−無知な天才②−
「これは先程私も知った話だが、どうやら来るべき大戦に備えて貴女のお友達があれの首脳に選定されているみたいじゃないか?」
「………盗み聞き」
「仕方あるまい。で、何故その来るべき大戦が起きようとしているのかはカナリア・シェリーは気になっているのではないか?」
盗み聞きを通り越して読心術を持っているくらい鋭い問いをしてくる魔女。
確かにその通りだ。政府間やエイデス機関の上層、九大貴族がどんな思惑を持って動いているかは知らないが、予期しているか若しくはそれくらいの国家としての力を示す為に準備をしているかが考えられるのだが。
まるで私の考えは一つ以上足りてないと言いたげに彼女は話し出す。
「かつて散々大戦や襲撃を受けて来たこの国が平和を望むべく軍とギルドを解体したのだぞ? 何故再び大戦に備える必要がある?」
「私も知りたいわよ。だからエイデス機関はもしかしたらこの先そうなる未来が見えているかもしれないってくらいしか………」
「何故未来が見えていると思う?」
「は? 貴女だって魔女で未来を予知しているじゃない? エイデス機関にだって先を観る事が出来る人もいるらしいし」
「魔女としての力を持つのはこの世界にはもう一人しか居ない。貴女の言う魔眼を持った東洋人だが、あれはあの眼で見た人の先の映像を映すものだ。私達の観るような大きな未来程ではない」
全てを見透かされたような語り方に僅かに冷や汗が垂れる。しかしそう完結されればいよいよルシエラ質問に対しての答えが浮かばない。
先を知る術もないのにどうしてエイデス機関は来るべき大戦とやらに備えられるのだ?
後考えられるとしたら何処かしらの国がこの国を狙っている情報を何らかの方法で入手したとしか思えないが。
「その線は可能性としてはあるだろうが、もっと根本的な問題だ。少しは考えてみろ」
「根本的な問題って………」
「やれやれ、どうやら貴女は優しく成長し過ぎて無意識に考えを放棄しているのだろうな」
「待ちなさいよ。さっきから言ってる事の意味がーー」
いい加減言われっ放しに我慢が出来ずに食い掛かろうとした私を手で制して流れを止める。その表情は真剣なのには変わりないが、何処か非情な色を見せている。
まるで私の甘い思考の価値観を傷付ける為にか現実を突き付けるように。
お前は無知な天才だと罵倒するように。
「来るべき大戦が来るのを知っている理由? そんなの自ら起こす予定なら分かっていて当然じゃないか?」
結論を述べた。
聞いた瞬間に私が抱いたのは困惑よりも更に上をいくような唖然さだった。が、彼女に言われた通り正に当然な理由として受け入れやすいものだ。
ただ、信じたくないもっとも最悪な展開になってしまう。
「有り得ないわ。今更って言うなら逆にその予想こそが変じゃない?」
「私は国が大戦に備えるならおかしいと言っただけだ。エイデス機関がそうした思惑を持つのは全然不思議な事じゃないんだよ」
「だったら何が目的なのよ………? それが見えて来ないなら断定なんて」
「そんなこと分かれば苦労はしない。過去に魔女狩りを何でしてたか? と同じだよ。その質問は」
目的が分かれば自ずと何かしらが露呈してくるのだから簡単に推察できる訳でもなく、漠然とした狙いが大戦を仕掛けるってだけ。
それだけで納得出来たら苦労はしないのは此方の台詞だ。
「貴女は甘いな。都合の良いーー悪なんていない。悪は常にどこにでも現れるものなのだよ」
「悪はどこにでも………」
嫌な言い方だ。全部を否定どころか肯定せざるを得ない論を語る彼女こそ悪みたいにすら思えた。
人の見方一つでその人物が善にでも悪にでもなるのだ。例えば学園で私に喧嘩をふっかける貴族。セントラル行きの列車で現れた襲撃者。強襲してきた悪魔。強者なら誰だろうと戦うエイデス機関の首位の一人。そして私を陥入れようと何者か。
早い話通りすがりでぶつかって来て謝罪もしない人だって悪と認識することは可能であり、難しくはない。
先入観一つで認識は変わる。
織宮さんが言いたかったのはそう言う事なのか?
つまり沢山いる善から悪を探すのではなく、沢山いる悪から善を探せと?
それは全員が裏切り者の可能性がある。だから信じられる仲間を持つ事が現状の難題を打破する手段になる?
「信じる者………何か救われなさそうね」
「救いはないさ。あるのは光の差さない暗闇の道」
「未来が見えない比喩って具合かしら?」
「私はな。だが、貴女はそうじゃない」
「………」
正直、会話する度に違和感を覚えずにはいられない事がずっとあった。それが私に取って日々持つ疑惑と重ねると確信にすら変わるような一つの答え。
回りくどく話し合うのには長話になり過ぎた気もする。
いい加減にそろそろ知るべきことだし、彼女の話を聞けば聞く程に私は自身を守る為にははっきりとさせなければならない。
だから単刀直入に問う。
「ルシエラ? 私は魔女………なの?」
今更な質問だとは思った。しかも薄々は感じていた予想なだけに向こうは鼻で笑うくらいな些細な事情に感じるかもしれない。
私が何で異端な天才なのか?
それも私が魔女だったりな特別な存在であるのならば全てに納得がいく。もしそれに気付いたエイデス教徒もといエイデス機関の内部の誰かが自身の正体に気付いたりしたのならば狙うのも当然だ。
そして魔女であるなら未来予知が出来る訳だ。
私ははっきりと覚えてはいない。が、あやふやな夢なのか悪夢なのかわからないものを見たりする。覚えていない理由は自身にも分からないが、その未来に逆らうように行動を変えた記憶はしっかりとある。
事実を歪めてる結果が今なのだとしたはそれもそれで宜しくない。と言うよりかは悪化してしまう事態を招いているかもしれない。
故にもう確認だろう。
私が一体何者なのか。
ルシエラ・バーミリオンは笑わずに真実を告げた。
「いや、それは違う。貴女はただただ天才なだけだ」
「………そう」
満足いく答えなのかは自分にも分からなかった。余計に混乱だけしていたかもしれないし、腑に落ちなかったかもしれない。
「しかし………」
「え………?」
「私やあいつは貴女にこの力を託した。だから貴女は天才なんだ………」
「力を………?」
「貴女自身が自覚をしている予知夢。確かに魔女の力だ。が、元からのものではない。それは私が貴女に託したから宿った力なのだ」
知らない話だ。いや、私もつい最近自覚をしたばかりのものだし、ルシエラが予知を出来なくなった話も先程聞いたのだからきっと直近の事情なんだとは思う。
しかし天才な理由は知らない。元から異端の天才と呼ばれていた私が誰かによって天才になったなんて話は。
そんな出来事もきっかも記憶にない。
「つまり。天才の素質も託された………?」
「そうだ。今でこそ不思議に思わないだろうが、その魔法に対する理解度や扱い方。幾度、幾千と言う長い時間を経て積み上げて来た偉大な魔法。それをその若さで軽々と扱えはしない」
当たり前の指摘だった。おかしいのは当然のように扱える自身とそれを認める周りだったのだろう。本来なら有り得ない所業。それを成すのが異端の天才だからな扱いにすっかり慣れてしまっていた。
だが、託された力とは一体何を指すのだ?
そしてアイツとは誰なのだ?
「託したのはとある人の魔法の知識。その全ての転生だ」
「ーー知識の転生ッ!?」
ベタな驚き方だと思う。しかしこれは驚かずにはいられない事実。俄かにすら信じ難い。魔法とは確かに便利で神秘的な側面が広い一方で原理的に説明が付かなくなっていく種類になればなる程に不可能な力なのだ。要するに使えるのがおかしいし、発動したのが奇跡とも言える。私が今更語れば奇跡しか起こしてないような言い草かもしれないが、世界の法則に反した事象はいずれツケが発生するではないかと不安にすらなるくらいには逸脱している力だろう。その要領ならその内その身すら転生出来るのかもしれないと考えると恐ろしくすらなる。
そしてーー。
「………」
人一人の生涯の知識。
聞かずとも分かる。
誰よりも若くして魔法に秀でて畏怖され、賞賛も超えて憎まれすらして、誰もが知らない魔法すら創り上げ、時には誰かの特別すら視て真似をし、世界の事象にすら逆らうような別の小さな空間すら編み出して、ただの人では倒せず幾度となく死を迎えていたであろう危機をこの天才の素質で乗り越えた。更には私でない誰かが生きていた時の持てる全ての知識を託す魔法を使えるくらいの人物。
一体どれだけの努力をーー。
一体どれだけの時間をーー。
「一体どれだけの想いで私に………はは」
乾いた笑いが盛れる。
滑稽だ。これまで自分だけの特別だと思っていた才能がそうじゃなかった。借り物の力で自己満足に浸り続けて張り切って世界を守るだとか責任があるだとか自身が凄いとか意識していたのが恥ずかしい。
これで人間性も褒められはしない方なのだ。
カナリア・シェリーは大したことなかった。
何が普通に扱われて嬉しいだ。何が異端の天才だ。
こんな奴に何を期待して託したのよ?
人違い、人選を間違えている。
きっと放棄出来るなら今すぐにでも手放したくすらなってしまいそうになる。そんなよく分からない役目に重荷すら感じる私に託される資格なんてない。
「あまり重く考えるな。貴女に何かを背負わせるつもりで託した訳じゃない………とまでは言えないが、未来を選べる力を与えただけだ」
投げ掛けられた想いを上手く受け止められはしない。
「だからッ………それが何で私なのかって話よ!」
要らないお節介。
現実はおろか想いまで受け止める余裕は何処にも残っていない。
その程度の器なのだ。
これで私が狙われているのならばそもそもから間違えた分水嶺に居た訳じゃないか。
「自棄にならないでくれ。それではあいつが報われないではいか………」
「あのね………さっきからアイツ、アイツって! 誰よ!? こんな人の人生変える力よこした奴!?」
次は果たしてどんな解答がされるのか?
もうこの調子だとアイツはもしかして肉親か?
だとしたらーー。
「それはーー」
私は答えを聞くのにもウンザリさを感じ、先回りして言い放つ。
「これで死んだ両親とか言い出したら救えなーー」
直後。
私の鼓膜に乾いた音が広がった。
そして遅れて私の右頬に痛みが宿る。
ああ、私は叩かれたんだと理解した。




