表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私と目覚めし竜は復讐を願う  作者: 鳴澤うた
6/20

怒り

「――!?」


 二人の男に両腕を押さえつけられる。

「……な、何? 離して! お父さん!」

 私はお父さんに助けを求めたけど、素知らぬふりをして眼鏡をいじるだけだ。

「紫姫くん、君のミトコンドリアDNAは我々人類の持つ共通配列が違う、と聞いているだろう?」

「それがなんだっていうの!?」

「君のお母様も、お祖母様も、ずっと女性にしか受け継がれないミトコンドリアDNAは、竜を甦らせるために必要な配列で、お父様は、紫姫くんの祖先はこの地球以外の場所からやって来たと推測したのだ」


 ――地球以外の別の場所?


「……私は、地球の人間じゃないと言いたいの?」

 声が震えてしまう。

 何を言ってるの?

 お父さんも、総理も。


「わ、訳わかんない……! 私は普通! 普通の、女子高生だよ……!」

「紫姫くんのお母様から採取したミトコンドリアDNAを竜の骨に注入したら、その部分だけ復活を遂げた。それも、お父様の研究に協力した理由だ」

「でも……数秒で元の骨に戻ったって……!」

 私は自由になる足をばたつかせて、屈強な男達の拘束から逃れようと必死だった。


 ――嫌な予感がする。


 周囲を囲むように大人達は佇み、息遣いさえ殺すようにして私を見つめている。

 壁面から放つライトの光は彼らの背中を照らし、陰影を濃くして異形者はそっちだと叫びたくなるほど異様だ。


「……復活に足りないものの見当がついたんだ、紫姫」

 今まで黙り込んでいたお父さんが、口を開いた。

 巨大な骨達を挟んで私を見つめる。

「ミトコンドリアそのものだけでは駄目なんだ。それだけならお母さんの時にとうに復活をしてる……」

 ――お母さん

 お母さんもたまにお父さんの研究に協力すると言って、よく二人で出掛けた。

 そして――

 一人で帰宅途中、異世界生物に襲われて亡くなった。

 利香のように……

「『竜の番人』となるには乙女――つまり、未通の女性の血が必要だと。それは古代から変わらない『神』とも呼ばれた者への敬い。神降ろしの手順や方法は迷信ではなく真実だったんだよ」

「――!?」


 生け贄……?


「お……父、さん……? 何を言ってるの……? 科学やらハイテクノロジーやら発達している世の中に……やめてよ……」

「復活に『何か』が足りない……人類が追い込まれている今、やる価値はあるだろう」

 総理が決断を促す。

「やめてよ……! 何それ……! 私が死んで何も起こらなければ、死に損じゃない!馬鹿じゃないの!?」

「紫姫で駄目なら、また異端配列のDNAを持つ者を探すのみ」

「お父……さん」

 骨の向こうでお父さんが笑ってる。


 何で?


 娘が殺されようとしてるんだよ?


 お父さんの研究の証明なら、血の繋がった娘が死んでも良いの?

「母さん――紫穂は、僕を信じてくれた。僕の研究を。立証するために自らの命を預けてくれた――紫姫もやってくれるね? お父さんの子だろう?」

「……!? 待ってよ、お母さんは異世界生物に殺されたんじゃなかったの……?」

「当時の紫姫には、お父さんの研究を理解できなかっただろう? お母さんが研究の為に命を提供したなんてとても言えなかったんだ」

「――い、今だって理解できないよ!!」


 ――お母さんが

 確実じゃないのに

 竜が復活すると

 お父さんを信じて

 死んだ――


「ふっ……ふ、ふふ、は、はっ」

 涙と共に笑いが口から溢れ出る。

 死に損じゃない。

 というか人の命を使わないと分からない実験ってなんなの?

「人類を救うために人の命を犠牲にするなんて本末転倒だわ……」

「犠牲というのは何かしらついて回る。今回は人命だったのだ」

 総理がもっともらしいことを言うけれど、それで納得なんてできるわけない。

「――私がここで殺されて、竜が甦らなければ、総理を含むここにいる人達はただの人殺しね」

 私は泣いてぼやけた視界の中で、総理を睨み付けながら笑ってやった。

 総理も大統領もばつが悪そうに口をつぐんだけど、私を助けようとする気はない。

 お父さんを見る。

 お父さんは、絶対の自信で挑んでる。

 眼鏡の奥の眼は異様に開いて、笑みさえ浮かべて私を見ていた。

 

 鋭利な刃物が顎下から首に滑る様子を――


 自分の信念のために

 お母さんを犠牲にした

 娘の私をも犠牲にした


 許さない。


 父親じゃない

 誰も異論を唱えない、集まった者達

 追い詰められて

 人の命を軽く扱うなんて


 許さない


 こんな世の中


 許せない


 怒りと

 恨みと


 負の感情が交じって血が熱くて逆流しそうだ。


「……」


 骨に赤い鮮血が落ちていく

 熱く感じたのは肌が切れたからか

 一気に流れ出る血流は鮮やかで、目の前が真っ赤になる


 ――みんな、この竜に踊らされて

 殺されてしまえ














『願いを聞き入れた』


 ――?



『怒りの感情を注ぎ、我を目覚めさせし、シルマー。竜の番人よ』



『共に消えるまで、怒りを滾らせ敵を滅せよう』





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ