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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
第三章 変わる為に
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−天才の物語⑤−



後日談と言うよりかは事後報告かしら? 何か前回のリアンの時も似たような感じだった。

気付けば、次に見えた世界は真っ白な世界だった。いや、真っ白い天井であった。何やら全身には怖いくらいに導管みたいな線が張り巡らされて身動きすら取れない状態。お腹には包帯がグルグル巻き、頭には変な名称も知りたくない帽子か頭巾みたいなのが被ってあり、ひたすら耳触りな一定音を響かせる機械が側に存在して、呼吸もしにくい不織布をする自身は化物かと思った。

こんな重体患者になるのが初めてで些か戸惑いもしたが、何とか命を繋ぎ止めた事実は変わりようがない。

人間そう簡単に死なないようね。

ともあれ暫くは安静に療養するしかないだろう。これだけ損傷した肉体がまともに回復するまでどれくらい時間を要するか。現役復帰も視野に入れたらげんなりしそうな未来。


目が覚めて暫くは痛みや息苦しさに涙を浮かべてモゴモゴする地獄か拷問をされている気持ちを抱きながら早くこの容態が楽になってくれと願うばかり。寧ろ辛さのあまりに終わらせてくれとすら考えながら起きて寝るを繰り返した。


ああ、これは相当時間が必要だ。


と思いきやそれから数日後。


「んー八割回復って所ですぅ」

「………マジ?」


私の主知医ーーセラ・ゲルビンさんは軽い口振りで経過を告げた。

いつの間にか普通に病院内を散歩していた。

理由は医療魔法の権威と呼ばれる最高医療魔導師の回復魔法によってあっさりと五体は回復してしまった。本当にどうなってるの? と聞きたいくらいの回復力に異端の天才も顔負けだ。寧ろ数日前の重体は何だったのか? と思うが、どうやら回復させるにも魂に負担を掛けるみたいで、特に死の瀬戸際であるならば肉体が回復しても魂が肉体の回復速度についていけなく離されてしまうとかで瀕死から全開は大変危険な処置なようだ。

それでも数日でのこれは驚異的過ぎるが。

流石は7年前の英雄の1人と称された事のある人だ。こんな生還出来る手段があるのならばもう少しあの時の戦法も変えられた気もしたと変なたらればが浮かぶ。聞いた話では胴体が二つに分かれた人も治したとか化物染みた武勇伝があるし余計だ。

だが彼女曰く不可能な事は存在するらしい。


「治せるのは自己再生が出来るか出来ないか。私は無くなったものを戻す魔法じゃないですぅ。だからカナリアさんの失なった一部の臓器が復活する事はないのでよおく心に留めて今後無茶はしないで下さい」

「………」


からくりみたいなものだ。

人間は自らの治癒力を持ち、彼女の魔法は瞬間的に治癒力を高める支援をする。それも魔力を使って爆発的に。だから例え真っ二つになった肉体でも生きてさえいればくっついて治る理論だけど、それでも人体の要である臓器みたいな無くせば復活しないものを元通りには無理である。セラ・ゲルビンさんは優しく濁したが、「無くなったもの」には「亡くなったもの」の意も込められている。故に死人も生き返えらない。

まあゾッとする話はさておき、なら臓器を失くしたカナリア・シェリーがどうして元気そうにしている謎はと言うと。


「まだ試作段階のが大分形になった代替え臓器。通称【魔臓器】は貴女の生命線と思って下さい」


魔力を吸って活動する臓器。人工臓器の改良版で極めて肉体と相性が良く、性能も格段に上でなお高い代物。が、欠点としては魔力を供給しなければ活動が著しく低下して様々な問題を引き起こす。加えてかなりの魔力が魔臓器に持っていかれてしまうのだ。試作段階だからこその欠点。なのでもし私が魔力を枯渇させればどうなるかは考えたくもない。

生命線ってもう死ぬってことよね?

二度とないと思うが、冥天のディアナードの時みたいに死闘をするのはおろか、無闇に魔法も扱えにくい。

原初魔法や最上級、更に上に位置づけられる極大魔法なんて使えば自殺行為に等しいだろう。どこまで持つか不明瞭な分、下手に魔法は撃てない。またあんな戦い方は選べないのだ。

ただあの時はそうしなければ生きてはいなかった。魔臓器だからこそ彼女の回復魔法の恩恵を最大限に受け入れられたようだし、最良の配慮なのだ。

贅沢なんて言えない。


「後もう数日。自己回復機能に私の魔法で補助すれば退院の目処も付きますので病室で………何かしてて下さい」

「適当過ぎるわッ!」


織宮さんが言うには凄い変わり者らしいけど、まあわからないでもなかった。

ともあれ、カナリア・シェリーは肩透かしを喰らい呆れた様子で病室で大人しようとしていたらどうやらそんな暇もなく、生きて良かったのだと思わせる光景を目の当たりにした。

開けた病室。

そこにはーー。


「あ、シェリーちゃん!」

「ヘッ、ざまあねえ面を拝もうかと思えば何だよ。元気じゃねーか」

「シェンリン。ご無事で何よりですわ」

「シェリー。君はまた無茶をして」

「カナリア・シェリー。よくやってくれた。私からもお礼を言わせてもらおう」

「順調そうな具合だなシェリーちゃん」

「言ったでしょう? 貴女の未来は消えていないって」

「シェリー。ありがとう。私含め、一族の為に」


決して大人数とはいかないが、全てが自身の為に見舞いに来てくれた友人、仲間、知り合いだ。再会の喜びを感じる者。からかいに来る者。容体の具合に笑みを浮かべる者。心配する者。感謝する者。回復の兆しにホッとする者とわかっていて不適に笑う者等と様々で十分過ぎた。

ちょっと前までじゃ有り得ない世界で求めていた映像で欲した居場所。既に両の手を使わないと数えられない人数は溢れないようにするだけで精一杯だろう。

が、まだこれから。序の口かもしれない明るい未来に私は破顔して彼等の元へ歩くのだった。


それから数日後に退院。更に数日を経て休学ーーと言うよりかはちょっとした季節休み明けの感じで学園へと赴く。

カナリア・シェリーは学生だ。勉学は十分で、成績も優秀だから特に通う必要性はない。

否、ある。まだ私は学んでいない事がある。

例えばーー。


「大和国から編入して来た神門 光華です。皆さん。世間知らずな奴ですがよろしくお願いします」

「………」


壇上で丁寧にお辞儀する灰色の少女を見て私は呆気に取られる他なかった。

いやいや何でここに居るのよ?

俗世間から身を引いた変わり者で有名な彼女は和装から忽ち年相応の学生に変貌しており、魔法か何かで特徴的な角は綺麗に隠されて何処から見ても容姿端麗な大和美人のか弱そうな少女にしか見えない。

悪魔に留めを刺したのは紛れもない彼女なのだが。

と、眺めていると向こうと視線が交差した。

当然そうなれば決まっているみたいな展開である。


「シェリー。今日からよろしくお願いしますね」


教師中の視線を一斉に浴びる羽目となる私は溜め息をつく他なかった。恐らくは悲願が成就されて重荷が無くなった彼女はやりたい事をやっているのだろう。もはややりたい放題である。

同じ年齢なのだから学び舎に来ても何らおかしくはない。しかも友人の居る場所なら尚更だろう。九大貴族の力を持ってすれば多少の無理だって押し通せる。

ただ光華って現当主なのよね。良いのかしらこんなに自由気ままで。


「………よろしくって言われても」


逸らす形で側にある硝子に目がいく。

すると、映る自身の表情は困ったようなものよりかは頬が緩んだ感じの間抜けな面であった。それに気付いた頃には時既に遅く、周囲から浴びる信じられない光景を見たとでも言いたげな視線に私は羞恥する。

何て顔してしまっているのよ?

周りよりも一番自分が問いたい疑問であった。

まあでもそんな気持ちに悩まされる天才も悪くはないのかもしれない。これから見ていく世界なのだから。

いや、もう天才の呼び名を名乗る事もないか。何故なら今の私には生命線たる魔臓器があるのだから魔法も使うのも厳しい。故に天才を誇示するのは難しいだろう。

だけどそれで良いのだ。天才になる必要が訪れない方が平和なのだ。そして天才でもなくとも選べる道はある。

それはバーミリオン・ルシエラが教えてくれたのだからーー。


その日の昼間。カナリア・シェリーは呼び出しを食らった。何事かと向かった先の来賓室に居たのは先日お世話になった織宮さんと如月さん。更に加えてオルヴェス・ガルムさんだった。

要件は謝罪であった。


「無事に………って訳にはいかなかったからよ。謝罪の意味も込めてな」

「止めてよ。私が選んだ道なんだから後悔させたみたいにはしないで」

「でも………貴女が居なかったら」

「アリスさんも今更気に病む必要はないわ。たまたま損害が大きくなってしまっただけよ」

「だけ、で済ませると私達も立つ瀬がないんだよ。君の成し遂げた事はそれくらい凄いことなんだ」

「だとしたら謝罪よりもっと他が良いんだけど。ほら、ありがとうございましたカナリア・シェリー様とか?」

「露骨に要求してきやがった!?」


そんなこんなで空気を和ましつつ、気負いを軽くさせる。自分のしたい、歩みたい道を選んだ事に迷いはない。


「まあ謝罪も込めてって実はお誘いなんだ」

「デートは御断りよ」

「なんてこった!? ーーじゃなくてっ!」


その割には凄く残念そうな雰囲気をしていて全く説得力がない中、引き締めた表情で彼は真面目に語る。

大方の予想がついてはいるのだけれどね。


「ーーエイデス機関に入らない?」


黒髪の青年の代わりに口を開いたのはアリスさんだった。自分から言い出すと言う事はそれだけ誘いたい本心の現れなのだろうか?

誘う理由は多分助力を求めているのではないだろうか? あれだけの相手を倒した面子の中にはまだまだ青二才と言われても変じゃない少女が2人も居たのだ。将来を有望視はするだろうし、まだ依然と残る悪魔に対しての抑止力となる。

ただ彼等の気配からはもっと別な思惑の方が感じ取れてそこを細かく自称剣聖が補足する。


「先程も言ったけど君の成し遂げた成果をありがとうだけで済ませるにはあまりにも軽いんだ。カナリア・シェリー。君は命を賭してまで守った人、世界は大き過ぎる。だから相応の対価を受け取らなければならない」

「つまり、謝礼みたいなものかしら?」

「謝礼かな? 報酬じゃあ気持ちが籠もらないからね」


あどけない笑みを作る彼に調子が狂う。元々苦手意識が強いからか友好関係にあろうと上手く接しにくい。

謝礼だって素直に喜べはしない。まずそれでエイデス機関に入ることの何処が受け取る対価なのか? 逆にコキ使われそうな不安しかない。


「確かに助力を求めたくなるかもしれないが、言えばエイデス機関は政府及び九大貴族から資金援助をして貰って活動している組織だ。当然個人の収入も極めて高い」

「?」

「君への謝礼はこれからの日常生活の援助。在籍だけして貰うだけで良い」

「えっと話が見えないんだけど?」

「要はタダでお金貰える話さ」


凄い胡散臭い。というのが本音だった。いやだって普通に考えてそんな美味しい条件はないのが世間だ。労働の対価として支払われるお金。

余計に話が見えてこない。

否、それだけの対価を提示する程の事にまだ抵抗を覚えているのだろう。私からすれば半分くらい自己満足でしたのだからあまり実感がない。私は世界や人を救ったよりかは皆で未来を歩みたかった。

ただそれだけだ。


「戸惑う程でもない。君が成した大業は世界に讃えられても良いし、誰も文句は言わない。席を置くだけの条件さ。悪い話じゃないだろう?」

「………」


どうする? 逆にエイデス機関に在籍を置かなければ謝礼の件はない訳で、慈善事業をしたで終わる。普通なら二つ返事で了承するのが当たり前であろう。

正直見学にも赴いたし、誰しもが憧れる優秀な魔導師の集まり。加えて莫大な資金援助による給与も多額。そこへ無条件で迎え入れられて尚且つ働く必要がない。振り返れば好条件でしかなかった。

迷う必要なんて何処にもない。これが掴み取った未来の結果であり、受け取る対価なのならばカナリア・シェリーは応えなければならない。


ーーが。


「気持ちだけ受け取っておくわ。だけど謹んで遠慮するわ」

「なっ」

「!」

「おっとーー」


自身のまさかの返事に彼等は驚愕する。多分この話を聞けば誰しもが同じ反応をせざるを得ない。

皆が一様に問うて来るだろう。

何故? と。

眼前の人達も顔に書いてあった。それがこれまで一本取られていた私には清々しい気分で爽快だった。

そして御断りする理由を伝える。


「富や名声は要らないわ。私はもっと別のものが欲しい」

「エイデス機関じゃ叶えられない事なのかい?」

「与えられても本当の意味で手に入れた。とは言えないかしらね?」

「因みに何かは聞いても良いかな?」


あの大御所ですら蹴って求めたいもの。そんなものが果たしてあるのか?

いや、あるのだ。それが今のカナリア・シェリーにはお金や名誉よりも大事なもの。蓋を開けてみれば大層なものではないけど尋ねられた問いに私ははにかんだ笑顔で答える。


「ーー友達!」

「!」

「ッ!」

「ーー!」


三人は目を強張らせる。人によれば遠いものではない。すぐ身近にあるもので追い求める程でもないような簡単なことかもしれない。

だが私はそれが魔法の才能や世界を守った英雄よりも輝いて見えるものでかけがえのない宝物だと思い始めて来たのだ。出会った皆が切り捨てられない仲間であり、友達。そして背負うのではなく、支え合える。一人一人違って、喜んで、笑って、泣いて、喧嘩して、怒って、悲しんで。まだまだ序の口である知ったばかりの光景をもっと知っていきたいのだ。

変だろうか? 変なのかもしれない。だけどそれがカナリア・シェリーが望み、願い、切り開き、歩み、選んだ未来である。

私は才能でも、地位でも、名誉でもなく友達を選択した。ただそれだけの物語。


「すげぇわやっぱ。シェリーちゃんはアイツに引けを取らない大物だぜ」

「それって褒めてるのかしら?」

「貴女も相当お馬鹿さんね」

「貶されたわね………」

「ははは。でも入ることで君の目的の足枷にはならない筈だよ?」

「目的の先に見えるものが判っているなんてつまらないじゃない?」

「成る程。それはつまらない質問だった訳だ」

「でもまた必要とされるなら力にはなるわ。なれるかはわからないけど」


そんな感じで話は纏り落ち着いた。まあ我ながら勿体無い自負はない訳でもないし、後からフィアナやシルビアからはうるさく言われるしで寧ろ断ったのが不運に働いた哀れな天才であった。後はとりあえず前回の件もあってまたエイデス機関の見学には行くが、それはまだ先の話だ。

ともあれ、これからも難題が控えている事には変わりはない。まだ悪魔も放浪しているし、根本的な元凶の犯人も特定されてはいないのだ。

それに穏やかな平和が何時迄も続く世界でもないのだと。

だから出来る事はしなければならない。守りたいものは守らないといけない。この居場所を失わない為に。

少しなのか大分先なのかは判らない。ただ今だけはーー。


「この時間を楽しまなきゃね」


のどかな草原の上で陽射しを浴びながら私は吐露する。

劇的な変化は僅か一ヶ月に満たない出来事だった。いや、もしかしたら私の中では何年もの停滞が今ようやく動き出しただけかもしれない。

言えるのは確実に自分の人生で果てし無く大きな変化であっただろう。

しかしまだ世界は広く、未来は長い。

待ち受けているのは決して辛い事ばかりじゃない筈だ。


「さあて、そろそろ行かなくちゃね」


カナリア・シェリーは立ち上がる。

一陣の風を感じながら少し先に見える皆が待つ学園を目指した。


「楽しんで、いくわよ私」


言い聞かせるように語りながら私は私が望んだ世界を踏み出す。


きっとあの蒼い空が何時迄も続くようにと思いながらーー。


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