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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
始動
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−天才に偽り無し−


「(さあ、皆は逃げたかしら?)」


ぶつかり合う魔力の波動の勢いに踏ん張りながら私はそんな別の思考をする。

実は先程の街の外まで誘き出したい狙いは嘘である。かなり急なことだった為にもっともらしい理由が説明出来ない中、先輩の計らいには大いに助けられた。あのひと押しがなかったら思惑通りにはいかないだろう。


「(しかし本当にただ者じゃないわね。何処まで予測がついてたかは知らないけど)」


彼の底知れない天性のものはもしかするとカナリア・シェリー以上にーー。


「余裕が感じられるのう? 人の子よ?」

「ーー!」


頭を丸ごと鷲掴みに出来そうな大きく脅威的な手が自身を捉えにくる。もはや亡き存在と化したあの翠の悪魔と呼ばれたダリアス・ミレーユを簡単な葬った一撃が轟音を立てる。

ただ体格差があり過ぎる為に普通に屈めむことで空を切らせる。そこから反撃を打とうとしたが、続け様に迫る流天のヴァリスの肉体に備わる刺々しい強靭な尾が追撃をしてきたことにより、私は反撃を中断して背後に下がる。拍子に衣服の一部を掠めとられており、その部分を確認すると僅かな煙を上げながら溶けていた。

暑くはない。

となれば答えは一つ。


「毒かしら?」

「猛毒じゃ。当たれば人間じゃなくとも無事じゃ済まない程にのう」

「純粋に怖いわね」

「抜かせ。顔色一つ変わっておらぬではないか」

「生き死にが掛かっている場面では冷静を務めてるだけよ」

「簡単に言いよるわい」


ダンッ! と強く地を蹴り、胴を抉るように無造作に腕を振るってきた。先程も確かダリアス・ミレーユが無惨に呆気なくやられてしまった映像が蘇る。

しかし悪魔の腕とやらの破壊力がどれほどのものかは大体想像出来るのに加えてはっきりと断言出来ることはある。

冥天のディアナードの鬼神の力には勝りはしないと。


「【竜の腕】」

「ーーほう」


具現化武装魔法。想像するは悪魔にヒケすら取らないであろう伝説上の生物の屈強な鱗に鋭利な爪を纏う腕。模倣したとは言えその性能は悪魔と拮抗出来る程に強力なもの。爪と爪がギチギチと鈍い音を立てながら力比べが始まる。

流石にそうなれば私には部が悪い。どれだけ頑丈で破壊力があろうがそれは腕までにしか及ばない。私自身は竜でも何でもないのだ。

全身が悲鳴を上げる前に絡み付く腕を受け流しの要領で離す。僅かに軸をずらして動きに間が出来た隙を見逃したりはしない。


一度踏み締め、反動をつける要領で右足を蹴り上げる瞬間。


「ぬ!」

「具現化武装【竜の脚】」


形状的には腕と大差ない。そして破壊力だけでも根本が私の肉体なのであるから致命打を与えられるかは何とも言い難い所だ。


しかしそこに新たな要素が加われば話は別である。


例えばーー。


「【俊電・雷竜】」


具現化武装に組み込むアリスさんの技を借りた応用魔法。種別的には融合の位置付けになるのだろうか? とは言え強力な力に強力な力が上手く噛み合うかなんてのは魔法同士では非常に繊細さが要求されるから融合に関して言えば一長一短だ。ましてやそのまま乗算される程単純なものでもない。

ただこのやり方は本当に分かりやすいものである。


「融合よりかは魔武器に近い使い方かしらね」


そう漏らした時には悪魔の胴体に一閃を刻み込んで自身よりも遥かに巨体である存在を吹き飛ばしていた。

正直可能な想像はしていたが考えていたよりも斜め上をいっていた。こうなれば理論もすっ飛ばしてこうしたら強いんじゃないか? って考えに基づいた方法も悪くはない。

何故私がアリスさんの扱う【瞬電】を【俊電】と改名したのかと言うのは、その力に付き纏う代償を減らしたが故だ。あれはある意味天器級しか授かれない程の代物。恐らくは彼女も原初を見て、真似て、昇華させた技であり、もしかしたら本物には遠く及ばないかもしれないし、及んでるかもしれない。その為に必要な経験、知識、技術、体験、思考、研鑽、努力、反復、記憶、要領、性質、理論、構築、肉体、精神ーー様々なものをその身に焼き付けたからこそ可能にした新たな技である。

それを更に私が見様見真似でやっているのだから弱体するのは必然だ。

何より肉体的な負担があまりにも強く、昔のような環境でなければ耐えられないだろうし、その中でも飛び切りな定めに見舞われる過程を持ち得なければ巡り合わない力だと推定する故に私が全てを引き出せる道理がない。

真面目にやれば今頃手足が引き千切れている可能性すらある。

そうならないように私は工夫した。

もしアリスさんの【瞬電】が元の半分くらいだとすれば自身の【俊電】は更に半分くらいの強さだろう。

ただそこから工夫して近付けるのが天才の仕事である。

まあまだ色々な弊害は押し寄せるが。


「ーーッ、もしかして骨外れちゃったのかしら?」


僅かに痛苦に顔を歪ませる。

振り切った方の足がまるで自分のとは思えないくらいに力を入れても言うことを聞かない。

要は動かせないのだ。

状況からして笑えないが、呑気に私は笑ってしまった。


「ま、追々改良を加えるとして…痛ッ」


多少荒療治だが、無理矢理地面を踏み締めて外れた関節を接合する。カナリア・シェリーにしてはらしくない荒い手方だ。それでもこの状況下では致し方ないだろう。

まだ戦いは終わってないのだから。


「神速に届きうる技を成すか。何処までも逸脱した人の子よのう」

「………!」


ガラッと激突して崩壊した建物の瓦礫から現れる流天のヴァリスは予想以上に損傷の気配を見せない素振りだった。

倒せないとは読めていたが、まさかこんなに平然と立ち上がって来られるとは想定外だ。こちらとら関節が外れる対価を払っているのに。

単純な耐久力が高いにしても説明がつかない程に今の一撃は手応えすらあったのだ。魔法関係が干渉した風でもない。

これもまた不可思議な力が働いているのか、悪魔達には相変わらず変なカラクリが多い。


「二度は通用せんぞ?」

「………」


流石に冷や汗をかいてしまう。仕組みが理解できない以上は此方の攻撃が通用する術がないままに戦わなければならない。

あの怪物と生身で。

具現化武装で全身を覆うことは叶わない。何故ならそれは変身の類に意味が変わり、複雑な創造性を必要とするから現状よりも性能面で劣る可能性がある。

それに長い時間戦える程、今の私には余裕は残されていない。


「ハァ………ハァ………」


悟られないように静かに息をするも額に滲む脂汗とかが強まる。

此れ程の力を早々何回も使えばどうなるかは分かり切っている。その対策に身に付けた外干渉魔法も完璧ではないから止むを得ず自身の肉体から引き出しているのだ。

ただそれ以上にーー。


「少しは鈍っていた身体も温まってきたわい。これからが本番じゃぞ?」

「ええ、よーくわかったわ………」


更に圧力が膨張した。

恐らく先程の脂汗は体力的なものだけじゃなかった。

こいつ。まだ本領すら見せていない。

寧ろようやくやる気が出てきたくらいの勢いだ。流石にそうなるとちょっと暗雲が立ち込める事態になる。

苛烈さを増す戦い。向こうはどんどんと強さを増す一方でこちらはどんどん下降していく力。

長引けば勝機なんて微塵もないのは明白だ。


「全力で挑むのじゃな。死にたくなければのう」

「生憎様。既に私はかなり全力よ」

「ならばどうしてそんなに余裕でおれるのかのう?」

「………」


答えられない沈黙。なのに表面上は素直に私は述べている。

それを流天のヴァリスはどう考えるのか。


「そうか、時間稼ぎか」

「まあ気付かない道理はないわよね」


死と背中合わせの状況で逃げる訳でもなく、仕掛るでもなく、ただただ彼が口を開けば会話が成立するように応対する理由なんてそれしかない。


「だがわからぬ。お主は特に何をしようって気配も感じられない」


怪訝な表情で私を窺う強者。まるで狙いを見破って打ち砕こうって魂胆しか見えないわかりやすい態度。

だけどね。貴方には絶対にわからないわ。

何故ならこの展開を予期出来るとしたら予め未来を見ていない限りわからない。

そしてーー。


「あ? なら代わりに私が導火線に火をつけてやるよ!」


見破れない流れさえも診ている私を他所に彼女が始動した。


爆撃。

言葉の通り導火線に火をつけたが如く悪魔を含めた周囲は爆砕。比較的小規模に見えるが、発動されたのは濃密な魔力を媒介にした超威力の魔法を最大限に圧縮したものによる力だ。あそこまで凝縮した魔法は中々お目にかかれない。


と、そんなことよりも問題は誰がそれをしたのかだ。


「どんなカラクリで頭を吹き飛ばされた貴女は復活したのかしら?」

「その割には涼しい顔してるじゃねえか? 異端?」

「少なくとも異端呼ばわりされるのはそっちでしょ?」


普通なら驚愕しかないであろう。

つい先程流天のヴァリスによって絶命した筈であるあのダリアス・ミレーユがそこに変わらずいたのだから。

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