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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
始動
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−天才対天才②−


と、観客達は考えるだろう。実際間違ってはいない。並の選手なら下手に態勢を崩してまで流れを変えるにはまだまだ早い段階だ。


しかし、彼等は天才だ。


天才対天才。


相手や周りに読まれるような戦いをしていたら勝てないと分かっている。更にその先を超えて未来予知をするような選択肢を脳内で幾つも処理しつつ相手に考えさせたり読ませない流れを作っていかなければいけない。


そんな意味では碧色の少年は十二分に才覚を発揮していた。


「天器。フォーム【閃光】」


手に持つ巨大な機械仕掛けの巨剣が魔力により、換装したように形を変えていく。


ガチャガチャと派手な金属音を出して変わった姿は先端が筒状になった刃のない巨剣だ。大きく変わったところ以外は変化はないが、換装してまで形状を変えたのには意味しかない。


そして筒状の先端から文字通り閃光が走った。剣だと言うのにまるで銃より質の悪い魔法みたいな光の熱が一直線に光華を襲う。


横に飛び退いてかわす彼女だが、その天器の攻撃は連射を可能にした。これには焦燥の表情を浮かべながら回避する。


まさかの仕掛け。彼の持つ天器が想定を上回る力を見せるなんて会場はおろか、観戦している全員が予想をしなかっただろう。私ですらただ単に巨剣としてその有り様じゃないのは考えていたが。


だが織宮さんやフローリアもそうだ。天器は独自の特殊な能力を持つが故にそう呼ばれる武器。その幅は持ち主の才力によって無限に広がる。他人の想像の範疇から抜け出す技を見せるのだ。


ただ、単純に遠距離攻撃を可能にしただけでは鬼の末裔を出し抜けなんてしない。


『逃げる神門 光華!! が、その回避に無駄がない!!』


司会の言った通り、最初の数発こそ脅威を覚えただろうが、彼女からしたらニ回も三回も見れば慣れる。圧倒的な実力差がないのだから詰まれていない攻撃をもはや織り込んだ展開で立ち回り出していた。


これは元々の才能だけではない。悪魔達の中でも極めて飛び抜けた実力を持った冥天のディアナードと言う敵を打倒したからこそ冷静な判断の元に分析して対応する。それは天才には貴重な経験値として活かされていた。


的を絞らせない動き。それがリアンの攻撃を難なくかわす鍵だ。正直彼の武器は対人戦向けの技と言うよりかは魔物等、の対人外向けな仕様に近い。若しくは遠距離主体の銃火器としてな物だ。それならば彼女の身軽さと反応速度と経験で対応出来るだろう。


それだけならば。


「天器。フォーム【餓狼】」

「ーーっ」


やはり手札はまだ残されていた。いや、現段階でのそれは相手にわざと情報を見せているようにすら窺える。現時点での狙いが何処にあるのかは分からないが次の攻撃も十分に彼女を脅かす強さを見せていた。


先程は言わば一撃を意識した中遠距離の攻撃だったが今度は範囲攻撃。


その先端の形状は変わり分厚い箱状に変形し、そこからは無数の鞭にも近い触手が現れ光華を貫こうと不規則な動きをする。正に飢えた狼達が襲い掛かるような絵図。


あらゆる角度からの猛攻はフローリアの天器に似た性質だ。あれには私自身も相当苦戦させられたからそれは彼女にとっても同じだろう。


多方面からの攻撃に対処する視野の広さ。失敗の許されない回避判断。無駄を削ぎ落とした動体視力。全てを高水準で満たさなければ凌ぐことは無理である。それに対して私の取った判断は相手を置き去りに超加速による操作者の撃破。結局失敗に終わってはしまったものの手段としては間違ってはいなかった。正解かはともかく。


さあ、無手で挑む灰色の少女はどう突破する? ジリ貧になれば確実に詰むわよ?


そう考えながら眺めていると。


「【闇煙】」


試合場一帯が紫色の煙で埋めつくされる。私はそれを見た瞬間に「そんなやり方は考えなかったわ」と驚きの声を出した。


と言うよりかは普通に成功法のやり方である。何故ならフローリアの七聖剣にも限る話だが、どれだけ本人の意思とは関係なく自動追尾が可能な攻撃だとしてもあくまで相手の位置を把握している必要はあるのだ。それが視認なり、魔力の反応なりは個々の性能によるが試す価値は多いにある。相手の最大の武器だ。それを抑え込む術を模索するのは必然。


そして紫煙が発生すると同時にリアンの攻撃は止まる。やはり相手の位置を把握していなければ攻撃に転じれないのは確定した。


予想外でもあっただろう。まさか彼女が魔法を使い出す動きなんてこれまでに一度でもあったことか。逆に言えばそこまでせざるを得ない状況になっているとも取れる。あくまで絶対剣が無いのが前提だけど。


「………」

「………」


戦いは膠着状態。リアンの攻め手を止めたのは良いが、それは光華も同じなのだ。互いに足止めになる展開で魔法の効力が切れれば戦いは振り出し。即ちこの時間稼ぎとも言える流れの中で彼女は勝ち筋を見つけなければならない。


正直現状不利なのは光華だろう。リアンと違って戦術の幅に限界がある。その要因は間違いなく絶対剣を扱わないからが故だ。彼女の戦いの主体は殆どがそこに依存しているのだから仕方がない。寧ろ自身の最大の武器を封印して今日までの間によく戦術を形にしたものだ。


並の選手ならとっくに勝利しているだろう。


並の選手ならーー。


「リアンからしたらそこら辺の思惑はきっと看破しているわよね」


特化型ではない彼。その代わり全体的な水準が平均以上に良く高次元であり、何より冷静で強かだ。そんな洞察力を持ってすれば今の状況に戸惑わされたりはしない。寧ろこの足止めに素直に乗ってくれてさえいる。きっと向こうが全力を出してないのを知ってての配慮だろうか? 若しくは絶対剣を持たずに挑む彼女のあらゆる戦法を真っ向から打ち破れると確信しているのか?


絶対剣が無ければ俺には勝てないとーー。


さて、この膠着しているように見えて先程チェスで例えた風に言えば待ったを掛けた状態の盤上。


もし私ならどう打開して逆転する?


この紫煙が消えるまでの感、きっと展開をわかっている者からしたら誰もが勝ち筋を考える時間にするだろう。


だからカナリア・シェリーも考える。いや、既に結論は出ていた。


一つは簡単で一番勝算しかない方法。


それは絶対剣ーー天地冥道を解放すること。


単純に今の無手に近い彼女の実力が10割中の3割くらいか少し低いくらいのものだ。対してリアンの実力は現時点では光華の6割程度だと思われる。結果絶対剣を持った時点でフローリアやリアンより頭一つ飛び抜けた存在になるのだ。これが最善ではある。しかし、課せた制限をきっと彼女は守る。だから一つ目の選択肢は一番確実だが、一番現実味がないと言えよう。


一つは魔法主体の戦闘に切り替えて戦い抜くこと。


現状の攻め手に合わせて此方も手数を増やしていくのは必然だ。私達は魔導師。魔法を中心に据えるのが至極当然である。ただ、彼等の特殊性は既存の魔法でどうにかなるような力を出せるかは工夫次第。そしてそれは魔法に特化していないと難しく、彼女はその域には達していない。なんせそのような鍛錬をしていないのだから。


一見分析をすれば手詰まり。


が、もし私の想像する手段に光華が至れば或いはーー。


「ーー!」


紫煙が風に流されていく。全てが消えた時が試合の続行の合図だ。


その霞がうっすらと晴れてき出した頃。


「………ふふ」


私は笑った。


自身が天才と呼ばれる事に自覚があって尚、他人の才能が羨ましく思った瞬間である。


土壇場の戦闘の最中、人が成長する。常に思考を止めずに諦めないひたむきな姿勢。それに加えて日々の努力。才能に驕らずに精進する意志を持っていたからこそーー。


灰色の少女は更なる強さを手に入れた。


表情を険しくするリアン。対象的に新たな飛躍を遂げた彼女はそれを頼むかのように不敵な笑みを見せながら呟いた。


「魔刀ーー天地衝動」


燕色に染まる刀身。否、剣先から鍔、柄までを同じ彩色を施した揺らめく刀。


それは絶対剣でも天器でもない。が、遜色ない力を持つ光華の魔法が編み出した力。


正確にはーー。


「私の具現化する肉体強化魔法に類似した技ね」


魔力強化ーー寧ろ魔力具現化と言うのが適切かもしれない。その形が私では竜の腕に対し、彼女は絶対剣。


ならそれは魔武器ではないのか? となるのだが、厳密には魔武器であって少し違う。


「魔武器や天器はその持ち手に更なる付与効果を与えるもの。あれはただ単に魔力だけで形を維持してるだけの模倣刀に等しい。下手したら魔武器みたいに固定された力じゃないから質が悪いかもね」


絶対剣の模造品を生み出したようなものだ。ただ本物を持っているのだからわざわざ模造品を使うならいっそ本物で良いのではないか?


そう疑問しているとーー。


「この刀は切れ味がない刀。何も斬れない代わりに折れない刀です」


性質的には真逆の効果を持つ力。なるほど、考えたわね。と私は関心する。


課題にしていた問題は一瞬の閃きで実現させるなんて天才でもそうはいない。


凡才じゃない天才が努力家より努力した結果の化学反応。それすらも安く感じてしまう成果だ。


人を斬らずに人を打ち倒せる力を得た彼女。あの軌跡を持っていれば斬れないが倒せないにはならない。寧ろ手を抜かずに斬り込んでくる彼女はある意味脅威かもしれない。


「驚いたよ。これで五分五分の状況がひっくり返る訳だ」


「それは違うくて? リアンさんも躊躇いなく本領を発揮出来るのですから変わったのは状況ではなく、状態ではありません?」


「買い被り過ぎだよ。神門さんが技を本格的に扱えば僕は足元に及ばない」


「でも、負ける気はないのですよね?」


「無論。相手が強ければ強い程僕は楽しめる」


「私も同じです」


互いの好敵手として認め合うやり取り。画面越しからも伝わる会場の盛り上がり。きっと今日の戦いはこれまでにない白熱した試合だろう。誰もが次の展開に息を呑んで見守る。彼等はその視線を浴びながらも目の前の相手から目を逸らさない。


果たして勝つのは彼か彼女か、巨剣か刀か、洋か和か、黒か灰色か、リアンか光華か。


天才か天才か。


私の予想はーー。


「両者!! 動きました!! 中央へ一直線!!」


迷わずに対角線上に駆ける二人の矛がぶつかる。


どちらも折れない。鍔迫り合いを見せるのは予想外だが、真っ向勝負と言ったところだろう。


鈍い音を立てながらややあって押し切るのはリアン。突き放すように下げられた光華は体勢を崩さないように踏ん張る。


しかし、これまでにない隙は出来た。全ての意識を鍔迫り合いに持ち込んだからこそ見せた静止画のような刹那。彼は無理を押してでもその一瞬を見逃さずに特攻する。


速さでは勝ち目がない。どこかで力比べみたいな状況が開始された時が好機だ。と思っていただろう碧髪を揺らす少年。


だが、そんな展開を読んで更にその上をいくとは流石に予想はしない。


「抜刀ーー【円狐】」


「ーーッ!?」


崩れた体勢からの剣術。寧ろそんな状況を想定した技とも呼べるような宙で身体を捻りながら流水のように斬る。それらは天器が全て受け止めてくれはしたが、彼女の斬るではなく、叩くに重点を置いた攻撃には確かな威力があった。


当然だ。振るだけで木刀が粉微塵になる程の速度なのだから軽い訳がない。ただし、斬れない分弾く形になるから威力が減衰はしそうだ。若しくは振るう本人の手が痛そうである。


「軌跡を描けば………反動は存在しません。手刀の時点で手が壊れてしまいますので」


なるほど。言われてみればだ。ただ、直接斬るならば手が物体に当たる過程で壊れてしまう。じゃないと絶対剣なんてなくても良い話になる。


重要なのは軌跡を描いて振るえる得物。


果たして斬れないとは言え、当たれば相手の骨くらいは粉砕してしまうのではないか?


「流石にこれは戦い。残念ながら骨の5本や6本は覚悟して下さい!」


「それは少し多過ぎるから遠慮しとくよ!」


一合、二合と斬り合いながら語る二人。


余裕はない。きっと今のやり取りは互いの精一杯の虚勢だろう。


どれだけ疲弊しているか? どれだけ余力を残しているか?


あらゆる情報を分析し、突破口を探す。対人戦だからこそ可能な高度で均衡した戦いの時に発生する。


二人は今まさに斬り合いながら限界を超え、成長している。


「【餓狼】」


「抜刀ーー【音無】」


包囲される波状攻撃を神速の居合が振り払う。直後に遅れて放たれる剣撃の余波がリアンに襲い掛かる。


彼女はその隙を逃さない。


元々光華の剣術は待ちの技だ。しかし、このアズールでそのような立ち回りを見せてはいない。何故なら仕掛けたと思わせてその二手三手先で彼女は待ちの状況を作り上げている。あれだけ動きながら全てはその抜刀術に収束するように組み込んでいるのは恐ろしい。






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