように口を開いた。
「もしかして、私が葬式であんなことを言ったから、学校で嫌な目にあっていたんじゃないの?――だとしたら私のせいだわ」
転校して引っ越すのは、利香が死んだのは私のせいだと葬式で喚いたのが原因で、それが虐めに発展したためと思っているらしい。
「利香のお母さんのせいじゃありません。それに虐めっていうか無視とか陰口だったから、そんなダメージ無かったし――私が転校して引っ越す理由は、父が行方不明になってしまったからなんです」
「――えっ?」
吃驚したまま固まってしまった利香のお母さんに、私は苦笑いをした。
竜エルガイラと異世界生物と対時して――
その勝敗は呆気なかった。
千年の眠りから目覚めた彼は、よほど力を持て余していたのか、それとも大きいわりには相手が弱かったのか、エルガイラが勝った。
竜の姿に戻った彼は大きくて、本や映画で見たような異形さだった。
私は竜の彼の首の後ろに立ち、彼に『怒り』の感情を注ぐ。
――どうしてか、飛ばされることも怪我をすることもなかった。
エルガイラが言うには、『一心同体の状態になる』かららしい。
要するに彼の身体の一部となっているのだろう。
実際、彼の高揚感が身体に伝わって、まるで自分が感じているように思えた。
戦いが終わり、総理を交え、防衛省の幹部の方達と今後の話をした。
私と彼は今後、政府の管理下に置かれる。
私はまだ学生で未成年だ。
学問も大事で、教育機関でしっかり学んでほしいと。
でも、この事は重要機密として扱いたい。
黙ることと、今回のような人類壊滅レベルの異世界生物が出現したら国問わずに、救済に向かうこと。
二つの約束をした。
私は転校して、横浜基地に程近いマンションに住むことになった(勿論費用は防衛省)
「官舎に住めば?」とか意見が出たけど、女子高生と見た目どう見ても青年の竜が暮らしたら目立つだろうと、その案はなしになった。
建前上、私の保護者となってくれるのは、後ろの方から出てきて私を説得した女性――加藤帆波さん。
というのも――初めての戦いの後、父と連絡が取れなくなったから。
いつの間にか、富士学校からいなくなり携帯にも出ないし、マンションにも帰ってない。
連絡がないことはいつものことだとしばらく待っていたら、小切手と署名入りの離婚届け、それとお父さんからの短い手紙が入った封筒が届いた。
内容は簡潔で、
「いまりと別れるので、慰謝料と離婚届けを送る」
「マンションは娘名義になっている。売るなり貸すなり好きにするように」
自分は今どこで何をしているとか、一切書かれていなかった。
ただ消印が宮崎県なので、多分そこにいるのだろうと思う。
あの女は喜んで離婚届けにサインをして、小切手の他にマンションの権利を半分要求したけど、帆波さん他、がたいのいい人達に説得されて(自衛隊幹部の人)渋々諦めてくれた。
マンションは売らず人に貸すことにすると加藤さんに伝え、手続きをしてもらう。
そして――引っ越しや転校の手続きをして、こうして利香の四十九日の焼香にきたわけだ。
横浜に住んでる叔母というのは、帆波さんのことで、そう設定をして周囲に話すことになってる。
――そしてエルガイラは……