仇討ち
新しい学校の制服が届いた。
風を通すために箱から出す。
HPで見たけれど、ここの制服はなかなか可愛い。
スクエアカットの大きな襟にダブルボタンのジャケット。
コーディネートできるように、付けはずしの襟、リボン。
それに、ジャケットも二種類・ショート、ミディアム丈。
スカートなんて四種類ある。しかもズボンまであるのだ。
夏服にはワンピースまで揃っている。
(さすが……お金かかってるなあ……)
日本の政財界トップのご令嬢とか通う学校だから、感覚が違うだろうな。
そんなところに一般市民な私が通って良いのかな?
(と言って遠慮しても、連絡とりやすいとか監視しやすいとか、そう言う理由でここの学校を選んだんだろうし)
私に選択肢はない。
結果的には、今までよりずっといい暮らしをさせてもらえるんだから、文句も言えない。
「……いいお天気だから、散歩に行こうかな」
「――出掛けるのか!」
「わっ!」
ベランダからエルガイラが入ってきて驚く。
「もう、玄関から入ってきてよ」
「中華街行こうぜ! 海も見たい!」
私の注意は耳に入っていないようだ。
千年後の世界に甦ったから、きっと何もかもが珍しいのだろうな。
無邪気に喜んでいるエルガイラを見ていて、自然に口角が上がってしまう。
あまり考えすぎなくて済んでいるのは、彼のお陰なんだろう。
「いいよ。私もエビマヨとかマーラーカオ食べたい。ガイは何食べる?」
「肉」
簡潔な竜だ。
お昼に中華街へ行くと帆波さんに連絡して、関帝廟で待ち合わせする。
土曜日なので、もう人だかりだったけど、すんなり彼女と合流できてホッとした。
「関羽って何をしたんだ?」
とエルガイラに聞かれて、私は言葉につまった。
だって三国志に興味ないし……
「長いから……本でも読んでみたら良いですよ。はまる人はすごくはまるみたいですから」
と代わりに帆波さん。
帆波さんも興味ないんですね?
レストランは事前、予約をしてくれたらしく、高級感溢れる中華をご馳走になった。
「あ、そうだ。紫姫さん、エルガイラさん、こんな時にあれなんだけど……」
帆波さんが苦笑いしながら、手提げ鞄からチェーンネックレスを取り出す。
銀の小さなボックス型のロケットが、ぶら下がっている。
「頼まれていた『竜の骨を小さく切った』のが入ってる」
「確かにこんな時にですね……」
私も苦笑い。
「一応、指図された骨を選んだけど、のエルガイラさんに、ちゃんと二体分か確認してほしいの。」
エルガイラは、ボックス型ロケットの蓋を外し中を覗く。
「ああ、二体分あるぜ」
と、満足げに頷き蓋を閉じた。
「これなら、いつも身に付けていられるし、邪魔じゃないかなぁと思ったんだけど……」
趣味と違う?
と心配そうに帆波さんに尋ねられて、
「いえ、可愛いです。ありがとうございます」
とお礼を言って首にかける。
「……そういえばガイ。残りの一体はどうなってるの? ただ骨が見つかってないだけ?」
竜は全部で四体。
甦ったエルガイラを入れたら、三体しかない。
この件を尋ねたら、エルガイラはそれまでの質問攻めにすっかりへそを曲げて、口を閉ざしてしまったのだ。
「きっちり四体いる」
「じゃあ、残り一体の骨はまだ見付かっていないということね……。探さないと」
エルガイラの言葉に帆波さんが溜め息混じりに言った。
「骨は探す必要はない」
「どうして? ガイだって早く他の竜も復活してほしいって言ってたじゃん」
「いずれ分かる。骨のない竜は『別の方法』で甦るんだ」
「――ちょっと! そんな大事なこと、何で黙ってたんです!?」
帆波さんが珍しくエルガイラに厳しい口調で返した。
「紫姫が分かれば良いことじゃないか。外野は黙ってろ」
「……私も知らないんだけど……?」
「あっ! 紫姫、これがエビマヨか?」
エルガイラは目の前に運ばれてきた料理に興味がいってしまい、話しはそこで終わってしまった。
でも、料理は美味しかった。
ちなみに、エルガイラがエビマヨと間違えたものはエビチリだ。
◇◇◇◇◇
お昼を食べて、私達は港に向かって散策をすることにした。
エルガイラは忙しなく視線を巡らせなから歩く。珍しくてしょうがない、と目が訴えている。
赤い瞳がキラキラ輝いてるよ。
「紫姫、あれなんの建物だ?」
「マリンタワー」
「あれは?」
「船」
「あれがか? 千年前の船とだいぶ変わったなー、浮くのか。あれ」
「現に浮いてるでしょ」
「あんなにでかくて重たそうなのがか……俺、持ち上げられるか?」
どうして持ち上げる必要が?
私は心の中で突っ込む。
「――紫姫、竜に戻ってあの船を持ち上げてみていいか?」
「それ今、必要かな?」
冷静に突っ込み、止めさせた。
隣の帆波さんの苦笑いがずっと続いているのが辛い。
「興味があるなら、船に乗りますか? 遊覧船ですけど」
帆波さんが提案してきた。
――そんなときだ。
「きゃあああああっ!」
衝撃と恐怖に染まった女性の叫び声に、私達だけでなくそこにいた全員が声の方向に振り返った。
同時、警報のサイレンが鳴る。
市内だけでなく、持っているスマホからもけたたましく鳴り、私は条件反射でスマホの画面をも見てしまう。
――見なくても、この警告音はなんのためか分かるのに。
『異世界生物出没。避難せよ』
「二体……?」
私はエルガイラに尋ねた。
彼を目覚めさせた時、自分も『何か』の能力が目覚めた。
探索――というべきか。
ただ、朧気で個体数くらいを辛うじて知るくらいだろう。
「いや、『二種類』だ――一種類は……」
エルガイラが指で指し示す。
その先――
四方八方と逃げ惑う人。
何人か銃を使っているのか、発砲する音が聞こえる。
「こんな大勢の人がいるなかで! 発砲しては駄目だと講習で教えてるはずなのに!」
帆波さんが、そう叫ぶと逃げてくる人波を逆走していく。
(確かに講習でそう習ったけど……)
訓練してるわけじゃないし、突然現れる神出鬼没の生物に冷静に対応できる市民なんて、どれだけいるのか。
「紫姫、もう一種類は空からだ」
「どのくらいでやって来る?」
「……まだ。途中、帆波の仲間に遮られるな」
そこまで分かるんだ。
「ガイ! 先にもう一種類の方を……!」
私の言葉にエルガイラは頷く。
帆波さんのあとを追いかけていく私に軽く追い付き、腰を抱く。
「……ちょっ!?」
「遅い、跳ぶぞ」
と一蹴りする。
「――へっ!?」
長い一蹴りで、その間帆波さんまで掴まえた。
「び、びびびっくりし……した!!」
無事着地して、彼女は声を震わせていたけど、次の瞬間には、厳しい表情に代わりに、手にした銃を構える。
「――紫姫さん! 目を瞑って!」
帆波さんの声が厳しさの中に焦りが含む。
――駄目よ、見ちゃった……
(……こいつ!)
半透明のゲル状の……
利香を襲ったやつ!!




