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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
始動
80/155

−天才の住む世界−

「そろそろだな」


細身の少年は淡々と唐突に述べた。

そのそろそろはさっきの嘘の説明を明かすには頃合いになって来た意味でだが。


「何? 悪魔がこっちに来るのか?」


それに一早く食い付いたのは東洋人の青年。今現在集まる面々の中で一番落ち着きが無い彼は焦ったく待機するのももう限界な様子が見え隠れしているのが伺えた。


そんな雰囲気の中で真実を話すべきかを今一度考え、代わりにそれらしい考えの答えを語る。

と言うか責任の所在は彼女にあるのだから当人の前で話した方が身に掛かる被害が減ると打算的な結論に至ったからだ。


「いや、逆に此方が向かわなければならないだろうな。誘き出すにも時間が掛かり過ぎている」

「失敗………?」

「わからない。ただ悪魔らしき気配は無くなっているようにも感じる」

「気配ってどれだけ先の距離を把握出来ているんだよ」


どこまで間に受けたら良いのかわからないユリスの言葉。事実は真っ赤な嘘なのに彼等からしたら信じる信じないは大した問題ではないだろう。何方にせよ今は動いて確かめる他ないのだから。


「とにかく急ごう。長引かせれば状況が悪くなる一方だ」


静観を貫いていた聖剣使いが切り出す。現状全くの避難誘導をろくに出来ないままに被害だけ増えていく一方なのだからやがては大惨事に直面するのは言うまでもない。既に闇夜の時間帯だといのに街中は少しずつ騒めいている。上手く憲兵達が手引きしてくれているのを祈るしかないだろう。


「全く厄介事ばかり巻き込んでくれるなあの天才はよ!」


頭を掻きむしって後日弁明や責任を余儀なくされるであろうレイはやけくそ気味に嘆く。


そこへ。


「そもそもなんだけど、貴方は何者なの? 」


主導権を握っている彼の存在に一旦場を離れた影響で冷静さを取り戻しつつある東洋人の女性は改めて問う。まあ只者じゃないのは言うまでもないが、問題はその只者じゃない所である。


「俺はレミア学園の生徒だ。一応同好会でシェリーと一緒に活動している先輩にあたる」


問いの意味を理解していながらもしれっと彼は真面目なのか不真面目なのかわからない解答を返す。当然アリスは追求をするがユリスもユリスで濁した返答を繰り返すのみだ。やがて語る気がないのを悟った彼女は溜息を吐いて観念する。


「わかった。敵対する気がないならなんでもいい」


その右眼を真紅に染めながら。


「お、おい」

「………魔眼か」

「やはり知ってはいるのね」

「それで確認したのなら問題ないのは分かってもらえたかな?」

「逆にそれだけしか分からないから問題。貴方もどうしてか未来や思考が見えない手合いだからね」

「手合いって分類されると俺が変わり者みたいな言い方だな」


変わり者だろ。とはこの場の誰もが目線で訴えていたが、本人はどこ吹く風のように澄ましたままである。


「失礼だが呪われた力って認識で合っているのか?」

「………ええ、それが?」


珍しく向こうからの質疑がされる。尋ねる内容はあまり良い内容ではない為に歯に挟まったような空気を出しながら答える彼女。こればかりは勝手に頭の中を覗こうとした後ろめたさがあるので仕方はない。

それよりも次に述べた内容に食い付く羽目になる。


「そういや先程因縁がありそうな絡み方していたミレーユだったか? あいつも呪われた力を有しているぞ?」


一同全く予期しない事実に目を見開くばかりだった。



「【リバイバルシフト】………」


琥珀色の瞳を持つ少女の言葉を反復しながら私は自身ですら知らない魔法がまだまだ沢山あるのだと嫌々ながら理解する。まあ此度のものは呪いであるのだけれどね。


「流石は異端の天才。僅かな時間の手の内から導けたものだな」

「貴女には言われたくないわよ」


称賛されたところであまり喜べる事態ではない。まるで痛み分けみたいな気分だ。寧ろ洞察力ならば彼女の方に軍配すら上がる。流石は実戦の経験が違うと言うべきなのか、または生きてきた時間が長いからなのか。


「だけど呪いなんてまたどうして………」

「わからねえか? 当時この大陸は軍事国家とも言われていた時代だ。死なない兵士がどれだけの価値があるか」


戦いは命の奪い合い。ならば奪われないようにするにはどうすれば良いか? そんな答えの終点がダリアス・ミレーユを生み出したのだろう。

が、そんな非人道的な事が許されて良いのか? いや、知らないだけで沢山あったのかもしれない。歴史の中に埋れ、闇に葬られた事案が。


「まあ、殆どが呪縛の枷に耐えられずに失敗に終わる環境ばかりだったがな。呪いなんてそんなものさ」

「人ならざる力を持つことがどれだけの困難かって訳かしら?」

「副作用に耐えられずに呪いに呑まれたり、精神がイカれて使い物にならなくなったりと人によって様々さ」


笑えない話だ。反吐が出るような行いが息を吸うように簡単に繰り返される世界で生きるなんてまっぴらごめんだ。

しかし、そんな過去を彼女は生きて、今も生き続けるのだろう。


「一体貴女はどれだけの年月を………」

「さあな、すっかり忘れたさ。半分私にとっては過去なんて夢みたいなものだよ」


確かに既に普通の肉体ですらなく、幾度も死んでは時間を巻き戻して肉体を再生させるような感覚では昔や未来ですらもはや些細なことなのかもしれない。

あるのはきっとーー。


「覚えているのは命の奪い合い。一番死を、終わりを身近に感じる刹那の戦い。そんな戦いに身を投じた場所で唯一自分がおかしくねえって思える好敵手との記憶だけだ」


戦う為に戦うことを許され、戦いでしか価値を見出せない。戦う事が宿命で戦う存在として生まれた彼女ならではの言葉だ。

同じ価値観では到底いられない。因果に逆らい続けた生来。

自身の中でこれ以上呪いに縛らせておくのを許せはしなかった。

邪魔をするなら尚更。


「貴女は生まれるべきじゃなかったかもしれないわね」

「冷たいじゃねえか? 普通ここは同情するだろ?」

「お生憎さま。私は善人や正義の味方じゃないわ」


それも終わり。

何故ならダリアス・ミレーユ。貴女の特異な能力が分かった以上、それを崩す手札は存在する。

そして私はその手札を用意が出来るのだから。


「良かったわね? 今日でその地獄の連鎖は終わりを迎えるわよ」


呪いは呪い。ならば呪いが解かれた瞬間が彼女の全てに終止符を打つ。呪いさえ解いてしまえば良い単純なことだ。簡単な事かと言えば簡単じゃないかもしれないが、出来るか出来ないかで言えば出来る。

冷ややかに刺す視線を受けた彼女は苦言を漏らした。


「………悪魔はテメェだよ」


悟った彼方は目を細め、僅かに口元が歪む。

だがまさか悪魔呼ばわりされるのはちょっと心外ではあるが。


「流石は悪魔をこれで三体も倒している訳か。はは………ははは」

「? 何笑ってるのよ………」

「いやなに、テメェは確かに化け物だがよ。まだまだ及ばねえなって思ってよ」

「はぁ? 一体何と比べてるのかしら?」


不適に、不気味に笑う彼女が愉快げに語る姿が異様に身体の奥底を刺激させる。

まるでその先は聞いてはいけないような禁断の呪文みたいなーー。

果たしてダリア・ミレーユはこの先なんと言うのか?


「知りたければ自分で見つけ出すんだな?」

「………」


どうやら何でもかんでも語る人種でもなかったようだ。

だがそれで良い。これ以上今は余計な負担は背負いたくはないのだから。


「よく分からないけど、じゃあもう良いかしら? 貴女みたいな歪みは倒さなければいけないから」

「世界に必要ねえような言い方するじゃねえか」

「手遅れなのよ。歪みに歪んだ貴女を救う手段は今の私には倒すしかない」


悪魔と呼ばれているとは言え、私は今日初めて容赦なくの対人に手を掛ける事になるかもしれない。呪いを解く意味を考えれば必然とそうなる。

人の命を奪う行為に躊躇いはある。が、それが必要だとなれば迷っている場合じゃない。


「異端らしい振る舞いになってきたじゃねえか」


ダリアス・ミレーユは構える。彼女は死なない呪縛があるだけで無限に力を扱える訳ではない。此方と同じかそれ以上の連戦をしているのだから体力的な限界はもう近いのではないか?

しかしそれでも尚、翠の悪魔は熱を帯びている。殺意を、戦意を剥き出しに私と向き合う。

例えこの死闘が最後だとしても臆せずに。


「確認するけど」

「あ?」

「貴女の戦う理由は何かしら?」


聞かずとも愚問ですらあるだろう。もはや野暮な質問だ。

だがカナリア・シェリーは尋ねる。

迷いを無くす為に。


「テメェみたいな強敵と戦うことが生き甲斐なんだよ。戦うだけだ。ただひたすらに。それ以上でもそれ以下でもねえ」

「そう、わかったわ」


あっさりとした返事をする。

やはり分かり合えはしないだろう。

死なないと治らない。


構える。


自身も平然を装っているが余裕なんてある訳がない。今何事もなく立っているだけでも不思議なくらいだ。きっとそれはこの戦いにしっかりとした理由があるからこそ踏ん張って身体の全てが稼働しているに過ぎないと思う。でなければフローリアと戦った時とでこんなに差が出はしない。あれで限界を区切っているならば私は既に限界のはるか向こうに立たされているのだから。


私の力は守る為に使うのだ。


そう約束したのよ。


身体が蒼光の魔力に包まれる。これまでの自身が引き出していたものとはまた違う所から流れてくるみなぎる力。不思議と背中を後押ししてくれる感覚が身体に熱を持たせ、軽くしてくれる。


まだカナリア・シェリーは戦える。


「ケリをつけましょう!」

「望むところだ!」


互いが電光石火の如く刹那的に衝突した。純粋な身体能力と向上魔法だけの真っ向からのぶつかり合い。残された力を振り絞った最適解な戦闘だ。

手刀を武器に拳を破壊に、一回一回の攻撃が単純な損傷を与えるではなく命を刈り取る刃物に変えて死闘を繰り広げる。


「もう貴女の戦い方は記憶したわ」

「手の口が読めるってか? ならそれは勘違いだ!」


急所を狙った突きが避けられ、大きく後方に下がった敵は陣を展開する。

不可解で私すら初見であるその字の羅列から推測するにそれは禁忌魔法の部類に入る危険な力だろう。

させまいと此方が詠唱を止めるべく接近を試みようとする。


ーーが。


「開闢の剣【縛りの旋風ーーチェーンゲイル】開闢の槍【血の腕ーーブラッドアーム】開闢のーー」

「ーーッ!?」


先程見た重複詠唱を更に超えた技で止めに掛かる。

禁忌魔法の詠唱中に足止めの魔法を二つ発動。この技術がどれだけの意味を持つかは考えるまでもない。この攻防の合間すら破棄詠唱が重複されつつ、そこに本命の魔法の詠唱を重ねる。

魔法を右手左手で使い分けることすらも超え指を一本ずつ独立させながら扱うような技量に等しい。

わかりづらい? 仕方ないわよ!

説明するのすら例えようがないくらいに難易度が高みにある技を成しているのだから。

更に肝はこれを戦闘の最中で高速移動をしながら行っている事だ。実践する方も大変だが、それに対応する側も当然振り回される。隙を見せればそのまま畳み掛けられるだろう。


「くっ!」

「開闢の戦斧、開闢の矢、開闢の弾丸、開闢の鉄槌ーー」


足止め魔法はやはり足止め程度にしか機能はしない。ただ私がそれ処理している内にダリア・ミレーユの第一級危険魔法は完成へと近づいていた。

これは間に合わない。


「ならっ、【空間凍ーー「おせえよ」


こんな後手に回った際に活きる自身の原初魔法すら向こうは読んでいた、

詠唱すらしない即行よりも速い無詠唱魔法で。


「ッ!? 既に詠唱してる刹那に三つの魔法をーー!?」


もはや既存の常識に当て嵌まらない域の力が天才の戦法を潰す。まだ魔法では分があると自負していたことすら恥ずかしいくらいに私の先手を覆す。


それでも問題はない。

当たらなければどれだけ攻め手に欠けようが反撃はある。

そして私は学習する。

次は通用しない。


「敗因を教えてやるよ。テメェの魔法はどこまで行っても対人外にしか向かない一発芸なんだよ」

「!」

「人は脆い。過剰な魔法で消し去らないでも息の根を止めさえすれば勝てる。つまり戦法は最小限で良いんだよ」

「だからってーー!」

「って自覚してるからハマりやすい」

「なっ」

「天才ってのは未知に弱い。私が詠唱してる魔法が囮だなんて考えもしないだろッ!?」


長期詠唱の魔法は動きを制限させる為の仕掛け。確かに述べた通り天才は未知に弱い。いや、誰でも弱いだろう。が、下手に知識量が豊富な人にとってこそ自身の引き出しから該当する現象に照らし合わせたりして方向性を考えてしまう。

つまり固定概念と言うやつだ。そして見ればすぐ様理解してしまうのなら初見殺しをすれば良い話。

幾重にも張り巡らされた蜘蛛の糸に雁字搦めにされた感覚である。

気付いた時には遅い。

全てはカナリア・シェリーの命を奪い取ることのみに専念され、見事に私はその最後の引き金を許してしまった。

ダンッと翠の悪魔が地を踏み、同時に黒の魔法陣が展開される。禍々しく、仰々しいそれはこれまでに見ない凶悪な魔法。


「精々あの世で悔やむことだな」

「ーーっ」


時限を歪めて魔法陣と同色のナニカが触手のようにうねりながら私の身体を掴み取る。

動けない。まるで掴まれたその場から自由を奪われてしまった気分だ。






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