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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
始動
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−【進み出す歯車】−

そこは廃墟がある地方の外れであった。遥か昔に捨てられた村の成れの果てを連想させる寂しげな場所は陽も落ち、明るみもない漆黒の空間に染まる。

否、唯一月の光だけが照らしていた。ただ当然人が暮らすには些か不便で誰も寄り付かない地はもはや名前すらも失われてしまった。単純に悲しいがそれも時代の流れであり、二度と復興したりはしないだろう。

そんな廃墟に影が一つ浸入する。こんな場所に来るからには何か理由があるのだろう。

事実あった。

廃墟の中で座り込むもう一つの影だ。

待ち合わせをしていたようには見えず、捜し求めて見付けた風に見える影と影の邂逅。

片方が薄明かりに照らされる口を開く。


「お久しぶりです。我等に取っては些細な時間に過ぎませんがこうして再会すればそんな感想が浮かぶものです」

「フン、お喋りは相変わらずのようじゃな?」


座る影も暫く見なかった相手ーー若い男性に答える。

対する僅かに映る座った者は老齢の男だった。年齢差がかなりあるように見えるが、そんな見た目の問題は関係なさそうだ。

何故なら両者は遥か昔から生きている人外であるかに他ならない。


「なにぶん喋る相手が居ませんでしたからね。ついつい饒舌になってしまいますよ」

「相手ならおるだろうが、冥天や魔天が」


軽く返す。

しかしそこで若い男性は声の語気を落として告げた。


「彼女達の魂は還りました」

「………確かか?」

「エルドキアナはともかくあのディアナードの気配は貴方も少し前から感じ取れないのはご存知な筈」

「馬鹿な………」


俄かに信じられない老齢は同胞の死に思うことがあるのか、悔やむ仕草をする。それと同時にまだ認められない事実の裏付けを問う。


「あいつらを倒せる人間がこの時代に居るのか?」


倒された言うことは倒した相手がいる。彼が認める彼女達と呼ばれた存在が易々と倒れるタマではないのは長年の旧知として断言出来るし、昔にあった戦いの終止符の時ですら封印をするだけで精一杯だった人間が成せるとは思えない。特に若い男性が引き合いに出した冥天のディアナードと呼ばれる女性は彼等も一目置く力の象徴ですらあった。

が、若い男性はその彼女を認め、脆弱と思っていた人間がそうではないのを知った口振りで語る。


「一人の天才が今の世界にはいます」


或いは異端。或いは化物。或いは何方でもなく、何方をも担うたった一人の少女。


「その少女は我等ですら畏怖を覚える程に早熟で、才能に満ち溢れ、とてつもない因果を背負っているように見えました」

「貴様が高く評価する人物が討ったと?」

「この目で見た訳ではありません。それでも彼女以外に考えられないのです」


凶報をわざわざ知らせに来たのではないだろう。此方の世界に降りて静かに身を潜めるだけなら必要のない情報だ。

同時にこの場に現れるのにもそれ相応の理由がある。彼等は人外な故に何もなければ集まる訳がない。

あったとすればきっと封印される前に舞台の幕を上げた【大いなる戦い】の時くらいだろう。

だからこそ持って来た土産話にはまだ続きがあった。


「もうすぐ。魔王が復活します」

「!」


若い男性の言葉に反応する老齢。

その名は特別であり、彼が生まれてからたったの一度すら姿を見たことがない彼等の中でも伝説の存在。

正に人間達で言う神にすら等しいものであろう。


「準備は整いつつあります。我等はこの世界に再戦をするのです」

「その為に儂も付き合えと?」

「貴方が穏健な方なのは知っています。が、今となれば貴方の力が必要なのです」


それは彼女達に変わってと言う意味なのだろうか?

深くは語りはしない。

しかしある程度の事情、情勢、状況は聞いた。

老齢に断る選択肢がない程に。


「良かろう。同胞の仇としても儂は立ち上がらなければならないだろう」


重い腰を上げた。

彼にとっての数少ない仲間の死はそれだけ意味を持っていたのだ。恐らくは魔王の復活はついでくらいにしか思っていない。

同胞を失なったことが何よりも強い理由なのである。

加えて彼女達を討ったのが一人の人間の少女だと言う事も。

立ち上がった老齢を見て若い男性は笑みを宿す。


「ええ、貴方は貴方のままに動いてくれれば良い。十分過ぎる程に」

「貴様は変わらんのう」


再び灯される強き獣質の眼光を放ちながら旧知の名を呼ぶ。


「堕天のルーファス」


きっと利用されているようなものだ。と言うよりかは昔からそんなやり方なのだろう。今更文句を付ける必要もなく、選んだのは自身なのだ。呆れはするが。

その感情をぶつけられた彼は尚歪む笑みを貼り付けて答える。


「変わりませんよ流天のヴァリス。貴方と同じように」


廃墟が震え、休息をしていた周囲の生命が騒ぐ。動物から植物、その全てが二人のーー二体の振りまく悪しき力の波動に怯えているのだ。

彼等は異界の地から這いずり出し世界を脅かす悪しき存在。

人々は遥か昔からこう呼んでいた。

悪魔ーーと。


「では我は魔王復活の為に。貴方は同胞の仇の為に。共に協力しようではありませんか?」

「フン、久方ぶりの戦いに血が騒ぐわい」


悪魔達は手を取り合う。

一個対ですら世界に歪みを与えてしまいそうな者達の共闘がここに決まってしまった。

もしこれで魔王の復活もしてしまえば人々は、いや英雄達は。否、それも違う。

天才達は始めなければならない。


再び【大いなる戦い】をーー。


陽が昇り始めるようにまた止まっていた歯車も動き出すのであった。


ただしそれもほんの一部に過ぎない。

動き出しているものが更に膨れ上がり、止まらない氾濫となる未来はまだ知らないのだ。


とある者達を除いて。


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