−天才対天才⑤−
「生憎一人の理由はここで試合を観戦していたらこんな事になってしまって手持ち無沙汰になっていたのよ」
それは真面目な事だ。本当に良い流れでそうなってしまったのだから仕方がない。
「それは残念だね。その試合を余程楽しみにしていたと伺えるよ」
一体誰の試合なのかい? と純白の青年が聞いて来たところで私は丁度良く彼女の情報を知っていそうな人物がすぐ目の前に居る事に気付いた。
そう言えばこの人も九大貴族の一人でしかもエイデス機関の人だ。割と知らない事情の方が少ない。以前もリアンの裏事情に際してもかなり把握していて有益な話を聞かされたのだ。おかげで今こうして彼もアズールで奮闘していたのだからもしかしたらシルビアの情報についても詳しいかもしれない。
ただ、それをガルムさんが話すかは分からないけど。
とにかく私は尋ねてみた。
「ふむ、彼女の事か………恐らく中継機が機能しなくなったのは彼女の魔法によるものだろうね」
早速聞き捨てならない内容をぶっ込んできた。が、確かにそう言われたらこの試合開始の瞬間に中継機が観れなくなった理由にも合点がいく。
しかし何の為に?
「そこまでを意図していたのかは私には分かりかねるけど、彼女の魔法はそんな電気系統を狂わせるものさ」
「行使した影響に付随する魔法………」
魔法による副作用。そんな類は自身もたまに逆手に取って利用する場面はある。が、副作用から本命の魔法を分析したりはした事がない。
結構考えさせる特殊な魔法を使っているのだけは把握したが、現時点では全く予測が立たない。
それも含めてこんな中継機を遮断する芸当をしていたのだとしたら只者じゃない。
「ねえ? 貴方はシルビア家についてどこまで知り得ているの? かなり機密保持の強い貴族なのは嫌でも分かるけど」
「………」
彼は顎に手を置き考え込む仕草を見せる。特に何かしらの開示を制限する事情はないのだろうが、彼個人としての提示する事が正しいのかを精査しているのだろう。
「いや、話しておく必要があるかもしれないね。もはや君にはある程度の状況を把握してもらう方が良い方向に未来が進むかもしれない」
何その厄介毎が付き纏いそうな口振り。それは都合が良いと言うのではないだろうか? 私は謎を知りたいだけであって知ったからには協力するみたいな確約なら拒否したいんだけど?
と言うかこれまでに九大貴族の事情を掘り返してロクな目にすら合ってないからこれは嫌な予感しかしない。
やめて。それならもう少し予測して分析するわ。
と、私の見て見ぬふりみたいな立ち回りを先回りするようにして彼は説明を始める。
「彼女。シルビア・ルルーシアは今でこそシルビア家次女として活躍をされているが、実は本当の血の繋がりがない養子としてシルビア家に迎えられているんだ」
「………嘘でしょ?」
初耳なのはそうだが、これが全く調べても浮上して来なかったのが驚きであった。ひた隠しにする必要性も理解出来ないし、まるで彼女自体の存在を広めたくない何かがあるのかと疑ってしまう程だ。いや、それは実際に考えられる可能性もある。
「元の名は流香。東南部の大陸から来た華人の人なんだ」
「全然名前も違ったのね………」
しかしそう言えば彼女が私の呼び名をシェンリンと呼称した理由がよくわかった。あれはおふざけではなく出自絡みの名残りから来ていたのだろう。確かにあの呼び方はどこかの大陸の人みたいな感じだな、みたいなやり取りもした記憶は覚えている。
これまた想像の遥か上をついた話だが、やはり彼はそこら辺の事情通過ぎて逆に恐怖すら感じる。
何故そんなに知っているのか?
「一応はこれでも少しの間、剣術の指南や此方の国柄の作法や言葉を教えていた時期があるからね」
「道理で」
「シルビア家とは割と良好にさせてもらっているからね。そのよしみでもう大分前になるけど彼女と接していた時期があったのさ」
「あー、そうか。私が彼女を苦手な理由が今分かったわ」
あのやり辛い人間性は確かに目の前にいる聖剣使いと似ている節がある。それは苦手な訳だ。ただ何故その様な養子を迎えたのか? アースグレイ・リアンの経緯はまだ分かる。だが彼女の場合は唐突だ。血筋も何もない遠国の娘を家に迎える意味が不明だ。もしこれが子供に恵まれないとかの事情があるならば納得はいくが、実際には彼女は次女だ。つまり長女がいるのに子供に恵まれていないはおかしい。
「君なら違和感を感じてはいるとは思う。それについての説明をする前に一つお願いがあるんだ」
「お願い………?」
「この事については他言無用でお願いする。当然シルビア・ルルーシア君にも」
守秘義務を強制されるとは意外だ。これまでもそれに該当するくらいな内容は数々あったが直にお願いされるのはなかった。暗黙の了解みたいな流れだから言うまでもないと互いに疎通していたからだ。
が、改めて言うのはそれだけ話が広がるのを恐れる意味を持つ。
つまりあの栗毛の少女の秘密が一部の問題では済まない。それもこの九大貴族すら揺るがしかねないような壮大なーー。
「先に結論から言うと彼女は、ルーシャンことシルビア・ルルーシアは来たるべき強大な戦いに備えた軍師として選ばれし魔導師なんだよ」
「………は?」
いや、先を想像したらそれくらいの規模の話じゃないと駄目だが、まさか本当に世界全土に匹敵するものとは思いもしない。
「いきなりで驚きもするだろうが事実だ。それはまだ当人にも知らされていない先の未来の話だからね」
「ちょ、ちょっと真面目に話してくれない?」
「極めて真面目だよ。そもそも我々エイデス機関が何故結成されたかご存知かい?」
「それは、軍とギルドを解体してその代わりの対テロ組織とか規格外の事象を抑える為にーー」
「正解だね。が、この少数精鋭で限られた人材だけで結成された組織しか居ないのに戦争が始まったらどうなる?」
突拍子のない会話にいまいち天才の私でも追い付けない。
要はエイデス機関だけで国家間の戦争に対して軍事力が弱いってのを伝えたいのはわかった。しかし、現代は過去に比べて平和だ。当時みたいな軍事国家の情勢を崩す代わりに作られた組織。それで解決したのではないか?
「それは我々の在中する大陸の話。他国は軍を解体したか? していやしない。兵もいる魔導師もいる。反乱分子の組織もいる。今なら別世界から来た悪魔だっている」
「そうだけど」
「悪魔の件に関してはカナリア・シェリー君と一部の組織の人材で抑えられてはいる。だけどこれに国家間の戦争も加われば我々だけで対処出来るかな?」
無理だ。突拍子のない話に合わせて考えるならそんなあれやこれやの問題を数人以上の天才達だけで解決するのは不可能だ。収集が付かないのは私の目から見ても明らかである。
「仮に戦争が始まったとして軍もいない、ギルドもいないとなれば政府が頼るべき機関はエイデス機関なのは明白。ならば誰がその時に戦略を練るか。誰が指揮して国を守らなければならないか」
「九大貴族は………彼等も居るから国自体も纏まって………」
「そこも込みで纏めるのはどの貴族だ? 実歴と立場を両立させた首脳と呼ばれる存在が居ない中で纏まりはしない。だからこそ絶対的指揮官が必要なのだよ」
会話しててもはやどうしてこんな流れになったかも分からない。正直そんな立ち位置で考えた事すらないから余計だ。
聞けば聞くだけゾッとする。
何故ならばここまでの話がまるで遠くない未来で起きてしまうかのような。
もしそこまでの何かを察知していてのシルビア・ルルーシアの話ぎ繋がってくるのだとすると予想はまさかーー。
「彼女は次世代エイデス機関の頂点を担う魔導師であり、やがて起きうる未来の大戦の為に育てられた軍師魔導師なのだよ」
「………」
なんということだろう。話が飛躍し過ぎている。退屈にすら考えていた世界の水面下で、しかもかなり身近なところで、友人がそんな役目を背負っているなんていきなり聞かされて信じられるか? 否、馬鹿馬鹿しい。何の為に昔の戦いがあったのか? そうならない為に今があるのではないか?
なのに予想された大戦に選ばれ、育てられたまだ成人もしていないたった一人の少女に国の命運を任せる?
まるで悲劇の主人公だ。彼女の指示一つで多くの人が生死を決めるのだ。そんな馬鹿馬鹿しい話があるか?
それを当人が知っているのか知らないのかは分からない。きっと聡い彼女だ。聞かされずとも何処かで何かを感じているかもしれない。
だがシルビア・ルルーシアは学園生活をする中で楽しそうだった。当たり前のように笑っていたし、皆と同じように怒ったり悲しんだりもしていた。私が苦手意識を見せていても気兼ねなく接して友として話しかけてきたし、学園の生徒会長としてしっかりもしていた。
天才なのは知っている。が、同時に年相応の少女としても生きている。
だから私は尋ねる。
「何で彼女なの?」
「シルビア・ルルーシア君は孤児だ。既にその時から現シルビア家当主は彼女に秘められた才を感じて拾い、養子として迎え入れた。そして私やエイデス機関での指南や教育に携わり、今の彼女がいる」
「当人に選ぶ権利はない訳?」
「孤児として拾われた時点で彼女はシルビア家に従順する事を決められた。拒否は出来ないだろうね」
「貴方ねーーッ!?」
気付けば私はガルムさんの胸倉を掴んでいた。彼は何も抵抗をしない。
私もカッとなってはいるが、きっと眼前の純白の成年は悪くはないとどこかで分かった。悪いのはこの場合はシルビア家だろう。ただ、誰かがそんな意味の分からない事情に意見を挟まなかった事に、彼もまた止めなかった事に憤慨している。
「信じてはくれたようで」
「これで大嘘ならグーで殴るわね」
「それは勘弁してもらいたいかな」
手を離し、一旦深呼吸。今一度話を整理する。
これまでに知る九大貴族は大なり小なり様々な事情を抱えているのは私もよく知っている。が、本人がその道を選んで進んだのだ。しかし栗毛の少女に関しては納得がいかない。それは私の我儘なのかもしれないが、既に孤児として生きていた次は大戦の為に教育されてエイデス機関の総督へ後押しされている。望んでいるかも分からない彼女が知ったら受け入れるのだろうか?
私はごめんだ。
私は私が決めた道を進みたい。どんな経緯で拾われたのかにもよるかもしれないけど、私は選んでいたいのだ。
「養子として迎え入れた理由は単純にそれだけ彼女に才覚があったから。が、何故彼女が孤児だったか、シルビア家に拾われる事をどうして選んだかまでは僕も知らない。此方も頼まれて指南をしていただけなので」
「分かってるわよ。それでも腹が立っただけだから」
「貴女は随分と感情豊かになったみたいだ。いや、まだ成長している段階と言うべきかな?」
「何それ? まあまあ今虫の居所悪いから発言には注意しなさいよ?」
「失礼。兎にも角にも現段階ではシルビア・ルルーシアはそんな立ち位置に居るとだけ知ってもらった上で他言無用でお願いしたい」
綺麗に話を纏めたが、正直納得はいかない。それに何故そんな秘密を話すのかも理解が出来ない。
が、よくよく考えたらカナリア・シェリーに説明する必要性は少なからずある可能性はあったのだ。
「話すのが遅れたけどシルビア家から排出すると言う決まりは実はない。才覚あって知名度の高い存在がエイデス機関に志願すれば状況はひっくり返る。
「まさかそれってーー」
まあ嫌な予感しかしない。
「シルビア家の策士に並ぶ頭脳。魔導師としての天性の才。人を魅せるような異端さ。その全てを証明する実績。更にそんな人材がエイデス機関に興味を抱いている条件。さあ、誰か居たような居ないような………」
「………」
もしかして嵌められたのだろうか?
シルビア家に並ぶはさておき、その全ての条件を満たした人物は果たしてどれくらい居るのか? なんて推理する必要もないくらいに答えは決定している。
「私にエイデス機関を纏めろ、と?」
「その内その気があればの話だよ。以前に君とは約束事に近いものを取り決めがあったけど強制権はない。それこそシェリー君の考える自分の意志を私は尊重したいからね」
確かに冥天のディアナードを撃破した後、勧誘された時に私と彼等でそんなやり取りをした。だからその話はそこで終わりだった。
が、今の彼の言い草は選択肢を与えている。
まるでこんな展開を予期していたかのように最終的にカナリア・シェリーがエイデス機関の一員に成らざるを得ない流れに。
「深く考えても意味はない。あくまでそう言う解決策もあると教えてるだけだからね」
「だから私は苦手だって言ってるのよ。そんな全て偶然で成り行きみたいな辻褄合わせをする貴方が」
前置きで感情豊かになりましたとか煽られてまでいるのだ。何処からが狙いだったのかは知らないが、口車に乗らそうとするやり口は正直好きじゃない。
エイデス機関に関わるな。
不意にとある魔女が警告した理由を思い出し、何となくだが今ならその意味が分かるような気がした。
「………ところで、ガルムさんの口振りから考えたけどやはりシルビア・ルルーシアは私に変わってエイデス機関の長に選ばれるくらいに実力を持っているって訳?」
あまり面倒臭い話は好きじゃない。それに私が今知りたいのは彼女の潜在能力だ。話の流れからも粗方は分かってしまうが。
「うん。彼女の天才性は君にも届く程で、君と同じ域の異端性を秘めていると見込める」
あっさりと答える彼。まあ大戦を想定して教育されているのならば、それくらいの肩書きがあっても不思議ではない。
それにしてもまたまた規模のでかい話だが。




