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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
始動
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−天才に偽り無し③−

雨に濡れ冷えていた身体が熱を帯びる。度重なる魔法の行使の影響による反動はまだ来てはいないが別な意味で限界でも近付いているのだろうか? 若しくは研ぎ澄ませた集中力がそうさせているのか?

それともこの特別な魔力が?

淡い青の結晶とでも呼べる魔力が周りに漂うのを感じながら私は戦いの行く末を見る。

尚もやめない彼等は余裕の表れが見え隠れしてはいるが、それだけ自らに絶対的な自信があるのだろう。

下手な力は無視されるだろうし、中途半端な力は排除される要因に繋がる。

だが私には関係ないことだ。


「………」


これは新たに生み出した原初魔法。かつてない反則的な力であり、これまでの自身が使って来たものを存分に発揮した異能。


「凍て付きなさい………全て」


ただ一つこれの対価を言うならばーー。


「【空間凍結(コキュートス)】」


僅かな時間だけ有用であり、その間の世界の法則にどのような影響を与えるかが全くわからないことであるのだ。

この魔法の説明をするならば大変簡潔に述べたら時の流れを止める力。が、そのような魔法自体が完成された経緯も無ければ関連した力も少ない。これは【箱庭】の現象から連想して行き着いたのだ。そして正確には時間を止めている、ではなく時間ごと空間を凍らせて止めているような現象に見せているだけ。

静かに一陣の風が駆け巡る。辺り一面は全てが活動すら止めてはいるが、正直世界の端から端まで止まっているかもわからない。一度試して範囲を測ろうとも試みたが、残念ながら魔法自体がそんな検証をさせてくれる程長くは持たない。精々が10秒弱。それ以上は例え万全な状態だろうと勝手に解除される。まあこれまでの魔法に比べたら一つ飛び抜けて反則的な技であるから当然の結果とも言える。

そして見返りはそんな凍った世界で唯一自由を得る術者の私だ。つまり止まっている間は何でも出来る。僅かな時間だけとは言え、この間で私に一切の隙を与えてしまうことがどれだけの恐ろしさかは身を持って味わってもらうとしよう。

続け様に行使するはまた原初魔法による既存の魔法で使われていた魔法を昇華させたもの。


「【強制転移】」


それは無慈悲な命令である。

ぐにゃあ、と対象として定めた一人の悪魔と一匹の悪魔が歪む。物理的な法則すら無視してまるで別の空間に呑み込まれように姿をねじ曲げ、姿をその場から消していく。強制的にーー。

カナリア・シェリーは最後に告げた。


「さよなら。貴方達の行先はこの星の核がある場所だから例え不死身だろうが理に干渉しようが相手は星のエネルギーそのもの。それすら跳ね除けるならもはや勝ち目はないから素直に降参するわ」


そうして言い終わる頃には世界は元通りになる。全てが活動を再開する。小雨は降り注ぎ、何処からともなく喧騒が聞こえる。

その場にいた二つの脅威を消し去ってーー。

最初からそこには何事もなかったように、まるで私一人がこの惨事を招いた風にすら思わせる程に跡形もなく彼等は消えた。

【強制転移】。文字通り対象を指定した場所が存在するなら無理矢理にでも飛ばす魔法。本来は経由する為の陣を転移元と転移先に敷く事で移動を可能にするのを此方側だけに貼った陣で移動させちゃうのだ。実は転移先に陣がないと無作為で変な場所に飛んじゃうのだがこれを上手く改良したら出来ちゃったいい加減な魔法。悪く言えば失敗作。何故なら飛ばす場所は指定出来ても実際問題飛ばした対象はどのような状態になるかまでは保証出来ない。

過去に試した例ではある物体を数十メートル先に移動させた。その結果が物体の損傷。そもそもが繋げる陣と陣で出来上がる空間の道を此方が掘り進んで作ったようなものだから対象に掛かる負担が発生するのだろう。

次に自身が記憶しない場への転移。まだ記憶にある場所への移動はマシだった。恐らくは想像力が鮮明だとしっかりと移動は出来るのだろう。故に自身の知らない資料や地図で把握した地に転移させてからその場所に赴いた時は衝撃が走った。

物体は分解してその指定された場所の周囲おおよそ何百メートルの範囲に散らばっていたのだから。中には壁に半分埋まっていたものすらあった。

流石に完成には程遠すぎる性能過ぎて下手には使えなかったが、今回の状況なら問題ないだろう。

どんな状態であろうが排除が目的なのだから。

問題はそれに踏まえてやはり強制の名を持つ魔法は一度使えば暫くの間は使えなくなる事である。

まあ今の原初魔法達を一日に何度も使うことすらあってはならないが。


「とは言っても既に今日だけで原初魔法を4種類も使ってるわね………」


使ってはいけない枷があればある程に寧ろ頼る場面ばかり舞い降りて来る辺りもしかして私は神から死の宣告でもされているのだろうか?

まあされているのは神業みたいな医師からの宣告ではあるけど。一日何回とか言う制限を平気で破ってしまっているのがバレたら次は真面目に怒られるかもしれない。

もうアリスさん辺りはかなり怒っていたけど。

次はないかもしれない。


「さて、片付いたから皆と合流して色々場を収集させなくちゃ………」


雨が身体を冷やすせいもあるのだろう。火照った感覚が失われ、力が抜けていくような脱力感が支配していく。きっとこれは警告なのだ。限界に近付いている肉体に活動をさせまいと見えない手が足を掴んで来る。

ともかく疲れた。へカテリーナ・フローリアの時みたいな血を吐いてしまう状態ではないにしても連戦は強いられ、休息が今日は全くない。これ以上は本当にダメな気がする。

だからもうこれで終わりにして後は皆に任せるとしよう。


「今日は色々ありすぎたわ」


深く深呼吸する。

口からも珍しく1人でに弱々しいような疲労を感じさせる言葉を漏らす程には気怠さが意識出来る。

恐らくは安心して一気に力が抜けてしまったのもあるのだろう。



「少し休ませーーて………?」


だから私はーー愚かなのかもしれない。


「え………」


ゾクッ。


悪寒が走った。それもこれまでにない心臓を鷲掴みにされているようなそんな感覚だ。いつでも殺せるぞ、と自身に訴えかけるのがヒシヒシと伝わる。

気のせいであって欲しかった。


あれだけの反則技を幾重に繰り出して無茶までして強引に試みたのに。


まさかその結果がーー。


「今何したんだテメェ………?」


獰猛さとどす黒さと怒りより怨嗟に近いものを混ぜた感情を剥き出しにする存在にはまるっきり意味を成さなかったなんて。

外傷は無し。怪我などは見受けられない。ーーが、彼女は驚愕を覚えているのだけは確かだった。どうやらあの様子だと自身がどんな状態にあったのかは分かっているらしい。

だとしたら何故? 星の持つ力の中心に飛ばしたのだ。もはや再生とか復活でどうにかなる現象ではない。現に流天のヴァリスがそうである。あの反則な技すら使わせる前に葬ったのだ。通用しない訳がない。


「私が知りたいわよ………貴女がどうしてここにいるのか………」


そう。問題は何でダリアス・ミレーユがこの場に居るかだ。もし仮に不死鳥だとか超再生の類の者ならば戻ってくる筈がない。私は彼女を殺す前に移動させたのだ。そこに対象が生きていようが死んでいようが関係はない。確かに移動をさせたのだ。


「テメェこそ気付けばわけわかんねえ場所に飛ばしやがって………」


おかしい。仮に向こうで再生して転移して戻ってくる方法論だとしても無理だ。あの魔法は私にしか使えない。似たような魔法を扱えたにしろ転移魔法自体は特有の空間影響を与えるから気付かない筈がない。

今のは不意に現れたような感じだった。


「確かに貴女は今現れるまでは間違いなく消え去っていた。さっきのことにしろ………跡形もなく消えてもまるで無かったことになっている」


そう。肉体はおろか身に付ける衣類すら全くの損傷を感じられない。最初に会った時から雨に濡れた以外は何も変わらないのだ。

ただ、向こうもまた同様に感じる疑問点を口にする。


「過程が全くなかった魔法………絶対何か細工しただろ? 私が気付かなかったなんて話じゃない。気付いたらもう魔法は発動し終わっていたような………」


互いが互いがに理解し難い未知を前に探り合う。天才同士が僅かな情報から探り出して模索していく。

あらゆる既知を総動員させて今の出来事を解明する。


「まさか………」

「まさかっ」


辿り着いた答えはーー。


「時間を止めた………?」

「時間を巻き戻したの………?」


奇しくも似た結論を導き出してしまった。何方もが唖然としそうな正に天才に偽り無しの力を持ってして。


「驚いたわね。まさかカラクリがそんな所にあるなんて」

「全くだ。テメェが異端の天才と呼ばれる理由が今更だが痛感すら覚えてしまった」


当たり前だが、この時間に関与する技がどれだけの規模かを今一度説明すれば世界を探して居るか居ないかの問題だ。実際この場に二人もいる訳だが、現代においてまだまだ時間を操作する力は早過ぎると言って良い。実証する才能、環境が共に用意も出来ず、検証して結果を残せる可能性もないくらいにまだ魔法は発展途上に過ぎない。ようやく産業化すら始まって間もないくらいに研究が進んだ程度だ。


「死んでも復活する理由は単純に貴女が生存した時間帯にまで身体が再構築される。つまり死の時間から生の時間まで巻き戻す魔法」

「察しが早いな。その通りだよ。テメェの魔法に関しちゃ時間を止めるくらいしか分からねえのによ?」


そりゃそうだ。貴女が分析したくともその時貴女は活動そのものが止まっているのだから私が気まぐれに伝えない限り全てを解析するまでには至らないのである。


「って言ってもやれることが単純だな。私に対してはだが、別に使った無理矢理な転移魔法らしきものですら殺せはしないのだから変な感じだが通用はしねえ」


あっさりと自身が行った魔法は読まれてしまった。しかしこれも生きているからこそ、生きてしまっているからこそ可能な所業だ。

看破された展開に見えるが仕掛けを読めるのは何もそちらだけではない。


「前々から貴女にはおかしな点がいくつもあった。だけどそれも全部納得がいく」

「………」


沈黙する翠の悪魔。都合の悪い話だと理解してか返す言葉が出てこないのだろう。

構わず私はこのカラクリを暴いていく。



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