仇討ち(2)
その異世界生物は、既に人間を襲っていた。
利香と同じ――
覆い被さり、自らの液体で対象物を溶かし吸収していく。
この生物は圧倒的に女性を多く狙う。
理由は柔らかくて溶けやすいからでは? と研究者が報道でコメントしていたのを覚えてる。
――そして今も。
襲われたのは、若い女性だ。
最初に顔を襲うのは利香のときに知った。窒息させて、対象物の動きを停止させるためだ。
違うのは――利香の時よりも大きいと。
このタイプの異世界生物は世界各地で目撃されていて、個体数は多いのでは? と報道されていた。
きっと目の前にいる奴は、利香を襲って殺した奴じゃないだろう。
――けど
同じように襲うこの粘着性の生物に、私の怒りが沸き上がる。
「発砲を止めなさい! ここはすぐに避難を!」
帆波さんが泣きながら銃を撃ち続けている男性に近づき、乱射を止めさせる。
「嫌だ! こいつは許さない!」
と帆波さんを払いのけるけど、周囲の人が男性を無理矢理連れていった。
どうしようもない。
一度、食らいついたら食欲が満たされるまで、こいつは離れない。
……もう、覆っている顔を中心に上半身は見る影もないだろう。
「――こいつ!」
私は銃のトリガーを引いた。
「ガイ! こいつはどうやったら殺せるの!?」
そう聞いた刹那、ガイが私を抱き、跳ぶ。
「……!?」
ジュッ、と繊維の焼ける臭いと音がする。
「……おい! もう一体いるぞ!」
ガイの肩越しに、もう一体いる。
今、襲っているものより二回りほど小さい。
「こいつら、単体で行動するんじゃないんですか!?」
帆波さんがどこかに連絡をしながら、私達に駆け寄る。
「複数で行動しているということは……子を産んだ後だな。この小さいのこいつの子供だ。こうして『狩り』を教えているんだろう」
「……なっ」とエルガイラの説明に私と帆波さんは、唖然とする。
「丁度いい。チビの方は俺たちを標的にしてるらしいぞ?」
エルガイラの口が楽しそうに口角をあげた。
「まだ子供のうちは硫酸系の液体を吐き出して、対象物を攻撃する。弱ってから食いつくんだ」
そう言ってるうちから、その生物から液体が放たれる。
明らかに私達を狙っている。
「ガイ! 倒せる?」
私の言葉に彼はフン、と鼻を鳴らした。
「あんな小物……!」
刹那、エルガイラの右腕が変化を遂げた。
――大きな竜の腕に。
「俺の一張羅溶かしやがって!」
竜の鋭い爪がザックリと入って、子供の方はあっさりと絶命した。
――それに素早く反応したのが、親である方だ。
どこに目があるのか分からないけれど、自分の『子』が絶命したのが分かったらしい。
襲った女性から離れ、すごい早さでアメーバーのような身体を滑らせながら接近してきた。
「……おい、もう一体でかい奴、もう近いぞ」
エルガイラは、そっちの方が気がかりらしい。
帆波さんも、腕に付けたレーダーを見て眉を潜めた。
「エルガイラさん、そのアメーバーみたいな奴倒してください! 私、市民の皆さんを避難させますから!」
「いい、ガイ……」
私は持っている銃を構える。
「こいつは私が倒す……」
◇◇◇◇◇
「紫姫さん! 貴女はエルガイラさんをサポートする立場でしょう?」
「知ってる。だけど……こいつだけは私が倒す!」
私は、近づいてくる親に狙いを定める。
「利香を襲った奴とは別の奴かもしれない、だけど……こいつは私の親友の敵なの……! 許さない! 絶対に許さない!」
利香を
利香を殺した……!
エルガイラが来たとき、「どうしてもっと早く目覚めなかったの」と思ったけど、私は――
「こいつは私の手で倒したい!」
あの時、私は銃を撃てなかった。
別れた後、利香の悲鳴を聞いて戻ったのに襲撃に驚い身体が固まってしまった。
ただ、驚いて怖くて、指一本動かせなかった。
銃を握りしめたまま震えていた。
(さっき銃を連射していた男の人の方が、よっぽど勇気があるよ!)
大事な人のために戦おうとしたんだから。
「帆波、お前はさっさと他の人間を避難させろ」
エルガイラの言葉に帆波さんは、一瞬躊躇ったけどすぐに頭を切り替えたらしい。
「分かりました。紫姫さんをお願いします」
頼まれなくたってという顔をしている彼を尻目に帆波さんは、まだウロウロしている住民達の誘導にいった。
「紫姫」
エルガイラが後ろから包み込むように、私が握っている銃を一緒に掴む。
「いいか、狙いは……半透明の身体の中にあるあの黒い部分。あれは人で言えば胃袋だが。その胃袋の下に、奴の心臓がある。ひっくり返せば分かるが……死んでしまえば、さっきの子供のように溶けてしまうからな。捕獲しないと分かりづらいだろう」
「分かった」
「しっかり狙え。でかい奴がまもなく来る。それまでに倒せ!」
真っ直ぐにやってくる。
「捕獲範囲に入ると奴はジャンプするからな。俺の合図で撃て」
グッと銃を握る手に力が入る。
「――!?」
だけど、アメーバー生物は予想しない動きを見せた。
コンクリートの道を這うように向かってきた奴が、飛び跳ねながら向かってきたのだ。
「くっ!」
標準を定められない。もう、すぐそこに来て――
「撃て!!」
エルガイラが声を上げ、私を触発した。
咄嗟にトリガーを引き、銃弾が発射される。
(――えっ?)
弾が、政府から支給されたものじゃない。
それは、数倍に大きい。しかも、赤く熱を帯びているような色だ。
覆い被さるように飛び込んできた、アメーバー生物の胃袋の下が見える。
そこは――心臓。
私は、続けて撃ちこむ。被されるのもごめんだ。
当たった衝撃で奴は回転して地に落ちた。
「……溶けていく」
奴は、そのまま動かなくなり、アイスのように溶けていく。
「ガイ……、弾に何か細工した?」
夢中だったけど、思い出してみると後ろから握られた彼の手から熱いものが流れてきた気がする。
「紫姫の『怒り』のエネルギーだ。それを弾にこめただけだ」
エルガイラはそう愉快そうに答えた。
私の――『怒り』
「私の怒りが……倒した」
利香の敵を……討った。
こいつが利香を殺した生物じゃないかもしれない。
でも、自己満足かもしれないけれど、嬉しくて涙が出そうになった。
エルガイラが溶けた奴に近づき、胃袋の部分を漁っている。
「ガイ……?」
「何人か襲ってるな。この世界にきて結構長いぜ?こいつ」
「胃袋漁ってるの?汚いよ……」
そう言いつつ、私も興味で近づく。
「こいつ、溶けないものを随分胃の中に溜めこんでたぜ?」
「犠牲者の遺留品ってことよね……」
エルガイラと一緒に腰を屈み、覗いて――呼吸が止まるほど驚いた。
銀の時計……!懐中時計!!
「あっ……!! ああ……っ!」
「紫姫! 触るな! 手が焼けるぞ!」
「銀の……! 時計……!!」
胃液にまみれた残留物に手を突っ込もうとして、エルガイラに止められる。
「これか?」と彼は取って、自分の服で丁寧に拭うと私に手渡してくれた。
裏を見る。
『RIKA MORITA』
「利香のだ……。誕生日に利香のお父さんからもらったって……」
こいつ……利香を襲った奴だったんだ。
「私……利香の仇、討てたんだ……」




