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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
始動
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−天才に偽り無し②−

見た様子では無傷。しかも衣類の損傷も見受けられないし傷を負ったのかすらも不明なくらいに何事も無くなっている。何だったら血痕すら残していないのだ。

再生? いやこれはもっと別の力?

一体どんな能力が作用したのかは自身が僅かながら見通せた未来の如く理解が出来なかった。


「はっ、間違いねえかもな? まあ良い。テメェは後回しだ。とにかく先ずは私に喧嘩売ってくれたコイツだ」


まるでようやく始動するかのように殺気が膨れ上がる。自身やユリス先輩を相手してた時とは比にならない凄まじさだ。

そう。この圧力は間違いなく畏怖する。

彼女が【翠の悪魔】と呼ばれる所以のものだ。


「薮をつついて蛇を出したか………」


どっからその言葉を覚えたかは知らないが間違いなく的を得た表現だろう。

だからと言って悪魔が臆する筈もなく。


「ならかかって来い蛇よ。一度で朽ちぬなら何度でもーー」


直後、流天のヴァリスが弾けた。

あれ程の体躯が吹き飛ぶのはそう易々とした力では無理だろう。カナリア・シェリーでさえ肉体の可動域を超える域に迫る融合魔法で成し得た技に並ぶ瞬足の打撃を軽々と澄ました顔で行う琥珀の瞳の少女。

単純な力技でさえ人外を遥かに超えるのね。


「死なねえよ。死ぬのはテメェだ」


紅の魔方陣が場を支配し、薄気味悪い空間を作り出す。

それが範囲魔法のどんなものに属するのかを感じ取った私は内心で苦言を漏らしながら離脱する。


「煉獄の檻【カルマフィールド】」


血で空をなぞったような箱庭に閉じ込められし老齢の悪魔。果たしてその内部がどんな状態なのかは想像もしたくない。

魔法の言葉には意味がある。意味が込められている。ならば口にしたそれには相応のものがーー。


「怨嗟の念に包まれし子供「獄炎の愚者」」

「ーーッ!? 重複詠唱!?」


丁寧に声を重ねていく彼女。一度に別々の魔法を使うことはあり、それを重ねることで融合や複合と言った形に変えるが、詠唱自体を重ねるやり方は極めて珍しい。と言うよりかは困難を極める。

それが戦闘中となれば尚更だ。詠唱魔法だって紡げば精確に発動するって訳でもない。寧ろ破壊力を追及した結果なのだから被害を押さえたい本音があるもの。かつて私だって冥天のディアナードの時にそうしたのである。

決して難易度が低いから重複詠唱が出来るなんて思ってはいけない。反動だって重ねた魔法の分だけ失敗したら身を蝕む。


「泣け、喚け、苦しめ、憎しみを糧に「闇に再び溶け込み永遠の罪を」


更に詠唱文。まるで呪詛を否、呪詛そのものを唱えている。支配する黒と紫のニ対の魔法陣を見るだけで悪影響すら与えそうな程に歪む力を行使しようとするダリアス・ミレーユはーー。


「呑み干せ「償わさせろ」


邪悪に笑っていた。

悪魔より悪魔的に。


「【呪われし小人(チャイルドカース)】【万死の鉄槌(デスペナルティ)】」


何よそれーー。

知識で知り得ているどの分野にも属していない魔法。恐らくは第一級危険魔法か若しくは禁忌魔法。そのあまりにもの破壊的な力と醜悪さから認定された力は一切の情報の開示がされない。何故彼女が知っているかは予想するのも難しくないが、それくらいの危険な代物を重ねて詠唱して放つのだ。

幾らなんでも常軌を脱している。

迫る怨嗟と罪。

煉獄の檻に囚われた流天のヴァリスは果たして死ぬのか?

と、その時だったーー。


「【逆転する運命】」


発した言葉の意味を知るまでに数瞬の間を要した。

気付いた頃にはあらゆる魔法は反射され、翠の悪魔へと襲い掛かっていた。

そしてすぐ様私はどんか力なのかを悟ってしまう。


「理を操作する魔法!?」

「御名答じゃ人の子よ。あっさりと種が割れてしまったのう」

「種が割れたところでどうにもなりそうにないけどね………」


反射され怨嗟や業火に包まれた彼女は跡形もなく消し飛んでしまった。そんな生易しいもので済むかも怪しい。

まさか放つ魔法が綺麗にそのまま返ってくるなんて果たして誰が想定するだろうか?


「まさかさっきの私の攻撃は………」

「反動で足がおかしくなったと勘違いしていたようじゃがな」


何てこと。ならしっかりと犠牲無しにあの技は成立していたのね。寧ろ反射されて骨が外れた程度で済んだのが不思議なくらいかしら?

まだ多用段階ですらなかったと思ったらそうでもなかった落ちは自分で複雑な気分だわ。

が、結局使えたところで通用しないなら意味はないんだけれど。

しかもあっさりと復活した翠の悪魔があっさりとまた消え去るんだから、こうも強者同士の命の取り合いが直ぐ様終わってしまうことに冷や汗を覚える。


「(おかしな話ね………死の映像を考えてしまうなんて………)」


肉体面だけでなく、精神面まで変質してきた。死に対して臆病になるのは悪いこととは思いたくはない。しかし動きは鈍る、判断が遅れる、攻めに遠慮が出る。

特にこの悪魔相手ではーー。


「でも、ここで倒すしかない」


元より逃げ場はない。

まあ勝手に自分で自分を追い込んでるだけなんだけど。

毎度毎度。


「さ、仕切り直しーー「だからよぉ?」


ヴァリスが火柱で包まれた。

余波の熱が此方側へも襲い掛かるが、私もそんな方向に意識を向ける余裕はなかった。


「何勝手にこのわたしを退場したと思い込んでいやがる?」


翡翠の髪を揺らしながら何事もなかったかのように再起する化け物を見て空いた口が塞がらない。

普通に考えなさい?

人がどうすればそう何度復活する?

明らかに最初もその後も彼女は確実に絶命した筈だ。この目がそれを確認した。二回もだ。

幻を見た? いや、幻覚の類なら見抜けないままな訳もない。

再生? 初撃ならともかく次のは再生でどうにかなる魔法では絶対にない。

わからない。

全く全貌が見えてこない魔法。


「ははは、不死鳥みたいな奴じゃのう?」


火柱から悠々と現れる化け物。

あれくらいでは倒せるとも思わないが果たしてこれはどっちが勝つのか?

そして私はどちらから倒せば良いのか?


「(もはやどちらが残ったところで目の前に立ち塞がるのは不可避………)」


ここで私は確実にこの両者を撃破しなければならない。ヴァリスは勿論のことダリアス・ミレーユもだ。

後に抱える問題を全てうまい方向に持って行く為にはこうするしかなかった。

カナリア・シェリーが彼等を別の場所に誘導した理由ーーそれは。


「(このまま私の手で排除する為………)」


曲がりなりにも翠の悪魔は正式なエイデス機関所属の人物だ。もはや倒してしまうだけでも色々と面倒が付き纏う厄介な相手であるから誰も見ていない間に力技で打破するしかない。もはや話し合いじゃ解決しないのは火を見るより明らかだ。

身勝手なやり方ではあるがこれが一番穏便であろう。

理想はヴァリスが彼女を倒した上で私が倒すのが良いけど、そこまで希望的観測に縋っている場合じゃない。

機会があれば一気に片をつける。


「殺す!」

「決め手に掛けていて儂を倒せると思っているのか?」

「お互い様だろうが!」


がむしゃらに余波を散らすくらいの濃密な魔力を展開させながらぶつかり合う両者。弾かれながらも戦う場所が移り変わる。

近隣の住民にまで被害がと意識したが人の気配が感じられないので一先ずは安心するが一体誰が手を打ったのだろうか?

いや、考えても仕方ないわね。


「………」


気が付けば雨は止み、月明りが刺し掛かっていた。暗さにも慣れ、悪魔と悪魔の動きも鮮明に見えるようになってくる。

速い。瞬きすら許さない中で衝撃と衝撃がぶつかり合い嵐を生んでいた。純粋な魔力をぶつけ合っている一見非効率的なやり方だが互いの力を推し量るには有用な手段だ。

きっと一癖二癖ある戦いをしたところでカラクリや穴を見抜けないのを知ってのこともあるのだろう。

しかし戦況に開きは中々見られない。この単純な力比べでさえヴァリスとダリアスは拮抗している。


「ほう? 人の子にしてその身体で対抗しうるか」

「ああ? テメェみたいな衰えてる雑魚に遅れを取る訳ねえだろ?」


闘争心を増しながらも笑みを絶やさない彼等は久方振りの死のやり取りを心の底から楽しんでいるようにしか見えなかった。

長丁場な死闘になるやもしれないが、それは困るのだ。

もう皆を逃がしてから経過した時間は短くない。いずれ違和感を覚えて引き返してくるかもしれないのだからそれまでにどうにかしなければーー。


「(だけど………均衡は崩れるの………?)」


特に驚きはダリアス・ミレーユだ。単独で悪魔と互角に渡り合える戦闘力と理解不能な不死制を有する彼女は無敵の類にすら等しい。

結局カラクリは全く現状の短い時間で見つけるのは不可能だろう。それは彼女にだけではなく、流天のヴァリスにも言えることだ。

魔法の反射自体は珍しい方だがまた彼の力は別次元であると予想。理を歪めた事象を発生させていたと認識するなら単純に反射以外の応用もあるだろう。もし絶対的な状況すら変えてしまう飛び抜けた力ならば発動させた時点で何もかもを無力化してしまうことになる。

唯一救いがあるとすれば二度発動させた瞬間がどちらも守りに入っている時だ。攻めへの使用が出来ないのならまだ活路はある。

厄介なことには変わらないが。

ただそこをどう攻略していくかに関しては私の中では固まりつつある。

後はその好機をしっかりと狙えれば。


「そもそも儂の狙いは主ではないのだがな」

「知るかよ。いや、それを言い出したら私もだけどな?」


交わる言葉と一緒に両者の視線が一つの方角へと向けられた。

それがどこで誰なのかはもはや語るまでもないだろう。


「………試されてる訳ね」


この状況下で傍観しているようには見られていなかったようだ。いや、狙いが見透かされていると言う方が正しい。

だが、出来るものならやってみろと言わないばかりなそれらの視線に冷や汗ものではあるが。


「(でも………やるしかないわ)」


此方に注意を割きながら死闘をするものならば問題はない。

見せてあげるわ。

カナリア・シェリーとっておきの奥の手をーー。



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