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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
第三章 変わる為に
52/155

−迎え撃つ天才達②−


私が異端と呼ばれる理由。

それはーー。


「【アナイアレイト】」


自身の両側に無彩色の歪みが発生し、鬼神の力を呑み込みそこに何も存在していなかったかのように消え去る。否、消滅する。そんなわかりやすい現象でありながら酷く凶悪でもある異形で偉業な魔法。


「ッ!? 嘘だろ………?」

「貴女………何処まで飛び抜けた才能を持っているの?」


優秀な魔導師が集結するエイデス機関の者達であってもこの偉業には舌を巻くしかない。

これは昨今の発展を持ってしてもまだごく一部しか獲得出来ない全属性融合魔法ーー超魔法。魔法の集大成とさえ言われる力。まあ単純に基本形とその派生の魔法である火、水、氷、風、雷、土、光、闇を繋げただけ。そう聞けばそう難しくない話だが、事実は全く違う。

何故なら全てを均等に配分化する必要があり、また基本軸にすべき核なんて存在しない。相当な構築力を使う訳だ。

膨大な魔力、超絶な技術、途方もない想像力。あらゆるものが高次元に達してようやく扱える難易度。そもそも昔とは魔法の常識が覆ってきたとは言え、得手不得手なのは誰にもあるから実際この集大成魔法とは理論的に実現し得れない技術に届くとされる。

使ってみて始めて判るが、これまでの魔法とは原理が全く違うのでこれから魔法事態が発展していこうが超魔法を扱いやすくなるなんて事はない。

私が身に付けれたのも原初魔法を創り出せたからこそ可能になった技である。

この魔法ーー超魔法の力は消滅魔法。元々基本属性が全て交わるとは全てが相殺されて消える事。何にもない所から生まれて形になったのが基本属性なので逆は無に返すと言う訳だ。だから消滅する。

正直魔法条約的には第1級危険魔法を遥かに超えて禁忌魔法として認定されてもおかしくないのだけれどね。


「そもそも使えた奴なんて俺は1人しか知らねえし、現時点ではシェリーちゃんしか使える奴いないぞ」

「同意。扱える人がいないから指定されることすらないわ」


どうやら見覚えのある彼等は過去に何かしら根深い因縁でもあるのかと思わせる。まあ追い追いと聞いてみるとして、ともかくこうして対抗手段は通用した。悪魔も迂闊に出れないと警戒して動きを見せない。勢い付かせないだけでも十分に効果はあると見て良い。

ただ強力な故にある弱点さえ見抜かれなければーー。


「ふ………」

「?」

「ふふ、はははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!!!!!」


冥天のディアナードは高らかに笑い叫ぶ。

大気が震えるような木霊するそれに私達は不快な気持ちと同時に嫌な予感を禁じ得なかった。

何があると言うの?


「強い、強いぞ人間共」


簡単な賞賛。しかし逆にそれだけだった。

高等魔法の【幻】を扱う玄人青年。

音速の速さを持ちながら更に魔眼と邪眼を宿す女性。

全てを切り裂く絶対剣に選ばれし鬼の末裔。

そして未だ数える程しか振るえない魔法の集大成を操りし異端の天才。

これだけの国家すら揺るがせるような才覚の規格外が足並み揃えても尚、彼女は悦に浸り喜びを表現する。

まだ私達を見ても人間の枠から飛び抜けない。自信や油断、驕りや慢心、過信や自惚れでもなく遥か高みから見下ろすように悪魔は真面目に語るのだ。

上等な獲物を見据える狩人みたいにーー。

ゾクッと、今までよりも何割か増しで恐怖に背筋が凍り付く。

が、お構いなしと。


「もっと余を楽しませろ!」


そう言い放ち、冥天のディアナードは動く。

鬼神の力を振るわずに本人の意思のみで。

紫炎を衣のように纏いながら。


「ッ!?」


刹那、敵は姿を消した。同時に如月さんの姿もなくなる。

直後に辺りを暴風が吹き荒れた。


「!」


爆音が幾重にも連続で重なり、周囲を破壊していく。時には地を、時には宙で火花のような紫の雷と炎が弾け飛ぶ。到底目では追い切れず、姿を捉えられない様を見せつけられながら彼女達が音速の世界で戦いを繰り広げているのが今になって理解出来た。全くの予想外な挙動。情報が少な過ぎるのもあったが、まだまだ本気を出していないのを如実に語るようでもあった。

と言うかこれでは手の出しようがない。

呆然と眺めるしかない衝突の繰り返し。

そこへ突如空中から此方へ跳ねてくる紫電。纏いし雷が炎に侵食気味になった形で倒れる彼女の姿は敗北の瞬間を見せ付ける。まさかの得意分野で押し負けた?

驚愕の事実の背景を他所に遅れて舞い降りる冥天のディアナード。全くの無傷で顔に余裕の笑みを貼り付けたまま次の標的を定めようとする。

不味い。狙われる。

ーー矢先に彼女の身体は灰炎に覆われ、柱を作り上げた。


「させるかよッ」


一部の空間から光の粒子に包まれながら黒髪の青年が姿を現す。絶妙な隙間を縫って攻撃を放ったのは他ならない彼だ。

相手に虚構を見せる特異魔法【幻】。自称元殺し屋らしいがある意味納得出来る便利な力である。暗殺業でも主にしていたのだろうと予想するくらいに気配を消した不意打ちに間一髪助かった。


「効かぬわ」


訳もなかった。

灰炎の中からその声と一緒に紫炎が覆うように渦巻き、灰を呑み込んだ。同じ系統のものだからか焼け石に水みたいな足止めにしかならない事に青年が歯噛みする姿を嘲笑いながらゆらりと迫る脅威。


「まだですッ!」


そんな中、まだ追撃を仕掛けるのは神門 光華。抜刀体勢の溜めが完了した状態でこれ以上近付くなと言わないばかりに制空剣を作る。

側から見ていても判る何処まで行けば斬られてしまうのかが把握出来るような猛烈な気配を放つ。

きっとそれは軌跡を描く筋を敢えて見せているのだろう。強敵であれば強敵である程に通用する威嚇。しかもあらゆるものを斬れる天地冥道を前ならこれ以上とない効果。きっと相手は首を刎ねられる映像が脳内で勝手に焼き付いているだろう。客観的に見ているだけでも伝わる。

ただーー。


「斬れるか? 人間よ?」

「ーーッ!?」


挑戦するのか? と聞いている風にも捉えられれば、やってみろと挑発しているようにも見えた。

尋ねる言葉の真意を理解してしまった彼女。

確かに斬られると判っていて不用意に近付きは本来しない。が、逆にそうする事が天地冥道に対してもっとも対策となるのだ。


「さすればその刀は砕け散るぞ?」


軌跡を描けなければ、逆手にとれば良いのだ。しかし並の相手に真似は出来はしない。抜いた軌道から逃れるか防げる手段があるのだこの悪魔には。

絶対剣の存在が意味を成してなかった。果たしてこれが他の絶対剣であろうと変わらない結果に終わるのではないか。

立場は忽ち逆転。構えている灰色の少女もそうしているだけで制空剣に進入を許してしまい、柄を握る手から力が抜けていた。いや、それ以上に冥天のディアナードの底知れない圧力に精神的消耗が著しいのだ。

流石に今天地冥道を砕かれるのは此方の大事な手札を何枚も捨てるくらいに重要な力だ。当然悪魔はそんな思惑を看破しているからこそだろう。気後れしてしまった時点で反撃の余地は皆無だ。

未だ立ち上がるのに苦労している人物、手元にある力で対抗するには相手が悪すぎて身動きが取れない人物、抵抗しようにも先回りされたように息を乱す人物。

どんどんと此方の手札を潰していく怪物に誰もが戦意を消失してしまう展開。

駄目だ。これ以上はーー。

最悪な局面をひっくり返すとまでは行かずとも時間を稼ぐ行動に私は出る。


正面から対峙をする。絶対強者として立つ災厄が放つ圧力だけで辺り一帯を震えさせる中、相手の目に映る私の肉体は金色に煌めいていた。


否、魔力そのものが。


「限定解除【コンバートアーツ】」


もう少し後々の畳み掛ける為に温存していた奥の手である原初魔法を振るう。金色に煌めく魔力を放出しながらカナリア・シェリーは挑む。


「はあっ!」

「ぬっ」


大地を蹴る、いや踏む。その衝撃で崩壊した地が迫り上がり瞬く間に彼女を閉じ込めて視界を封じている間に素早く移動をして背後をに回り指先から光の波動を飛ばす。凌いだかも気にしないですぐ様大跳躍。動かない相手を見据えながら空から落とすように落雷と氷棘の矛を投脚させ、背中から煌めく具現化した翼をはためかせて超加速する。そのままの勢いで悪魔を中心に旋回しながら炎弾、竜巻、水流の災害を仕向けて自身の更に頭上の上空に紫紺色に輝く巨大な六芒魔法陣を生成する。


「げ」

「流石にッ!」

「容赦無いですねッ」


大規模な範囲に及ぶであろう存在に気付いた皆が慌てて退避するのを確認しながら魔法を発動。最上級の力である闇の巨剣が重力を収束させて狙いに落下。

重々しい音と破壊、地鳴りで舞い上がる砂塵。それらすらをも全て凍らせてそこに氷塊を作り上げる。


「これでどうっ!?」


見事な氷山になる地点に止めの一撃として光の結界で取り囲んで、重ね掛けで最上位の複合結界を張り巡らす。遥か昔の【大いなる戦い】の封印に比べたらまだまだ可愛い代物かもしれないが、現代に置いては凶悪な犯罪者を閉じ込める為に使われている結界魔法だ。易々とは破られはしない。

そうして絶技を繰り出し尽くし、ようやく私は身体から溢れる煌めきの魔力が時間を終えたように消えた事で区切られて落ち着いた。

最大魔法の総出演。

額から垂れる汗を拭い深く呼吸をする程度には私でも疲労してしまったようだ。


「………ふう」


一息吐く自信を見る周りの目は「ふう、じゃねえよ」だった。明らかに人外に届くと言うよりかは半分くらい足が浸かっている人物達が唖然とする怒涛の攻撃は舌を巻くしかないと言わないばかりに激しいもの。

今のはまたまた原初魔法の一つ。内なる魔力を瞬間的に解放、向上させて爆発力を加速させた技。時間を掛けて吐き出す最上級の魔法の速射すら容易に可能とさせる限定的な効果。故に限定解除なのだ。先程の相手の脅威を数に表したが、この技は足りない数字を補うような量に加えて質もある。実際悪魔の動きを止めるに至ったのだから申し分ない力であると言える。

欠点があるとすれば再び使うまでの待機時間があり、その間は普通に魔法すら使用不可能になってしまうこと。だからこそこんな場面で使うのは非常に悪手であるのでよろしくない。まあ、欠点である待機時間を帳消しにする為に最後に結界魔法で締め括る最善策がどんな結果を生み出すかは見ものだけど。

まず根本的な問題としてーー。


「………強過ぎるわ」


チラッと見渡す。まだ余力は残しているが、瞳に宿る闘志が揺らいでいるのが伝わる。

絶望的な流れだ。

皆の長所が上手く機能しない。と言うよりはさせてくれないのである。おかげで四人の利点を活かした戦法が出来ない。完璧に一対一みたいに動かされ、各個撃破されようとした具合だ。有り合わせみたいなもので連携が取れた構成でもないから良いのか悪いのか半々かもしれないけど、そこすら封じられてしまうのが辛い。幸い相手の余裕の現れから被害を最小限に抑えて流れを止められたけど。展開は有利に進もうとはしないし、紙一重だ。

取り敢えずは悪魔の引き出しを開けていかなければどうにもならない。長引けば長引く程に消耗していくのは此方だ。ある意味そこが人間と悪魔の差なのかもしれない。いや、まず冥天のディアナードと呼ばれる個体自体が飛び抜けているのだ。

堕天のルーファスなら一方的な局面にはならないだろう。策を弄して全力を出し尽くせば犠牲なく撃破出来る筈だ。

魔天のエルドキアナなら真っ向勝負なら一方的に畳み掛けるか、或いは自身と神門 光華だけで充分だろう。前回のリアンの組み合わせよりも相性は良い。

だがこの悪魔だけは桁が違いだ。

小細工は精々時間を稼げるか稼げないかくらいで、そもそも私達の力は全部小細工に成り下がってすらいる。

彼女を倒すのは無理だ。私は素直な感想を抱く。

経験値が足りない。この舞台にはまだ上がるのは速すぎた。浅はかで無謀で、何より覚悟が足りていない。

そして割り切ろうともしていなかった。


「(最悪な方法はある。ただそれを使えばーー)」


それ以上を想像はしたくなかった。合理的で確実な方法。倒せはしなくても事実上勝てる戦略で生還出来る可能性のあるもの。

ただし全員は助からない。

そんな方法を使うのは躊躇うくらいにはまだカナリア・シェリーも良心が芽生えていた。

良心が、志が、優しさが、大切さがーー。



『ごめんなさい。こうするしかないわ』



あれ?


何故?


あるのか? この私に?

人の死すら何も思わなかった自身に、異端と呼ばれる天才に必要なのか?

そんな人間だったか? そんな感情なんて存在していたのか?

違う。なかっただろう?

いや、違う。私はーー。


私はーー。


「(ーー。そうよ。無駄な犠牲じゃない。強大な力を前に何の犠牲も無しで勝とうだなんて)」


自身の心にドス黒い何かが広がるのを感じる。

冷徹に、冷静に、合理的に、機械的に、現実的に、異端的に、天才的に、私的に。


カナリア・シェリー的に。


瞳から光を失なっていくような気がした。それはまるで感情と言う弱点を捨てて勝利を得る為の、本来の自分を取り戻す上で必要な犠牲を払うような。

どうして、何が原因で引き金が引かれたのかは知らない。

ただ、私の中に潜む何かがそうさせようとしているのだけはわかった。


「!」


最高級の結界がヒビ割れていくのが視界に映る。もって後数分もしない内にまたあの化物は猛威を振るうだろう。

【黒の奪略者】を倒した英雄の一人でも駄目。

魔と邪の瞳を宿し人外でも駄目。

遥か昔から受け継いで来て覚醒遺伝をし、絶対剣を持つ末裔でも駄目。

ならば絶滅しかない。そうなればこの空間からは抜け出せずに引き分けで終わる。

いや、今の内であれ【強制中断】抜きでこの空間から戻れる方法がある。恐らくは出口の裂け目を作る力がアレにはある。

宝剣ーー天地冥道ならば。

そして悪魔が追い掛けて来る前に世界を【強制中断】すれば悪魔だけを閉じ込められる。だが、最低でも数分はその過程に必要な時間がいる。まず限定解除した【コンバート・アーツ】の弊害で魔法がまだ使えはしない。到底悪魔だけを閉じ込めるには時間が足りない。

でも彼等に、エイデス機関に時間を稼いでもらって神門 光華に空間を斬ってもらえばーー。

そして私だけ、或いは神門 光華も逃げればーー。


それしかない。それ以外に方法は、手段はない。

躊躇うな。見捨てろ。

そうして来た筈だ。そうした筈だ。


カナリア・シェリーは。


私は。


だからーー。

だからーー。

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