−天才対天才⑥−
「貴方が認めるだけの結果を見せていて私と同列に居るってあまり自分で言いたくはないけど相当な事よ?」
事実だ。学生の枠はおろか魔導師界隈で最高峰に並ぶ魔法分野に長けて、魔法を幾つも作り上げ、結果は四体いる内の三体の悪魔を撃破。エイデス機関の異端児であるダリアス・ミレーユも追い払えた私と並ぶにはこの経緯に匹敵する何かを成していなければならない。そんな決まりがある訳でもないけど、ただただ策士として優秀なだけじゃエイデス機関の頭の候補に選ばれはしない。それこそダリアス・ミレーユの方が総合的に上だとも思える。流石に人格難があるから選ぶべきではないが。
他にも首位の枠にいるアリスさんや、癪だが眼前のガルムさんもいる。それにエイデス機関以外だって相当な実力の魔導師が居るのを私は知っているのだ。
それでも彼女なのか? 本当に選定して抜擢する為に手段を選ばないなら私を押し上げるべきな筈なのに彼の振る舞いからしたらどちらかがなってくれるならどちらでも良い様子だ。
そこまでのものなら何故私は気付かなかった?
シルビア・ルルーシアの凄さに、天才性に。
「脳ある鷹は爪を隠すって言葉は知っているよね?」
「知ってるわよそのくらい。だからってーー」
つまり、隠していたのだ。私や他の天才の慧眼を持ってしても見抜けないくらいに。
「待って待って。なら何で今現在の状況下で彼女を動かさない訳? そこまでの評価を下すならばこの時こそ一番活用するべきじゃない?」
そうだ。少しでも手を借りたい状態なのに相次ぐ騒ぎが発生し、当日までに堕天のルーファスを見つけて抑えられるかは正直半々だ。だったら天才軍師としての頭脳はあって困ることはない。
「残念ながら彼女には一先ずアズールで優勝する任があるから此方に加わる事はないんだ」
「アズール?」
「ええ、この催しの意図に関しては大体想像はついてるかな?」
昨日にユリス先輩とやり取りしたことだ。各国の主要な人物、つまりお偉いさんが観ている中のアズールで優秀な魔導師を見せ付ける必要がある。広告塔、或いは抑止力。この国は過去に反乱分子に襲撃された経緯もあり、軍とギルドを解体した今非常に弱国と見られている可能性がある。だからこそエイデス機関とその将来に有望視される魔導師の凄さを見せる事で戦争や襲撃行為をさせないようにするのだ。
なるほどね。エイデス機関首脳候補として選定されている彼女が優勝する事は見せ付ける意味と学生の中で一番の経歴を持つことでエイデス機関に入る条件を後押しする訳か。
見学ですら色々と学生では無理がある条件だったのだから確かにその過程は必要かもしれない。
「それでも今優先すべき案件は他だと思うんだけど………」
「シェリー君が居なかったらそうしていたかもしれない。君がその気ならいつでもエイデス機関の首位になれるような人材が現状の問題に加わってくれているから」
「嫌な評価ね。まるで責任は私にあるような感じ」
「責任はないけど責務はあるかもしれないね」
ここまで関わっていた案件を今更放り出す気はないが、やはり他人から他人事のように言われるのは気の良い話ではない。
しかも今は無理を禁じられた状態なのだから変に焦らすような発言も勘弁してもらいたいものだ。
「謝罪するよ。普段こんなに業務的な内容以外で話す事も少ないから」
「業務的な内容以外? ど、こ、が、よ!」
寧ろさっさと働けみたいな流れの言い草だ。
それでも苦笑している彼を見るとこれが業務的な内容以外の会話なのだろう。
悲しくない?
「でも、やっぱりまだ納得は出来ないわね。彼女がアズールで優勝するのが決まったみたいな雰囲気は」
まだ優勝するにはシード戦の相手はともかくどんどん天才の頭角を現しているへカテリーナ・フローリアとエイデス機関の連中と比較する域にいるような神門 光華に勝たなければならないのだ。幾ら私と同列に並ぶ才能があるのだとしても、あの二人に勝つのが簡単かと言われたら試合形式上難しい。逆に負ける可能性も低くすらないのである。
それを見極めるにしても折角の試合が観れない有様だ。全てはガルムさんからの語り次第である。
が、その話を聞こうとした時だった。
彼の持つ携帯用通信機からの呼び掛けがあった。
話はそこで中断。どうやら少し問題が発生したようだ。ややあって通話が終わった頃合いで私は尋ねる。
「何かあったのかしら?」
「大したことじゃないけど、少し衛兵が一般の人と揉めてるみたいでね」
丁度その案件に応対が出来るのがガルムさんだけらしい。確かに人手が足りてなく駆り出されているのは本当のようだ。これ以上の話の続きはまたの機会になる。
仕方ないわね。
と言う訳で彼は現場に向かおうと歩を進めようとするがーー。
一回此方側を向いて一言。
「他言無用の件。忘れないよう頼むよ」
「はいはい、もはや聞かなかった事にしたいくらいよ」
その返事に苦笑いを浮かべて純白の成年はこの場を後にした。彼も彼で色々大変そうである。ただ、ガルムさんにしてもアリスさんにしてもサボり気味な感じで巡回している姿は何とも言えないが。
数十分にも満たない僅かな時間でよくもまああんな妄言みたいな内容を語れるものだ。
些か疑問が過ぎる。
エイデス機関は一体誰が作ったのか?
今更だがそこに対しての違和感が浮かび上がる。
来るべき未来の大戦が何を指しているのかすら知らないが、シルビア・ルルーシアが孤児で養子に迎え入れた。それがいつの話かは彼の口振りからしたら今一正確な月日は分からない。が、随分前なら短く見積もっても5年くらいか? それならエイデス機関が結成された時期。或いはそれより前に既に予想がされたと言う訳だ。
まるで未来予知。
その単語を笑って一蹴は出来ない。何故なら魔女と謳われる存在を私自身が知っているからだ。
だったらエイデス機関に関わるな、と警告したとある魔女の話は繋がってくるかもしれない。
彼女を頼る術はない。しかし、その今は非常にあの見通す力が不可欠と言って良いくらいに必要なのだ。もはやどの可能性が高いかを想定する域を超えたのだから逆に何から動きがあるのか答えを提示してもらって逆算で対処するのが簡単だ。
当たり前なのだけれども。
「ーーそう言えばもう一人いたわね」
如月 愛莉蘇。
彼女が宿す双眼の片側は魔眼と呼ばれ、その瞳は他者の未来や思考を一部読み解く力が備わっているらしい。
ふと、話頼りに聞かされていた事を思い出した。実際に使った話ってのは全く拝見していないから事実は不明だが、話を聞いてみるのは今現在最適な頃合いかもしれない。
問題は丁度ついさっきまで話をして去って行った訳なので探しにいかなければならないのである。
どうしてあの二人の順番が逆じゃないのよ。手間がかかって仕方がない。
果たして私の狙いすら上手くいくかも分からないが、とにかくは再び彼女と再開する必要があるだろう。
「………こういう時って何か踏んだり蹴ったりな気がするのよね」
天才をしてきた長年の勘が告げた気がした。
既に内容が朧気な悪夢で目覚めてから寝坊。何とか試合観戦をしようとした肝心な時に映像は暗転。更にはオルヴェス・ガルムさんから知りたくもない様々な事実を聞かされる。そしてこの先力を借りたい東洋人の女性はすれ違いになる。
そもそも遡れば割と良かった試しもないから既に負の流れに呑み込まれているのかもしれないが。
天才の箔もあまり関係ない。
既に藪を突いて蛇は出た。いや出たのは悪魔だが。
これ以上一体どんな展開図になる?
次なる行動を開始する前から嫌な予感を禁じえなかった。
◆
純白の甲冑を身に付ける成年はゆっくりと街中で賑わう人混みを避けながら近衛兵に聞いた問題の発生した場所へ歩いていた。それはセントラルの西口の門前。主に一般人が出入りする南口とは違ってセントラル内で何かしらの役職に付く者達が利用する場所となっている。故に基本的には常に開放されてはおらず、必要な時だけ門を開く手間を必要としている。
それは当然この街の問題を未然に対処する為と九大貴族や政府関係者の居住区に近い場所を開放して怪しい連中達を入れさないようにしているからだ。南口はその分近衛兵の数も多く、常にエイデス機関に在籍した魔導師が最低二人は見張っている。余計な騒ぎは南口で押さえるか、最悪セントラル内に入られても迅速な対応に間に合いやすい位置だからその形式が取り決められている。
因みに北口と東口は避難用としての利用以外で外からの理由では一刻を争うような場面以外は開けない決まりになっているのだ。だから基本的に南口でしか問題は発生しない仕組み。
が、西口で騒動が発生している。詳しい話を彼は聞いてはいないがエイデス機関の人材に対応を求められる時点であまり良くはない。急ぎの状況だったとしても今市民を不安にさせる騒ぎ方にしてしまえば街中が混乱する可能性もある為に伝令の手段に加え、走って向かわないように彼はしている。
全く気の緩まない5日間だ。とオルヴェス・ガルムは浅く息を吐きながら向かって来た道中を振り返る。
カナリア・シェリー。
つい先日にあった騒ぎも去る事ながらやはり不自然なくらいに事件が多い。先ず彼女と会話していただけで別の場所で何かしらの問題が発生しているのだ。
かなり無理矢理なこじつけだが、まるで誰かが彼女を監視してこの状況を操っているのではないかと疑いたくもなるくらいである。
まあ騒ぎに進展しそうな話を放り込んでいる自身を棚に上げているから案外しっぺ返しが来ているのかもしれない。
とは言えだ。此方が考えている方向とは別で彼女自体も何かしら思惑を持って動いているのを彼は知っている。どうやら織宮 レイも加わってて、悪魔とは別件で何やら探りを入れて動いており、更には新たな異質さを持つ天才のお友達を連れたりと全く彼自身には把握出来てない所の水面下での行動。
流石にそうなればエイデス機関に入ってもらうような意地悪な駆け引きをしたくなるものだ。
変に此方側に説明無しで動き回れるのは勘弁願いたいのが本音である。まあそれも騒ぎが向こうからなのならば尚更だが。
しかしそこを抜きにしても最近のカナリア・シェリー個人から中々意識を外せないで彼はいた。
「(あれは、まるで私達の範疇を超えた何かを秘めたようなーー)」
彼女は異端の天才だ。それは紛れもない事実である。悪魔も倒し、事実上エイデス機関で最高峰の戦闘力を持ったダリアス・ミレーユすら追い払った。十分な特別性なのは間違いではないが、普段のあの少女を見る限りはまだ彼には不安要素を覚える材料はなかった。
が。
「(このセントラルで再会してから何か少し毛並みが変わったような)」
彼女ではない何か。現状でのオルヴェス・ガルムの力量ではそんな曖昧さしか残さない感覚。
しかしそれを裏付ける証拠が先程発生してしまった。
「(聖剣ゼレスメイアが反応していた………)」
カナリア・シェリーを前にして。
彼は聖剣使いではあっても剣聖ではない理由。それはゼレスメイアを鞘から抜く機会が少ないからだ。
「(歴代の聖剣使いの言い伝えによれば選ばれた人が腰に差す資格を持ち、鞘から抜くのも聖剣が反応した時に抜く事で真なる力が発揮される正に聖なる剣。だからこそ残りの二つの魔剣と宝剣をも超える力を秘めた伝説の剣。使い手は振れた時点で剣聖や達人すらも追い抜くくらいに剣が人を最強にする特殊な実例)」
だからこそまだ彼は剣聖ではないと語る。
抜いても相手が相応しい相手でないといけない。ただただそれだけでそれ以上でも以下でもない。きっと歴代の聖剣使いの中には一振りの機会もなく一生を終えた人物もいるかもしれない。
それくらいに出し惜しみをする聖剣が抜かれようとしていたのだ。
たった一人の少女を相手に。
聖剣が戦う意志を見せたのだ。これまでの反乱分子や強大な悪魔にすら力の片鱗だけしか見せていなかったのに。
「(君は何者なのだい………?)」
そうなれば。カナリア・シェリーの考え一つ。行動一つで何もかもが歯車の動きを変える可能性がある。
エイデス機関を敵と認識してしまえば当然ーー。
「(彼女一人が敵に回るはつまり国家一つを相手にする規模に匹敵する………?)」
末恐ろしい話だが、考えても仕方がない。問題は何故今になって聖剣が反応する程に脅威さをも持ち合わせたのかだ。
彼女は悪魔との激戦によって後遺症を抱えた。それでも以前と何ら変わりない強さを持つ。しかし、単純な実力によるもので聖剣が反応する理由にはならない。
何かまだある。
カナリア・シェリーが自覚あるのかないのか、または隠しているのかそうではないのかは知らないが世界を揺るがす可能性を秘めた何かがある。
そう確信した矢先ーー。
「お待ちしていました! 此方です!」
「ーーと。先ずは目の前の問題を解決しなければ」
近衛兵が遠くから声を掛けてくる。意識は戻され、エイデス機関としての任を全うする為に問題に取り掛かる。
果たしてどんな問題なのか?
そんな悠長な考えをしている瞬間ーー。
本日二度目の聖剣の反応がされたのだった。




