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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
第三章 変わる為に
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−天才の宿命②−


今一度お浚いすると。正確な軌跡を描いて斬らなければ壊れてしまう脆さの剣で、それが成せれば斬れないものはない。例え鉄だろうが、宝石だろうが、魔法だろうが、次元だろうがあらゆるものを斬り伏せられるとんでもない武器。


「その勢力の狙いはきっと天地冥道でしょう。破壊、若しくは鬼神の産みの親の力を欲するのかまでの真意は不明ですが」


言い伝えを含めた見解はそうなるでしょう。と区切る鬼面の人物。そこまで説明されれば冷静な応対にも合点がいく。

神門家は待っていたのかもしれない。長い長い間、鬼の加護と一緒に時代を経てこの時が来るのをーー。鬼神の力を取り戻す日を。

しかしえらい話が進み過ぎたような気がする。

まだ神門家の当主とすらご対面していないのに。


「着きました。ここが神門家の屋敷です」


そうして私達は九大貴族が1人の居座る総本山の入り口に辿り着いたのである。

まるで巨人が潜るような壮大な赤門が待ち構える。一体誰を出迎える為に作られたのかと聞きたいくらいに大きな扉は見張りの門番によって重々しい音と僅かな地響きを立てながらゆっくりと開かれていくのであった。

その先には見事な庭園。東洋式の設備で管理された装飾の数々。小さな小池には鮮やかな色をした魚が泳ぎ、規則的に並ぶ朱の花々は咲き誇り、一日中散歩していても飽きないような優雅で華やかなものが広がる。

そんな道を歩みながらいよいよご対面するのだと自覚する。

と、そこで遣いの彼女は口を開く。


「御仁方には客間にご案内します。神門 光華様には先に私の方から説明を通しての対談と致しますので暫くお待ちを」


これに意見を挟むことはない。その為に道中で遣いの彼女に話をしたのだから。

それから少しの間、無言の空気を維持したまま屋敷の中枢まで進む。広さにはかなりの驚きではあるが、カナリア・シェリーはそんな所を気にしている場合ではなかった。


「どうかしたのか?」

「………ちょっとね」


神門家の敷居に入る前からもそうだったけど入ってからはより一層感じる違和感。何かがおかしくてたまらない。それはこれから先へ向かう毎に増していくのだ。

気持ちで表現するなら気持ちの悪い感覚。しかしそれだけではないのかもしれない。意識しだした今襲うのは頭痛、目眩、吐き気と言った何かに対しての拒絶反応とでも言えるもの。呪術の影響なのだろうか?

歩くのも段々と辛くなってくる。

どうかしたのと聞きたいのは私の方である。


「大丈夫ですか? 具合が優れないようでしたら医療室に案内しますが?」

「………そうね、お言葉に甘えようかしら」


と言うかそんな設備もあるのかい。流石は九大貴族。不足のない環境を整えていたおかげで助かるわ。


「では織宮様と如月様は彼方の人に案内をお願いしますので先に客間でお待ちくださいませ」

「ああ、無理はするなよ?」

「無理も無茶もしないわ」


それを区切りに私と彼等は別の通路へと進行する。彼等は真っ直ぐ中枢へ、私は右側の方へと。自身は変わらず鬼面の人物が相方のなんとも言えない状況ではあるが、この際贅沢は言わない。強いて挙げるならついでに呪術の方も治してくれる段取りなら万々歳なのだけれど。

緩やかに横切る人達は会釈する中、ふと遣いの彼女は口を開く。


「医療室は少しばかり離れています。ご希望でしたら休憩を挟みますけど?」

「問題ないわ。そのまま進んでちょうだい」

「ではそのように」


喰えない人ではあるかもしれないが、意外と気遣ってくれる所を見ると案外良い人なのかもしれない。まあ客人に無礼を働かないようしっかりと教育されているなんて風にも取れなくはないが、ここは彼女なりの配慮としておこう。

内観の通路は変わり映えしない赤茶色の景色が続くばかりの道。街の賑やかさとは全く違って自然の音ーー虫や動物、風などの音しか聞こえない世界。悪くはないが、慣れない側からしたら寂しい気分にもなる。

暫く歩くとは言ったがこれでは相当な間このままの状況なのだろうなと一息吐いているとーー。


「少しお話でもしながら歩きましょうか?」

「!」


意外に向こうの方が沈黙に気不味さを覚えたかのように会話を要求してきた。僅かに面を喰らってしまうが、ちょっとした空気ならず雰囲気の入れ替えに同意の動作で示す。


「神門 光華様が俗世間から身を引いた変わり者なのはご存知でありますか?」

「ええ、あまり人前に顔を出す頻度が少ないのは聞いているわ」

「左様でございますか。なら何故そうしてられるのかは判りますか?」

「………」


質問の意図が読めない。意図よりかは真意とでも言うのだろうか?

ただ素直にその疑問について真面目に考えてみる。例えばそう。もし神門 光華と自身を重ねてみてーー。


「………普通じゃない。からかな?」

「ほう?」

「気分悪くしないでね? もう少し良い言い方があればとは思うけどどうしてもそれしか浮かばないわ」


回りくどく濁しながら語るのは苦手。柄じゃないし正直な意見が一番大事だと思う。


「自分が特別な存在だと自覚してたら日常の世界に身を置ける居場所があるとは考えない。私もそうだった。周りとは違うんだって。手を伸ばせば届くような先にある輪に入り込む隙間なんてないと思って遠くから傍観する。それが九大貴族なら尚更だし、神門 光華が神門家の中でも特に特別な存在、または公には出来ない事情があるから身を引いている」


なんてのが私の見解だ。身近の東洋人が訳あり過ぎて定着した印象も大きいだろう。

そもそも色々と不思議な点は多い。

まずは織宮さんの言っていた面会予定を取っても意味がないと言うこと。詳しく説明を聞く前に遣いの登場で流れたが、あれがもし普通に約束を取っても門前払いされるからなのであれば単純に何か外部を入れたがらない理由があると言うこと。まあ、それが事実なら門前払いされたらどんな計画を用意していたのかも気になるが、一先ずその予想を大前提にするとする。次に遣いの説明の節々も違和感しかないだろう。

とりあえずは神門家は単に鬼の末裔なんて安易なものであらず、天帝とも密接に関係している。きっと御告げはそこから来ているのは言うまでもない。恐らくは神門 光華は世間が知る以上に特別な者であるのを先程の古くからの言い伝えも含めて考えられる。

あとは気になる部分が所々に散りばめられていた。


「お面………いや、仮面かしら? 神門家の敷居を踏んでからまともに素顔を晒す人物がいない」


織宮さん達の案内を担われた人もだけど、門番から仮面で顔を隠していた。狐を模倣したものや人間の顔をしたものやらと種類が豊富にあり、正直誰が誰かが判らない。

判らないようにしている。


「当主の御意向なのかとかは知らないけど、神門家に携わるものは皆素顔を見せないようにしているのには理由があるんじゃなくて?」

「聞かせてもらっても?」


ただ、どれだけ見た目を偽装しても目を凝らせば判ることだってある。例えば今の予想にしても違うのであれば否定をする必要があったのではと思う。ところが逆に私の言葉に興味すら示す仕草をしている時点で既に予想も予想ではなくなってしまう。

そして残りの話は少し冗談が過ぎた適当な見立てだ。


「最初は仕来り的なものだとも考えたけど、一貫性がないし東洋人の嗜みともまた違いそうだし」

「一応年に数度開かれる祭では使われる機会もありますが?」

「それがお面でしょ?」

「耳が痛いですね」

「同じ東洋人の織宮さんや如月さんは特に反応を示さなかったけど私からしたら違和感でしかないのよ」

「続きをどうぞ」

「サラッとはぐらかしたわね。要するに別の意味で使われているんでしょ?」

「別の意味とは?」


一拍の間を置いて議題であった神門 光華の変わり者であり、人前に顔を出さないことについて種を明かす。

と言うよりかは既に先に似た内容は言っているし重複した形になるのだけれど。


「彼女は多分、外見的な部分が他の一般人と違うのじゃないかしら? 簡単に言えば東洋人なのに髪の毛が黒ではないとか………いや、角の一本でも生えているくらいが丁度良いかもね」


九大貴族の当主を中々に悪い想像で作り上げるカナリア・シェリー。度合いによればこの場で鬼面の彼女に刺されても文句が言えないかもしれない。

ただ、私はそんな方向にはならないと思えるだけの根拠があるのだ。

それはーー。


「ふふ、面白い方ですね。噂は予々聞いて通り異端で破天荒な天才であります」


明らかに笑った表現をしながら褒めてくれているらしい彼女。破天荒なんて正直自分よりも周りに沢山いるのだが、まあ今は敢えて素直に受け取っておこう。

で、答え合わせ。


「はい、ほぼ正解です。所謂化物じみた類に入るのが今代の神門 光華様で、稀代の神門 光華様です」

「先代方はそうではなかったのね」

「左様。代々受け継がれていく中で唯一神門 光華様だけが異形で生誕されたのです。もう少し補足すれば御告げが聞こえるのも彼女だけでありーー」

「宝剣ーー天地冥道を振るえる人物………違う?」

「………驚きました。貴女は心を読めるのですか?」

「違うわよ」


特別性を上げる要素としてならそれくらい出来ても不思議ではないし、九大貴族で他にも絶対剣を使える者を知っているからこそ考えられた話だ。天才だから選ばれたのではなく、選ばれる必要があったから選ばれたみたいな印象が強い。

もしかしたら天帝命神は予期していたのかもしれない。

この時代に鬼神の脅威が来るのを。


「かもしれません。だから私も事情を聞いても驚きがなかったのではと」

「嫌な運命ね」

「仕方のないことです。神門 光華様は受け入れています」


定めではなく、宿命とすら捉えているようだ。

天才の宿命。

生を受けた瞬間から決められた人生に自由なんてない。鎖でがんじがらめにされた世界は果たしてどんな世界なのだろうか?

そこばかりは任意である天才の私には到底理解し難い考え方であった。


「まあ、それさえ終われば背負う荷も少しは軽くなるんじゃないかしら?」

「簡単に言いなさる」

「簡単とはいかずとも負担が軽減に出来るよう助力はするわ」

「その見返りに貴女は何を望むのです?」

「いや、呪いを解いてくれるでしょ?」

「それだけ………ですか?」

「え? 私、何か変な事言っている?」


こっちは命がかかっているのだから当然の対価ではないだろうか? 流石にそれ以上の報酬なんて必要ないと思うのだけれど。

ん? いや、待てよ。もしかしてーー。


「私の呪いってそんなに大した事なかったりする?」

「いえ、確かに専門家の力は必要になりますがわざわざ神門家を訪ねなくとも他にも治せる人材はいるかと」

「ぐっ………」


嵌められた。それなら彼が神門家に門前払いされた時の対策はあったのが確定してそもそもの目的が神門家にあった訳になる。

寧ろ私を口実に押し込んだ感すら浮かぶ程だ。

あの男。この異端の天才をよくも黙して利用したわね。あれだけおちゃらけた人格のせいで油断させてたなんて思いもしなかった。

腐ってもエイデス機関の人物ってことね。

そうなると如月さんも口裏合わせをしてたのが決まってしまうからどちらも見損なってしまったわ。

何が目的なのかとかはこの際どうでも良い。兎に角絶対に女の子なんて紹介しない。思いっきり利用しているじゃないか。借しに数えるなんてしないわ。

もしこれが如月さんの想いも看破した上での計画だったなんて展開は流石にないわよね?


「ほんとに底の計れない人ね」

「織宮様と如月様は和の国でもとても有名な方です。家系に関してはあまり褒められはしないですが」

「いいわよ。聞いてもメリットないわ」


事情は追い追い問い詰める事にしよう。どうせここまで来て今更計画を変える気すら起きないから半ば聞かなかった話で頭の隅に置いとくのが気楽だろう。


「では、そろそろお話も終わりにしましょう。直に到着いたします」


話の落ちも出来たから的な具合で締めに入る。

が、その前に。


「まだ終わらせはしないわよ」

「?」


そちらから振ってきたのだ。きっちりと最後の最後まで付き合ってもらうわよ。

この道程までに散りばめられた違和感の解をね。


「気になっていた事が幾つかあるの」

「と言いますと?」

「さっきは貴女達が着ける仮面に一貫性がないと言ったけど少し違うわ」

「………」

「貴女は何で鬼の仮面なの?」


問いに返事はない。これまで濁したりはしても無言はなかった。きっとそれは答えても不都合のない内容だからだ。

しかし、今回は不都合があった。答えられない理由がね。

もう既にそれが答えである。


「鬼に対しての歴史が深いのだからそれだけ重大な筈であるのに貴女意外に鬼の仮面をした人はいない」

「………」

「後はやっぱり初対面時の違和感。並ならぬ何かを感じた私は思わず何かを聞こうとしたわよね?」

「確かにそうですね」

「改めて聞かせてもらうわよ?」


大したことではない。しかし、彼女は面を喰らう姿が予想出来てしまってか、私は強い眼光を放ちながら僅かに緩ました口からこう尋ねた。



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