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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
始動
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−天才は何を以って天才なのか④−



勝者。レイニー・エリック選手。と司会が声を張り上げた。意外に此方もあっさりとケリがついたから勝った選手はそれなりの実力者ではありそうだが、眺めていた分に関しては目を見張るような特筆な点はなかったので次当たるであろうフローリアには何も問題はないだろう。本来ならまだ次の組み合わせが確定はしないのだけど、シードブロック選手の片方が棄権扱いなので必然的に組み合わせが決まる。


まあそちらは今の真紅の少女なら何ら問題はないだろう。どのみち明日の試合だから今は気にする必要もない。今日はシードブロックを除いた各ブロックの試合であり、明日はそこから勝ち抜いたブロック同士とシードブロックの試合。その次がそこを更に勝ち抜いた者達の準決勝。そして一日の休みを経て大魔聖祭最終日が決勝戦。他の兆しもある為に刻んでの試合である為、一日の試合が終わるのも時間的にはかなり早い。


だから残りは後ニ試合のみ。


そして次はーー。


「神門 光華対ヴィクトリア・ビハイムか」

「彼女もお前の友人だろ? よくは知らないが一方的な試合になるのじゃないか?」


東洋出身の九大貴族の中でも最も特殊な身分にあたる灰色の少女。鬼の加護と神の加護を持ちし絶対剣に選ばれた末裔。持つ偉大さには当然実力もついてきており、彼女の軌跡を描く剣筋ははっきり言って目で捉えられる代物ではない。鬼神の悪魔を倒す為だけに鍛錬をしてきた光華の強さは絶対剣と合わさればエイデス機関とも並び、若しくは超えてしまうくらいに強い。天才と語るには勿体ないし、正直そんな枠ではない唯一無二の特別な存在だ。言うなれば稀代や例外的な魔導師。


勿論ユリス先輩の読み通り一方的な試合運びだとは考えられるのだが。


「問題は彼女が天地冥道を使わないのよね………」

「本気で戦わないってことか?」

「当然本気なんて出したら殺傷能力が高すぎて試合じゃなく殺し合いにしかならないのだけれど」


そもそも絶対剣の特別性を考えると万が一損傷してしまった時の代償が大きいから軽々と使える代物でもない。


そして天地冥道を使わないのが問題と言うよりかはーー。


「光華………天器も魔武器すら扱えないのよね」


意外。しかしこれまで絶対剣を振るう事だけを考えて鍛えて来たからこその弱点とも言える部分。ただでさえ冥天のディアナードを討つ為だけの人生だけと思っていたのだ。他に何も必要としない彼女はまさかこんな舞台に立つとは予期していないだろう。


だからこそそんな時どうするかで学園内で話していた結果がーー。


『和の国出身の九大貴族院一人!! 神門 光華さんですが!! おや? 手に持つのは木刀か!? まさかそれでこのアズールを制するのか!?』


やけに騒がしく盛り上げる司会だが無理もない。今述べた通り、彼女は対人を相手にする際は木刀で戦うように決めたのだ。絶対剣を扱う剣技のみしか心得のない灰色の少女にはその手段しか残されていないのである。


が、軌跡を描いて振るう剣技。


それをただの木刀で繰り出すと言うことはどんな結果をもたらすのかも検証してみたのだ。


結果ーー。


「木刀は粉々。振っていた彼女も手首を痛めるって残念な事態になってしまったのよね」

「まあそうだろうな。振ったら斬れると斬れないじゃ天と地程の差がある」

「いや、実際振った衝撃にすら耐えられないまま風圧で木刀が大破したのよ」

「流石に全力を出し過ぎだろ………もう少し持っている素材を考えろ」


つまり木刀がどれだけ軌跡を描いて振っても耐えられないのだ。もしかすると木刀じゃなくとも同じ結果になる可能性もあるだろうし、正直絶対剣を使わない彼女は丸腰と言っても過言ではない。


戦う時の神門 光華は本人と刀が揃ってようやく軌跡ならず、奇跡的な強さを発揮する極めて稀な実力者なのだ。


そして揃わなければ並程度にしか実力を発揮できない弱点を持ってしまう。


因みにこの並と言うのはそこら辺の剣技を心得た一般人と同じくらいである。


現段階ではある。しかしこれまでの生涯を絶対剣に捧げた剣技をそこら辺のナマクラと同様の武器に馴染ませるのは正直至難の業だろう。実際試合までに調整が間に合っていないのだ。


「不利な状況をどう覆すかだな」

「対魔法ってなると木刀だけで防ぐには無理があるし、障壁を張って縮こまるしかないし」


暫く忙しくて光華の様子を見れなかった間に果たしてどんな工夫を編み出したか。それ次第でこの試合以降の展開も変わってくるだろう。


ーー試合開始!


そう告げられて動き出した瞬間だった。


「抜刀ーー【音無(おとなし)】」


「あ………」


開始数秒の出来事だ。

居合の姿勢に入り、相手が間合いを詰める間も許さず振り抜かれた木刀。見事に砕け散り、唯一の武器を失った。

しかし、全力の抜刀は直撃はせずとも音速を並び、音すら置いていく程の一閃は遅れて衝撃波を生み出す。まるで突風のような斬撃に反応も出来ないままヴィクトリア・ビハイム選手は巻き込まれ、場外と共に意識すら刈り取った。それは単純な結果ではあるがあまりにも圧倒的な展開。


なんて威力。なんて抜刀。なんて剣技。


彼女はもう相手を斬ってなどいなく、空間を切断して余波を攻撃に利用した。余波を主体の攻撃なんて聞いたこともないくらい滅茶苦茶な手段だ。あれも真似なんて不可能である。早い話ゴリ押し戦法。と言うか今のやり方なら木刀じゃなくとも手刀の類でも同じ原理が発生しそうだ。いや、間違いなく木刀はおまけに過ぎないのだろう。


まるで魔法みたいな剣技である。


天才の発想とは恐ろしいものだ。


「もはや天才って呼称で語るには狭すぎるんじゃないか?」

「それは言わないで。彼女達をどう呼称してもこんなにあちこちに凄い人居たらめんどくさくて天才って括りに入れとたくなるわよ」

「お前は化け物の呼称がつくのにな」

「殴るわよ。グーで」


と言うか貴方も大概化け物でしょ。


ともあれ試合はこれも一方的な流れで光華の勝利となった。


何か身内が勝つのは嬉しいんだけど早すぎて全然面白味はない。まるで勝って当然な苦戦もない試合を見ても複雑である。


何で彼女達あんなに強いのだろうか?


いや、悪魔相手するのに比べたら可愛いものか。


きっと面白くなるのは明日から明後日くらいの組み合わせからなのだろうと私は溜息をつきながらリアンの試合まで一応しっかりと観戦した。


当然リアンも苦戦の苦の字もなく勝ってしまった。



「いやぁ、驚いた。現役の俺でさえ戦ったら数回して何回勝てるか怪しいくらいな学生ばかりだな」

「おかしいわ。最近の学生ってこんなに可愛げのない子達なの?」


本日の試合が終わった時点での率直な感想を二人は漏らす。


控えめに言って強すぎる。当時軍人であった頃の彼等よりも遥かに技術の高い戦闘力を見せ付けられたのだからそう思わざるを得ないのだが。


「にしてもよ。昔に比べてかなり平和性のある世界になったのにあそこまで普通は育たないわよ」

「普通じゃないのだろう。明らかに勝ちのこった連中の殆どが死線を潜り抜けて来たような面構えをしている」


実際そうなのだから間違いはない。


ただあくまで学生と言う若さを持っている上での感想だ。この先取りしてしまったような経験したものが彼女達の成長を促すかは難しいところ。既に高い水準を持つのだから伸び代が少なそうな印象しかない。


「きっと超えていくわよ。私達が手を伸ばしても届かないような場所まで」

「ふ、俺達もそれなりに超えて来たつもりだったんだがな」

「だから天才と呼ばれるんでしょうね………私達は意外と普通だった。それだけよ」


あの若いながら溢れんばかりに将来性を感じてしまい、嫉妬みたいな気持ちを芽生えさせるルナ。


「いるじゃねえか? 才能の欠片もない奴が天才すら超える姿を」


そこへレイは否定する。誰よりも才能が無くて誰よりも頑張った英雄は確かに居たじゃないかと彼が代わりに胸を張って言う。


「あれは努力の天才よ。いい加減気付きなさいよ」

「いや、逆に落ちこぼれの天才だろ? どうしたらあんなに才能がないのか知りたいくらいだぞ」

「おまえら今はアイツのことは良いだろ………」


過大評価と過小評価に意見が分かれるが、フェイルが脱線していく話題を止めて一先ずは今日の試合を勝ち残った各選手の印象の話に移る。


「へカテリーナ・フローリア。その特殊性で独自の戦闘形式を確立し、強力な暴発を武器に戦う彼女は俺的には優勝するんじゃないかと予想だな。明らかに対人戦は慣れていそうだし」


「私は神門 光華かな? 繊細かつ大胆な技術を使った剣技は普通に強引に行っても問題ないくらい強いわ。あそこに本来の武器を握れば万が一の敗北も考えられないし、レイは彼女の実力よくわかってるんでしょ?」


「まあ俺達と肩を並べて悪魔と戦った訳だし、何ならとどめの一撃は彼女がしたんだ。と言うか半分人間の枠にはいないから飛び抜けて強い選手が残っていようが手も足もでないぜ」


「ふむ。因みにレイは誰が優勝すると読む? 次点で言えばアースグレイ・リアンも天器を扱え、戦闘も場馴れしていそうだったが?」


「良い勝負はするぜ。確実にさっきの二人を脅かす地力はある。だけど多分優勝はしないだろうな」


「じゃあやっぱり神門 光華?」


「それも違う」


珍しく真剣な趣きで語る彼の様子は彼女達にも緊迫感を与える。何故ならこれだけ真面目になる理由は分からずとも軽口を叩けないくらい余裕を持たない状況だからだ。現時点ですら相当な実力者しか居ないのにそれすら超越するなんて相手は自分達に匹敵するような能力。例えば悪魔とか当時戦い合った事件の不穏分子辺りとか。


「そいつはーー」



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