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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
始動
75/155

− 天才なんてたかが知れている⑥−

久しぶりの更新です


「………ッ!?」


ほんの一瞬だった。

まるで走馬灯を見るような感覚のそれが自身に襲い掛かってきたのは。



唐突な事象だった。


『ーそんな』


気付けば私達は壊滅状態に陥っていた。


炎に焦がされた者。悪魔の尾に突き刺された者。まだ微かに息はあるがその大きな手に掴まれて身動きが出来ない者。


そして私ーー。


私は多量の魔法を行使した反動によって再び口元を血で汚しながら膝を付いていた。


結果は歯が立たなかった。こんな一方的に成す術がない展開はかつて無かっただろう。私達の前に君臨する老齢の悪魔は全くもって無傷なままであった。


刹那の一斉攻撃だったからどうしてこうなったのかすら理解が及ばなかった。分かるのは此方の攻めはまるっきり通用していない事実だけである。悪魔ーー流転のヴァリスは想像以上の化け物だ。


駄目だーー勝てない。



そんなまだ確定もしていない未来の映像を目の当たりにしてしたのを皮切りにーー。


『まさか!? 〇〇〇〇○が!?』

『しまった………。道理で気付けない訳だ』

『これからどうなる………の?』

『わからねえ! だが最悪なのは確かだ!』

『これは早急に対応しなければーー』


そんな鬼気迫る声が駆け抜けていく。頭痛を催す耳鳴りと見覚えがない静止された映像の断片。


『待っーー。どう言うこと!?』

『全ては混沌に。世界は破滅に』

『ーーッ!? 嘘でしょ………?』


誰の言葉が、誰かの言葉が飛び飛びに響き渡る。


『魔女とはーー』

『砂みたいに私の中から溢れていく………』

『偽りの記憶?』


これは何だ?

私は知らない。記憶にない。


『エイデス機関の目的はーー』

『そんな!? この世界がっーー』

『いい加減疲れたよ。私には関係ないことだ』


未来予知? それにしては一貫性のない不穏を帯びた話題ばかりだ。そもそもどの視点からなのかも曖昧なもの。


『シェリーちゃんはーー』

『何でだ!? 何でそうなるんだよ………』

『だから言っただろう? 私は警告した』


時系列がバラバラ。不確定な情報が自身に頭痛と言う形で襲い掛かる。

全てに意味があるようで意味がないようなわからないことだらけの映像の断片。多分時間が経過していかないと繋がってこない今はまだ未完成の未来だと思う。だから知る由もない。

ただ一つだけが脳裏を過ぎってしまう。


『災厄の前触れーー』

『死んでしまえば元も子もないんだよ!?』

『くそっ!! あいつがいなければ何も変えられないのかよ!?』

『知ってはいけないこともある』

『じゃあ………私が悪いって………言うの?』

『お前に分かってたまるか!』

『止めて!! 皆!!』

『もう諦めるしか………』

『これが普通に見えるッ!? 普通にしているように見えるッ!?』

『すまない………』

『まあ、こんなものだろう? 人の生き死になんて』

『敵は世界? それとも運命』

『相変わらず無知だね』


悲鳴が、悟りが、諦めが、嘆きが、苦しみが、絶望が、無力が、驚きが、痛みが、謝罪が、怒りが、終わりが。

絶え間なく、駆け抜けるように過ぎ去っていく数多の感情と言葉。

もしこれがまだ見ぬ先の未来を暗示したものであるならーー。


『ぁーー………』


私は魔女である可能性があるかもしれない。


『カナリア・シェリーは………』


そして肝心なことだけは知れないままに夢のように消え散る。



「んじゃ行くぜ!!」

「ーーッ!」


先陣を切ろうと鼓舞するように発する東洋人の青年の声によって私は意識を引き戻した。

そう。今は正に悪魔と死闘を繰り広げようとする直前の時なのだ。

何としてでも倒さなければいけない。


なのだがーー。


「ま、待って!」


正直一番息巻いていた自身が必死な喧騒で待ったをかけるとは考えもしなかっただろう。これには私以外の皆が驚きを隠せずにはいられないのは目に見える。

何故そんなことを言い出すのか? と。

だがもはや少しでも未来の暗示を視てしまったカナリア・シェリーには止めない訳にはいかないのだ。あれは以前にバーミリオン・ルシエラが見せた未来予知の現象に酷似している。意識がこの場から離れ、先の未来の世界を覗き込んでいたような感覚だ。体感は随分と時間を使ったと思うのに実際は全く時間の経過がないと言う不思議な状態である。

あの時に見たのは私が選んだ道の結末だ。今回も一部はそうだったが、いかんせん複雑で多大な情報量も一緒に流れてきた為に整理が追い付かない。古いのは上書きされるように覗いた記憶がぼんやりとしていく。もはや病室で目覚める前に見た悪夢すらも全く覚えていない。だがそんな薄れゆく記憶でも今やらなければ、導かなければならない選択肢が残されている。

これは自身がただ単に戦闘を避けて逃げる訳ではない。


一同の視線を感じながら思っている言葉を伝える。


「(ここで総力戦は駄目。出来るだけ遠く、街の外まで誘き出したいの)」


これ以上は流石に向こうに聞かれたくないので小声で告げる。細かい理由を話している暇はないので察してもらいたい所。


「しかしよシェリーちゃん。無闇に街に被害が出る可能性がーー」

「いや、俺も賛成だ。街の外まで誘き出そう」


唸る彼の発言を遮って承諾してくれたのはユリス先輩であった。

きっとその様子だと恐らくは理解したのだろう。

現状の非常に危うい場面に。


「ただ良いのか? きっと………」


珍しく神妙な面をして濁す言い方をする。

心配してくれているのだろう。そこは素直に嬉しく思う気持ちがある。

が、私は撤回しない。


「この局面で最適なのは私以外いないわ。自ら言い出したんだから責任は取らなくちゃね」

「くれぐれも無理はするなよ?」

「あら? 私が無理しているように見えるとでも?」

「無茶ばかりだろ?」

「でも無理ではないでしょう?」

「だから質が悪いんだろうが」


と、よくやる平凡そうなやり取りに苦笑しながら締めて悪魔に向き直る。

意外にも律儀に待っていてくれた。


「へえ? 結構優しいのね?」

「ふん、寧ろ儂を前にした余裕が伺えたのを見れば不意を突くより真正面から薙ぎ払いたくなったまでよ」


口角を吊り上げる老齢は悪魔でなければ闘争神みたいな感じだった。そう見えた為か、先程までより彼の像が大きくなった風に思える。

結局は手強さが増しただけかもしれない。

何度も幾度となく対峙して来た凶悪な化け物達。仲間がいなければ乗り越えられた試しのない敵を相手に私はーー。


「じゃあ始めましょう。後は頼んだわよ?」


一人で相手をしなければいけないのだから。


「………ぬ?」


背後にいた気配が散開するのを感じる。そして訝しむ流天のヴァリスは言葉ではなく、視線で問う。

カナリア・シェリーは挑戦的な態度をこれまでにない程に出して解答した。


「目当ては私よね? なら私だけで充分でしょう?」

「わからんな。所詮人間の小娘が一人の力でーー」


老齢の悪魔は全てを語る前に押し黙る。否、押し黙らせた。

この内から溢れる濃密な魔力と物理的な現象にまで関与させてしまいそうな闘志で。


「これでもわからないかしら?」

「お主………本当に人間か?」

「傷付くじゃない。歴とした人間よ? だから逆に言わせてもらうわ」


ーー所詮悪魔の力で異端の天才に勝てるとでも?

語るは世迷言。ただの平凡な少女なら。

だが私は違う。烏滸がましいかもしれないが、そんなことに遠慮して謙遜するにはもう人間の枠からはみ出てしまっている。

私は私の力に責任を持たなければならない。


「ふはは、面白い。それでこそ仇の打ち甲斐があるわい」


流天のヴァリスは笑った。

さあ、ならばもう言葉は不要だろう。


「やるか? 天災」

「ええ。来なさい。悪魔」


雷鳴が轟く。

雨が強まり、豪雨と化す。

空気が振るえて風の刃となる。


最後に雷の閃光が走った所でーー。



「さあ! 死闘の輪舞曲を奏でるわよ!」


人ならざる人と人ならざる者の戦いが幕を開ける。



複数の気配が闇を駆け抜ける。この雷雨と暴風が吹き荒れる中でもしっかりと進行を変えずに真っ直ぐと目的地目掛けて。


「はっ!? 魔王が復活するだと!?」


俄かに信じられないと顔にも書いてあるような驚愕をする織宮 レイ。

それを見て溜息を吐きながら頭を押さえるユリスはまるで馬鹿な奴に対して示すような反応だ。


「荒げないでくれ。これ極秘の内容だろ?」

「なら貴方が知っているのも変な話なのだけど?」

「ついさっき成り行きで巻き込まれた。文句ならあの天才に言ってくれ」


今更そんな細かいことでもないが、些細な話だろう。寧ろ組織として機能している観点とは違った新たな勢力として認識せざるを得ない。

どうやらあのカナリア・シェリーも一目置いているのだから問題はないだろうと周囲も一先ずは納得するしかない。


「しかし魔王が復活するとはどういうことだい?」

「ああ、話ではーー」

「皆既日食の日。まだ時間はある」


と、思うだろ? なんて勿体振った風に語る。正直全く理解が追い付かない状態の彼等を抜いて状況を把握してしまう細身の少年は中々に異質である。

そして間を空けて彼は説明する。


「が、もし皆既日食の日じゃなくても魔王を召喚出来るとしたら?」

「何!?」

「待って。それだと大前提に置いてた話が変わってくるわ」


まさかの事実に一同が騒つく。何せ仮説とは言え最も可能性がある理論であるから未然に防ぐ為に動いていたのにその根本が変わるとなれば全てが狂う。

ただ彼は首を横に振る。


「若しくは仮召喚みたいな不完全な形態では既に可能なのかもしれない」


完全には程遠くても良いならばいつでも問題ないとしたら? は正直実現出来そうではある。

ただ、それではあまり意味がないのでは?


「最終的に皆既日食の日に召喚し直せば済むんじゃないか?」

「あ、そうか………」

「その発想はなかったよ」

「だけどそんなことして………。いやそもそも方法が………」


課題となる大量の魔力。不十分な魔王が召喚された所で何の意味が? 最悪その未完な存在を倒してしまえばーー。


「ここから先の内を知るのはあいつになるんだが、少なくとも読めることはだ」


次の瞬間、彼はサラッととんでもない話を淡々と述べる。


「生贄に使うのが現れた悪魔を利用するとしたら?」


不意に一同が進行を止めてしまう。それくらいに内容を重く受け止めざるを得ないのだ。どれだけ発想が飛躍的なんだ。彼も、そしてまたあの天才も。


「あくまで予想だがな。この街一帯はきっと既に悪魔による召喚術式が作り上げてある。そして万が一流天のヴァリスとやらが打倒される展開になったら魔王召喚の生贄にしようとするだろう」

「おいおい、本気で言っているのか? まず奴等が共闘してるかすらも把握してねえのに」

「逆に聞くがこの場に現れた以上手を結んでない訳か? わざわざカナリア・シェリーを探してこの場に赴いているのに?」

「う………」

「まず既に堕天のルーファスとやらから情報を得ていることを口にしている時点でほぼ共闘は決まりだ」

「な、なら何故同胞を生贄なんて………」

「言っただろう? 打倒される展開になればだ。きっとそれは最終手段に近いと思う」

「だから街の外に誘き出すんだね」

「ああ、術式は街中にしか張り巡らせてないだろうからな」


つまりそういうことだ。

理由に関してはわかるが、それでもまだまだ理解するには幾つか疑問が蔓延る。

あくまで仮説でしかないのにどうしてそうだと決め付けて動ける? しかもその先がどうなるかすらも不確定要素だらけなのに今の対処が正しいと言い切れる?


「要するに信じて危険が回避出来てるのかを証明するものはない。全ては予想だ」

「間違いないぜ。俺達からしたら妄言、妄想にすら感じる」

「ええ、或いはーー」

「未来予知」


如月 愛璃蘇の続きを遮ってユリスは述べる。

まさか。とその言葉を信じれない彼女。しかしそれは無理もない。何故なら自身が宿す魔眼は古きから伝承される呪いにより得た力。こればかりは才能の良し悪しなんて関係はしないし、偶然に得られる代物でもない。


「本人が語らないことには全ては謎にしか包まれていないが」


遠くの方で強力な結界が張られるのを感じる彼はその方角を眺める。


「………少なくともカナリア・シェリーには何かが視えた上でのあの場の行動だと思うがな」

「何も説明されなかったのにどうして君は読めたんだい?」

「昔から表情で読み取ることが多かったからな。あの様子を目にすれば自ずと答えが見える訳さ」


やけに特殊な能力を暴露する。

あまり深くは聞かない代わりにオルヴェス・ガルムは別の質問で話を変える。


「では不完全ながらも召喚される魔王ですら我々では倒せないと彼女は判断した訳かい?」

「こう動いているということはそうなのだろう」


結果が物語ると言われれば実績のある天才の判断を信じる他ない。だから一同はそれに合わせて動くしかないのだ。

既に歯車は動いてしまっているのだから。


「まあまさかなんてことはないだろうが」


と、ここで東洋人の青年は呆れ半分の苦笑をしながら冗談混じりに述べる。


「俺達を逃す為に仕組んだものとかじゃないよな?」


飛躍した考えを聞いてしまった故か、彼もまた合わせて裏を読んだような意見を出す。

何処まで真実なのかも現状判断出来ない以上。全てが偽りで別の思考に基づいた嘘って考えもない可能性はないのだ。

正直、程の良い理由が無ければこの中の誰かは指示には従わないで悪魔と交戦するのは明らかなのだから。

言い出したらキリがないからこそ彼は敢えて冗談みたいに語るが。


「まさか。適材適所で合理的に判断しただけだろう。流石にそれでも確認はしたが、本人が問題ないと答える以上、信じるしかないさ」


ユリスは特に普段の普通通りな様子で織宮 レイに淡々と返事をするのだった。



ただ、実際は普通に嘘なのだがーー。



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