表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
始動
62/155

−悪魔的天才−


恐らく上空から見ればそこは巨大な壁に囲まれた円状の大都市で、魔法陣を意識した形取りなのだろうと思った。幾度となく再建をしたそこは正に強固な要塞にすら傍目には見えるだろう。

大都市セントラル。様々な貿易の要であり、才能に恵まれた魔導師から憧れる魔導師が集まる叡智の都ですらある。大陸を支える九つの大貴族と政府、そして全土の治安を担う実力魔導師の組織エイデス機関。その三柱が密接に協力してこの場所を中心に大陸、ひいては世界に中継していくことにより平和を築いている。

と厳重な門を潜って無事街に入れた所で区切るとして。最初に先ず簡単な成り行きから説明した方が早いかもしれない。

私こと元天才魔導師に落ち着いてしまったと思っているカナリア・シェリーがどうして訪れているかと言うとまあ様々な理由がある。意外にも最近は時期も時期で忙しくなって来たのと、この通り肉体面で魔法の制限が掛けられた自身は別の視野から活かせる力がないかを知る為、一番知識の宝庫としても有名な此処に赴く必要が度々あったりなどでこうして通算5回目のセントラルである。

特に今回は色々と重なる要件が多くてあまりのんびりも出来ない私は訪れて早くも大通り前で待つ一人の人物を見つけて声を掛けるのだ。


「お、来たかシェリーちゃん」

「悪いわね。わざわざ実務サボらせて」

「気にするな。仕事はアリスに丸投げしてるから」

「寧ろ気にするわよ。貴方も悪気なさ過ぎるわ」

「一応立場上上司である権限さ」


眼前にいる東洋人の顔立ちをした黒髪の成年。織宮 レイは子供には分かるまいみたいな大人の事情的な大義名分を掲げるが、完全に側からはサボり以外の何でもなかった。

あの人もあの人で優しいよりかは甘いと呆れてしまう。

私は彼よりも部下として雑務を押し付けられる彼女にこそ謝罪をするべきだろう。


「で、どう? 女の子の紹介の目処立った?」

「あの約束は反故よ。紹介の話は無し」

「何だと!?」

「程の良い口実に利用してたんだから仕方ないわよ忘れなさい。因みに目処も立ちそうにもないから素直に諦めるしかないわよ」

「ちくしょう!」


だからどうして学生枠に頼る? もう少し視野を広げる気はないのだろうか? 若しくは何かしら学生時代に不遇を覚えた経緯があるから引き摺っているのか?

知るか! 勝手に絶望しなさい! この鈍感男!

まあ挨拶みたいにしつこく迫るのに飽き飽きなので私は挨拶を早々に切り上げて本来の目的の一つに踏み入る。

こんなおちゃらけた話が真逆になるくらいに極めて真面目で重要な話を。


「で、とりあえず悪魔の捜索の進捗は?」

「………歩きながら話すか。狭い道に入るが構わないか?」

「お好きにどうぞ」


表情を一変させた黒髪の成年。本当にどっちが素なのかすら分からなくなるくらい裏表の落差が激しいから不意な提案とか委ねてしまう。どのみち人気のある場所での内容じゃないから助かるのだけれど。

そうして通りから外れた脇道に入る。多少なりの人は彷徨いているが、大通りに比べたら比較的少ないし、万が一誰かが聞き耳を立てていても直ぐに気付ける筈だ。

魔法関係なら私。それ以外のやり方なら織宮さん。何方かが異変を見抜ける実力を備えている。


「率直に言うとだな、全く進展がねえ」

「あら? 意外ね」


この場合の意外とは彼等、エイデス機関の一員達が張り巡らせる捜査網に引っかからないのは彼等が無能だからと言う意味ではなく、逆に目立った動きを前回の出没からしていない相手の方だ。暫くは事件らしい事件もないらしく、不気味なくらいに静観さを保っている。

何が狙いなのか?

水面下で実は気付かれないように行動しているのか?

現時点での進んだ情報がない以上、分かることは少ない。

ただ、唯一予想出来るとすれば。

このまま放置していればとんでもない事態を引き起こしてしまうことだ。


「シェリーちゃんの言う限りでは最低でも悪魔は後二体がこの地の何処かで潜伏している訳だが、確か堕天のルーファスは人に扮することも可能な雰囲気に見えたのか?」

「そうね。最初に対面した時は異質な何かに過ぎないくらいにしか見えなかったから擬態は難しくないと思うわ。現に魔天のエルドキアナって悪魔は天才達ですら翻弄されるくらい見事な擬態だったし」


故に万が一見逃している線を意識したが、先ず何の異変も起きていない時点でそこの疑いはなくなる。

火の無い所に煙は立たぬだ。まあ既にあちこちで放火しているのが今は静かなだけだが。

気を抜くよりかは引き締めていくべきだろう。


「ああ、だがもう片割れの悪魔の動向も不明なのは分からねえ」


それは私も同意である。だが確かにあの一世一代の死闘をした悪魔の中でも飛び抜けた化物ーー冥天のディアナードは語っていた。

流天のヴァリスと呼ばれる存在を。

まさかのまさかで此方側を動揺させる為に放った布石ではないのは間違いなく言い切れると思う。

ならどうしてか?

単純に推理すると3つ。


「堕天のルーファスと共闘して身を潜めているのか?」

「正直一番濃厚で避けたい可能性ね。ただそうなれば無闇に捜査網を広げ過ぎない方が良いかも」


バラバラに動いているなら二体の悪魔の何方かをその内見つけ出せるとは思うが、一緒に動いているならば捜査網の中を隠れ蓑にするかもしれない。とすればあちら側の思惑を読んで場所を絞る方が良いのだ。その分狭い範囲の探し方になるが、いつでも対処しやすい。

まあ協力関係にあるのが大前提だが。これまでの傾向で考えれば悪魔達は単一での行動をする節があるので全く的はずれな予想をしている可能性もある。


「堕天のルーファスは置いといてもう片方は穏健な性質を持っていて巧みに隠れているのも十分あり得るわね」

「なら先にカタをつけたい方の悪魔に絞るべきか」

「話し合いが出来るなら情報を聞き出せるかもしれないから寧ろ優先して探したいけど」


流石にそれは例え見つけ出せたとしても賭けでしかない。何故なら既に悪魔を二体倒しているのだ。同胞と認めた関係なら普通に仇扱いである。ならば刺激させないのが一番なのだ。

そして最後の考えは突拍子のない至極簡単な発想だが。


「既に誰かによって撃破されているか………」


それなら浮上して来ないのも頷ける。息を潜めているのではなく、息を引き取っている落ちも十分考えらない可能性ではないが相手が相手である。


「だな。倒されたなら倒されたで騒ぎがあってもおかしくねえ。敢えて報告に上げない理由もないもんな」

「情報から推理したら手練れなのは否定出来なさそうだったわ」

「何れにせよ、選択肢としては堕天のルーファスに狙いを絞るしかないのか」

「3つの推理の中に答えがあったらね」


後は悪魔はその二体しかいなかったらだ。どうにも毎回予想の斜め上をいかれるからこんな選択肢に絞って良いのか不安になる。

が、そんな私に彼は「心配し過ぎだ」と擁護してくれる。


「裏まで読めば裏の裏まで読まないと駄目だし、裏の裏まで読めば裏の裏の裏まで読まないといけなくなる。結局は定石通りに考えるのがこの場合正解だ」

「堂々巡りな話だったかしらね」

「だな。もう少し情報が入って来ない以上話は進まねえよ」


ここらが落ち何処だろう。まあ願わくば3つ目の見知らぬ誰かが私達が知らない内に倒してくれている方が都合は良いが。

でも果たして倒せる人材が居るのだろうか?

そんな疑問に隣を歩く男性は小さく「んー」とうねる。


「居ない訳じゃねえが………」

「歯切れ悪いわね」

「いや、今は忘れてくれ。あまり知っても良い気分にはならないだろうし」

「?」


気になる私に無理矢理話題を切り替えさせるように彼は一枚の無地の紙を差し出す。

一見何も書かれていないように見えるが、それは盗み見られない為の工作。手に持つ人物が魔力を帯びた指でなぞれば頭の中に内容が入ってくるのである。

口にすら憚れる程の情報を更に隠蔽しているとは本題は此方なのだろう。先の悪魔の件すら囮に使って道中での追跡や見張りがないのを確信する何重にも用心をした本題。

僅かに嫌な汗を覚えながらも隠された文面を読み取ることに意識を向ける。

ん? これは何かの一覧?

相当な人数の名前が浮かび上がる。しかも中には見知った名前も入っているから驚きだ。

だが次に発せられる織宮さんの口から更なる事実が告げられる。


「例の悪魔を封じていた結界に綻びを生じさせた可能性のある容疑者だよ」

「ッ!?」


目を見開いて無地の紙を食い入るよいに眺める私の手からそれを取り上げてすぐ様魔法による炎で焼き尽くす。

文面を読み取る技法だから既に頭に映像化できるくらいに鮮明に記憶されているので二度と見る必要はないのはないが。


「待って。今の中身本当に正しい?」

「勘違いするな。潜在的に可能な力を持つ意味でのやつだ。ぶっちゃっけ俺やシェリーちゃんも入っていたくらいだからな」

「笑えないわね」


会話の先駆けになった悪魔。彼等は元々遥か昔にあった【大いなる戦い】の激戦の中で偉人、英雄達によって封印された。

しかしここ最近になって封印の力が弱まり、そこを突いて一部の悪魔が此方側に飛び出たのだ。過去の人達の術式のおかげで直ぐに自動修繕されたが、それでも厄介なのが現れたのは仕方ないのだが。

問題は弱った理由。それは私達人間側陣営の誰かが仕組んで実行したに他ならない。

実際に以前に対峙した堕天のルーファスからもそう語っていたし間違いないだろう。

ただ誰かは不明。全くの見当もつかない気味の悪い状況が続いていた。しかも思惑や目的すら読めない。勿論エイデス機関には報告していたが随分と時間が掛かってようやく容疑者の一覧が出来上がったようだ。

出来れば一番ケリをつけたい最重要事項である。でなければまた同じ事件が起こるかもしれない。何故なら黒幕が何らかの狙いを持って行動している場合はきっとろくでもない事を企んでいるかもしれないからだ。


「容疑者ってことは確実にあの中にいる保証はあるのかしら?」

「ああ、エイデス機関にある魔導機械で現在の魔導師の中から演算して算出した結果だからな。逆に言えば絞り出せたのはそれだけだ。雲を掴むような話から砂漠から針を探す話になったものだ」

「貴方にしては言い得て妙ね」


それだけ四苦八苦しているのだろう。私もこればかりはお手上げだとしか思えない。先程の名簿だって数にして三桁だ。一人一人を探るだけでも相当な時間を要するだろうし、そこから裏を取るなんて気が遠くなる。しかも裏を取るのも難しい人物だって中にはいる。

まあそれ以上に現状、偉人や英雄の集大成に綻びを生じさせるのが案外簡単な事実に驚きだ。

だからこそ極秘裏なのだろう。皆に開示してしまえば混乱なんて話では済まないし、誰かが実行してしまうかもしれない。


「口外はするなよ?」

「ええ、因みにこれ知っているのはどれだけいるの?」

「俺とシェリーちゃんだけだよ」

「アリスさんは? 結構容疑者を探すのにも使える力持っているけど?」

「あれって露骨に力を解放しないと駄目な欠点があるから目立ち過ぎるんだよな。しらみ潰しにやるのは目立つからもう少し数を減らしてからの最終手段まで切りたくない手だ。それまでは知らない方が逆に制限されずに動けると思っている」


成る程。要するに私達が探すしかないのか。機を見て多少は情報を集める為に仲間を増やすだろうが、今は身動きし難い訳だ。

無理もないかもしれない。容疑者候補にはエイデス機関の全員は勿論だし、かなり上層部の貴族達も加わっている。容疑者扱いにされているだけでも問題に発展しかねない。

最悪犯人が入れば秘密裏に狙われる可能性も。


「話はしてないが、俺はそんな事態は想定した環境の育ちだ。で、相手がどれだけ強大だったとしても太刀打ち出来そうなのがシェリーちゃんだと見込んで教えている」

「課題評価されても困るなんて贅沢は言ってられないわね」

「ま、もし最悪な展開になれば二人の熱い逃避行が繰り広げられる訳さ」

「げ、まさかのケダモノと一連托生になってしまうの?」

「思うけどどんどん酷い言い草になっているよね?」


一番仕方ないことだ。寧ろ言われたいが為に発言しているとすら最近思っている風にも見えるからそろそろ無視する手段も考えている。

と、まあ長く話してボロが出ないようにした配慮なのだと信じたい。

逃避行はごめんだけど。


「いざってなればあいつに土下座したら何とかなるだろう」

「あいつって例の?」

「ああ、あいつなら世界を敵にしても変えちまいそうだからな」

「土下座一つで変わる世界って安いわね………」


本当にそうならば土下座する価値はあるが、出来ればそんな未来にならないようにしたい。

私の未来はどうやら明るい未来じゃない可能性を示唆してしまっている分尚更。


「ま、兎に角シェリーちゃんにお願い出来るのは候補の中から同年代の学生枠辺りを中心に調べて欲しい。残りは俺がする」

「簡単に言うけど今の御時世で他人の個人情報を探るのは容易じゃないわよ?」


代わりの代償が高過ぎる。それでも可能な限りはやるつもりではあるが。

と、そこで彼はこんなことを口にした。


「なら逆の方法をしてくれ」

「………逆?」

「数多い中から敵を見つけるんじゃない。信頼に足る仲間を見つけるんだ」

「仲間………」

「いざ、万が一、絶対絶命の危機、困ったら頼れる奴に頼って知恵を出し合え。困難を一緒に乗り越えろ。シェリーちゃんなら分かるだろ?」

「………」


言いたいことは分かる。織宮さんの人生はそうした道を歩んで来たのだろう。

彼の元々の姿は殺し屋と聞いている。本人は頑なに言わないが、知っているものは知っていてそこから脱したのが今の彼なのだ。

だけどまた私は違う。友達として信頼するのは良い。しかし仲間として頼るのは難しいのだ。

後戻り出来ないなら良い。が、知らない方が幸せな一面だってある。知れば本人はおろか、取り巻く周囲すら巻き込み兼ねない。それは更に広がり続けて何十年級の遺恨を残すかもしれないのだ。

悪魔と戦った時は世界の命運を握った大義名分があった。でもこの犯人探しに至っては単純なものじゃない。

今の私は答えを出せない。代わりの何かを返そうと考えたが丁度良い頃合いでーー。


「着いたぜ。案内も俺がするから何でも聞いてくれ」


そう言われて見上げるそこは織宮さんだけでなく、アリスさんやオルヴェス・ガルムと言った優秀な面々が集う魔導師機関の頂上。誰もが憧れる防衛組織。

エイデス機関の建物であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ