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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
始動
93/155

−天才対天才④−


息を呑むーー。


一息、二息。


あともう一呼吸を肺に入れたら最後の余力が十分に取り戻せた筈だったが。


「抜刀ーー【音無】」


「(やっぱりそう来るかーーッ)」


休ませずに一番此方が嫌がる戦法で仕掛けてくる。威力もあり、この端へ寄せられた場所で避ければ場外に追いやられ、防ぐしかない。


しかし分かっていた分、これは意地でも防ぎ切るしかない。


地を削りながら襲い掛かる衝撃波。振り切るだけで発生する剣圧の物理現象は単純に強く、速い。無防備に喰らうものなら無事では済まないだろう。


魔法の威力で言えば中級以上の魔法に近い。普通に考えたら魔導師よりかは一級の剣士だろう。若しくは達人だ。


「天器。フォーム【鉄壁】」


「ーーそんなものまで!」


僕は天器を前に置き、壁として踏ん張る。この武器の特徴として形態を幾つかに変型させる機能があり、その都度の状況に合わせて最適解な形で戦う。


巨剣から巨大な盾となった天器でなら彼女の剣圧なら防ぐことが辛うじて何とか成功した。


ここからだ。


下手にこの防御された状況でなら神門 光華は次なる攻めに備えて動かない。防御に回られてる以上動けないだろうとの判断の上。


しかし、最後の最後まで切っていない手札が此方にはあるのだ。


唯一この状況でしか出し抜けないであろう一手。


「天器【鉄壁・仕込み銃剣】」


「ーーッ!?」


盾だけと思わせた隠し武器。


僕は前に踊り出て一気に仕掛ける。抜群な機会、刹那の虚さえ付ければ十分だ。小細工はこれ以上はない。真っ向勝負。


この動きに即座に防御体勢を敷こうとするがそこへ間髪入れずに銃剣に込められている魔力弾を計三発分発砲。


これを防御させる、若しくは被弾させたら彼女の次の対処は更に遅れて防戦一方の状況になる。その僅かな時間に位置を入れ替えて場外に追込み返して押し出す。


技なら負ける。しかし力比べならこんな満身創痍な僕でもまだ勝機はあるのだ。


負けられない。


負けられない理由がある。


立ち上がったのだから。


立ち上がらせてくれたのだから。


だから僕はーー。


僕はーー。


「絶対に負けられないんだ!!」



「………」


瞬く間の決着だった。


正直私の見立てが甘かったと言わざるを得ない戦い振りを見せてくれただろう。予想の斜め上を行く展開はへカテリーナ・フローリアの真価となんら遜色のないもの。


柄にもないが、胸が少し騒ついた気がした。


彼等の戦いに熱を抱き、感動を覚え、高揚する。


当然もはや一般の魔導師の域を超えているのは言うまでもないが、ならば一体どのくらいの所にいるかが測れない。


測り知れない。


取り決めのある試合ならばきっと手を抜かないでも私やダリアス・ミレーユ級だろうと負ける可能性は大いに感じ取れた。


そしてそんな天才対天才の試合の勝者はーー。


複雑な気持ちはあるが神門 光華だ。


「もう少し………後もう少しだけ早ければ」


ほんの、ほんの少しの差が勝敗を分けてしまったのである。


つまり彼の残された武器が僅かに届かずに反撃されて呆気なく試合は終わってしまったのだった。


『いやぁ、凄かったですね? お二人はどう思いになられましたか?』


『そうね、良い線は確かに行っていたし正直選手自身が持てる力をしっかりと出し尽くしたとは思うわ。………ただそれでも』


『神門 光華が全てに置いて先を超えていた。アースグレイ・リアンも奥の手を隠していたようにまた彼女も隠し持っていた。と言うよりかは対策が完璧だったが適切だろう』


司会の質問に対して自身が思っていたこととほぼ同じの解答をする二人。


最後の瞬間。確かに碧髪の少年の仕掛け方は完璧で、想定通りなら確実に成功して勝利していただろう。


想定通りなら。


しかし、灰色の少女はそんな場面すら切り抜ける為の練習も怠っていなかったのだ。


抜刀ーー【返刀・顎門】。


一度の剣筋しか拝見はしていないが、大方の予想は恐らくは一つの抜刀術を返し刀で溜めを必要とせずに再び振るうことが出来る剣技。顎門とは噛み砕くような意味合いから名付けているのだろう。


あれをあの瞬間まで使わずにいたからこそ彼の読みが仇となり、そのまま死地に飛び込む形で返り討ちにあったのである。


流石に誰もがあの試合でその考えに至らない。


弱点はきっと同じ抜刀術の種類しか返し刀で扱えないなんとも弱点らしさも感じれないものだと思われる。ただ規則性を見破られやすいから出し惜しみするのも無理はない。


結局は総合的に実力勝ちをしただけだ。


リアンも充分に強かった。ただ、まだ一段階以上差を離している光華と言う魔導師だったから相手が悪かっただけのこと。


当然の敗因だし、寧ろ格上相手によくついていけた展開力を見せた彼を称えたい。


「………長いようで短い試合だったわ」


どっちにも負けて欲しくないってのはある。だけどそればかりはどうしようもない事に私は複雑な気分を抱くばかりだ。


果たして悔しいのだろうか?


本人に聞かなければ分からないけど、一つだけ分かることはきっと次は直ぐに立ち上がる。


まあこの戦いに人生の大部分を担う行事でもないから変な心配なんてする必要もないのだけれど。


『今回のアズールでもしや1番白熱した試合ではないかと思わせる戦いの余韻がまだまだ残っている状態ですが、切り替えて次の試合に移りたいと思います』


司会のマーガレット・サラの言葉を画面越しから聞いて私も切り替える。


次はシードブロック戦。


いよいよお待ちかねのシルビア・ルルーシアの出場だ。


対戦相手はトレイル・ゼファーと言うミネア学園からの生徒。フローリアと同じ学園だ。つまり、彼女を差し置いてシード権を持った生徒な訳だから詳しくは調べてはいないが十分に厄介ではあるだろう。何より九大貴族じゃないって所がミソだ。純粋な努力を積み重ねて上がってきた人物なのだから油断すれば寝首を刈られる可能性もある。


天才には分からない努力での仕上がって来た実力は果たして如何に?


そして秘密に包まれた天才であるシルビア。


不透明な部分がかなり多いが、彼女もまたシード権を得た一人。まあ生徒会長とかの実績もあるからなのかもしれないが、どんな戦略を持ってこの試合を制するのか?


正直推し量れないではいるが、傍目からの私はこの戦いの勝者がシルビアで決まっていると考える。


問題は決着の過程。


未だにどんな魔法で、どんな武器で、どんな戦法で動くのかすら知らない未知な状態。近辺情報すら深掘りした内容が調べられないのだ。


頼むから対戦相手には彼女の引き出しを出来るだけ開けてもらう前座みたいな気持ちでしかない。


「さあ、見せてちょうだい。貴女の天才を」


そうして準備が出来た試合場に選手が立つ。


シルビア・ルルーシア対トレイル・ゼファー。


『では、本日最後の試合です』


果たして先程の試合を超えるような展開が見られるのか?


余韻を引っ張りながら更に高揚して試合に釘付けになる私を他所に、司会が試合開始の合図を発した。


『試合開始!』



ーーその直後。



「………は?」


カナリア・シェリーが観ている中継機の映像が砂嵐のような映像になって全く試合を見る事が出来なくなってしまった。



時は遡り、昨日の東洋人の青年が意味深に間を作ってから答えた今大魔聖祭アズール優勝候補が誰かから始まる。


「シルビア・ルルーシア。ほぼ確実に学生の中、欠場したダリアス・ミレーユとシェリーちゃんを除いたら間違いなくNo.1の魔導師だ。確かに光華ちゃんもかなりその域に並ぶ天才児だけどそれを飲み込んでも届かない」


「あんたがそこまで言うって正直意外だわ」


「ああ、それにレイのその主観。対等に並べている人がまるでーー」


「そうだな。お前達の感覚に合わせて言うならギルドマスターか若しくは黒の使者辺りに位置するくらいの実力者だろうな」


真面目な表情で語る彼を見て二人も驚きを隠せない。当時に重ねても仕方ないような気もするが、学生達が集まる試合でいきなりそんな魔導師の象徴や世界を揺るした組織が参加するなんて反則にも程がある。


しかし、何故そこまで言い切れる? 実際に彼が手合わせした経緯があったにしても余程の実力差を見せ付けられてない限り、そこまで言わせる道理がない。


ならあったのか?


「俺が所属するエイデス機関は元来少数精鋭で様々な反乱分子組織を捕らえたりしている訳だけど普通に考えたらかなり無理をしているんだよ」


5人で30人。10人で50人みたいな人数差を相手に業務を遂行する難易度は例え実力が伴っていたとしても限界はある。しかも組織規模を相手となるならば必然的に何かしら仕掛けられた状態の場面が多い。


簡単に言うなら人質や、立て篭もり、または襲撃予告からあらゆる状況が発生する。


その時々に合わせて柔軟に動けるのか? 否、誰かしらが戦略や作戦を練った上で対数不利や不利的な状況を五分五分以上に持っていくしかない。


つまり司令塔や作戦立案者が必須。


「シルビア家。今はシルビア家次女であるシルビア・ルルーシアがエイデス機関の抱えた事件に対して作戦立案をしている」


「まさか………あんな若い子が?」


「歳は関係ないんだよ。既に頭の出来から全く違う。まるで生まれた時代が間違っているか俺達が無能過ぎるかの差だよ」


「実績はどんな感じなんだ?」


「今のところ失敗に終わった案件はねえよ。何なら被害すら最小限に抑えているくらいだ」


指揮能力。それがずば抜けて優秀と褒める事が果たしてどれくらいあるだろうか? 他人に指示をして上手く動かすのは自らが動くより遥かに難しい。少しでも計画が崩れたら全ての歯車が狂うのだから現場で動く人達を制御するのはかなりの難易度。それを学生の身である少女がエイデス機関に所属する天才達を上手く扱うのだ。


それがどれだけ異質なのかは言うまでもない。


「指揮するのが得意なのはわかったけれど、実際に自身が単体で動くのはどうなの? 実際………言いたくないけどあんたが優秀だからとか他も機能しているから上手くいってるって考えにもなるわよ」


「おい、無駄に間を取って優しく包まないのかよ。………まあ一理はあるさ。でも普通に無能だと感じた指揮官に俺達が従うと思うか?」


動いてるのは現場の人達。その時々によって自己判断も必要になってくるだろう。


しかし、自己判断すら必要ないくらいに正確な指示が出来るのだとしたら?


「だから【絶対攻略】なんだよ」


「ふん、気に入らないわね。有能だからって動いてる人達が機能しなければ関係ないわ」


「ルナの言葉は最もだ。結局どうなんだ?」


凄さは伝わった。が、肝心な部分を濁すような言い草に二人共焦ったいと思わずにはいられなかった。それだけ他人を評価すること自体も少ない彼にこうも勿体ぶらせるのだ。


自身を低く見積りがちだが、仮にも織宮 レイも天才の域に到達している一人だ。何より彼独特の出自を加味したら実力は単純な外面で測れるものじゃない。


手段を選ばない戦い方をさせたならば如月 愛璃蘇すら上回るかもしれない戦闘力を秘めている。ただ、自らの志す強さとは程遠い為に抑えているだけなのだ。


それを彼等は知っている。


だからこそそんな彼が贔屓目無しの他人の力量を測るのに説得力があるのだ。



「それはーー」



「………折角良いところだったのに」


暗転した映像出力機。音すらも綺麗に無くなり、一緒に傍観していた周囲が騒めき出す。まさかこんな事態が絶妙な場面で発生するなんて運が悪い。まあ、しっかり会場に行っていれば問題なかったのだからキリ良く一試合だけでも観れたのは御の字だったかもしれない。


とは言え、目的そのものであったしアズールを観ることが出来なくなってしまったらそれはそれで手が空くだけだ。


つまり暇になる。


今から会場に向かったところで中途半端な戦況から観る羽目になるのは予測出来るから行く気にもなれない。


さて、どうしようか?


今現在知り合いも居ない街中でひとりぼっちの状況はまるで学園に入った序盤を思い出す。全く中身が違うが、要は一人で退屈な時間が発生する現象が当時に重なってしまって今の気持ち的には寂しさみたいな感情を抱いてしまっているのである。


図太い精神だった筈なのに。


だが、周囲が賑やかな中で私だけが孤立するってのは今思えばかなり残念な生活だった。まるでそれがかっこいいとまではいかずとも強がる威勢に変えていた。


これが平和なのだから良いのだが、それで自らがつまらない孤独を味わうのだったら複雑である。



と何か意識を向けられそうなものがないかと視線を右往左往しているとーー。


「おや、こんなところでお一人ですか?」


「げ、ある意味良い所に………」


掛けられた声は爽やかそうな雰囲気なのが第一印象。しかし慣れて来たら皮肉か、または嫌味みたいな言い方にしか聞こえない苦手な相手の一人。


純白の甲冑と外套が特徴的なエイデス機関に属し、尚且つ御門 光華と同じ絶対剣に選ばれし聖剣使い。だが、本人は剣聖ではないと言い張る何ともしっくり来ない人物。


「何でこんな所で油売ってるのよ? オルヴェス・ガルムさん?」


「人員不足で僕も出回るしかないからですよ。本来はもう一人適任な人がいたけど残念ながら何処かの天才さんが追っ払ってしまったから」


言わずもがなそれはダリアス・ミレーユの代わりと言う事だろう。果たして適任かはさておき。


「そんな言い方されても私は知らないわよ。氷漬けにして意識がない間に姿を眩ましたのだから」


「言い方で議論するなら君の方が危なくないかい? と、まあ別に責めたり問いただしたい訳じゃないよ。君が噛み付いて来たからそう返さざるを得なかっただけさ」


「噛み付いたも人聞き悪いけどね」


「やれやれ、相変わらず君との会話は憎まれ口の応酬になって建設的な話が出来ないようですね」


そう言われるとまるで私が一方的に悪いみたいな内容になるのではと思ったが、これの繰り返しが彼にそう思わせているのだろうから言わない。


なら建設的な発言に変えようじゃないか。


どうせ油売っているのだし。


それも敢えて言わないけど。



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