表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
第一章 始まる物語
7/155

−天才にできないことはない②−


情けない自分である。

そんな感傷的になってしまっているカナリア・シェリーは周りが認める比類無き天才である。しかし、酷く臆病な年頃の少女でもあるのだ。

弱々しくなって気が沈みそうな所に朗報が舞い降りて来た。


「ん?」

「どうしたの?」

「いや、ちょっと連絡が………あ」

「?」


今では多少恵まれた学生か、団体の融資で支援が貰える人材なら持っている携帯式通信機器に届いた内容を見て間抜けな声を出す。音声のやり取り以外にも文字による受信や送信も出来る為、ちょっとばかりその文章に驚く内容だった。

レミア学園に入学してから幾度となくある許可を学園側に申請していた休日の校外外泊申請。

門限までに帰ってくるのなら多少の校外進出は休日なら問題ないが、日を跨いでしまうような遠出になる事は中々通らない。夏や冬の帰省なら可能ではあるが、私の場合は特殊で色々と通りづらいのだ。

天才で有名な自身は事件に巻き込まれる危険性と言った問題により、ある程度の自己管理が出来ると判断されなければ無闇に1人で行動出来ないのである。

過去にもそんな有名な学生魔導師が事件の引き金になったり、狙われたりした事例があるので厳しくせざるを得ない。特に異例な私が干渉すれば自国だけならず他国にすら影響を与えうる状況を作ることだって有り得るのだ。

学園側としてもそれは避けたいにも関わらず、此方は外に出て様々な世界を知りたい我儘を貫く。

ここはもう狭いから。

まあしかし諸々による事情でこれまで幾度となく申請して幾度となく降りなかったのがーー。


「ようやく許可が出たのね」


校外外泊申請を受理する内容の記載された文章を見て顔の筋肉を僅かに弛めてしまいながら言葉に出すのだ。

ただ内容には別途詳細は生活指導部から聞くようにとも書いてあるのでそちらに顔を出す必要はあるけど。

何か条件がありそうね。


「そんなに外に行きたかったの?」

「ええ、知らないものを見てみたいのよ」

「シェリーちゃんって好奇心旺盛だね。私は怖くて外の世界に踏み出すのを躊躇してしまうなー」

「そんなものかしら?」

「籠の中の鳥って外を知らないから出る事も一苦労なんだよ」

「………」


どうしてそんな所は臆病なのだろうか? 自分からしたら何にも縛られずに自由で、天才なんて大した事がないくらいに世界の広さを痛感したいのに。誰かに自分から歩み寄れる勇気があるのに外に出るのは躊躇うなんて変な矛盾でしかない。逆に私もそうなのだろうけど、もしかしたら2人を足して割れば丁度良い感じな存在が出来上がるかもしれないのか?

多分何もかが普通な存在だと予想は出来るけど。


「まあ行くのは私だし、今は学園側で外に出た時の為の様々な勉強をしとくのがフィアナには必要かもね。そうすれば何れ興味が湧くかもしれないわ」


既に学園で学べる事は学んだからこそ助言できる。きっと外の世界に行けば此処であるような助けはないだろう。要は自分の身は自分で守れなければならない。或いは培ってきたもので生きていかなければならないのだ。

大戦や世界の危機があった今でも平和とは言え、まだまだ安定した情勢は完成していない。それは恐らくだろうけど、万が一実例を考えて責任を持った行動をしなければ駄目だ。


「興味はあるんだけどね。でもやっぱり変な事件に遭遇するのを考えると………ほら? つい最近もあったじゃない?」

「最近?」

「国内での魔導師失踪事件」


箸で摘んだ穀物を美味しそうに口に入れて頬張りながら彼女が言うのを聞いて思い出す。

確かにそんな事件がここ1カ月前くらいにあった。

才ある若手の魔導師が数人何の経緯や原因もなく唐突に行方を眩まして未だに見つからない失踪事件。その中にはあのエイデス機関に所属していた者も含まれている。事態を重く見て捜索は機関の中でも優れた有能な魔導師が指揮を取っているが難航しており、解決されていない。

近隣ではないが、軽視は出来ない。もしかしたら此方でも起きてしまう可能性は十分に有り得る。

現在は音沙汰無しであまり大きな話題にはなってはいないのがまた更に不気味さを際立たせているだろう。寧ろ報告に上がっていないだけの知らない場所で失踪は今も尚続いているかもしれない。

注意するに越したことはないか。


「フィアナなら大丈夫よ。あれは有能な魔導師ばかり狙っているから」

「えー、安心出来るけど私は有能ではないことになるじゃん」

「さっきの実技の結果でそれ言うんだ………」


無能でもないけど巻き込まれる程の特別性は限りなくゼロに近いのだけは断言する。まあ、現時点での話だから深刻に受け止められても困るのだけれど。

ぷくぅ、と頬を膨らませる姿に苦笑いしながら私は宥めて昼食を済ませるのだった。

それにしても学園側の提示する条件は一体何なのだろうか?

聞いてみないと判らないが、何故か自身は嫌な予感を禁じ得なかった。



暗闇に点々と灯される街の光。他にある光源と言えば雲の隙間から射し込む三日月くらいのものだ。

完全な夜の世界。静まり返る街中は昼間と違い不気味さを持ち、まるで人が一瞬で消えてしまったような空間。唯一街灯や民家の光が人の気配を感じさせるのが救いではあるがそれもごく僅かな数であり、大半は真っ暗でそんな少ない明かりを頼りに何とか道路を進められる程度の街。

1人の若い女性が歩く。前述した暗い通りを彼女は手に持つ杖の先端を魔法の力で発光させて、松明みたいな明かり代わりに小さく照らさせて進む。微小ながらでも歩く分には不自由はしない。


「………え?」


ふと頭巾を被る女性は声を出す。そして動かしていた足が止まる。

妨げた正体は眼前に立ちはだかるを被る謎の人物だ。無言で何の理由もなく居る不気味さはこの時間帯では危険な香りしかしない。

目的は? 理由は? なんて問う必要性すら憚れる空間で、別に確認せずとも自ずと答えは見えて来る。

彼女は一歩足を後ろに運ぶ。いつでも動ける体勢を静かに準備していた。

相手は動かない。まるで観察しているかのような得体の知れない状況にどうすれば良いかが難しい。もう判りやすい行動に移してくれればそれなりに対応が出来るのに。

無言の圧力とはこれなのだろうか?

最初に声を出して以来、女性は何も発する事が出来なかった。この空間がそれを遮るのだ。一見冷静に見えて実は怖すぎて声が出ない。正直足を後ろに運べただけで精一杯なのだった。

ではどうする? こんなじり貧な状態で相手に全権を委ねられているような現状を好転させられるのか?

否、彼女からそのひっくり返す事は出来ない。もはや死の覚悟をするくらいしか出来る事がないのだ。

この展開になってから一体どれだけの時間が経過しただろうか? 実際には大して経過していないかもしれないが、随分と長く居るようにすら思えるのはそれだけ苦痛な空間の裏付けなのだろう。

嫌な汗が滴る。顳顬辺りから頬へ、頬から顎に向けて垂れていく気持ちの悪い水分。

そんな冷や汗がゆっくりと地に落ちた瞬間ーー。


「………違う」

「ッ!?」


一言。ようやく沈黙を破ったのは理解出来ない謎の言葉だった。何がどう違うのか? その疑問のみが彼女の脳内を巡る。が、解決なんてする訳がなく質問するのが一番早い結論となり、行動へと移そうとした。

しかしその思考する時間が仇となった。女性が言葉の意味に意識を向けている間に謎の人物は姿を消していたのだ。

音も気配も一切無く。そんな相手は本当に居たのか? と自問自答したくなる程に、最初から誰も居なかったように眼前から消えた。

助かったと言うべきなのだろうか? 本人自身よく判らない状況に戸惑いしかない。だけど安心からか、地べたにへたり込んでしまっているのはそういう事なのだ。やはり助かったの判断で間違いはない。

結局何だったのか。現れたのも自分を見ていたのも目的も相手の言葉も全く持って不明で謎で判らない。

ただ1つ言えるのは普通ではない異常な存在だった事だけ。

あの全てを見透かされたような気分にさせ、金縛りにさせるくらいに不気味な雰囲気とーー。


「………」


彼女はそれ以上何も考えられなかった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ