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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
第三章 変わる為に
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−天才が行く③−

しばらくぶりの更新です



和の国、大和国への出発が決まって翌々日の今日、既に私は学園を後にして現在列車に乗って赴いているのだが、それまでの過程は散々だったのが感想だ。主に無事身柄が確保された友人に対しての対応でだがーー。


『シェリーちゃんまた旅行に行くの!?』

『またって………そもそも遊びに行く訳じゃないのだけど』

『ずるいずるい!! 私も行きたい!!』

『無理に決まってるでしょ? 貴女はこの前の件で被害に合っているのだから学園側の許可なんて降りないわよ』

『でもシェリーちゃんは行けるじゃん!!』

『いや、私は治療しないといけないから特例で認められたのよ』

『ずるいずるい!! 私も行きたい!!』

『話が戻ってるんだけど!?』


とまあ、ノーライズ・フィアナを軽く説得するのに数時間を費やして朝から偉い目に合う。下手したら悪魔と戦うよりも精神的な傷を負った疲れからか列車に乗ったは良いものの、乗り物酔いになってしまい虚ろな表情で揺られる列車の中から外の景色を眺めていた。

何で出発前からこんな思いをしなければならないのだろうか? 後々話して文句を言われるよりかは先に言っておこうと考えたのが裏目に出てしまったわ。

とりあえず前回の悪魔であるエルドキアナの魔の手に巻き込まれた彼女ではあるが、ご覧のように自身とは違い通常運転だった。寧ろ巻き込まれた素振りすら見せない感じに、あの時意識を消失して次に目を覚ました医務室で見舞い用の林檎を勝手に食べている姿を見せつけてくれた。因みに誰が林檎なんて置いてくれたのかは判らないが、結局一口も食べられはしなかったのは言うまでもなかったのだ。

何ともまあ心配のし甲斐がない菖蒲の少女だが、話を聞く限りでは彼女も同じく意識が無くなって気が付けば医務室に運ばれていたらしく、その辺りの記憶が混濁していたようだ。外傷や私みたいに呪術みたいな後遺症がなかったのは不幸中の幸いではあったかもしれない。いや、怖いくらいに何もなかったのが変に気にはなるがそもそも彼女は運は良さそうだったので心配も杞憂であった。まあ例え悪魔がフィアナに偽装するだけに何らかの接触を計っただけだとしても無事で何よりなのは本人には言えないが、思う。

それが気掛かりだった案件の1つ。

もう1つは碧髪の少年だ。

ただそれも今日フィアナを宥める前に学生寮の入り口で遭遇した事で解決した。

と言うよりかは待っていたのだが。


『あの時は助かったよ。君が居なければ僕はこうして感謝をする事も出来なかった。本当にありがとう』

『助けられたのは私の方な気もするけど』

『いいや、全ては君あってこそのものだ。助けられたのは、救われたのは紛れもない僕だよ』

『な、何よ。いきなり掌返したみたいで調子狂うわね』

『はは、それも君のおかげさ』

『………これからどうするの?』

『先ずはアースグレイ・リアンとして家に残してある課題をやらなければならないから暫くは学園を休学するつもりさ』

『そう』

『それと姉さんの墓参りもずっとしていないからね』

『………』

『ようやく………ディアナ姉さんに顔向けが出来る』

『………そう』

『君も色々と忙しそうだね』

『ええ、嬉しくもない難題ばかりよ』

『なあ、シェリー?』

『ッ!? 何よいきなり?』

『困った事があったら言ってくれ。何時でも力になる』


そんな事を言われた訳だが、自身からしたら大層な所業をしたつもりはないので逆に困ってしまった。だけど彼も彼で頑なに借りを返そうとする気持ちが伝わって来たので無下にはさせられはしない。

まあ、現状で困ってはいるから早速返してもらうのも考えたが流石に巻き込める事態ではないので何れ別な形で力を借りようと決めた。

ーー例えば黒髪の青年への女の子の紹介とか。

とりあえずはこれで多少は抱えていた問題が片付いたーーなんて言えはしない。一難去ってまた一難の方が正しい。悠長に構えてはいられるものではない。

ただでさえだ。私はこの短い期間で天才ではあっても幸薄い人物であるのを理解した。また前回みたいに列車の中で襲撃されるなんて展開も大いに有り得るだろう。そんな風に考えしだすとキリがないような気もしないが、流石のカナリア・シェリーも神経質になる。

あーやだやだ。旅行気分の欠片すらないわ。

実際旅行ではないけど。


「(………襲撃者か)」


振り返ってみて少しセントラル行きの列車で起きた騒動を思い出していた。

反勢力の集団が車両内を占領して混乱していた市民の1人が犠牲になってしまう酷い事件。大きく取り上げられたが案外長引かずに落ち着いていた。亡くなった男性と言うのがあまり良い評判を聞かない悪徳系の貴族だったみたいなのも関係しているのだろう。

問題は私があの場で人が死に行くのを目の当たりにしても何も感じなかったことだ。まあ今になって意識する辺り多少は進歩しているのだとは思うが、何故か脳裏に焼き付いてしまっている。

知らない他人の死に対して無感動であった自身を今更。

同じく同席していたへカテリーナ・フローリアはどうだったのだろうか? 意外に見知らぬ人の唐突な死なんてそんなものなのかもしれないのか? だったらあまり褒められた話ではないが、気にし過ぎだと納得は出来る。

いつか誰かの死を見て何かを抱く日は来るのだろうか? 死を本当に実感して狂ったり、怒りを覚えるのか?

難しいわね。リアンの時ですら死を意識して多少の絶望感は持ったが、普通に受け入れようと、諦めようとしかしなかったのにあれ以上の感情を震わす事象なんてーー。


「大丈夫か? 顔色悪いぞ?」

「………乗り物酔いだからでしょ?」

「それだけには見えないような………」


違和感を感じた目先の織宮さんは心配してきた。鈍感なのか鋭いのかいまいち判り辛い人だ。気遣ってくれるのは有難いが、中身が中身なだけに有り難迷惑である。

因みに乗り物酔いに襲われているのは私だけではない。


「し、静かに………して………う………」

「お前は悪過ぎだろ!?」


如月さんは自身よりも遥かに酔いの回りが酷いのかいつ吐くかすら予測出来ない始末である。

隣に座る私はそう思うとかなり危険な場所にいるのだ。お願いだから到着まで辛抱して欲しい。


「音速の速さに届くのにそれより遥かに遅いもので酔うなんて滑稽過ぎるわよ」

「自分が………動くのと………物が動くでは………全然違う………あ、駄目………吐いて良い?」

「待って待って!! ほら! 袋袋!!」

「やれやれだな………」


それは私の台詞である。

意外な一面を見せるエイデス機関の首位の女性を尻目に、と言うか吐いてる姿なんて見たら貰い吐きしそうなんで完全背景にさせて少しした疑問を織宮さんに投げた。

内容は大雑把にこれから向かう大和国に居る呪術医療専門家の魔導師についてである。まあ、そもそもの成り立ちから説明をして欲しいのだ。こんな厄介な後遺症なんて何回もなりたくないし、色々と知識を頭に入れて次に活かさなければならない。何なら会得すらしたいのだ。恐らくは私の場合は知らないから出来ないだけで、専門の技術だろうが覚えさえすれば扱える筈なのだ。寧ろそれが天才の専売特許とも言える。

その為には技を理解するだけでなく、歴史から紐解くのが必要な過程だ。何故なら魔法に必要なのは大きく分けて魔力、技術、想像である。

魔力とはまんま体内器官から練り出す感覚で絞り出すもので、根本的に自らの体力と連動させて使うので必然的に身体が弱い人には魔法は振るえない程の一番重要な項目。

技術とは適正な魔力の値でしっかりと制御して発動から終了までの流れをどれだけ安定させるかだ。此方は多少の程度はブレがあっても問題ないが、此処の器用さによったら無駄に体力を浪費したり暴発の危険性もあるので難しい。

この二つに不備がなかったらようやく魔法を”使えた”となる。そこがお粗末な場合は振り回されただけだ。

そして魔力と技術だけで扱っている間は魔導師としては半人前。

最後に残された想像が出来てこそ魔法も真価を発揮するのだ。

想像力なんて個人差が一番激しいもので、ここで魔導師達の地力に差が出ると言っても過言ではない。で、想像の基盤にあるのが知識だ。魔法を適正に扱う上で必要なものであり、深めれば深める程に想像力も上がる。そんな意味では技術方面の要素にも含まれるので大事な所だ。

だからこそ私は先ず最初に知識を身に付ける。今回も解除法を間違って付いてきた後遺症だからそこの意識をしておかなければ確実に次は痛い目を見るだろう。

ただこの度は極めて異例の状況で大概の人には真似出来ないのだけどね。


「そうだな。ちょっとややこしい家系だから何処までが正確かは実際よく判らねえと前置きだけしとくぜ?」

「不安を煽らせないでくれる? そんなハッキリしない専門家に治療されるのは嫌なんだけど」

「ややこしいって言ったろ? 看板はデカいからそこはあんまり気にするな」

「看板って………私でも判るくらいに有名ってこと?」

「ああ、シェリーちゃんに限らず民衆ですら知らない奴は少ないぜ?」


彼は一つ咳払いをして僅かな間を挟んでから社内に響かないように声量を少し下げてからその専門家の正体を明かす。


「神門家………さ」

「ーー!」


神門家。九大貴族の中でも大都市セントラルの経済や財政を支える上流層。

あれ? ちょっとおかしい。何でなら今から目指す先はセントラルじゃないのだ。


「あくまで当主の住まいがあるだけで本拠地は大和国だ。基本的には政府を交えた会合くらいでしかあっちにも行かないから実質は財政援助をしているだけに過ぎない」

「なるほどね」

「彼女は俗世間から身を引いた場所に身を置くかなりの変わり者さ」

「変わり者?」

「これがまたこの前話した事に関連付いてくるのだが………」

「鬼の一族」

「い、いきなり復活してきたわね。如月さん」

「完璧に図ったよな? 折角の俺の解説が!」


ぎゃー、ぎゃーと次はうるさくなり出してしまう。神妙な話が始まろうとするとこんなやり取りだ。いい加減にして欲しいわ。


「と、に、か、く。話の続き!」

「あ、ああ。んでだ。鬼の一族の単語は覚えているよな?」

「ええ。冥天のディアナードが使う鬼神を讃えるのが鬼の一族だってのはね」

「早い話が当主である彼女ーー神門みかど 光華こうかは鬼の一族の血を受け継ぐ末裔なのさ」

「まあ予想はしてたけど」

「繋がりから考えれば必然的に悪魔が大和国へ向かったであろう理由がそこにあると思われる」

「狙いはその人?」

「確証はねえが根拠はある」


彼の言葉に異論はなかった。単語から連想した当てはめではあるかもしれないが、もしかしたら深い繋がりが遥か昔から存在していた可能性は推測出来る。

となると嫌でも悪魔と接触してしまう確率が上昇する困った流れになるのだ。ここまで来ると色々な意味で呪われている。若しくは引き寄せる因果でもありそうだ。

鬼が鬼を呼んだのか悪魔が悪魔を呼んだのかはこの際判らないが。

そしてだ。専門家が俗世間から離れて暮らす九大貴族の一人であることを知ったのが今なんだけど、ちょっと重要な疑問を聞かなければならない。


「因みに。面会予定は取ってあるんでしょうね?」

「いや、全く」

「取りなさいよ………」


全てが悪い意味の筋書きになっていく事態に頭を抱えるしかない。出た所勝負なんて華麗さの欠片もなく、ただただ厄介に複雑になるだけ。不運よりかは間抜けな話であった。

これ以上内容を聞くのもしんどく感じてきたので私は黙り込んで外の光景を眺める。


「(………そう言えば大和国にはあの魔女と似た類の忍がいるとかな話があったわね)」


現実逃避、ではないがふとそんな記憶を思い出す。

バーミリオン・ルシエラ。彼女と所縁のある人種が住み着く地。そう考えると確かにややこしそうな人達がいると連想してしまう。現に目先と隣にいる2人も相当に変わり者であるのだ。本人達に自覚があるのかはともかく、見た聞いたの東洋人や類縁関係に普通はいない。寧ろ特殊過ぎるくらいだ。

遠い昔から昨今まで変わらずに変わった者達で、底が知れない深さで、訳ありな存在。一種の闇の気配すら漂う雰囲気。

改めて和の国ーー大和国。

果たしてどんな所であるのか?

予測し得る不安と未知の場所に刺激する心の天秤に揺られながら私は早く起きたのと現在までの過程の疲れから睡魔に襲われ一時の休息に入るのであった。

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