表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私と目覚めし竜は復讐を願う  作者: 鳴澤うた
5/20

竜の復活に生け贄を

 ようやく車が止まったのは、夜も更けた時間だった。


 高速道路に入ったのは知ってる。

 途中でお付きの人が、サービスエリアで富士山の形をした名物のメロンパンを買ってきてくれた。

 お腹が空いていたので、ありがたく頂戴したけど。


 ボリュームがあったのでお腹がいっぱいになって、そのまま寝てしまったらしい。

「紫姫……ごめんな」

と、頭を撫でるお父さんの手の温もりを感じた気がするけど、気のせいかもしれない。

 そう思うほど、朧気で微かな温もりだった。


 降りると目の前に、白い建物があった。

「ここは?」

「富士駐屯地だ。目の前にあるのは富士学校と呼ばれている建物だよ」

 お父さんはそう言い私に手招きをしながら、富士学校へ入っていく。

 私もあとに続いた。

 学校というから、高校のような校内かと思ったら違う。

 強いて言えば大学構内みたいな印象だ。

 昼間は教育の場として陸上自衛隊の隊員達が身心を鍛えているであろう場所は、今は数人の隊員しかいない。

 私は物珍しさにキョロキョロと忙しく視界をさまよわせながら、お父さんのあとをついていく。

「念のために、娘さんの身体検査をしますか?」

 徐に付き添いの一人がお父さんに尋ねてきた。

「いや、平気だろう。いまりに見張らせていたから。幼馴染みの子と帰宅してきて驚いて慌てたが、昨日まで異性との交流はなかったはずだ」

「――はっ? それ、どういうこと?」

 お父さんにさらりと大事なことを言われて、私は口調をあらげて問い詰める。

「娘が、不健全性的交為をしないよう見てもらっただけだ。親として当然だろう」

「……親として? あの女に親らしいことなんてしてもらったこと、ないんだけど? 私も母親だと思ったこともないし……お父さんだって、そうじゃない」


 ――お母さんが亡くなってから。


 私はその言葉を飲み込む。

 お母さんが生きていた頃は、まだお父さんは父親としての役割を担っていた。

『家族』として家庭が機能していた。

 お母さんが、異世界生物に殺されたと連絡がお父さんからきて――それから、お父さんは家に帰ってくることが少なくなって。


 突然『再婚したから』とあの女がやって来たのだ。


「お前が、いまりをどう思っているかは今の状況に関係ないことだよ」

「……好きにしたら? お父さんの結婚相手なんだし」

 ずっと考えてた。

 嫌味しか言わない仲良くなれない他人と一つ屋根の下で暮らしていくより、自立した方がいい。

 大学進学の際に一人暮らしをしようと決めている。

 もし、家から出ることを反対されたら、就職して無理にでも出ていく。


 今の掴み所のない、変わってしまったお父さんに、もう話す用件ない。

 私も、先を歩くお父さんと同じように無言でついていった。


 ある突き当たりまで行くと、付き添いの男の人が、徐に携帯を取りだし会話をする。

 ――すると、突き当たりだと思っていた壁が上に動いた。

 目の前に現れたのはエレベーターの扉。

「機密です。このことは口外してはいけませんよ」

 付き添いの男は目を丸くしている私にそう言うと、エレベーターの扉を開け、入るように促す。

 

 躊躇っていると、先にお父さんが入ったので私も続いた。

 音もなく扉が閉まり、フワッと身体が浮く感覚が生まれる。

 この感覚は高速エレベーターに乗った時と同じだ。そう思った。

「……地下なんだ。どのくらい降りるの?」

「そう、深くはありません。すぐ着くから怖がることはありませんよ」

「怖がってなんかいないよ」

 付き添いの人にからかわれたように思って私は、ふん、とそっぽを向く。


 スピードがゆっくりと遅くなり、とうとうエレベーターが止まった。

 扉が開く。

 銀と灰色の通路が十メートルほど続いていて、先にはまた扉がある。

 近付くと分かったけど、かなり頑丈な扉みたい。

 扉のすぐ端に立って待っていた男の人が、私達に会釈をする。

 きっちりとした挨拶で、この人も自衛隊なんだろうと私も、お辞儀を返しながら思った。

 きっと、お付きの男の人もそうなんだろう。



「龍ヶ花紫姫が到着しました」

 扉の側に控えていた男がイヤホン越しに告げると、音もなく扉が開く。

 

 私は扉の向こうの異様な雰囲気に身体が硬直して、その場から動けずにいた。


 円を描く部屋はかなりの広さがある。

 明かりは床は円を描いて、円筒壁も同じように嵌め込んだライトが室内を照らしている。

 壁面のライトを背に立つ大人達は日本人だけでなく、外国の人もいた。

 床面に嵌め込まれたライトの円は、何かを守るように柔らかな光を放っている。

 私が固まった理由は、大人達の眼差しは今までその照らされたライトの中に注視していたのに、自分が現れた途端、一斉にこちらを見つめたから。

(何だろう……気持ち悪い)

 皆、無言で誰も口を開かない。

 不気味な静寂だ。

 黙ったままじっと私を食い入るように見る姿は、後ろから照らされるライトの光に当てられてるせいか、人に見えなかった。

 まるでウィンドウに飾られたマネキンみたいな――無機質な、そんな印象だ。


 だけど――気付いた。


 彼らの目には光が宿っている。

 それも『好奇な物を見つめる目』だ。

 私は、ひしめく大勢の外国人達に晒されている。

 興味の対象になっている――


(……何なの?)

「お父さん……何? 何か始まるの?」

 側にいたはずのお父さんは、いつの間にか私と離れ、円を描いたライトの対にいた。

 そう、多くの外国人達の中に紛れていたのだ。


「……これから、歴史に名の残る世紀の瞬間が始まるんだ――竜の復活というね」


「お父さん!?」

 駆け寄ろうとして足下を見てギョッと後ずさる。

 周囲の大人達が私が来る前に見ていた物が何だか分かり、引いたのだ。

 盆地のように、私達人間が立っている床より低くて平らな床。

 そこに、明らかに人でない獣の骨が丁重に置かれていた。


 大きな、獣。

 まるで大昔の恐竜ほどの大きさで、その一本一本の骨の太さや大きさに私は畏怖を感じつつ見いった。

(だけどこれは……)

「竜は付くけど恐竜の骨じゃ……お父さんは恐竜を復活させたいの?」

 周囲から、失笑が漏れる。

 私の言い分が、おかしかったのだろうか?

 でも、私の思考は普通じゃないの?


「君のお父様は、自分の理論が正しいことをここで証明をしてくれるそうだ」

 お父さんの横にいた男性が、私に言ってきた。

 見たことがある顔に、私はハッと目を開く。

「渡部忍……総理」

 それに、渡部総理の横にいるのはアメリカ大統領!?

「女子高校生に覚えてもらえていたとは嬉しいね」

 総理は、そう照れたような笑いを私に見せる。

 ニュースの中でしかお目にかかったことはないけど、映像でたまに映る笑顔のままだ。

 

 だけど総理の笑顔は瞬時に消えて、よく見る厳しい顔つきになる。

「紫姫くんも、三十年続いている世界の異変のことは知っているね?」

「異世界生物の出没のこと……ですか?」

 総理は無言で頷く。

「しかもここ最近凶悪化が増してきた上に、巨大化の傾向にある。世界各国が協力しあい、情報収集や武器の開発に取り組んできた」

「……」

 はあ、とここで総理は深い溜め息を吐き出した。

 それに引きずられ、大統領も切なげに息を吐き出した。

「だが、有効な手段が今だ見つからん。このまま、異世界生物を討つ有効な手段が見つからなければ、人類まで、いや地球のをも巻き込む兵器を使うことになるだろう……。それだけは避けねば」

 そう言い、総理はお父さんと目を合わせる。

「君のお父さんの研究に協力をしたのは、確かに千年ほど前に同じように地球外生物が降り立ち、竜なるものが倒したという記述が秘密文献から出てきたからだ。ただのお伽噺かと思ったが、可能性があれば藁でも掴む思いだった……」


 しかし――


 と、目線を下ろす。

 その先には巨大な獣の骨。

「……恐竜、ですよね?」

 一緒に視線を下ろした私は、総理に再確認するよう尋ねる。

「何年前のものが調べさせた。約千年前だ――ちょうど見つかった秘密文献に書かれた年数と同じ。それに、最先端技術を使い、コンピューターで復元してみた」

「――恐竜と、明らかに違う。これ・・は」

「……」


「『人類を救いし竜』『竜の番人』二つを立証する『異端のミトコンドリアDNA』――だから、私達は賭けることにしたのだ。生物兵器に!」







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ