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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
始動
81/155

−天才の住む世界②−

久しぶりに少し更新します


「【死の導き(レクイエム)】」


これは即死性の魔法。ただただ生を死に変える為に創り上げられたような悪質な魔法だと瞬時に分かるくらいな代物。勿論初見であり、実際の効力がどれほどのものかも把握は出来ない。間違いなく絶望的な展開だろう。

それもそうだ。戦闘に関して、いやあらゆる面に置いて経験してきた量が豊富で場数を踏んだ軍人の中の軍人で、天才の中の天才が相手なのだ。向こうの方が一枚も二枚も上手なのは言うまでもない。


「死ね! 異端の天才!!」


翠の悪魔が勝ち誇った笑みを浮かべながら叫ぶ。


展開される魔法陣が自身を取り囲む。逃げ場はない。動きようもない。


「無駄だ!! テメェに防ぐ時間を与えないように仕掛けたんだ! テメェの知らない事象に対しての隙を利用してな!!」


興奮を晒すくらいに今の彼女は勝利を確信しているのだろう。

そうだ。知らない力に対しての対処ほど難易度の高いものはない。それくらいの策がなければあれ程に戦意を持って挑みはしないだろう。

あれだけの戦闘を経て、様々な想定外を乗り越えても尚彼女は余力を残していた。

流石だ。


「………」

「天才さんよ、確かにテメェはヤバイ。魔法に関しての初動だけなら私だけならず他の誰もがおいつけないだろう。が、それだけだ。読めてしまえば先回りして止めるだけ。反射速度と魔法の速度が噛み合ってないんだからな」


そう。魔法に関しては他者より秀でた才能があっても根本的な自分が身体能力が高い訳じゃない以上魔法の力を借りなければ魔法以外は全く弱い。

恐らくは遭遇して戦闘に入った時からそこを看破したのだろう。相手の特性を視る目は流石は軍人ならではの能力なのか若しくは天才だからなのか。

蠢くナニカがゆっくりと、だが確実に私の身体を侵食し、死へと誘う。生命力が吸い取られているように視界が闇に襲われていく。

いよいよ不味い。


「終わりだよ。テメェでも私を倒すことは出来なかったが少し昔を思い出すくらいには楽しませてもらった」

「………」

「私の勝ちだ」


死。

私は負ける。

カナリア・シェリーは敗北する。

なす術もなく、簡単に。

これが自身の結末としてーー。


「………一つ間違いを訂正するわ」

「なっ」


そうはいかない。

例え圧倒的な力だろうが、死に誘う禁忌だろうがそこに魔法が関わっているならば私は負けたりはしない。


「【強制中断】」


本来ならば一度使ってからは数日は使えない強力な技ならではの制約のある原初魔法。が、その制約を無視して使用した。

即ち限界を克服したのである。否、正確にはーー。


「(一日に使える回数が増えた感じ………かしらね?)」


これが何回使えるかもわからないし、複数回使ったら更に反動で数日じゃ効かない使用不可も考えられる。逆も然りだが、あまり楽観的に思える程にはこの魔法の有力性は計り知れない。現に死の淵に立たされた事態すら逆転させるように展開を一瞬で変えるのが可能な技。

いや、今は使えたことに感謝する他ない。

そして。


「勝つのはーー私よ!!」

「ッ!??」


下手な小細工をせず、真正面から切り込む。虚をつかれ、様々な布石を打ちながら放った魔法以降の先を考えてなかった彼女に次なる手を打たれないように最速最短で私は駆ける。


あの時の力を思い出しながら。


「【旋律蒼天(ブルースカイメロディ)ーー」

「その魔法はッ!!?」


何かを発した。が、そんなことに意識を割くような余裕はない。

ダリアス・ミレーユ。彼女は私が知る人間の中で間違いなく最高峰であり、最恐の魔導師。だからこの千載一遇の展開を見逃す訳にはいかないのだ。

冥天のディアナードのように闘争心を持ち、アリスさんに届く速さを見せ、織宮さんのように強かで、リアンのように冷静で、フローリアみたいに多彩で、光華に並ぶ特殊性を持ち、ユリス先輩と同列にやり難い駆け引きを使う。

そしてーー。


「私が勝つ!!」


カナリア・シェリーが認める異端の天才。


「ーーブライニクル】!!」

「ーー」


蒼さを纏う魔力を煌めかせ、時の流れすら凌駕してただただ目掛けた相手だけの活動を停止させる絶対零度の魔法。防ぐ術などなく、それすら包んで動きを止める凍てつく波動。放てばもう回避なんて許さない蒼氷。

私の魔法であって私の魔法じゃない気付けば授けられた圧倒的な力。


ほんの一瞬、世界が氷点下に染まった。


時すら止まったかのように音が消え、ややあって再び雨が降る音が場を支配する。


「………はぁ………」


発動した自身すら息が白に染まる氷点下の場で凍りつく強敵を見下ろしながら私は語る。


「貴女の呪いを破る方法は幾つかある」


リバイバルシフト。死を迎える数刻よりも短い時間の手前に死に戻る呪術。それ故に生涯死から逃れられる不死を帯びた魔法はその実単純な攻略法が存在するのだ。


「死んだことが引き金になる魔法なら死んで無ければ発動しない」


高次元の相手にそんな戦い方は難易度が高いように思えるが寧ろ無力化にさえ成功すれば良いのだ。可能ならば永遠に無力化したら全て解決だ。

これは先程のユリス先輩の戦い方から学んだ部分があると言えよう。彼の戦闘法は相手を戦闘させない立ち回りが主だった。まあ自身のやり方とは違ったが要は結果に結び付けたら戦闘を回避する方法を主体にしてた訳だ。もしかしたら彼は最初からミレーユの秘密に気付いていたからこそそんなやり方をしていたとすら思える。倒せないなら無力化をとーー。

後付けではあるが。彼の洞察力ならあながち有り得るから私もすぐ様に対処が出来た訳である。

まとめると死んで生き返る相手には活動停止や拘束する類が有効。


「もう一つは一番確実に貴女を倒せる。素直にそれが呪いのならば解呪すれば良いだけの話よ」


此方の問題はどのような手段で解呪するかだが、まあ簡単に解呪出来そうな友達がいるので条件さえ揃えば本来の正しい成功法で攻略が可能だ。

ただ、解呪した瞬間彼女はどのような状態を迎えるか想像はしたくはないが。


「流石はエイデス機関の首位であり、戦いの天才であり、翠の悪魔と呼ばれるだけはあるわ」


危うく死にかけた。今更平然としながらだけど本当に!


「だけどこの魔法は永久凍結に等しい力。冥天のディアナードに加えて鬼神の力すら止めた」


まあ、そのあと光華の天地冥道がサラッと永久凍結すら切り離しはしたが、それだけあの刀が特別な枠にあるだけで、そんな掛け離れた力を自力でもはや破ることは不可能だろう。


「十分に強すぎたわ。よくもこれだけ戦って身体が持ったことよ」


正直数刻前の吐血した件を考えたらいつ倒れてもおかしくない状況にも関わらず、私に異変はなんともない。いや、普通に疲弊はしてはいるがただそれだけの話だ。

寧ろーー。


「何であの時くらいに魔法を扱えているの………?」


自身の身体。丁度手術して残った傷がある場所を撫でながら自問する。否、その部分にある魔臓器に問う。

これはあくまで生命活動を身体で作られる魔力を糧に動く臓器だ。それも多大なる量が必要だと聞いている。ならば既にへカテリーナ・フローリアとの戦闘の時点で使える魔力はかなり失った筈だ。それを数刻の睡眠で取り戻しているのは考えられない。


「本当に何で………?」


気が抜けてきた影響か、雨に打たれ過ぎたのか意識が朦朧とする。

暑い。いや寒い。


「いけ、な、い。………もう少しで、きっと戻ってくる皆の前で倒れてしまうには………」


頭に直接響いてくる鈍痛。まさか言った側から副作用が?

極限に集中していたのが途切れたからか?

これは非常に不味い。


「ま、まだ私は、休む訳には………」


ーー違う。休んで良い。


休んでも良いのかな?


これだけの激戦をしたのだから少しくらいは。


「良い? よね?」


ーーああ、ゆっくりお休み。今は。


自分の言葉に雑音が走る。

が、まるでそれは私を深淵の縁に誘う子守唄のように意識を切り離していくのであった。


そして。


「貴女の選んだ道にもう口を挟むつもりはなかった」


声はそのまま。しかし、明らかに本来の私が使う口調ではなくそれはーー。


「が、少しはがり事情が変わった。私の問題に密接に絡むからな」


またを誓ったとある魔女のものであるのをぼんやりと感じながら瞳が閉ざされた。



パキィン、と硝子が割れる音が広がる。雪結晶が舞い散る鏡のように宙を待った。


どさっと地に倒れる少女。しかしそれも束の間。人から逸脱した領域の精神力が身体を起こす。本能かまたは反射的な感覚で凍てついた肉体と意識を瞬時に呼び戻して立ち上がる。


その顔は怪訝さを浮かべていた。


「何のつもりだ………?」


完璧な敗北を喫し、本当の死を悟って終わりを迎える気持ちだった彼女は裏切られたような内心を別の言葉に変換して質問にする。

対する敵は淡々とした口調で答える。


「何のつもりも貴女に聞きたいことがあったから解除したまでだ」


ダリアス・ミレーユは不意な相手の口調と雰囲気の変化を感じ取り、先程までの相対したカナリア・シェリーとは違う別の存在だと直ぐ様理解した。

故に何でそんな事態が起きたのかに戸惑いが生じて会話を続ける余裕もなかった。

だからそのままカナリア・シェリーらしきナニカは独り言のように語り出す。


「ふむ、久しぶりに現界したがやはり情報量が強い。意識と肉体が噛み合わないな。まあ、そもそもが慣れしたんだ肉体でもない以上は必然的に起こり得る問題だ。所詮借り物の肉体。器と噛み合う訳もない………か。例え遺産の存在だとしても」


「何を言ってるのですか………?」


間違いではないかと疑い、或いは何らかの障害が発生したからかと考えた彼女はそれが気のせいの類ではないと本能的に感じ取る。

眼前の存在は姿形こそあの異端と呼ばれる天才魔導師だが、今現在の精神は明らかに別の全く違う誰かによって操作されていると。

いや、どちらかと言えばカナリア・シェリーの身体を借りて別の存在の魂に移り変わったようだ。

事実それは先程の台詞が答えを提示すらしていた。


つまりダリアス・ミレーユに用があったから彼女の身体を借りたナニカが現れたのだろう。

それでも驚きを隠せはしないが。


翠の悪魔は今一度問う。


何が目的かとーー。


「なぁに、ちょっとした取り引きをしたいのさ」

「それに乗じると思います?」

「思うさ。結果は視えている」

「………何者?」


好戦的である彼女が珍しくも静観し、話し合いに努める。

何故か?

それは眼前の存在がカナリア・シェリーでない別のナニカと理解出来た要因だからだ。


「(敵わない………。この会話の間で仕掛けたら私は何回死んでいた?)」


口調。気配。雰囲気。なんて話じゃない。

ナニカが口を開くだけで感じる圧力。別の存在が借りている筈なのに常に心臓を掴まれているような眼光。指一つ動くだけで冷や汗を出す不気味さ。あらゆる動きがまるで彼方が止まっているのに此方が時を止めているような感覚にさせられる。

その昔から誓約をして歯向かえないようになった気分を常に味わう。


異端とか特別の枠ですらない。


世界と言う局面を握る者。そんな住んでいる枠が違う存在。


まさにそれこそ天才。


天才の住む世界の存在であった。


そんな真の天才はダリアス・ミレーユの問いに口元を歪めながら間を置いて語る。


「私は魔女さ。神がその力を授けた魔法の原初を知る血を流し、或いはその対極にいる存在。若しくは神と同列に辿り着いた天才」


天が泣いた。正しくそれはそこにいる少女に呼応して空の上にいる神が何かしらな反応を示したかのように。


「魔女とは世界でもっとも異端でもっとも神を冒涜した未来を予知出来る力を持ち、この世の理を外れた者さ」


魔女ーーバーミリオン・ルシエラの話にいまいちピンと来ない彼女。

が、それは仕方のない話だった。

何故ならーー。


「私達魔女は世界すら偽る。その名すら隠すことでな」

「ーーッ」


違う世界の話だった。人々からすらこの異質の存在をなかったことにするなんてちょっとした力とかの問題じゃない。

しかし、それを明かすのはどうして?

いや、考えるだけ野暮であった。


「世界から自らを消せるくらいだから人一人なんてどうってことない訳………ですか」

「個人程度の規模ならば素直に知る者を消す方が早いがね」


そんな桁外れの存在が詰まる所どんな要件か。


「なに、難しい話じゃない」

「なら私じゃなくても良さそうですけど」


連れない言い方で苦笑する翠の悪魔。ここまで来れば半分くらいやけくそ気味な返事になるのも無理はないだろう。

既に敗北を喫して、命を失う状況から今度は心臓を握られた思いをしながら従わなけばならない。ならもうこの場で死んでも良いくらいなのだ。

そこまで考えが至った彼女。


が、次の言葉にその案を撤回する。


「そうさ、本来ならこの場で死ぬ計画であった君をただ生かしてある状況まで身を隠してもらうだけだからな」






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