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私と目覚めし竜は復讐を願う  作者: 鳴澤うた
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竜の彼とのこの状況(7)

 刃が――!

 ナイフの刃が!


 止めて

 怖い


 冷たい刃の感触が、首に当たった刹那


 ドクドク

 と流れる朱――



「――ひっ!!」


 跳ね起きて、自分の喉元を恐々触れる。


 夢だ。

 良かった。


 真っ暗な空間の中、ぼんやりしていると目が馴れてくる。

 見渡して、今度は見慣れない光景に目を見張り動揺し――はた、と気付く。


(ああ、そうだ。引っ越したんだっけ)


 ゴロン、とまたベッドに横になる。


 現実だ。

 ナイフで喉を切り裂かれたことも。

 お父さんの意向だということも。

 そうして、お母さんも亡くなったことも。

 こうして政府の監視下に置かれたことも。


 ――私、これからどうなるの?


 考えないようにしていたのに、不安にかられてつい考えてしまう。


 どうしていいのか分からない。


 誰にも相談なんて出来ない。


「……利香」

「お母さん……」


 二度と会えない、私の頼れる人。


 闇が滲む。


(泣くもんか!)


 泣いたって何にも変わらない。

 孤独も

 囚われた身の上も


 何も変わりやしない。


 ギュッ、と強く目蓋を閉じると、そこに利香やお母さんがいる。


「利香……、お母さん……」


 そして――翼


「……翼」


 今、幼い頃の私まで知っているのはもう、翼しかいない。

「いやだ……」

 私はぼやいた。


 ――すごく、翼に会いたい


 駄目だ。

 駄目。

 彼に弱味を見せちゃ駄目。

 翼はきっと、私の情況から助けようとする。


 そして、まだ子供な私達は大人にとりこまれてしまう。


 翼まで巻き込むわけには、いかない――


(やっぱり、住所教えるの止めよう)


 過去の人間関係は、全て忘れよう。


 それが今、私ができる唯一の思いやり……


「うっ……」

 泣くのを抑えようとすればするほど、喉がしゃくりあがる。


「……っ、ぅう……」


 顔を腕で覆い、ひたすら堪える。

 寝てしまえばきっと大丈夫。

 あっという間に朝になる。






「……紫姫」

 柔らかく、気遣う声。

 その声に私は顔から腕を下ろし、目を開けた。

 ベッドの端に座る優しい眼差し。

 額に落ちる細くて白い手。

 生前と変わらず、髪を後ろに束ねて私に微笑む濃紫の瞳――


「お母さん……!」


 飛び起きて、強く抱き締める。

 お母さんの温もり。香り。

 私の頭を撫でる手の柔らかさ。

 私はお母さんの肩に噛み付く勢いで、顔を擦り付けた。


「お母さん! お父さんが酷いんだよ! 私まで殺そうとして……! お母さんも、お母さんまでもそうだったなんて……!」

「辛かったわね……」


 お母さん。


 お母さん。


 寂しかった。


 とても




◇◇◇◇◇


(勘弁してくれよ……)

 エルガイラは、自分に抱き着いたまま寝入ってしまった紫姫を、どう引き剥がそうか悩む。


 どうにか起こさずに横にしたが、やはり離れようとしなかった。

 シルマーである女性を慰めたり元気付けたりすることに、エルガイラは馴れていない。

 そのような役割は他の『悲しみ』の竜や『喜び』の竜がやっていた。

 シルマーの悲しみや不安、そして励まされて元気になっていく彼女のエネルギーは、彼らの格好の餌だ。

 『怒り』の竜であるエルガイラには、回ってこない役回り。


 今までだったら、先に『悲しみ』や『不安』の竜がシルマーの側にいた。

 たまに『喜び』の竜も。

 エルガイラを甦らせる感情は、シルマーが誕生する時代の女性には引き出すには、なかなか難しい。

 いつ自分に振りかかってくる『不安』

 親や友の、親しい者達の『死』で起こる『悲しみ』の感情。


 ――なのに


(何故、今回に限って……シルマーの手元に他の竜の骨を置けない時代に限って……俺が最初に甦ったのだか……)


 今までのシルマーと、そこからして違う。


「……!」

 首に回る手の力が弱くなる。

 エルガイラは、そうっと紫姫の腕を下ろし、安堵した。

 闇に利く目に紫姫の表情が和らいで、安らかな寝息をたてていることには、ホッとする。

 隣の部屋でも泣く紫姫の心の痛みが伝わって、彼女に仕える身としては放っておけない。

 それはこの身の細胞に染みている。


(さて、部屋に戻るか)

 振動が起きないようそうっと離れようとして、ギョッとした。


 シャツの裾を掴まれている……。


(……くそ)

 早く他の竜を呼んでくれ!


(そもそも穂波とかいう女の手際が悪すぎる!――俺が直談判して、骨を削ってくるからな!)


 熟睡している紫姫の横でエルガイラは、心の中でずっと文句を垂れ流していた。



◇◇◇◇◇


 ――明るい


(……朝?)


 カーテン、閉め忘れてた。


(……ん?)


 枕、こんな感触だったっけ?

 腹の上、何か乗ってない!


 ――と、いうか、隣に誰か寝てない?


 冷や汗が一気に吹き出る。

 まさか……まさか!?


 ゆっくりと真横に顔を向けて、私はその『まさか』を確信して悲鳴をあげた。


「ガ、ガガガガガガ――ガイ!?」


 私の横で寝て、しっかり腕枕をしていたのはエルガイラだった。



「――ん?」

 暢気に目を擦りながら起きて「あ、おはよう」と私に挨拶をする。

「おはよう、じゃないよ! どうしてガイがここで私と寝てるの!?」

「しくしく泣いていたから、慰めにきた」

「……えっ?」

 もしかして泣いてるのばれた……?

 途端、顔が熱くなる。

「母親と勘違いされて抱きつかれて――離れないからそのまま一緒に寝たんだよ。覚えてねえの?」

 こっちは熟睡できなかったと、ぶちぶち言いながら髪の毛を掻き分けているエルガイラを見る。

 夢――?

 お母さんが出てきて、私を抱き締めてくれたのは夢だ。

「だって……あれは夢だよね?」

 思わず口に出す。

「母親を恋しがっていたから、紫姫の記憶にある母親の影を見せたが……いやぁ、もういい歳なのにまだまだ母親が恋しいお子ちゃまで、普通ならそれなりの年頃の男に甘えても――」


 私は思いっきりエルガイラの頬をひっぱたいてやった。



 結局、ご褒美になってしまうけど……。







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