表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
第一章 始まる物語
6/155

−天才にできないことはない−



「ったく、よくそれで母親勤まっているな? いや相変わらず変わってないとでも言うべきか?」

「うるさいわね。あんたこそエイデス機関で働き過ぎて婚期逃して学生口説いてるんじゃないわよ」

「おまっ! んな事するか!! 確かに面妖な雰囲気を持ち、大人びいた感じなのに意外に驚いた時の子供っぽさが可愛いのは魅力的だけど」

「あんたの好みは聞いていないんだけど………」


学園での講師指導が終わって帰りの迎えが来るまでの間、来賓室で休憩をしている朱髪の女性と黒髪の青年の2人の言い合い口調な会話は日常的なようだ。

彼等は用意された紅茶を口に入れ、喋り疲れて乾いた喉を潤す。

ふとボルファ・ルナは一息つきながら彼に改るように話し掛ける。


「にしても本当あんた性格変わってない? 前はもっと馬鹿な奴だったのに」

「馬鹿って何だ。相変わらずな気質を見ているとお前の息子の将来が不安になるぞ」

「そんな息子の話で私を大人しくさせようとするずる賢さもなかったわよ? 織宮 レイ?」

「………まあ、な?」


本人なのかを確認するような言い草に僅かに懐かしむような空気を醸し出す。

7年前の彼は彼女と一緒の軍人の同期として世界の危機に立ち向かった戦友のような関係だ。当時は先程述べたようにもっとおちゃらけたりしてお調子者の立ち位置だった。ふざけ過ぎて叩かれたり色々な目に合っていたが、いざと言う時は頼りに出来る存在。

何より朱髪の女性の夫である落ちこぼれさんとは一番の親友でもある。彼が居なければ未来は全く違っていたし、別の色を帯びていただろうとすら思えるくらいだ。

まあ結局それから軍隊は破棄され、散り散りになったが暫くぶりに彼女はこのレミア学園となる前だった旧レミア学園の主席卒業生として、彼はエイデス機関の任務としてたまたま再会を果たした。


「早い話大人になったって事さ」

「まだ結婚もしていないのに?」

「ぐ………。今所属しているエイデス機関はちょっと故郷でしていた褒められない家業の雰囲気に似ていてな。どうしてもその名残りでお前の言うずる賢い風になってしまうんだよ」


若干うんざりした感じで喋る。と言うよりかは疲れているのに無理をしているような口振りだった。あまり多くは語らないが、こんな言い方をするのだから自身の志とは上手く折り合いが付かない環境に身を置いているのは嫌でも伝わる。

だから戦友であり、仲間であった彼を思って正直に彼女ははっきりと言うのだ。


「嫌なら辞めれば良いじゃない」

「出来ねえよ。こんなご時世じゃそんな場所でしか役に立てない奴だっているんだから」

「あんたなら別に他でも生きていけるでしょ?」

「俺はな。だけど生きれない人もいるんだよ。元々前科持ちだし」

「………あの子ね」


織宮 レイの返答に少し気まずい感じに答えながらボルファ・ルナは納得する。

話題に出た「あの子」とは7年前の事件で敵対した勢力の一員。黒の使者と呼ばれる者達の1人だ。しかし、色々な過程を得て特例でこちら側に組する仲間となりはしたが、あくまで昔の話。

軍隊が破棄された後、才能は認められ黒髪の青年と同じエイデス機関に所属はしたが、それだけだ。逆に言えばそこ以外は現在居場所が無い状態である。

同じ生まれ故郷でもある彼は成り行きで一緒に異動はしたものの中々苦労が絶えないようだ。


「あいつは俺よか闇に染まった環境だったからな。いつ7年前の面影を見せてもおかしくないから誰かがその時は止めないといけないのさ」

「だからってあんたが面影を見せてたらどうしようもないわ」

「痛い所つくなよ。彼女が可哀想とは思わないのか? 幾ら夫の取り合いの宿敵だったからってーー」

「訂正するわ。あんたは馬鹿」


フッ、とはにかんだ笑顔を織宮 レイは見せる。久しぶりの変わったが変わってない相手の振る舞いが当時に戻ったみたいで楽しいのだろう。

大人になれば昔のように無茶も出来ないし、色々な葛藤やら立場やら事情が邪魔をする。そんなものを吹き飛ばすのが久しぶりの仲間との再会なのだろう。

今回の任務でたまたま相手が彼女で良かったと黒髪の青年は心の奥から思う。


「そういやお前のパパはどうしてるんだ? もうかれこれ5年は顔を合わせてないぞ。あいつも変わらずって感じか?」

「どうだか………また旅先で知らない女の子達に囲まれているんじゃない?」

「くそっ!! 昔からの変にモテる才能だけは健在か!?」

「大人は気にしないわよそんなの」

「お前は気にしなさ過ぎだろ。良いのかよ? そんなフラフラしたような旦那?」

「あー、大丈夫よ。ちゃんとそこは教育してるから」

「こわっ!?」


ちょっとした笑いが起こる。お互いに身寄りの話で悩んだり楽しんだりするのが大人になった今の幸せなのだろう。

色々あるが頑張っている訳だ。

と、そんな和んだ空間にコンコン、と部屋のドアをノックする音が聞こえてボルファ・ルナを名指しした呼び掛けがする。

どうやら雑談も終了のようだ。

彼女は立ち上がり、この場を後にしようとする。


「そういや、今回何の任務だったの?」

「最初にも言ったが極秘だぜ? 何せエイデス機関の仕事だからな」

「勿体ぶらないで。もう行かなければならないんだから」

「偵察さ」


織宮 レイの言葉を小さく反復する。その一言で何となく誰のかは予測出来た朱髪の女性は最後に古い仲間にちょっとした独り言みたいに漏らす。


「まだ腹が立つわあの学生」

「んあ?」


唐突に何を言い出すのかと彼は疑問するが、彼女は関係無しに誰とは言わない人物に対する文句を告げる。

まるで当時の若かりし誇りなんて立派じゃなかったものを抱きながらーー。


「生意気過ぎるし、あいつを馬鹿にするから思わず最上級魔法を使いそうになったけどーー」

「!」


腹が立つと言いながら何処か楽し気な雰囲気の表情を浮かべて言う。

その意味に彼は目を見開くのだった。


「彼女はそんな瞬間、とても嬉しそうにしていたわ。最上級魔法を前にね。恐らく使っていても止めれていたと思うわ」

「………予想以上の天才だな」

「口説く相手が悪いわね?」

「バーカ。ちげぇっての」


最後に軽口を交わして2人は再び自分達の進んだ道に戻るのであった。



「ほんと。7年前の世代って何か飛び抜けた人ばかりね」


正午に入った時間。学園は昼休みになり、生徒達は各々に昼食を食べ始める中、私は1人校舎の屋上でそんな言葉をぼやく。

織宮 レイ。黒髪の青年はそう名乗っていた。周りには聞こえないくらいの声量でエイデス機関の人物だと聞いた時にはぼやいた言葉が脳内を過ぎったものだ。只者ではないと見ていたが、まさかのまさかだ。

自身の進路次第では先輩になるやも知れぬ彼はそれを見越してか困った時はと連絡先の名刺を渡してきた。貰って困るものではないから貰ったが、今思えばまた違った意図があったのではないだろうか?

次にボルファ・ルナ。彼女自体はエイデス機関所属ではないが、7年前に世界を救った落ちこぼれの妻だったり更にはこの学園が新設される前にあった学園の元生徒で有名だったり。

何やら規模がでかい2人だった。


「あ、ここに居たんだ」

「! フィアナ」


そこへ見覚えのある人物がやって来た。まあ、先程面識を持った間柄ではあるけど。

どうやら自分に用があって探していたようだ。広い校舎だから苦労したのか、少し息が荒い。何となく体力がある方ではないのが判るが、一体何の用かしら?

そう尋ねる前に読心術でも使ったのか先手で彼女は答えた。


「お昼一緒に食べようと思って探してたんだ」

「え? そうだったの?」


可愛らしく純粋無垢な笑顔で彼女は頷く。

大したあれでもない事で校舎を動き回っていたのか。誰かと食べるなんて家族以外では数えるくらいにしか記憶にないから全然そんなつもりだとは思わず、わざわざ探してもらって申し訳なさが募る。

まあ、取り立て約束もしていないから私は悪くはないのだけど。


「折角お友達になったんだし、一緒に食べたいんだよ」

「お、お友達?」


何だその単語は? と思わず聞き返したくなるくらいここ数年耳にしない言葉だった。しかも今日のついさっき知り合ったのに彼方はそう言うのだ。戸惑うしかない。

駄目なんて返せば泣いてしまいそうな気がしたので素直にお友達と認めて一緒に食べる事にした。


「いつも1人で食べているの?」

「そうね。大体ここで過ごしているわ」


悲しきかな。もはや1日の生活習慣に組み込まれたような言い方に自分で寂しい奴と考えてしまう。

返答に困るだろうな、と意識していると彼女はーー


「私も大体教室で1人で食べているから同じだね!」

「………」


そんな話題の弾み方があるのか。別にお揃いだねとかみたいな共通点で喜べそうな内容ではない。まさか逆に此方が返答に困るだなんて天才でも予想出来ないわ。

ただ、こうして誰かと話せるのが楽しいのかもしれないと思わない事もなかった。互いに年頃の少女なのだから当然である。

1人ぼっち話題では盛り上がりたくはないけど。どんどん惨めになっていくだけだ。

と、唐突に話は変わって菖蒲の少女は質問をしてきた。


「シェリーちゃんって有名なのに何で皆寄ってこないんだろうね?」

「あら? 聞いたりしてないんだ」

「うん。どうして?」

「まあ突出した人間てのは羨んだり、憧れたりして人気者として寄って集まるんだろうけど………」


私は違う。違うと言うよりかは別モノである。突出した中から大きく開いて突出しているから近付くのすら容易ではなくなってしまっているのだ。

それは時として羨みや憧れから妬みや嫌悪へと変わる。一緒に居れば届くかもしれないような希望すら奪う絶対的な差。目指す気力すら無くなるのだから面白くも何ともない。

まだその程度ならマシだ。見る人によっては同じ人間とは思えないのすらあるのだろう。だったら次に連想するのは人間じゃないとか、化物だとか賞賛も一周して非難中傷へて変わってしまう。

加えてそんな対象の私は言葉足らずな不器用さを遺憾無く発揮してしまい、歩み寄れすら出来ない。と言うか価値を見出せないのだ。

どちらからも接近しない状態が続いて今なのである。


「確かに遠目で見ていたら誰も寄せ付けないような印象はあったかも。私みたいなのが話し掛けて良いのだろうか? っても思ったし、あまり周りの人には興味を持ってなさそうに感じた」

「じゃあ何で貴女は声をかけたの?」

「寂しそうだったーーから?」

「!」

「孤独よりかは孤高な印象はあったよ。ただ、そんな高い位置から誰よりも周りの人達の光景を物欲しそうに見ていた」

「私が………」


有り得ない、と一蹴して否定が出来なかった。言われてみて納得すらするくらいだ。

それは私の心境を外見の様子から見抜ける鋭い観察眼だと言えれば案外自分を一番知らないのは自分って訳でもある。


「だから周りを拒絶する気がないと分かったなら私でもシェリーちゃんに声を掛けられるかなって思って」


成る程。機をうかがえたから彼女はこの異端の天才と呼ばれる相手でも近付いて来れたのね。

自分にはない何か、だろう。私がフィアナの立場でならきっと同じ真似はせずにやはり撤退していた筈だ。正直天才だろうが、落ちこぼれだろうが私は同じ轍を踏んでしまうと思う。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ