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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
第三章 変わる為に
44/155

−天才が行く−


「うむむ………」

「これは軽傷。呪術の割にはだけど放って置けばやがて魔力の依り代の肉体が汚染されて機能しなくなり、最悪身体に障害すら残すかもしれない」


さらりと告げられた宣告は既に最悪な通告にすら近いであろう。まさか最後の最後までこの異端の天才に爪跡を残して消えていくなんて文字通り悪魔の所業をやらかしてくれた魔天のエルドキアナ。

一番質の悪い呪術は使うのは良いとして、治す分には多少の知識でどうにかなるものではない。それこそ専門的な治療でなければ焼け石に水なのだ。故に禁止魔法とされていることもあり、忌々しい力と呼ばれている。こればかりは呪術に精通していない人物が下手に解除しようとすれば更に悪化する。今回施された呪術を無理矢理の一時的な荒技で破った影響が出ているのだ。と、説明された。

まあ詰まる所自身が悪いのもあるが、ああしなければ死んでしまうのだから仕方のない必要犠牲であろう。あの場でくたばってしまうくらいなら延命するのは当然だ。

全く持って意識はしていなかったので結果論ではあるけど。

ともあれ未だ終わりになっていない危機的状況を打破するのは困難を極めてはいる。何せ専門魔導師がいないのだ。診察してくれているのは東洋人で、呪術の力を身に受けた如月きさらぎ 愛璃蘇ありすなだけで、状態こそ把握出来ても治すのは専門外。猶予があるとは言え、かなり厄介な事案になっている。

幾ら天才のカナリア・シェリーでも教わらない知識に関しては試さなければ獲得は出来ないし、それが悪化させる可能性に繋がるなんて聞いたらどうにもならない。

流石に変なうねり声しか上げれないのだ。

本当にどうしようかしら?

と、困っている所へーー。


「なら専門家の居る場所へ行くしかないな」

「軽く解答するのは良いけど心当たりあるの? 織宮さん?」


医務室の壁に背中を置く眼前の【紫電】と同じ東洋人の男性ーー織宮 レイは大して深刻そうな雰囲気すら見せずに呑気にそう口にするのだ。

つい先日まで意識不明の重体者が言うのは色々とあれな気もするが。

とりあえず退院おめでとさん。

まあ、まだをあちこちに包帯を巻いているから完全復帰には程遠いだろうけど。


「そりゃあ呪術発祥の地は俺様の国だぜ? 専門家が居るのは当然だろ?」

「威張る話でもないし、目の前に呪術が解除されていない人が居るのを見るとあまり説得力を感じないわ」

「コイツのは特別だ。長年の影響やら………色々あるんだよ」

「全然言えてないじゃん」

「何か………傷ついた」


乙女の扱い雑過ぎる。か弱さは皆無かもしれないが、女心をあまり分かっていないのは宜しくない。恐らくそれが"モテない"原因だなんてはこれから先もずっと気付かずにいてるのだろう。

一体何をしに来たんだコイツ。


「まあまあ、事情があるのは詮索しないのが礼儀だ。兎に角今はお前の呪術を何とかしないとだろ?」

「………そうね」

「呪術は厄介だ。早急に対応しないと取り返しが付かなくなる可能性が付き纏う事実をもう少し重く受け止めろ。良いな? 余計な御世話だとか言った日には首根っこ掴んででも連れていくぞ」

「レイの言う事は間違っていないのは本当。素直に好意を受け止めるのを進める」

「はいはい。判ってるわよ。判ってますよ。すいません素直じゃなくて」


ヤケクソ気味に返事をする私は降参だった。何か大人に怒られて諭される子供みたいな構図がどうにも威厳を傷付けられた風に思ってしまった。恐らくそれが自身の悪い所なのを改めて自覚しながら彼方さんの提案を呑むしかない。

でないと真面目に危険なのはやはり身に受けている本人が一番思っているのだから。


「お願いします。今の私に返せるものはあまりないけどそれでも必ず今後返すし、この度は御好意に感謝します。ありがとう」


頭を下げてありのままの気持ちを込めて言う。正直珍しい行為をしていると自嘲したくなるものだ。

まあ、それもこれも1人のまま学園生活を送っていればなかった話だけど。


「とんでもねえよ。お前にだって返せるものなんて沢山あるぜ」

「え? そうなの?」


ちょっとばかり驚く。話としては軽い感じに見えるが大恩ある相手になるのを忘れてはいけない。そんな彼に返せるものが用意出来るのならば是非とも何かを教えてもらいたい。

借りは早く返すに越したことがないのだから。

ーーなんて期待した自分が馬鹿であり、誰を相手にしているのかをすっかりと忘れていて後悔をしてしまう羽目になる。


「俺に女の子を紹介するんだ」

「………」


一瞬硬直してしまう。

が、次に浮かんだ言葉は当然の如くなものであったのは言うまでもない。


「あ、何ならお前が俺に惚れてくれても………」

「………最低」

「ぬおっ!?」

「今に始まった事じゃないから罵倒するのも時間の無駄」

「お、アリスまで………」

「と言うか女子生徒相手に良い大人が情け無いと思わないのかしら?」

「止めろ!! 良い大人だから危機を抱いているんだよッ!!」

「素直になるわ。キモい」

「ど真っ直ぐな感想だな、おいっ!!?」


全く。これがあのエイデス機関に在籍する人格の持ち主とは到底思えないわ。一体幾つ離れた相手に言っているのかしら? そんなんだから危機に陥るのよ。寧ろ貴方が危険そのものだ。

と、おふざけが過ぎるもとい真面目過ぎる切実な借りの話についてはまた改めて別の形で返す事で纏まり終える。

もう一度だけ「別の形だからね」と釘だけ指しておくと、黒髪の青年はガクッと肩を落として心底残念そうにする。流石に呆れるもんだ。

どれだけ貴方の人生は女性に恵まれないものだったのよ?

まあ、仮に恵まれていても成就する未来は想像は出来そうにないが。


「閑話休題」

「え? 女の子を紹介する件は?」

「閑話休題!」

「俺は別にお前でも!」

「好みじゃないって言わなかった?」

「ぐはっ!! 今言われるとスゲェヘコむ………因みにどこら辺が?」

「とりあえず恩に付け入ってモノにしようと考えている時点で論外。別に私は男らしさや逞しさみたいな強さがなくても良いけど、弱みに付け込んだり情け無い姿の男性は好きじゃないわ」

「しまった!? 自分で自分の首を絞めてしまっていたのか!?」

「あとチャラチャラしてるのも無理だから」

「ハハ………丁寧に解説ありがとうよ畜生!!」


とうとう崩れ落ちる。これは情け無いを通り越して惨めですらあろう。見ちゃいられない程で少し言い過ぎたと考える。

そんな織宮さんの肩に優しく手を置く【紫電】。優しくかは知らないが。

まさかここから残酷にも止めを刺してしまう発言をするとでも言うのか? 流石にもうそろそろ彼の精神も持たないわよ。

南無阿弥陀と、ここは東洋流に従った風習で見届けようとしていたらーー。


「大丈夫よ。レイが良い人だってのは知っているから」

「………あら」


意外にも投げ掛ける慈愛に満ちたような言葉を聞く私の瞳が映したのは、代わり映えが乏しい筈の彼女の柔和な微笑混じりの表情だった。

そんな宥める姿はとてもじゃないが、アリスさんがするのは驚きだ。

これはもしや、ではないだろうか?

どんな経緯があるのかは知らないが、まだ脈がありそうに学生ながらもいち女性として感じた。

だってあんな壮大な過去を経てようやく多少の人間らしさを得た彼女が何も考えずに、優しく擁護してそんな台詞を言う訳がない。真相は定かではないが雰囲気的にも有り得ない話ではないと思う。

しかしそれも気付かれなければ意味を成さないのが現実である。


「慰めてくれるお前はスゲェよ。アイツを未だに一途に追い掛けてるんだから」

「………いや、あの」

「婚約して、子供出来て………それでもまだ好きなんだから止めやしねえよ。もし踏ん切りがついて次に好きな奴が出来たら全力で応援するぜ」

「あ、ありがと………う?」

「何か噛み合ってないような………」


恐らく、もしかしたら、ひょっとしてなんて曖昧なものではない。多分、きっと、絶対、完璧なあれなのだろう。

身近にいる存在の気持ちに勘付かず、ひたすら誤解した状態を維持して面と向かって言われるまでは一生判らないままであろう体質持ち。

一般的な表現で述べるとしたら彼はこう呼ばれる人物。


ほんと鈍感な奴。


私の見立てでは東洋人の女性は精一杯の誘いを狙った動きをしていたと思うが全く報われない始末だ。

あれでも彼女にしては頑張っていた方だろうになんて不憫なのだ。こんな調子では何方も進展しないやり取りをするだけの日々を過ごしてしまうだろう。

ーーじゃなくて。


「はいはい、良い大人二人はもうそこら辺で。見てて悲しくなるから」

「ど、どういう意味だよ?」

「貴方は大人しくして誰かを待っていれば良いの。きっと幸せになれるから」

「本当か? それ?」

「ええ、占いにそう出てるわ」

「おお!! それは信じるしかないな!!」


単純過ぎる。嘘八百の言葉をどれだけ鵜呑みにするんだこの人。しかも占った姿だって見ていないわよね? よくそれで今日まで悪徳商人とかに変な壺とか買わされなかったものだ。下手したら経験済みかもしれないので確認は取らないが。

今度こそ閑話休題。


「織宮さん………確か貴方は悪魔と戦ったのよね?」

「………ああ、見事に負けたがな」


苦笑しながら答える彼は先程までより若干気配に刺激を感じさせた。もしこれが私に向けられたら殺気と言う代物になるのだろうと理解するが、それにしても刺々しさがある。自身のが全身を包む圧力ならば彼は針を刺すようなもの。そして何より熟練度の差を判ってしまう。背後から当てられたならば多分降参してしまう人の方が多いだろう。

まあ悪魔と戦って負けたのは嘘ではないらしい。

ただそれでも生きて帰って、今こうして軽口っぽく話せてるだけで充分な偉業だと思う。五体満足で精神的な後遺症もないのだからどれだけの修羅場をこれまでに乗り越えて来たのか興味すら出る程だ。


「レイ………落ち着いて」

「っと、悪いなシェリーちゃん」

「問題ないわ。もう他ですっかり慣れてしまったから」

「天才ってのは何でもありってか?」

「止めてよ。私だって好きで巻き込まれてる訳じゃないんだから」

「そう言えたら上出来だ。苦労したりするのは俺達だけで充分だからな」

「どういう事?」

「普通に平穏に生きろって話だ。命を賭けたりなんてするもんじゃねえし、奪うもんでもねえ。あんな地獄は2度と来ない方が良いんだよ」

「………貴方ってふざけていたりいきなり真面目になったりするわよね」


さっきまでとは打って変わっての台詞だ。特別視されている部分もあるとは思うが、何処かしら根元では私を一般の人と同じ高さで扱ってくれている。天才のカナリア・シェリーではなく、普通の女の子として。それは素直に嬉しく受け取るが実際問題はもう引き返せない場所にいるようなもので、今更大人しくなんてしていられない。

既に命は生きるか死ぬかの天秤で揺れている状態なのだ。それなりの情報を持っていなければ逆に危険である。


「レイは正直なの。自分に嘘はつけない性格」

「ああ成る程」


突如耳元で呟くアリスさんの言葉で納得する。あの振る舞いを見れば判らないでもないが、その割には変に実力者過ぎるのは違和感ではある。

多分訳ありなのだろう。

東洋人の印象が宜しくないので中々に壮絶なな経歴なのは推測するが。


「因みにレイは元殺し屋だよ」

「待って聞きたくない」


いやそれだけ聞けば最後まで聞いてもさしたる差はないのだけれど破壊力が強すぎて逃避したくなった。

訳ありの正体が正体なだけに眼前の彼が本当にそうだとは考えられないわ。確かに本当なら述べた言葉にも合点はいくが、それでもどうしたら殺し屋があんなに情け無くなってしまうのだ? 流石に前言撤回を要求したくなる。

裏表激し過ぎだわ。


「大丈夫、元々向いてなかったから」

「大丈夫かはさておき、確かに向いてないなら筋は通るかしら?」

「才能くらいしか向いてなかったと思う」

「さり気無く一番重要な所を言ったわね!」

「でも殺したくない殺し屋って向いてなくない?」

「殺せない殺し屋も十分質悪いわよ!」


並べている単語は物騒なのに何でこんなに呑気な空間なのだろうか。と言うか殺せない殺し屋って逆に殺されてそうね。

ーーじゃなくて。

話が脱線して中々本筋に入れないのをそろそろ感じ取る私は兎に角話を戻す。

私が知りたいのは悪魔の情報だ。倒す倒さないの問題は棚上げして、かれこれこの短い期間で2回も遭遇している相手達だ。こんな調子ではいつどうなるかは判らないから万が一には備えなければいけない。

万が一で済めば良いが。


「色々気になる事を聞いても良いかしら?」

「ああ良いぜ。情け無く惨敗した話を聞かせてやるよ」


あまり笑えない話だ。多分織宮さんなりに考えた配慮なのだと思う。緊迫した空間にしてしまえば精神上にも疲れを残すだろうし、一応被害にあってしまっている私に考え込み過ぎないようにしたいのだ。

敢えてそこに口は挟まず単刀直入な質問を投げ掛けた。


「どうやって生き延びたの?」

「それって後に取っておく話じゃないか?」

「そうだけど此度の悪魔との相対は何方も誰かが居たから何とかなった風な展開だし、一人でも負けはしないなんて自負はしたくないの。寧ろ一人なら負けてた可能性が濃厚な場面が多いわ。負けたら死ぬしかないのは避けたいのよ」


実際昨日もアースグレイ・リアンが倒したのであって私が倒した訳ではない。あれも運が此方に傾いた結果だ。少しでも噛み合わせが悪ければこうして口を開いてすらいない。

情け無いで言えば私も大概な方だ。

このまま何の対策もしなければ次こそはお陀仏してしまうのは容易に想像出来てしまう。

故に優先的に必要なのは生還する方法だ。そもそも単独で撃破しようなんて高望みをするのが間違いだ。名誉や勲章を貰うよりは犠牲なく勝利を得る道を選びたい。

理想論のように聞こえるが、正直犠牲なくして勝利は有り得ない自論こそ間違えている。誰だって犠牲を払いたくはないし、死にたくはない。例え犠牲が付き物だったとしてもだ。相手が悪魔でも関係なんてない。

その考えに至れないなら天才とは何の為に居るんだと聞きたいものだ。不可能を可能にしてこその才能を活かさないなんて勿体無い。

が、残念ながら現時点では実行は叶わない方法であるのを聞いて私は頭を抱える。


「悪いが確実な生還方法はない。あれはまぐれか相手がワザと見逃した程度の幸運なものなんだよ」

「それは………」

「天器の力さ」

「!」


つい少し前に碧髪の少年が扱った魔武器の上位的な存在。皮肉な名称があるのは単に人によって得られる得られないだけによるものではない。それは流石に安易過ぎる。かと言って単純な火力が向上しただけなのも芸がない。確かに魔法の下級上級みたいに差別化を図るようにしたのは合っている。

が、天と地の差が出来る理由の真意がそこに隠されているのであった。


「天器の潜在能力」

「そうだ。個人個人によって全く異なる奥の手みたいな力」

「一体………」

「まあ急くな。物事には順序があるんだ。とりあえずは先に俺が助かったのはたまたまだったのだけ念頭に入れておけ」

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