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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
始動
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−天才は何を以って天才なのか−


日がまだ真上にすらない時間帯の午前。既にセントラルの中は大量の人々で溢れかえり、お祭り騒ぎの如く賑い、ファンファーレが鳴り響く。人々が行き交う大路にはこの街以外の出自の者達がちらほら伺え、団体で来ていたり少数で来ていたりとにかくバラバラだ。それもこれも大魔聖祭による影響だ。かれこれ一月も前から告知がされ、大規模な興行として広められたのもあって当日前から既に人の集まりが凄まじかった。

いやらしい話、収益が計りし得ないだろうなと私は学生の身分ながら思う。

これも大人の世界の話だ。


と言う訳で早くもげんなりしそうになりながら始まりました大魔聖祭。


若しくは世界滅亡への秒読み段階。


「って何を考えているのよ私」

「いきなりぼやかれても困るのだが」


笑えない冗談の発想に反省の弁を思わず漏らし、すかさず拾ってくる青年。現在大通りの人混みの中を息苦しくユリス先輩とかき分けながら大魔聖祭の中心の一つであるアズール会場に向かっている。初日から始まり、最終日まで行われる試合は自国はおろか各国の代表も注目している。どうしてこんな産業時代にそうしているのかと言えば、自国の魔導師の優秀さやこの兆しを餌にして産業魔法の売り込みをしているのである。やはり何事に置いても広告的なものを広める何かが必要だ。

例えばある商品がイルムガム国のセントラルでは凄い有名だとしよう。ならそれを国外の人に伝えるにはどうしたら良いか?

簡単だ。国外の人を国内に招き入れたら良い。本当に凄い商品なら持ち帰った人々が話を広めていく。やがて一人は二人に、三人は四人にと伝わっていき、それが全土に広がるのだ。

その大々的な広告として人寄せをするのがこの大魔聖祭。アズール。


「加えてイルムガムの優秀さが争いを抑える蓋として役立つ。まあ抑止力ってやつだな」

「ええ、水面下で良からぬことを企む組織や国家の牽制にも一役買っているから必ず開催されるし、中断は許されない」


逆に言えば中止する事態が起きれば国家間の均衡が狂い、昔のような大戦の火種を呼ぶ。必ずとは言わないが可能性の問題。人は全員が正義ではない。或いは正義は一つだけとは限らない。


「そんな意味ではゆっくりとだが、この国は世界中の悪い問題を解決する為に現状の維持をしながら平和な世界を作ろうとしている。立派なことだ」

「直近でこの国が一番争いの爪痕を残したからこそでしょうね」


故に私達を含め、政府が結成したエイデス機関が大魔聖祭が開催されているこの5日間を懸命に見守る。短いようで長い兆しである。特にもう既に動いている存在がセントラルの何処かに身を隠している以上、時間いっぱいまでの鬼ごっこだ。

相手は鬼ではなく悪魔だけど。


「普通に休んでられないじゃない………」

「その流れでちょっと前に失敗したのは誰だったか忘れたのか?」

「あーもう、わかったわかった」

「天才にしてはそんな所は割と普通な神経なんだな?」


待てが出来ない犬でも見るかのような冷めた目で見ながらそんな感想を漏らすが、図星過ぎて返す言葉がない。

制限時間は大魔聖祭の最終日。正確には試合の大詰めである決勝戦がある5日目が敵の動き出す頃合いだ。恐らくは。

逆に言えばその時間までは特に何も起きない筈なのでそれまではエイデス機関の面々に、制限の限界時は私や隣を歩くユリス先輩も混じっての総力戦。まあ今回はエイデス機関の本部もあり、政府直轄自警団や九大貴族すらいる。戦力的には問題はない。


「例の魔王が復活しなければ、だけどな」

「案外貴方なら魔王でも倒せるんじゃ?」

「笑えない。お前じゃないんだよ」

「何よ。まるで私は化け物みたいな言い草」

「みたい、じゃなくて化け物だろ」


断定された。女性相手に何たる不敬だろう。自分で茶化しときながら変な話だけど。

結局は魔王が復活すれば私達の敗北、ひいては世界の終末を意味する可能性があるから確実に悪魔である堕天のルーファスの目論見を崩さなければいけない。

私達は最終日まで待機だが。


「ならアズールにでも出場すれば良いんじゃないか?」

「やめてよ。辞退した手前に少し仲間内で揉めてしまったのに………」


果たしてあの深紅の少女はアズールに出場するのだろうか? まあこの前の勝負に負けた私からしたらもう何を言うまでもないし、偶然にも危惧していた例の翠の悪魔と呼ばれたダリアス・ミレーユは行方不明のままだからきっと試合には出ないだろうし、後は私の知る仲間の誰が優勝するか。


と、そうこう考えている間に目的地である会場まであと少しとなった。徐々に行き交う人が学生の年齢層ばかりになってくる。


そんな時だ。カナリア・シェリーはある人物が歩いているのを見つけた。


「あ、シェリーちゃん!」


同時に向こうも気付き、見つけたが早く此方へと寄ってきた菖蒲色の少女。何故か随分久しぶりに見たような気になりながら相変わらず平和の象徴を貼り付けたような笑顔の彼女に手を振る。


「フィアナ。貴女も来たのね」

「うん。この期間て学園も休みだし、折角のお祭りだから」


普通に考えたら当然の理由で来ただけだ。学生の身としては魔導師の勉強にもなる機会であるし、純粋に友達などの応援でいたり、同じ学園の代表が優勝する姿を観たい一心もある。

ただ彼女の場合は素直に屋台を回ったりが主な目的だろうけど。

だって凄い買い食いしてるし。


「そういえばシェリーちゃん………そちらの殿方は………」


殿方ってなんだ殿方って。


「えーと彼は同じ学園の………」

「え、もしかして彼氏!?」

「違うわ!!」


小指を立てながら妙な昂った感情でいるフィアナに間髪入れずに否定する。既に殿方って言った時点からこの流れは読めたわよ。


「彼はユリス先輩。同じ学園の同好会の先輩よ。こー見えて」

「いらん情報入ってないか………?」

「そう? さあ? はて?」

「惚ける時の台詞を複数並べるな」


とまあこんな感じであるので決して想い人とかではないのを伝える。

しかも否定は一緒にしなさいよ。どう言う感情で私とやり取りしてるのよ。


「ふーん………」


誤解が解けたところで彼女は改めて初対面の人を下から見上げる形で観察しだした。

普通なら失礼そうな態度にも見えるが、不思議と菖蒲色の少女が他人と相対して見せる動きにしては少々珍しく私は感じた。

どうしてだろうか? 私以外に真っ直ぐ興味を示した様子がそう思わせるのか?

いつになく変な空気が流れる。


「………」


見られているから同じく見下ろす形で細身の男性も視線を返して睨めっこ状態が始まってしまう。


紫紺の目と虚空の瞳。


互いが互いに像を映し合う。


ややあってーー。


「貴方にシェリーちゃんはちょっと勿体ないかな?」

「ーーは?」


結構真面目そうな雰囲気の中ですごぶる真面目に語る彼女に思わず私は変な声が出る。

まるで私の認めた人としか交際は許しませんみたいな、どの立場から言ってるんだ? って感じだ。


「そりゃあ悪かったな」

「ユリス先輩も普通に返事しないでよ。たまにこの子変なこと言うだけだから!」

「違うもん!! いつも変なことしか言わないもん!」

「たまにって、濁しを入れた優しさを返して?」


まあ最初の第一印象はともかく友達になれそうな空気で良いのやら悪いのやらな対面だ。


「ってそろそろ試合が始まるわね」

「だね。じゃあ私も行かなきゃ」

「あれ? 一人で来たんじゃないの?」

「うん。私も友達と来たからそっちに合流しに行くよ」


珍しい。出会った最初は授業で組む相手すら居なかった彼女が。

いや私も居なかったんだけど。

なんて考えている内にフィアナは人混みの中へと消えていき、なんだか少し距離感がこの数日の間に開いたような気分になった。


「ほら、選手宣誓が始まってるぞ」

「もしかして立ち見しないと駄目?」

「座れば良いだろ? どかして」

「化け物扱いの次はチンピラ扱いかしら!?」


そんな感じで私達は試合会場へ足を踏み入れるのだった。



「さあ! いよいよ始まりました!! 大魔聖祭! 始まりました学祭アズール!! この5日間だけは生涯忘れられない光景を皆さんは拝むことでしょう!!」


やけに張り切って会場全体に声を轟かせる存在にこの場にいた観客達はその言葉を発する人物に注目する。


「この度は近隣の方、遠方遥々からお越しいただきまことにありがとうございます。私は大魔聖祭運営委員学祭アズールの演目を担当させていだたいている司会進行役のマーガレット・サラです。よろしくお願いします」


音響機器を利用して会場はおろかセントラル全域にも聞こえる。それだけこの催しは大々的な公演に近いものすらあるだろう。中継機により会場外にも情報が入るようにセントラルの各所には魔法の目を通してその映像が映し出される仕組みもしているのだ。


「はい、そしてこれから開催されるアズールにつきましては解説担当者に説明してもらいながらとなります。例年通り委員会から優秀な魔導師の方を推薦してお越しになりました」


彼女が魔法の目を会場全体を見渡せる上方の席に向けてそこに座る二人の男女を映し出す。


「では解説担当者の紹介となります。先ずは魔導師として、更には元軍人として過去のセントラルの大事件であるテロ襲撃から市民達を守った英雄の一人!! ボルファ・ルナさんです!!」


朱髪を靡かせながら貴族としての振舞いを思わせる綺麗な佇まいで一礼をする。その裏には相対して凄いめんどくさい様子なのが歓喜の中、一部の人間達には伝わっていたようだ。


「そしてもう一人。同じく元軍人として活躍した英雄の一人であり、加えてその後に諸国で度々発生していた諸国間の戦争を収めて聖騎士の称号を与えられた魔導師。アルケ・フェイルさんです」


武殺法な一礼。が、そんな行動だけですら観客が歓喜する辺り彼の成し遂げた偉業がどれだけのものかがわかる。


以上の二人が解説者を担うからにはアズールに出場する選手は緊張が走るだろう。

一部を除いてだが。


「早速試合進行をしますが、その前に選手達にとってどのような戦い方が勝敗を分けるのか等な意見をお二人から貰いたいですね」

「そうね。こういう試合形式の場合は単純に魔法が使えるだけじゃお話にはならないわね」

「かと言って攻守支援まで有用出来る要の引き出しは魔法に依存する場面が多いなら学生達がどれだけ引き出しと地力を持っているかが勝敗を左右するんじゃないかと思うな」

「素晴らしいご意見ありがとうございます! では選手達の準備が整うまで少々お待ち下さい」


そうして解説者の二人は一度席に腰を下ろす。慣れない場なのもあってか互いに長い一息をつく。


「でも懐かしいわねこの感覚」

「ああ、前は選手としてで今回は見守る側としてだけどこの空気は変わらないな」

「結局試合は事件で中止になって見送られたままになってしまったんだけどね」

「仕方ないさ。だからこそ今の子達の大事な時間を守ってやらないとな」

「ええ、それに見るだけでも楽しめそうな学生達がいるようだしね」


言いながら彼女は観客席の後方で立ち見しているある少女を眺める。


あれ? 観客席?


「ってよくよく対戦表見たらあのガキ出場していないじゃない! しかもレイが言ってた強そうなエイデス機関の子も欠場になっているし!!」

「おい、周りが見てるぞ………」

「知らないわよ!! 全く持って楽しめる展開が減ったじゃない!!」


以前から改めてしっかりとした実力を測りたい彼女だったが、どうやらそれはまた別の機会になりそうだ。

とはいえ、まだまだ異端の天才程ではなくともその領域に近い者達が何人も残されている。


「では第一回戦第一ブロック。へカテリーナ・フローリア対ライア・マルスの試合です」


早速のお出ましであった。

深紅の少女。彼女を見るのは彼等は初めてである。

が、現時点で既に何かしらの存在感を与えるくらいには秘めた力を感じた。

ただ一つ問題も発見する。


「あの子。学生内にしては飛び抜けてはいそうだけど………」

「ああ、何か闘争心が欠けている。いや、迷っているのか?」


歴戦の英雄達の眼力はしっかりと本質を捉えていた。そう。彼女、へカテリーナ・フローリアは今も尚迷っている。

少し前のカナリア・シェリーとの争いから。

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