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僕には二人の親友がいるが、そいつら同士は何故か仲が悪い


 二人の親友がいる。


 一人は友崎(仮名)という名前の男。

 高学歴、高身長、高収入のイケメンで、唯一の欠点は僕のことを過大評価するところ。

 

 一人は仲間(仮名)という名前の女。

 背が低く、顔が丸く、最も真っ当に研究者への道を進んだ、要領の少し悪い人。


 大学時代に出会い、同じサークルに所属し、学部が一緒だったこともありつるむことが多かった。

 二人とも浪人しているので僕より一つ年上なのだが、どうも子供じみたところがあり、僕が一番年長者っぽいというのがもっぱらの評判。

 三人で野宿しながら旅行をしたり、集まって料理を作り合ったり、朝まで酒を飲んだり、四国の片田舎で迷子になったりと、色々と思い出はあるのだが、今回は本筋とは関係ないので割愛。


 とにかくだ。僕と彼と彼女は、同じ青春を過ごした仲良し三人トリオだと思っていた。


 出会ってから五年目。友崎と仲間が険悪だということを知って、驚いたことがある。


 

 いや、そんな気はしてたのよ。

 それぞれの研究室に移って、卒論書いて、大学院にそれぞれ進んで。

 友崎や仲間と、それぞれと二人で飯を食べたり話をしたりすることはいくらでもあったのだけれど、そういや三人でどうのこうのはなくなったなとは思っていたし、友崎なんかは「えー、仲間ぁ?! 放っておこうぜ」とか露骨だし。元々そういうこと言うキャラしてたからいつものことだと思ってた。

 そういえば、それぞれと二人でサシで飲むことはあったが、三人で飲むとかなくなった。

 六年目くらいからまったく二人の間でコミュニケーションがなかったみたいだった。

 その頃の僕は、相手が自分から言わないことは訊く必要のないことだ、という哲学を持っていて一切触れなかったので、何故二人の仲が悪いのかを聞いたことが一度しかない。

 どうやら、仲間がなんか気に障ること言って、それを皮切りに言うこと成すこと気に食わなくなったとか、そういうことらしい。

 これは僕の感性で言うのだが。

 二人はそっくりだったのだ。

 友崎は人に頼るのがとても上手で、無駄に要領がよかった。けれど、本心を隠す癖があり友人に餓えていた。

 仲間は人に頼らない性格で、要領があんまりよくなかった。持っている思慮深さを他人に示す意向を持たなかった。

 友達の作り方がクソ下手くそだった。

 一回掛け違えたボタンを直さない、強情な性格がくりそつだった。

 僕としては「ま、それならそれでいいさ」と言ったところ。

 時間を掛けて、お互いを許せるようになるのを待つのだ。

 これで二人の間に色恋沙汰でもあってくれれば話も簡単なのだが、そんなものは一切ないのだから、まったくやれやれである。


 卒業して、三者三様の道を進み、もう会うことはほとんどない。

 たまに共通の同窓生の結婚式があり、礼服に身を包み参上するくらいだ。

 どちらか一方と式場で会えば、片方の息災の話になる。

 連絡を取り合ったりしないの? と訊くと言葉が詰まるあたり、脈ありかなと思い「何年の付き合いなのさ。普通にメールしたらいいんだよ」と他人事のように言う。こういうのはしがらみのない言葉のがちょうどいい。

 いい加減、仲好くすればいいのにと呆れながらも、三人が一堂に会することはない。

 そうして10年。

 もしかして、二人の険悪さ加減は僕が思ってるよりも深刻なのだろうか、と気になりだした頃。


 ついに三人の共通の先輩の結婚式があり、僕は大阪へと飛ぶ。

 友崎が贈ってくれた蒼縞のネクタイ。勝負服である。

 友崎は僕のよりもちょっと高級な上下靴で揃え、仲間は普段からは及びもつかない美しい誂えである。

 こうして見ると、二人とも僕よりこなれてる。

 田舎者ですみませんね、と三人談笑。

 だから、ぎこちねーんだよお前ら。

 

 さて、一次会はイタリアン、二次会は中華料理のビュッフェ。僕は羅刹の勢いで肉料理を漁っていた。

 肉肉酒、肉肉肉酒肉酒肉ときどき野菜、である。サラダが肴になるかボケ! の精神である。

 シャツにたれが飛び散って焦ったが(染みなるとまずい)構わず食に埋没である。

 そんなことを一人でしながら「さて、今日の三次会はどこに行こうかな」なんて考えていた時だ。

「大二郎くん」

 後ろに、仲間が立っていた。

 なんで、そんな恥ずかしそうな顔をしているの?

「さっきね、友崎さんと話してきたよ」

 ……そっか。

「そっか、うん。うん」

 気恥ずかしくて、そっけない返事しかできなかった。

「伊藤くん、ありがとう」

 別に何もしていないのだけれどね。

 

 それからも、何度か二人とは会う。

 頻繁にとはいかない。距離もあるし、お互いの生活もある。

 冠婚葬祭みたいな理由でもないと、会いに行けない。

 そして会う時は、礼服である。

 昔のようにどんちゃんはしないけれど、楽しく飲む。

 

 あ、違うな。

 それぞれの結婚式には呼ばれた。だから、友崎はタキシード着てたし、仲間は白無垢を着ていた。

 僕は、いつもの勝負服。一番大事な瞬間に立ち会うための服。

 

 だから、お前らなんでお互いを式に呼ばねーんだよ。僕が気まずいだろうが。

 お陰で、余韻に浸る暇もない。



 さて、次に二人が会うのは、いつなのか。

 呼ばれる理由でもなければ、会わないだろう。

 あれか。その内、僕が結婚でもして、式を挙げて二人を呼びでもしないと、三人は揃わないのか。

 ……それはなかなかに問題だな。


 その時には、僕は礼服を着ていない。


 

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