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第二十三話 前夜



Side ローズ

 




 

 祭りの前夜。ローズはいくつかの不安を抱えていた。ロバートの様子がおかしい。それにアルフレッドも、今までにないくらいに作業に没頭している。部屋にこもって何か作戦を考えているようで、その真剣な様子に声を気軽にかけることがはばかられるほどだった。


 領地内は、長い雨の日が過ぎて、土砂崩れなどあったものの、大きな被害はなく、道の復旧などをして通常通りの日々が戻ってきた。人々は、手慣れた領主の手腕(ルボワの手腕ではあるが)と、移動が困難だった領民を転送装置によって病院へ連れて行き、みな領主に感謝をしていた。もともと災害が少ない土地柄であるので、日常に戻ればのどかな景色が続く、平穏な光景に戻るだけだ。犯罪もすくなく、人々は穏やかである。


 隣の領地では大きな被害があったところはあるが、アルフレッドが支援をしている地域では、対応が早く大惨事にはならずにすんだ。どの領主とも友好的な関係が続いているそうだ。それはこの土地の豊富な資源、そして山々があり外敵が攻めてこられない土地柄だから、長い間繁栄をもたらされるのだとローズは学んだ。


 ローズは王家の者として、王家の秘密を知っていることもある。やはり長く続く歴史には、血なまぐさいことはあるものだ。民衆には知らされないことも多くある。ただそれでいいのではないかとも思っている。こういったゴウは、わざわざ公に出して、知らしめる必要性を感じられない。王家や人の上にたつものは、民衆を治める立場である。民衆にとって不利益になること以外、すべてを出す必要もないのかもしれない。

 例えば、一般の家庭であっても、人には気軽には言えない事情があるだろう。それと一緒であり、知って誰も得をしないことを根掘り葉掘りえぐって、結局好奇心だけが満たされる。それは意味のないことに感じる。


 そう感じているのでローズは、アルフレッドが抱えていることを、好奇心で尋ねようと思わない。彼が言いたくなって、彼なりの整理がついたら、彼の言葉で聞こうと思う。今、必死で何かに戦っているアルフレッド。彼にも抱えるものがあるのだろう。それはローズとて同じ事だ。左目が熱く痛むことが多くなってきて、毎晩ドラゴンが襲来する夢を見る。ドラゴンが悠然と飛ぶ。青い空が暗くなり、地震がおこり、土地は荒れる。ドラゴンの訪れと、破壊される街が目の前に幾度も浮かぶ。


 なによりも、ローズの心を疲弊させるのは、ドラゴンがアルフレッドを攻撃する光景だ。ローズにとって、もう家族といっていい、アルフレッドやルボワ、ハンナたちが火の海に投げ出される。それだけは阻止しなくてはならない。


 ローズは図書館で、いくつものドラゴンについての文献をあさったりしていた。そして中断していた、禁術の研究をもう一度見直し始めた。屋敷にある図書館には、今までみたことがない禁術がいくつかあった。

 それは王家に伝わる長い詠唱の禁術に似ている部分がある。しかし、王家にあった禁術よりもさらなる長い詠唱。それは明らかに、前回使った魔術よりも、大きな魔術が必要なものであるようだ。

 

 アルフレッドは言っていた。魔術というのは術式を通して、何かを召還しているにすぎないと。つまり前回ローズは何かを召還してしまい、その副作用で体にダメージを受けた。今度、禁術を使ったらローズは生きていられる可能性は低そうだ。でも、もし夢の通り大切な人達が危険な目にあったら、迷わず禁術を使うだろう。


 気がかりはアルフレッドだ。ローズを頼りにしてくれるアルフレッド。もしローズが何かあったら、優しいアルフレッドは悲しむだろう。自分のせいと責めるかもしれない。そのために、魔力の消費を少しでもおさえるため、魔導装置についても勉強し始めた。しかしローズが入れる屋敷内にあるものは、それほど詳しいものなどない。


 ローズは、屋敷の中を歩いていて、魔導装置が置いてある部屋を見つけた。あくまで試作品という倉庫は、おもちゃくらいのものであるらしい。その中でローズは本を見ながら、魔力消費を減らすことができるものを探した。大きな禁術を使っても、副作用を減らせればと思った。しばらくその部屋にこもることにした。


 ローズ、そしてアルフレッド。様子のおかしいロバート。それぞれの思惑がありながらも、祭りの当日がせまってきた。







 当日は朝から晴れていた。火薬で祭りを開催する閃光をあげ、領民に祭り開催のしらせをする。


 アルフレッドもどうにか作戦がたて終わったらしく、目の下がクマで真っ黒になりながらも、元気に朝ご飯を食べていた。ローズもそれほど睡眠がとれていないが、こういうことも慣れっこなので、同じく朝ご飯をしっかり食べた。ロバートも不穏な様子は今日はなく、祭りだということで楽しみにしているようだ。ロバートは今日の祭りが終わったら、まもなく自分の国へ帰ることになる。


 懐かしい級友との再会もあと少しで終わる。


 そしてローズは昨夜の夢でわかったことがある。この祭りがあるときに、ドラゴンの襲来する可能性があることを知った。つまり、この祭りが終わる頃にはすべてに決着がついている。もし自分の命がなくなろうとも、大切な人々を守りたい。


 王族として、そしてこの領地を守る領主の妻としての責任を感じている。しかし闇雲に戦うのではない。今まで時間がないなかで、どうにか作戦をたててきた。もっと時間があれば、アルフレッドに相談できたかもしれない。でも自分だけで抱え込んでしまった。それについては、ローズは反省している。でも、ローズはどうやって相談していいかわからなかった。


 だがその一方で、一人で戦う勇気をまだもてないでいた。自分の弱さを責めるしかなかった。




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