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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
始動
83/155

−天才の住む世界④−


ひとまずは今後だ。

まだ魔王とやらの復活を阻止した訳じゃないし、昨夜の騒動で展開を考え直す筈だ。共闘しているであろう流天のヴァリスを失っているのだから計画に刺さっていない訳がない。


「ユリス先輩と色々状況を考えた対策なんだけど」

「ああ、話は粗方聞かせて貰った。裏で手引きしているかもしれない奴がいるんだろ?」


流石ね。手間が省けて助かる。本当は昨夜の内に知らせてあのやり切れない戦闘に浪費した時間を使いたかったのだが仕方ない。


「今怪しそうな人物をまとめている。同時に魔法陣の起点の中継点も目星をつけて動いている。最悪どちらかは当日までには発見出来るとは踏んではいる」

「あと約5日ね」


時間はまだある。それまでに私に何が出来るかではあるけど。


「だからこそだ。シェリーちゃんは休んどいた方が良い」

「ごめんなさい。手伝えなくて」

「良いのよ。休んで備とくのは大事」

「それは同意ですぅ。無茶に無茶を重ね続けていたら何処かで本当に反動が来ますよぉ?」


もう流石に迷惑は掛けれない。私は素直にお言葉に甘えることにした。今更ジタバタしたところで仕方ないのもある。そしてきっと心配するのはこの場にいる彼等だけでもない。


「明日から始まるのね………」

「折角のお祭りごとなのに学生のお前が楽しめないって皮肉だな」

「貴方も学生でしょ」

「俺はそもそも来る予定すらなかったんだがな」


首をコキコキ鳴らしながら心底面倒くさいとでも言いたげだ。


「なんなら気晴らしがてら普通に大魔聖祭を満喫したら良いじゃねえか二人とも」

「気晴らしって………」


突然の提案に難しい顔をしながらぼやく。いや休むとは言ったがサボるつもりは全くないんだけれど。


「本来の学生の仕事としては間違ってないんだぜ?」

「それはそうだけれど………」


正当な意見だが、この状況下で身体を休めるのは良いがそれ以外に現を抜かすような行動なんて出来ないでしょ。世界の危機に直面しているのだから。


「動きがあるまで気を抜いとけってことさ。いざって時に集中する為に」

「そうよ。身体は勿論だけど貴女だって人なんだから心身の疲労が溜まっている」

「まあ、………」


疲れているのだろうか? 自分のことなのにやはり肉体も精神も全く判ってなんていやしない私は戸惑うばかりだ。

つまり休んでみないと判らない。


「そう言う訳だ。ほら? アズールでも観戦して応援でもしとけ」

「アズール………か」


そっちに関しては複雑な気分である。何せ昨日いざこざがあってしまったのだから素直にはしゃいで観戦するのもしにくい。が、早い話試合会場に居れば実質いつでも動くにはもってこいではあるからここは影ながら応援する形で皆を静かに見守るべきか。

とは言え、ダリアス・ミレーユが出場する可能性もこの一件で薄いだろうし、そうなれば彼女達が他に遅れを取って負けないからなんだか面白味がないような気もする。


「(あれ………? 私って信頼してるのかしてないのかどっちなんだろう?」


不意に疑問を覚えたがこれは単純に自分のものさしで測っているから仲間達が遅れを取らないって話で、そこら辺の学生枠の魔導師に負けないのは分かりきっているのだ。流石に悪魔までいかずともエイデス機関の連中並の天才がほいほい居ても困る訳だし。


ただ気になるとしたら。


「(今皆の中で誰が強いのかしらね?)」


そう。

純粋な経験値で言えば光華が優っているが同じく悪魔との舞台に立っていた条件で言えばシルビア以外は同じ。リアンも天器を扱えるし、フローリアも私が予想もしない成長を遂げている。勝負は時の運で表したら誰が勝って負けてもおかしくはない。

正直試して見なければ分からないのだ。

そんな意味では楽しめる試合でもあるかもしれない。


問題は深紅の少女とどう今は接したら良いのか。


「多分中々亀裂は直らないわよね………」


思い出すだけで気分が下がり、ため息が口から漏れてしまう。


「無理に出向かなくても良いだろ? 事情は彼女達もわかっているんだし純粋に外野から観戦しとけ」

「そうするわ」


色々とやり切れない心境のまま時間は過ぎていくのであった。



セントラルの中枢で鐘の音が鳴り響く。そこには巨大な時計台が佇み、その針が大小共に真上を指した瞬間だった。魔法を動力に動いている為、整備する間以外は基本的に誰も内部には立ち入らず、施錠がされている。

が、そんな場所。時計台の内部の歯車が蠢く暗がりの部屋で光る二つの目があった。


「ヴァリス………やはり貴方でも敗れましたか」


消えて逝った同胞の気配に口を漏らすは堕天のルーファス。友好的な間柄であったかと言えば否定だろうが、それでもこの解き放たれた世界では唯一の同族であるのだ。それが居なくなると言うのはやはり多少なりに悪魔でも思うところはあるのだろう。ましてや残された最後の悪魔なのだから余計にだろう。


「人が成す力でどうすればあれ程に強大になれるのか………」


封印が弱まって此方の世界に来た魔天のエルドキアナ、冥天のディアナード、流天のヴァリス。いずれもがある一人の天才の前に朽ちてしまった。恐ろしい事態であり、悪魔より恐ろしい存在。


だが同時に植え付けられたのは恐怖や畏怖と言ったものばかりではなかった。


それはーー。


「カナリア・シェリー。貴女は必ず殺して差し上げましょう。例え私が直々に手を下せなくとも我等が讃える魔王がきっと必ず」


他者を装い、他者を欺く力で駄目なら。


圧倒的な鬼の神の片鱗の力を打ち破るなら。


理を脱し、力で対抗出来ないものを対処するなら。


「我等が世界の破滅の魔王、サタンが全てを滅ぼして見せましょう」


混沌に導く存在。古の刻から世界の邪であり、破であり、魔の王。彼等悪魔達すら畏怖と敬意を表する史上最悪の怪物。


この星の遥か昔。世界には覇王、龍王、魔王の三大勢力が争いをし、大陸を三つに割ったとされる歴史が悪魔達に伝わる言い伝え。


人間達からすれば天上人のお話である。


ただ何故そんな重要な話が人々には伝われていないのか? どうして今現在この世界は人間達が支配しているのか?


「龍王が深き眠りにつき、覇王が消失した今だからこそ今度こそは我々がこの世界をーー」


月を見上げ、手を伸ばしながら彼は待ち焦がれる。


数日後に月と太陽が重なるその時をーー。



「ふー、疲れた」


ドサッと芝生に倒れ込む一人の青年。辺り一帯は果てしなく広がる平原。快晴の空の下で感じるそよ風に気持ちよさそうに一息付く。


ここはカナリア・シェリーの居る世界とはまた違う次元の世界。かと言って悪魔達が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)する世界でもない更なる別の空間。


そこはデーヴァと呼ばれる人間以外の数多な種族達が集う新世界だ。


「ちょっとちょっと。君幾ら周囲に誰も居ないからって呑気過ぎじゃない? 一応貴方は人間なんだから油断していたら売り物として連れ去られるよ?」

「大丈夫大丈夫。逃げ足だけならどいつが来ようと逃げきれるから」

「因みにどれだけ速いかは知ってるけど割と貴方くらいの速度は有翼人なら出せるんだけど?」

「嘘………だろ? 俺の努力の結晶って翼あるだけで解決しちゃうの………?」


予想以上に絶望の表情を浮かべる青年に話掛けて来た少女はクスッと笑いながら訂正する。


「まあ、全員が全員そんなのじゃないから当たり外れで追い付かれるか追い付かれないかかな?」

「何その運試し。普通に有翼人が来たら半分終わり案件じゃん………」


あまり穏やかそうな内容じゃないに関わらず呑気な佇まいで返す青年は溜息混じりに話題を変える。


「なあ? お前の抱えてるエルフとハーピィのいざこざなんだけど」

「お前、じゃなくてティナ。いい加減1年も一緒にいるんだから素直に名前で呼んで良い間柄じゃないの?」

「やめろ。こっちで1年でも俺の世界では半年も経過してないんだから」

「いやこっちで1年経過してる事実は変わらないんだから別に問題はないんだけど?」

「俺の世界では大有りなんだよ………」

「名前くらい呼び合うのすら憚れちゃう奥さんて流石に長命なエルフの私でも厳しいと思うよ?」


自らをエルフと呼ぶ彼女は引きつった顔で指摘する。


その少女はエルフと呼ぶにふさわしい長い尖った耳を持ち、煌びやかな金髪に透き通るような白い肌をした極めて美しい容姿の美少女であった。

彼女ーーティナ・フォーゲルはエルフと言う種族に属する者で、この世界で長命の名高い存在だ。少女のような容姿をしながらも実際は眼下にいる青年よりもひと回りは歳を重ねており、そのエルフ特有の色香と綺麗ですらっとした四肢が青年からしたら一定以上の親密を持つと色々と不味いくらいには彼女は美し過ぎた。


が、残念なことに向こうはそんな距離を置く彼を好ましく思っている。


「そうだよ。俺には帰りを待っている奥さんと息子がいるから不用意に淑女の気配を残せはしないからだな?」

「良いじゃん? 違う世界なんだから此方では貴方は独り身なんだし?」

「良かぁねえよ!? あんたも高貴なエルフなのに軽くない!?」

「勘違いしてるようだけど長命なエルフは割と一妻多夫性だから何人も夫がいる方が多いよ?」

「長命だから飽きて別に行く可能性があるのか………」


意外にも自分の世界で把握していたエルフと実際のエルフの価値観が違って驚きと呆れが混じった表情になる。が、もし彼の良く知る人物にとってはここは楽園ーーユートピアになるのではないだろうか? と期待を持つ。


「まあ大体のエルフは自分以外の種族に関してはゴミか汚物かまたは何もそこにはないような扱いしかしないから貴方は割と光栄に思った方が良いよ?」

「くっ!! 奴に幸せは来ないのか!!」


いい加減女性に縁のない友人がいよいよ終末を迎えそうな勢いに彼は残念半分笑い半分な気持ちになる。

と、話がわけわからん方向に行くのを感じつつあったエルフの方から話題を変えた。


「しかしこうやって貴方の修行に付き合っているけど貴方って本当に才能が全くないみたいだね」

「まあ一年も一緒に修行していたら理解してくれるよな?」

「理解していながら励む貴方の精神はかなり人外な域だけれどね」

「落ちこぼれを舐めてもらっては困る。それでも付き合ってくれるティナのおかげでこうして強くなっているんだからな」


修行。幾度もなく落ちこぼれと蔑まされながらも世界を救い、また別の世界ですらも何かを救う為に足掻き、精進する彼の姿勢がどうやら金髪のエルフに種族間を超えて認めるべき一個人として見られた。主に雄としての一面が強いが。


「ま、全く。貴方に付き合っていたら長命なエルフも寿命使い切るよ」

「はは、程々に色々ご教授だけ頼むわ」

「にしても私達の問題を解決する為に力を借すのは当然な流れではあるからね」

「エルフとハーピィ、それにマーメイドと竜人を巡る紛争って完璧に規模がでけぇな………」

「ただの人間が人間の世界の、しかも人間階級最低の位置にいた存在が此方の世界に干渉してるだけでもおかしな話だけれど」

「階級最低って落ちこぼれより何か凹むわ!! どっから覚えてきた!?」


と、漫才みたいなやり取りも一旦置いて閑話休題。


コホン、と咳払いをしながらちょっと話を切り替える。


「あっちだのこっちだのややこしいが一応俺が色々把握する限りはここは天界ーーデーヴァって呼んでいる」

「天界って何か神々の印象が強くない?」

「神様は神界ーーデウス。で、俺が居た世界は人界ーーアース」

「後は魔界?」

「魔界はアンダーグランド。後は冥界ーーゲヘンナの5つの世界があるらしい」


何故分けた必要があるか? と言われればそれは神々の都合によるものであるらしいが、どこまで本当かも分からなければ実際に全部あるかも不明な部分が多い。一説によれば数多の種族が同じ世界にまだ居た頃、争いが激化してやがては創世した神をも堕とす程の事件があったから後に世界を隔てそれぞれの世界を神々が見守るようにしているらしい。

現に人間や鬼、悪魔の話については正にかの異端の天才が抱えていることから間違いは少ないだろう。確かに別々の種が同じ世界で過ごすのには無理しかない。ただでさえ同じ種族や類似する者達でも争いは絶えないのに。


「えーと貴方は確か蒼天の守護神を介して別々の世界を繋ぐゲートから此方に来たのよね?」

「ああ。まあ、ゲートを開く手段は魔法でどうにかなるって話だから守護神様達の力を借りないでも良いんだけど生憎まだ俺の居る時代はゲートを開ける程の才能を持つ魔導師がいないもんで」

「確かにこの世界………デーヴァ? でも扱えるとしたら大精霊様達しか心当たりがないわね」


それくらいに世界を移動するのは簡単ではない。しかし意外にもその芸当の片鱗を見せる存在はアースに既にいたりする。


そして魔界側からもゲートの手段を使って移動する悪魔も。


青年はそこに気付いた。


「で、だ。今どうやらアースがヤバそうなんだ」

「言い方的にアースそのものを指しているよね?」

「そう。俺の中にある蒼天の魔力が教えてくれるんだ」

「つまり戻りたい訳?」


頷くことで彼は肯定する。

だがーー。


「それはダメね。貴方には此方でやってもらうことがあるんだから」

「時間は掛からないようにする。現に時間の流れる速度もーー」

「貴方の世界の都合でしょ? 私達の世界の問題には全く関係はないわ」


恐ろしいくらいな冷えた声量で言い切る金髪のエルフ。なんだか色々と想像していた像と違うことに戸惑いはするがやはり自身の生まれ育った世界。そして何より大切な仲間や嫁。可愛い息子の居る世界を見捨てるなんて死んでも出来る訳がない。


「俺は必ずこの世界の抱える問題を解決すると約束する。そんな奴が自分の居た世界も救えなかったらお前も信用出来ないだろ?」

「それは………」

「どうでも良い世界なんてある筈がない。このデーヴァもそうだしアースも同じだ」


相対する少女とも言えるような存在に彼は真っ直ぐに語り掛ける。

彼女と同じ金色の髪を揺らしながら。


「頼む。力をかしてくれ………ティナ」

「ーーッ!!」


頬を染める金髪のエルフ。

誠意と信頼の匂いを感じさせる青年の言葉とその強く英雄にも似た連想を思う意志が気高き血を振るわす。心に様々な感情を与える。そして名を呼ばれ、願いを請われるそれに種族の壁を超え、純粋な女性としての本能が冷酷にさせることを許してはくれなかった。


つまり惚れたのである。


「………ずるいじゃない? ここでようやく名前を呼ぶなんて? 責任取ってくれるのよね?」

「え? あ?」


ただ意地悪だけは止められない。


「なら決まり! 大精霊様達に交渉しに行きましょう? 未来の伴侶様?」

「いや、待って? 俺には家族いるから!!」

「エルフの名前を呼び捨てにしてそれを私が許すのは対等な存在と認めている証で、伴侶として寄り添う契約が始まるから既に手遅れだよ?」

「あ、これあかんやつや………」


大切な者達を守る為に何やら大切な者を失ってしまいそうな展開を予期する青年の反応を楽しみながら適当な偽ルールの契約の種明かしをしないままに彼の手を取ってティナは歩き出す。


「ほら、行くよ。クロード?」


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