第一話「崖の下のワンボックスカー」
佐野隆二が殺人事件や、そのなぞ解きをします。
1
青空山荘の近くの崖の下、そこには車体が傷んだ黒いワンボックスカーが停まっていた。
停まっていた――停まるしかなかった。
動けなかったのだ。
2
僕が推理小説に出てくるような探偵っぽいことをするのは今日が初めてだろうか。
推理小説の中の探偵といえば、葉巻を吸っているイメージがある。
そして、トレンチコートを着込み、「犯人はこの中にいる」と自信満々に、なんでも知っている全知全能の神のように言い放つのだ。
そんなことを、してみたくもない気がしなくもなかった僕だが、否応なく、今回の依頼ではそれが実現可能なようであった。
今回の依頼。
それは祈山村≪いのりやまむら≫であった白骨化死体事件の解決。
事件の詳細は、現場についてからにしよう。
3
依頼は今日の昼頃にあった。
クリーニング店に出していたスーツの類を引き取りに行こうとしたときに、玄関から「ごめんくださーい」という女性の声が聞こえた。
話を聞くと、青空山荘というペンションの近くにある崖、というか山、名前はボンクラ山というところで、白骨化死体が発見されたのというのだ。
民間企業より警察機関を進めると、地元警察だけじゃどうにも手が、否頭が足りなかったらしく、私立探偵の力を貸してほしいとのことだった。
「どうかお力添えください」
と、女性は深々とお辞儀をする。
そんな彼女の名前は楠五月≪くすのきさつき≫だった。
4
いざ現場についてみると、高さが6メートルほどある崖についた。
崖の向こう岸までは10メートルほどの距離があり、崖下は霧がかかっていてよく見えない。
そして徒歩3分ほどの回り道をして崖の下まで降り、そこに停まっている傷のついた黒いワンボックスカーを見る。
中には血が付いていたり、さびれていたり、人間が乗っていた跡があった。
そこの現場の鑑識さんに話を聞ところ、死後数か月の白骨化死体を見せられた。
もちろん写真だが、驚くことに、その白骨死体は全員合わせて4人いた。
運転席、助手席、後部座席で白骨化した人間を見せられた。
ワンボックスカーのほうもだいぶ時間が経っており、傷が多数みられ、何かしらの形で中に乗っていた4人は車の中で息絶えたとみられている。
なるほど、さっぱりわからない。
これがどんな事件なのか、わからない。
山の中で心中を図ったのか、はたまた殺されてしまったのか。
まだわからない。
ただ、聞き込みをしていくうちに、それは明らかになっていった。
一話目、というかパート1です。
ぜひお楽しみに。