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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
第一章 始まる物語
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−天才にできないことはない③−



うん、何でこうなったのかな?

昨日にあったとある一件から少し経った今、私の頭ではずっとその疑問が繰り返されていた。何回も成り行きを思い出して整理してみたが、やっぱりそこに尽きると言って良いくらいに訳が判らない。

頭を悩ませているとガタン、と揺れるのを少し感じた。室内ではあるのにそんな現象が幾度と無く発生するのは移動しているからだ。最初こそ不安な気持ちを抱いていたが、慣れたら大したものではなく寧ろ心地良さを感じる揺籠になっていた。

カナリア・シェリーは現在長距離を陸路で移動する為の列車を利用して校外の世界へ旅をしている。

行き先はレミア学園から西にある大きな都市。世界中から人が集まる有名な場所だ。昔から行って見たくて興味のある場所の1つであり、そこには知らないものが沢山あると期待を膨らませて私はこの日を待ち望んでいた。

少しばかり予定外な条件付きで。


「わわっ、びっくりした。列車って学園に入学する前に使っただけだからまだまだこの変な揺れには慣れないなー」

「………」


向かい席に座る人物ーーノーライズ・フィアナは発言した割に、合わない眩い笑顔を貼り付けてそう言うのだった。

慣れない割には十分に落ち着いた振る舞いで、何故か自身よりも楽しそうにしている。

本来校外外泊許可を申請して受理され、こうして列車を使っているのは私だけだった筈なのにどうして彼女がいるのか?

それは学園側から提示された条件がーー。


「(単独行動による不慮な事件との遭遇を緩和する為の同行人との行動………)」


幸か不幸か、最初は学園のお目付け役が派遣される予定を何とか知り合い範囲で要請させて貰った結果がつい先日お友達となったフィアナだ。

他にアテはなかったから助かったものではあるが、にしてもやり辛い展開なのは否めなかった。 1人でない分、行動が多少なりとも制限されるのはあまりよろしくないが、この際だ。贅沢は言えはしない。

だがしかし、そんな私の心中を他所にあたかも楽しそうに、これから行く場所の観光計画を1人でに仕切る彼女の勢いに此方が同行人みたいになってしまっている現状は何なのか?

これ私の旅だよね?


「えーと。まずはメインストリートの店を見回って宿泊先で荷物を置いてからあの有名な大図書館と美術館を見学してから旅芸人一座のショーを楽しんでそれでーー」

「………あの、フィアナ?」

「待って待って。とりあえず目的地を忘れないように書き留めるから」

「………」


待って、は私だ。全てが、ではないけど大半を却下したいとはこの調子ではとても言えそうになかった。もし聞けば物凄い絶望感を与えそうだ。そうなれば終始面倒臭いご機嫌窺いをする羽目になりかねない。

色々な意味で同行人の相手を間違えてしまった後悔ばかりが過るのであった。

カナリア・シェリーは今一度思う。

うん、何でこうなったのかな?

浅いため息を吐きながら窓の外を眺めて諦め態勢に入る天才がここに居た。

天才なのに諦めが肝心を心情にしている珍しい姿勢である。


「ねえねえ。シェリーちゃんは何で今向かっている場所に行きたかったの?」

「いきなり切り替え早いわね」


さっきまで私の旅の計画を乗っ取っていた人物は書き留めを終えたようで、悪びれもせずに唐突に尋ねてきた。多分才が有る無しよりもこの無意識っぽさの身勝手が周りから距離を置かれた要因なのではないか? と思いながら心の広い私は答える。

天才にできないことはないのだ。

非常に我慢して堪えてはいるけど。


「フィアナはどんな所か勿論知っているわよね?」

「うん。かの有名な大都市セントラルでしょ?」

「ご名答」


イルムガム国の中央部に位置する世界でも有数の規模の大きさの大都市。東西南北からの様々な企業が集い、繁栄させた産業の要。勿論それ以外にも有名なのは沢山ある。

例えば世界の柱に数えられる名家の九大貴族であるオルヴェス家、へカテリーナ家、神門家の3つが住まいにしている。神門家は確か本拠地ではないらしいが彼等の財政支援が大きくセントラルに貢献されているので事実上、その3つ柱が世界のトップと言っても過言ではない。

次にその3貴族を中心に都市の要となるのが実はつい先日面識を持ったあの黒髪の青年、織宮 レイの所属するエイデス機関だ。

7年前【黒の略奪者】の事件が起きて以降、都市の再建を名家が支援する傍ら軍の破棄とギルドの解体が成されて代わりとなる組織の本拠地が世界の中心となるセントラルに置かれるのが決定した。

前回の経験を活かすには情報から企業、財政を担う貴族の力、有望な魔導師等のあらゆるモノを集中させる必要があったのである。

外部からの転覆はまずあり得はしない最大で最強で最高の都市の完成だ。


「(確かに並大抵の過激派の組織じゃビクともしないでしょうけど、逆に言えば内部が暴動を起こすのが一番危険なのよね)」


私の個人的な意見だけど、外からに対して強ければ強い程、内側から崩されたら脆い。敵に回すと怖い相手を手中に収めているのだから敵に回れば一番厄介だ。

まあそこを上手く扱うのがトップたる資格を持つ者達なのだろうが。

さて、一先ずそんな大層な場所で自身が見ておきたいものはと言うとーー。


「エイデス機関の拠点を一目見ておきたいのよ」


一応、将来所属する可能性が高い訳で、早い内に色々と仕組みを知れる限り知っておこうと思うのだ。

あの黒髪の青年ですら底知れないのだから印象としては化け物揃いとしか考えられない。私が霞むような世界の空間には興味があるってものだ。

そしてどんな活動をしているのか?

調べればある程度の情報は入っては来るが、あくまである程度だ。たまに非人道的な動きがあるだとかないだとか騒がれたりするし、嘘と真実の境目が今一把握出来ない謎の部分が多い。

軍とギルドの代わりに生まれた機関なのだから相当な負担があるにも関わらず上手く機能している秘密は果たして何なのか?

手っ取り早くこの目で確かめるのが今回のカナリア・シェリーの最重要目的。

その事をフィアナに伝えるがーー。


「シェリーちゃんってもう就活するんだね。逞しいなあ」

「………」


間違ってはいない。間違ってはいないが、完結に纏めすぎた二文字の言葉で片付いてしまうのは何とも言えない気分である。

これには苦笑いをする他なかった。


「貴女は将来について何か考えてはないの?」


話の流れもあって私は質問をしてみた。半分くらい一方的だったが、一応お友達だ。互いの事を知る良い機会ではあるだろう。まだまだ到着まで時間は掛かるのだから世間話程度で紛らわそう。


「私かー、まだあんまり意識はしていないかな?」

「そう? でも少しは計画しとかないと後々大変よ?」

「老婆のなんちゃらってやつ?」

「老婆心ね」


使えてないだけにまるで私が年増みたいな風になってしまうのは流石に堪らない。相手を間違えていたら激怒ものである。

ただ実際老婆心なのは事実だろう。年齢こそ学生だけど中身が他より成熟した感は否めない。

悲しくなるような納得をしてしまう中、菖蒲の少女は真剣そうに悩んでいた。結構素直な所は嫌いではないからこれまた困りものだ。

憎めない奴とはこんな人物の事を言うのだろう。


「将来………かー。難しいね」

「難しいかしら? 何かないの? こうなりたいとかああしたいとか、目的みたいなの」

「そうだねー。ちょっと違うけど目的ならあるよ」

「へぇー何だ、あるじゃない。どんな目的?」


意外にしっかりとした言い草に少しの興味を私は持ったので問う。すると彼女は此方に視線を合わせてきた。


「ーー」


思わずその紫紺の双眸に魅入られそうになってしまった。


怒りや悲しみ、憎しみみたいな感情を込めたものでも何でもないただの少女の瞳。寧ろ逆に何もなかった。虚ろで生気を感じられない人間にはないような静けさがあり、深遠さの漂う得体の知れない目は自分の知らないもの。あれだけ天真爛漫に振る舞っていた笑顔すら影を潜め、別の人格が姿を表しているか本当に別人ではないかと思わせる。


素直に怖さを抱く。踏み入れてはならない部分だったのだろうか? 軽々しく質問した私が悪いのは間違いないが、一体何がそうさせているのか?


読み取れない感情を持つ笑みに思わず身体を強張らせる私はーー。


「内緒だよ」

「ーーッ?」


と嫌な汗を覚える直前にはフィアナはいつも通りの屈託のない笑顔でそんな返事をする。笑みを浮かべている事は前と後で同じかもしれないが、そこに含まれる感情は全く違う。まるで気のせいだったか、或いは本当に思い違いだったくらいに微塵も先程の違和感はもはや無かった。

呆気に取られてしまう私はどう返せば良いかに困る。

一体今のは何だったのだろうか? これまでに人間の持つ怒りや嫉妬等と言った醜い感情を受けた記憶はある。つい先日もボルファ・ルナのような実戦級の威圧にも耐えた。

だけどこの感じたそれはそんな次元ではない。明らかに私は一瞬受け入れ難い何かに対して思考を止めてしまった。眼前の平凡で少し抜けた所がある同級生にだ。

ただの勘違いかもしれない。たまたま不気味に見えてそう認識しただけとも考えられる僅か過ぎた間だった。何せ次にはいつもの彼女であるのだから何もなかったような出来事とされてしまっている。

とりあえず言えるのは問いの答えは内緒と訳ありな返答だと言うことだ。まあ気のせいでフィアナもまたふざけているだけな展開もあるけど。

もう一度尋ねてみるべきか? それともーー。

そんな矢先だった。

私を、いや正確には空間であり、場であり、辺り全体を耳を塞ぎたくなる発砲音が襲った。


「全員動くな!! この列車は我々が占拠した!! 今から貴様達は捕虜だ。少しでも変な真似をすれば命の保証はない!」


煙を吹く長銃を両手に持つ迷彩柄に包まれた男性らしき声を発する人物は怒気にも近い大きさで叫ぶ。

パッと見ただけで何者かなんて私でなくともすぐ様に判るくらい単純明快。

有り体に言えば運が悪い事に、現在約正午に差し掛かる時間帯で列車は謎の反社会集団の手に陥ってしまったのである。

最初の乗客の反応は驚愕と混乱だ。固まる者から悲鳴を上げる者に、パニックで逃げ出そうとする者。大半よりほぼの数が様々な行動を取る中。1人の男が正義感故にではなく、明らかに突如の緊急事態に判断能力が低下して集団へと発狂しながら猪突猛進をしてしまう。

彼等は迅速で冷静で無慈悲な対応に移った。

ーーバンッ。


「………」


あっさりとした、残酷な刹那。男は膝から崩れ落ちて数秒の間を作ってから倒れる。更に数秒すればその周りは赤い池を完成させ、最初からそこに溺れているような光景だった。

起き上がる事はーー2度とない。

次の反応はさ唖然と衝撃。更なるパニックによる騒ぎは銃声の1つで静まる程に今の光景は一同の意識を変えた。


「(ーー死んでしまった)」


初めて直面した人の未来を閉ざす事象。こんなに早く、簡単に終わった誰かの人生の最後を見て私はそんな質素で陳腐な感想を抱くだけだった。

ただただ自然の摂理のように納得してしまう自身は本当に冷たい人間なのだろう。こんな場面に遭遇してももう思考は周囲の状態を観察して突破口を見出そうとする考えだけになる。

きっと私は向き合ってはいない。現実は受け止めてはいるが、感情的には押さえ込み過ぎている。生き残る為には必要かもしれないが、やはり平凡と違う思考は望む生き方とは全然違うだろう。

しかし命あってこそだ。一先ずは生存するのが最優先である。生きていれば良い事があると割り切りながら様々な内なる異端な自分と平凡な自分の葛藤を傍に置く。

私は対面する菖蒲の少女に目をやる。こんな場面で呑気かもしれないが、もし先程の違和感が本当なら彼女もまた違った様子を浮かべているのではないか?

と、そんな淡い期待を寄せるが。


「………」


フィアナは瞬きも、下手したら息すらしていないくらいに全身を硬直させていた。

これは聞かないでも判る。現実を受け止め切れない現実への拒絶反応だ。他の乗客達も一様に似た傾向にある当然なもの。

この分だとやはりあの感じた違和感は間違いなのだろう。取り越し苦労だったのは果たして良かったのか悪かったのか。





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